浦和がアジアタイトルとWEリーグをダブル制覇。怒涛の2カ月間と過密日程を乗り切った底力とは?
アジアチャンピオンズリーグの“女子版”「AFC Women’s Club Championship」のプレ大会決勝が5月10日に浦和駒場スタジアムで行われ、三菱重工浦和レッズレディースが韓国女王の仁川現代を破ってアジア初制覇を成し遂げた。決勝が一度は中止になるなど、ドタバタ劇もあった中、力の差を見せつけた。決勝戦の2日後の12日にはWEリーグ2連覇も決定。過密日程や主軸のケガを乗り越え、2つのタイトルを獲得できた背景に迫った。
(文=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=WEリーグ)
サポーターとともに証明した「アジア優勝」の価値
三菱重工浦和レッズレディースが、女子のアジアナンバーワンクラブに輝いた。
2024-25シーズンから新設されるアジアチャンピオンズリーグの“女子版”「AFC Women’s Club Championship」のプレ大会(AWCC)決勝。昨季のWEリーグ王者として出場した浦和は、昨年10月にタイで行われたグループステージを3連勝で決勝に進出し、ファイナルではWKリーグ(韓国女子サッカーリーグ)の仁川現代製鉄レッドエンジェルズと激突。2-1で激闘を制し、今季一つ目のタイトルを獲得した。
AWCC決勝は、浦和駒場スタジアムに5271人のサポーターが集結し、「We are Reds」「赤き血のイレブン」など、Jリーグではお馴染みのチャントやコールでチームをサポート。柴田華絵が高々とトロフィーを掲げ、初夏の涼しい風が吹き抜けるスタジアムの空に、歓喜の声がこだました。
「アジアを戦うってこういうことなんだな、と感じました。サポーターの方々の『アジアを取らせたい』という気持ちが伝わってきましたし、『一緒に戦う』という思いが伝わってきて、キックオフ前から『今日はやらないと』という気持ちにさせてもらいました」
そう振り返ったのは、トップ下で攻撃のタクトを振った塩越柚歩だ。浦和は男子チームがACLで過去3度の優勝に輝いており、そのタイトルの価値はレディースの選手たちにもしっかりと伝わっていた。
同クラブで18年目のキャリアを過ごしているGK池田咲紀子と、代表候補の高橋はなは、試合前にアジアチャンピオンへの思いをこう口にしていた。
「いつか男女でアジアで優勝したいという思いがありましたし、トップチームの(GK)西川周作選手も日頃から声をかけてくれて、『アジアでも優勝してほしい』という言葉をいただいたので、ともにタイトルを取るという夢を叶えたいです」(池田)
「クラブとしてアジアの大きな舞台でやるのは初めてなので、代表で国を背負うのとは違った責任感があります。普段はクラブあっての代表ですけど、今回は浦和レッズというクラブを背負って、同じアジアでどこまでやれるか。身が引き締まる思いです」(高橋)
一度は「中止」になった決勝戦が復活。AFC運営の杜撰さが浮き彫りに
だが、そんな選手たちの思いとは裏腹に、AWCC決勝は、3月末に一度、AFC(アジアサッカー連盟)から中止の通達がなされていた。中止の経緯に関する具体的な説明はなく、AFCやリーグの対応を疑問視する声が上がった。
浦和は、この大会のためにリーグ戦の日程変更を余儀なくされ、後半戦は相当な過密日程を強いられてきた。それだけに、浦和のサポーターグループは「AFC女子クラブ選手権決勝中止についてアジアサッカー連盟に説明を求める」署名活動を実施。6000人以上の賛同を集めている。
その後、WEリーグがAFCに決勝開催の再考を依頼するレターを提出し、AFC、JFA(日本サッカー協会)、KFA(大韓サッカー協会)、WEリーグ、浦和、仁川の6者間協議により、決勝は実施されることになった。
とはいえ、試合当日までの準備期間はたったの2週間しかなく、チケット販売やプロモーションには限界があった。会場は浦和駒場スタジアムを確保できたが、キックオフは平日の18時。集客のハードルは高く、テレビ中継(インターネット中継のみ)もなければ、優勝賞金もなし――。プレ大会とはいえ、一連の流れはAFCの杜撰な運営を浮き彫りにした。だが、そのことが両陣営のモチベーションをさらに高めた。
「決勝戦が中止になったとき、『アジアの中でも女子サッカーはそういう扱いなのか』と(残念に)感じました。しかし、いろんな方の力で試合ができることになったことをチャンスと捉えています。お互いに良いサッカーをして、アジアの女子サッカーの強さを証明して次の扉を開くきっかけにしたい」
決勝前日の会見で、浦和の楠瀬直木監督は強い覚悟を言葉に込めた。仁川のキム・ウンスク監督も「31年目のクラブですが、こんな大きな国際大会は初めてです。全力で準備してきたので、韓国らしいサッカーができるように努めたい」と、語気を強めて語っていた。
田中陽子が語った日韓の“違い”。明暗を分けたのは…
WEリーグはプロ選手が主体だが、WKリーグは実業団チームが主体で、プロではない。ただし、選手の待遇はプロ並だと聞く。仁川の運営母体は韓国鉄鋼大手の現代製鉄。クラブは創設31年の歴史を持ち、安定した財政基盤を背景に海外の有力選手を獲得し、リーグ11連覇中と無類の強さを誇ってきた。韓国国内では『女子サッカーの優勝は(仁川)現代』という言い回しもあるという。
同クラブには、INAC神戸レオネッサやノジマステラ神奈川相模原で活躍した田中陽子が主力としてプレーしており、スペインで4シーズン、韓国で2シーズンを過ごした田中にとって、この決勝が久しぶりの凱旋試合となった。前日練習では快く取材対応に応じ、日韓のスタイルの違いについてこう語っていた。
「日本は基本技術のレベルやゲームコントロール能力が高くて、韓国は体の強さやスピード、勝負に対する熱さと強さがあります。自分自身は日本にいる時よりディフェンスの意識が上がって、強くいけるようになったので、そういうところもプレーの楽しさにつながっています」
ただ、残念なことに田中は決勝のピッチに立てなかった。仁川はケガ人が多く、リーグ戦の日程が詰まっている中で来日したため、万全のコンディションではなかったようだ。それは直近の2カ月間で13試合をこなすハードスケジュールをこなしてきた浦和も同じだが、こちらはほぼベストメンバーで試合に臨んでいる。
試合は、浦和が終始ペースを握って進めた。敵将に「日本とヨーロッパのサッカーを融合したスタイル」と言わしめた繊細なパスワークとダイナミックな攻撃を存分に発揮。堅守速攻でカウンターを狙う仁川に対し、ミスから先制点を献上したものの、前半22分には伊藤美紀のパスから清家貴子が強烈な一撃を決めて、試合を振り出しに戻す。その4分後には、塩越のコーナーキックに島田芽依が頭で合わせ、4分間で一気に逆転。後半は持ち前の堅守で仁川のシュートを1本に抑え、2-1で勝利をつかんだ。
戦術的柔軟性や個々のスキルに関しては、スコア以上の実力差も感じられた。その点は、プロリーグの環境の差でもあるだろう。加えて、レッズサポーターが作り出す会場の雰囲気はアジア王者に相応しい迫力があった。
キャプテンの柴田華絵は「レッズ一色の雰囲気で応援していただいた中で、トロフィーを掲げられて幸せでした」と、顔を綻ばせた。
「浦和は自分が育った場所ですし、ずっとやってきた仲間と分かち合う喜びは、代表とはまた違う格別なものがありました」
4試合で7ゴールを決め、得点王に輝いた清家の言葉は弾んでいた。
2試合を残してリーグ連覇も決定。連戦を勝ち抜いた底力とは?
アジアタイトルの2日後の12日には、2つ目のタイトルを手中に収めた。同日に行われた第20節で優勝争いを繰り広げていたINAC神戸がジェフユナイテッド市原・千葉レディースに敗れたため、2試合を残して浦和のリーグ優勝が決まったのだ。
リーグ後半戦開始時点で、浦和がここまで圧倒的な強さで勝ち続けることは予想できなかった。猶本光と安藤梢、2人の大黒柱がケガで長期離脱を余儀なくされ、過密日程も厳しい台所事情に拍車をかけた。だが、フタをあけてみれば、3月からリーグ戦12連勝。1試合あたり3得点近い攻撃力で挑戦者を退けてきた。
その要因の一つは、成熟した連係と個の力だろう。楠瀬監督は先発メンバーや配置を大きく変えずにレギュラーを固定してゲームを優位に進め、リードした後半に交代枠を効果的に使うことが多い。中でも、「神がかり的なゴールを連発してくれた」(楠瀬監督)という清家が、今季リーグ戦20試合で17得点と大ブレイク中だ。対戦相手からは厳しいチェックを受けているが、今のチームには、清家にマークを集中させない個の強さと強固なホットラインがいくつもある。
また、選手たちの「クラブ愛」が強いことも、一体感につながっていると感じる。浦和は下部組織出身の選手が7〜8割を占めているが、生え抜きでない選手たちも在籍歴が長い。仁川戦の前日練習で、その一端が見えた。フットサルサイズの小さなコートに22人が入って紅白戦を行っていたが、鳥かごのように、小気味良いダイレクトパスが快音を響かせてつながっていた。レギュラーの栗島朱里が、若手の丹野凜々香の後ろでさりげなく、「(ボールをもらえるように)もっとアピール!」とアドバイスを送り、点を決めると自分のことのように喜んでいた。全員がポジションを争うライバルでありながら、長い時間を共有してきた家族のような雰囲気が感じられる。
浦和にとって、残る2つのタスクは、18日のINAC神戸戦と、5月25日の最終節・日テレ・東京ヴェルディベレーザとの上位対決。怒涛の2カ月間を締めくくるラスト2試合、モチベーションを維持して王者の意地を示すことができるだろうか。上位対決では、パリ五輪を控えた代表選手たちのハイレベルな競演からも目が離せない。
<了>
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