「集客なくして、演出はない」Fリーグ改革を推進するキーマン2人が語る、日本フットサルの現在地
この度スポーツ庁とスクラムスタジオが手を組み、スポーツイノベーションを推進するプログラム「SPORTS INNOVATION STUDIO(スポーツイノベーションスタジオ)」が産声を上げた。コラボレーションパートナーの日本フットサルリーグ(以下、Fリーグ)は「ファンエンゲージメントを通じた収益源の拡大」をテーマに、事業共創にチャレンジする企業・団体を広く募集している。本記事では、元フットサル日本代表キャプテンで立川アスレティックFCの選手兼代表理事の皆本晃選手と、一般社団法人日本フットサルトップリーグ 副理事長 久保田圭一氏へのインタビューを通じ、フットサルの可能性と課題について取り上げる。2人へのインタビューを通じて、日本フットサルの現在地が見えてきた。
(インタビュー・構成=五勝出拳一)
Fリーグに復調の兆し
――まず、久保田さんのフットサルへの関わり方についてお聞かせいただけますでしょうか?
久保田:そもそもは私の所属元であるアビームコンサルティングがFリーグのオフィシャルスポンサーをしています。その中でスポーツビジネスはやはり現場に入っていかないと、机上の空論になってしまうので、Fリーグの組織の中に入らせてもらって活動している形です。Fリーグの新法人が立ち上がった昨年からは副理事長という立場で、Fリーグの魅力向上や発信、試合以外の部分でいかにフットサルの価値をつくっていくのかをテーマに、広報担当理事として活動しています。
スポーツ業界は一般的に華やかなイメージがあると思うのですが、Fリーグに限らず実際にはハードなところが多い。慢性的に人手不足なチーム・リーグも多く、実感として運営面の課題はすごく感じています。
――ありがとうございます。続いて、皆本選手も現在のフットサルへの関わり方について教えてください。
皆本:これまでは本当に選手活動だけをずっとやってきたのですが、いろいろな事情でクラブが府中から立川に移ることになった中で、昨年度から立川アスレティックFCの選手と兼任する形で代表理事も務めており、フットサルへの関わり方は変わりました。
先ほど久保田さんがおっしゃっていたように、慢性的な人手不足のチームの代表理事なので、チーム運営のおおよそ全てのことをやっていると言っても過言ではありません(笑)。
一選手がどこまでチームの経営を良くできるのかは多少なりとも不安な部分もありますが、選手と代表理事の二足の草鞋をやっている人はなかなかいないので、そこは他と差別化が図れていると思います。競技だけに集中できる環境ではないので選手としては苦しい瞬間もありますが、選手人生も限りがある中でこの機会はすごく貴重だなと感じています。
――久保田さんの目からは、皆本選手はどのような存在に映っているのでしょうか?
久保田:そうですね、日本を代表する選手が同時にチームの代表として活動すること自体が非常に珍しく話題性もあるので、フットサルの認知向上の面でも貢献度が高い選手の一人です。プレーをしながら、チームの経営や運営も牽引するのは想像以上に大変だろうなと思いますね。
――フットサル日本代表や海外クラブでのプレー経験もある皆本選手ですが、現在の日本のフットサルシーンについてはどのようにお考えでしょうか?
皆本:いろいろな角度から見る必要があると思っていて、大きくは競技面と運営面の2つですね。
競技面に関しては日本のフットサルは着実に強くなってきていて、2021年に開催されたワールドカップではベスト16まで進みましたし、さらに上のステージにいける可能性も感じました。また、勢いのある若い選手が明らかに増えてきているのですごくポジティブな状況だと思っています。
一方でクラブやリーグの運営に関してはどうしても停滞しているように感じます。Fリーグが2007年に開幕して今年で16年が経ちましたが、集客の部分でFリーグはながらく苦しんできました。しかし、今年は新型コロナウイルスが収まってきたこともあり、どのクラブも少しずつ集客が戻ってきて、復調の兆しが見えてきているのではないかと思います。
フットサル関連の企画も増えてきていますし、観客数も明らかに増えてきているクラブが多い。ペスカドーラ町田さんは1試合平均約1500人の来場がありますし、湘南ベルマーレさんも積極的に試合の演出や地域の巻き込みに取り組んでいますし、SNSも含めて各クラブの取り組みは変わってきている印象です。

集客なくして会場演出はない
――今回Fリーグが参画しているオープンイノベーションのテーマも「集客」「ファンのエンゲージメント」ですが、久保田さんの立場からフットサルの現状と課題、それから兆しの部分についても教えていただけますでしょうか。
久保田:皆本選手もおっしゃっていたように、私自身も課題は集客だと思っています。やっぱり会場を埋めないことにはフットサルのコンテンツとしての価値は上がらないですし、会場を満席に近い状態にすることがどのスポーツでも重要なことだと感じています。そうでないと、スポンサーも増えていかないし放映権の交渉も難しい。
会場をお客さんで埋めるためには新しくフットサルの試合を見てくれる人を連れてこないといけないので、既存のお客さんのエンゲージメントを高めていくのと同時に、新規のお客さんをいかに増やしていくかが非常に重要な課題だと思ってます。
ーー新規のお客さんを獲得するために、具体的にトライされていることはありますか?
久保田:リーグだけでなく各クラブでもさまざまな取り組みをしていますが、実証実験として、家族や友人を試合に誘ってくれたらポイントをプレゼントするような仕組みをいくつかのクラブと連携して試しています。自分以外の誰かを試合に誘うインセンティブをサポーターの方にお渡しすることで、一緒に新しいファンを増やしていけたらなと。まず一回試合を観に来てもらうことが何より大事で、さらにその人がまた試合を観に来てくれるような仕掛けを準備していきたいですね。
ーー皆本選手は、立川アスレティックFCでどのように集客に取り組んでいらっしゃいますか?
皆本:僕らのクラブでもさまざまな施策に取り組んでいますが、小学校や少年団の訪問など、とにかく足で稼いでくることが重要だと話をしていて、地域の皆さんにまず知ってもらうことに注力しています。地道な取り組みではありますが、おかげで新しく会場に足を運んでいただけるお客様は増えてきています。一方で、久保田さんがおっしゃったように、1回来てくれた新規のお客さんが年に2回、3回と来てくれるかというとなかなか難しい。
原始的ではありますけど、「選手が誘う」のが集客に一番効果的ということがアンケートの結果でも分かってます。フットサルの会場は最大でも2000~3000人のキャパシティなので、そこから逆算すると、原始的なやり方である程度のところまではいけると思うんですよね。そのベースの上に、今回Fリーグが参画しているオープンイノベーションのようなプラスアルファの取り組みで付加価値を高め、さらに後押しすることができれば理想ですよね。
ーー近年はBリーグの盛り上がりとセットで語られることも増えてきているかと思うのですが、フットサルの試合の演出やエンターテイメント性について皆本選手はどのようにお考えでしょうか?
皆本:選手目線だと暗転したり演出の照明が入ると気持ち的には高まるし、やっぱり重要だな思います。ですが、それは付加価値であって、その場にお客さんがいることのほうがもっと重要。お金をかけてたくさんの演出を施したのに、観客席には全然お客さんがいない試合に何度か選手として出場した経験があるのですが、すごく虚しい気持ちになりました(笑)。
その原体験が強く残っており、演出よりも先に人を集めることに力を入れたい。その上で、先程のFリーグの集客の課題にもつながる部分ですが、来てくれたお客さんがもう一度行きたいと思ってもらうためには、またこの空間に足を運びたいと思ってくれるような特別な体験が必要。
演出を軽視しているわけではなく、絶対に必要なものだとは思っています。だけど、優先順位はあるんじゃないかというのが僕の意見です。立川アスレティックFCでは今年は3回、演出に注力する試合を作ろうとしています。お客さんが増えていけばいくほど、演出や試合以外の愉しみを作る部分にも投資ができるので、集客と演出は両輪で回っていくものだと感じます。

日本のフットサルシーンに、新しい風を
ーー今回Fリーグは「ファンエンゲージメントを通じた収益源の拡大」をテーマにオープンイノベーションのプログラムに参画していますが、どのようなアイディア、テクノロジーを持つ企業とコラボレーションしてみたいですか?
久保田:新規のお客さんにアンケートを取ると、フットサルの特有のパワープレーや局面局面の激しさが新鮮だったという声が多くなっています。その辺の何かプレーの面白さをハイライト映像だけではなく、何か新しいかたちで見せる方法は模索してみたい。
あと、Fリーグのサポーターはクラブをまたいで応援している方が多いのも特徴的です。立川アスレティックFCのファンだけど、ペスカドーラ町田も湘南ベルマーレも同時に応援しているサポーターも一定数いるようなイメージです。クラブの垣根を跨いで、みんなで集まったり飲み会をしているようなコミュニティもあるみたいです。Jリーグとはまた違うFリーグならではのファン・サポーターの在り方じゃないかなとは思っていて、そのようなコミュニティを活性化できるツール・サービスも導入を検討してみたいです。
皆本:新しいテクノロジーやビジネスアイデアに関していうと、まだ僕がきちんと理解しきれていない部分もありますが、フットサルクラブ×◯◯で掛け算できることはいろいろとあると思う。それは僕だけの問題でなくて、フットサルの業界に長くいる人の多くは、少し視野が狭くなっているのではないかと感じています。繰り返しになりますが、Fリーグは復調の兆しを見せていて、これからさらに盛り上がっていくかどうかの分かれ目にいるんじゃないかと思います。そのようなタイミングで、さらにFリーグが進化しようとするのであれば新しいアイディアや新しい人材を受け入れていかなければいけないな。
Fリーグのお客さんを増やすこと、来ていただいたお客さんによりフットサルを楽しんでいただけることに一緒にチャレンジしていただけたらうれしいですね。

<了>
■「SPORTS INNOVATION STUDIO オープンイノベーション」
スポーツ領域に限らない、最先端のテクノロジーやサービス・プロダクトと、スポーツ協会/団体が持つ課題やアセットを掛け合わせることで新たなビジネスを創出し、スポーツ産業の拡張を目指すプログラム。(2023年度の共創パートナーは一般社団法人日本フットサルトップリーグ(Fリーグ)と一般社団法人日本自動車連盟(JAF))
本プログラムは、スポーツ庁の令和5年度「スポーツオープンイノベーション推進事業(スポーツオープンイノベーションプラットフォーム(SOIP)の基盤形成)」において、SOIP構築の推進を目的とし、スポーツ庁とスクラムスタジオが共同で推進している。スポーツビジネスを拡張させる共創プログラム「SPORTS INNOVATION STUDIO オープンイノベーション」とスポーツの新たな可能性に光を当てるアワード「SPORTS INNOVATION STUDIO コンテスト」からなる。
応募期間:2023年7月3日(月)~9月11日(月)23:59
▼詳細はこちら
https://sports-innovation-studio.com/
【第1弾】「フットサルとモータースポーツに、イノベーションを」スポーツ庁とスクラムスタジオが取り組むスポーツの拡張
【第2弾】 伝説の元F1レーサー・現チームオーナー鈴木亜久里が語る、日本モータースポーツの現在地と未来
[筆者PROFILE]
五勝出拳一(ごかつで・けんいち)
広義のスポーツ領域でクリエイティブとプロモーション事業を展開する株式会社SEIKADAIの代表。複数のスポーツチームや競技団体および、スポーツ近接領域の企業の情報発信・ブランディングを支援している。『アスリートと社会を紡ぐ』をミッションとしたNPO法人izm 代表理事も務める。2019年末に『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』を出版。
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