今こそ野球の底力を見せる時。無観客“だからこそ”できる「見せ方」を考える

Opinion
2020.03.18

スポーツ界が揺れている。新型コロナウイルスの影響で、延期・中止、あるいは無観客での開催など、その影響は世界中に拡大し始めている。プロ野球も例外ではなく、3月20日の開幕を予定していたリーグ戦を4月10日以降に延期。オープン戦は無観客で行い、今後も無観客の練習試合を行うことになる。
だがだからと言って、この状況を受け入れているだけでいいのだろうか? 無観客試合だからこそできることはないのだろうか? ピンチをチャンスに。今こそ野球の底力を見せる必要がある――。

(文=花田雪、写真=Getty Images)

新型コロナウイルスとどう向き合いながら運営していくか?

新型コロナウイルスの感染拡大による影響は、すでに世界中に及んでいる。

特に打撃を受けているのはスポーツをはじめとする「エンタメ業界」だ。日本でもプロアマ問わず多くのスポーツが開催中断、中止を迫られ、プロ野球も当初予定されていた3月20日の開幕を延期。現時点では4月10日以降の開幕を目指す方向で調整を続けている。

とはいえ、世界保健機構(WHO)は3月11日に新型コロナウイルスを「パンデミック(世界的流行)」と表明。これから1カ月足らずでプロ野球が目指す「観客を入れての公式戦開催」が可能かどうかは、現時点で不透明な状況だ。

プロ野球界は2月29日から3月15日まで行われたオープン戦61試合を無観客で実施。開幕予定だった20日以降の試合は「練習試合」として行う方針で調整中だというが、開幕日すら確定できない今、何がどう転ぶかはわからない。

とはいえ、すでにウイルス感染だけでなく、それに伴う経済の低迷も危惧されている現状を考えると、スポーツ界も単純に「試合中止、延期」だけを行っていればいいとは言いにくい。

ここからの数カ月間、プロスポーツ界は「新型コロナウイルスと、どう向き合いながら運営していくか」というフェーズに突入することになる。

無観客試合の“楽しみ方”は?

当然、試合を見るファンも「無観客試合」や「試合の中止」「リーグ戦の中断」と向き合う必要が出てくる。

オープン戦での無観客試合を経て感じたのは、観客がいないからこそ感じることができることもあるということだ。

例えば、打球音。

鳴り物応援が一般的なプロ野球では、選手の打球音をしっかりと聞くことのできるケースがほとんどない。テレビ中継や配信で無観客試合を観戦した方なら分かると思うが、プロの選手が放つ打球音は、想像以上に大きい。

広い球場に、「カーーーーン!!」という乾いた打球音が響くその光景は、これまでのプロ野球中継では決して見ることのできなかったものだ。選手の技術やすごさを肌で感じるという意味では、今しか見ることができない無観客試合を楽しむ方法はいくらでもある。

試合中の選手の声が聞こえるのも、無観客試合ならではだ。

投手が一球一球マウンドで上げる「オリャ!」といった気合いの掛け声や、守備陣が投手を鼓舞する声掛け、さらにはベンチからの歓声などは、これまでのプロ野球中継ではなかなか聞くことのできなかったものだ。

普段は大歓声でかき消されてしまうが、実はプロ野球選手は試合中、かなり大きな声でチームを盛り立て、試合を盛り上げている。

その姿は、少年野球や高校野球と何ら変わらない。「声を出せ!」は野球の指導でもよく聞かれる言葉だが、特に今、野球をやっている子どもたちにはプロ野球選手のこういった姿勢をしっかりと見てほしい。ベンチ、グラウンドで声を出し、チームメイトと密にコミュニケーションをとることがいかに大切かが分かるはずだ。

開幕が延期され、落胆したり不安を持つファンは多い。ただ、幸いなことにプロ野球は試合自体は継続して行う方針を示している。球場に足を運ぶことは出来なくても、選手たちのプレーを見る機会は残されている。そしてその機会は今、これまでにはなかった「無観客」で行われる可能性が非常に高い。

異常事態だからこそ、むしろ「無観客」を楽しみながら、そこでしか感じられない野球の魅力に少しでも気付いてほしい。

NPB、12球団には新たな取り組みが求められる

見る側だけでなく、「やる側」であるNPB、12球団も同様だ。

例えば、選手の声をより拾いやすくするため、野手陣や審判にマイクを取り付けて中継するといった手法もある。

本来開幕予定だった3月20日以降の試合についても、ただ単に無観客の練習試合として行うだけでなく、少しでもファンを楽しませるための方策を打つのはどうだろう。

企業に勤めるサラリーマンの多くが在宅でのテレワークを行っているように、プロ野球のファンサービスも「遠隔」で行うことはできる。選手のSNSによる発信はもちろん、球団、NPBが全面的にバックアップをして、例えば選手たちからのメッセージを試合後に配信したり、視聴者へのプレゼント企画を行ってもいい。

単なる練習試合ではなく、「特別試合」として、それこそオールスタ―ゲームのような試合を開催しても面白いだろう。

日本は世界的に見ても感染拡大のタイミングが早く、スポーツの延期、中断も世界各国より先んじて決断した。ヨーロッパやアメリカのスポーツ団体は今、日本のスポーツが中断期間にどのような策を講じ、どのタイミングで開幕、再開を決断するか注視し、今後の運営の参考にしようと考えているはずだ。これまで、どちらかといえば「世界を見習う」立場だった日本のスポーツ界。しかし、コロナウイルス対策については、世界に見習われる立場となっている。

プロ野球の開幕延期による損失額は数百億円規模にもなるとの試算があり、そのダメージは深刻だ。だからこそ今、プロ野球、そして日本のスポーツ界は考えうる最善の策を講じて、世界のモデルケースとならなければならない。

9年前、東日本大震災が発生した際にも、プロ野球界は開幕延期という決断を下した。

プロ野球選手会長だった当時楽天イーグルスの嶋基宏は、開幕を控えた4月2日、スピーチでこの言葉を残している。

見せましょう、野球の底力を――。

プロ野球界、そしてプロ野球ファンは、今こそ野球の底力を世界に見せる必要がある。

<了>

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