Jクラブや街クラブは9月までにジュニア選手の獲得を決める? 専門家がアドバイスするジュニアユースのチーム選び

Opinion
2024.06.25

近年、日本サッカー界の育成年代はパスウェイが多様化し、さまざまな角度から新たなチャレンジができるスキームが整った。ジュニア(小学生年代)、ジュニアユース(中学生年代)、ユース(高校生年代)、大学というピラミッドがあるなかで、Jリーグの育成組織はもちろん、街クラブや各種年代の部活動などが充実し、1993年のJリーグ開幕時を考えれば隔世の感すらある。

その一方で選手たちがチームを“選ぶ”作業は難しくなっているのも事実だろう。選択肢が多くなっているからだ。プロサッカー選手を目指すような年代のトッププロスペクトは自然と上のレベルに引き上げられていくが、そうではない選手たちは自らの足でチームを探さなければならない。特にジュニア年代はまだまだ子どもたちが精神的にも未熟で親御さんたちの手助けは必須。当然、ジュニアユース年代でプレーするチームを探すことは一人でできない。特にジュニアユース年代の選択肢はユース年代以上にあるため、豊富な選択肢から自分に合ったチームを選ぶ作業は容易ではないだろう。

では、どうやってジュニア年代やジュニアユース年代のチームを選ぶべきなのか。流経大柏高のOBで同校のGKコーチを歴任し、ジェフユナイテッド千葉でスカウトを務めた経験もあるクラブ・ドラゴンズ柏U-12の稲垣雄也代表に話を聞いた。

(文=松尾祐希、写真提供=稲垣雄也)

さまざまなカテゴリーの選手を自らの“眼”で見極めてきた経験値

流経大柏高を拠点に、ジュニアとジュニアユースのチームを持つクラブ・ドラゴンズ柏のU-12監督も務める稲垣雄也代表は流経大柏高を経て、ウルグアイやアルゼンチンに渡った経歴の持ち主。現役を退き、指導者に転身してからはさまざまな経験を積んできた。また、選手のリクルートにも多く携わり、流経大柏高のコーチ時代は中学生のスカウトを担当。ジェフユナイテッド千葉ではプロサッカー選手を目指す選手たちの発掘に尽力してきた。中学、高校、大学とさまざまなカテゴリーの選手を自らの“眼”で見極めてきた経験値は何事にも変え難い。そして、今は過去の経験を生かしながら小学生の選手に携わっている。

では、ジュニア年代の現状をどのように見ているのか。稲垣代表は「ほかのジュニアチームの内情はわからない」とした上でこう話す。

「世間一般的にはコロナの影響もあって一般的な運動能力が落ちているかもしれません。ただ、ドラゴンズの選手たちはトレーニングで手を抜かない。選手に対してもっとできるだろうという思いはあっても、一生懸命やらないというようなストレスを抱えたことはありません。コロナの影響を受けて外で遊べない時期があった事実に対して、ハンデとは思わないし、自分の叶えたい夢や目標という部分で打ち消し合えている。だから、今の子どもたちが何か足りていないというふうには感じない。それは今も昔も変わっていないと思います」

「私は素人なので…」と任せるだけではダメ

サッカーが好きでボールを追いかける。子どもたちの取り組みは変わらないし、情熱は尽きていない。だからこそ、チーム選びは重要になる。さらに上達し、サッカーを好きになるためには、やる気を引き出す環境が必要だからだ。では、ジュニア年代ではどのようなチームを選ぶべきなのだろうか。

「基本的には誠実で情熱を持っている自分に合ったクラブに行くべきだと感じます。いろんなチームが体験会をやっていると思うので、そこに行くだけでも雰囲気はわかると思います。噂や聞いた話ではなく自分の目で見て確かめることが大切だと思います。よく、親御さんが『私は素人なのでコーチたちにお任せします』という声をよく聞くし、チームに入ってきてもよくそういう話を耳にします。われわれの指導を見て、ちゃんとしてくれているという前提でみんな入ってきてくれているとは思うので任せていただいているかもしれないけど、任せるだけも違うと思うんです」

子どもたちの未来を考え、ともに歩んでいく――。そうしたスタンスは求められる。時に熱が入りすぎる親御さんもいるが、過保護や過度に干渉しなければ積極的であっていいとも話す。

「僕たちのスタンスは否定などをしなければ、家でサッカーの話をしてもらっても構わない。例えば、家で子どものプレー映像を見直して、『ああじゃねえ、こうじゃない?』という議論は家でしていいと思います。もちろん、そういうことはしないでほしいというクラブもたくさんあると思いますし、例えば他のスクールに並行して通うことを禁じているチームもありますけど、そこも私たちは容認しています。なぜならば、自分たちのサッカーだけが正しいわけじゃないからです。いろんなサッカーに触れて、子どもたちのサッカー観が磨かれてほしい。

 ただ、親が主役になることは避けてほしいです。親御さんが試合中にピッチの外から言ってしまうケースもあるので、それは子どもたちから判断を奪うことにつながりかねない。自分たちが把握できない家庭内などでめちゃくちゃ言う親もいるかもしれないけど、結果的に親の言うことばっかり聞いていると成長を妨げてしまう。クラブとして大事なのは人として成長しサッカーを理解してもらうこと。そこは忘れないでほしいですね」

Jクラブや街クラブは9月までに選手の獲得を決める

自立を促すために何ができるのか。クラブと親の協力があって初めて成り立つ。そうしたスタンスはジュニア年代からジュニアユース年代に進んでいく際にも、自らの意思で決めることを求めている。

「基本的には他のクラブのセレクションが7月頃から始まるので、小学校の6年生の4月頭には昇格を希望するかどうかの返事をもらっていて、6月中にはすべてを決める流れにしています。そうすれば、違う選択をすることになった場合に他のクラブの練習会などに参加できるからです。その前提があった上で、選手たちには進路を自由に選んでいいというスタンスを伝えていますし、クラブの方針となっています。 

 ただ、大事なことは自分の意思で決めることです。ジュニアユース年代でもクラブ・ドラゴンズでプレーしたいという意思を示してくれた後に他クラブからオファーが届くかもしれない。その時に決断が揺らぐようであれば、中途半端な進路決定をしないように伝えます。

 本人が外に出たいと言うのであれば、自由にセレクションを受けても構いません。実際に外にチャレンジをしたいということでセレクションを受けた選手もいました。とはいえ、そこでもしうまくいかなかったとしてもすべてを閉ざしていない。内部生はそれまで一緒にやってきた信頼関係があるので。」

基本的にJクラブや街クラブは7月から9月までに選手の獲得を決めるケースがほとんど。レベルが上がれば、さらに早まったとしても不思議ではない。そうした状況下を踏まえ、選手たちに自分で決断を下すことを求めている。

ジュニアユースに上がれない選手への対応

その一方でクラブ・ドラゴンズから離れる選手や能力によってジュニアユースに上がれない選手もいるのも事実。となれば、彼らの進路サポートも必要不可欠になる。クラブ・ドラゴンズではどのようにしているのだろうか。

「私たちが主体で一方的に探すことはしません。ただ、わからなければ、相談には乗りますというスタンスでいます。基本的にジュニアユースに上がれるかどうかは発表当日までわからないようにしていて、その前からダメだった場合の選択肢を考えておくように伝えているんです。そういうスタンスを踏まえて選手が上がれなかった時に、行きたいチームとのコネクションがない場合は練習参加を取り付けることはします。

 そこは自分が培ってきた関係性が生きているかもしれません。やっぱり、自分は預かった選手に対して、最後まで愛情を注ぎたい。もちろん、今まで培った関係性も生きていますが、新しいチームが増えているので指導者を知らないケースもあります。それでも自分には責任があるので、つなげるように動きます。知っているか知っていないかは関係ない。最後まで子どもたちに情熱を注ぎたいですよね。どこで曳航するかはわからないし、選手の未来はこの時点では未知であり無限大ですからね。」

子どもたちに最後まで寄り添う姿勢――。稲垣代表の思いはしっかり結果にも表れており、ほとんどの選手が早い段階で進路が決まった。ただ、クラブによってスタンスは異なる。放任しているチームもあるし、おざなりになっているチームも少なくない。だからこそ、稲垣代表は子どもたちのために汗を流す。

「指導者によってまったくスタンスは違う。正解、不正解はないけど、間違った対応をしている人も珍しくない。ちゃんと誠実にやらないといけないんです。今だけの問題ではないですし、いい選手が揃っている代だけ一生懸命やっても意味はない。どんな時も頑張ってやらないといけないんです」

自分に合ったクラブを見つけるために大切なこと

とはいえ、どれだけクラブが頑張っても最後は子どもたちが決断しなければならない。だからこそ、ジュニアチームでもジュニアユースチームでもクラブを選ぶ際は“実体験”が大事だと口にする。

「情報をしっかり入れるべきです。もちろん、間違った情報もあるかもしれないので、直接聞きに行ったほうがいいでしょう。ジュニアユースのチームを決める際もですが、必ず自分の目で見に行って、必ず自分で体験すべき。それは絶対に必要なことです」

体験をした際にどこを見るかも重要で、自分に合ったクラブを見つけるための“眼”を持たなければならない。

「選手も親もサッカー観がなかったとしても、人生観や子育ての方針はどのご家庭でもあると思います。そこに合う、合わないもある。バックをちゃんと並べているチームもあれば、適当にしているところもある。挨拶をめちゃくちゃするところもあれば、緩いところもある。練習を厳しくやるところもあれば、しないところもある。コーチングが厳しいところもあれば、そうではないところもある。キツかったら悪いということではなく、子どもに合うか合わないかが大事。厳しい環境が合えば、強みが伸びるかもしれないけど、逆に弱点が克服できないかもしれない。逆に合わないからこそ、自分の弱点を克服できる可能性もある。

 なので、大事なことはサッカーを好きでいられること。あと大事だと思うのは、仲間同士の声かけだと思います。コーチからの言葉はあるけど、仲間同士が罵り合っているチームもある。人を傷つけることは絶対に違う。サッカー面の要素もあるけど、仲間の声かけやベンチやピッチでの振る舞いは大切。そこも絶対に参考の項目になるので、いくつかのポイントは持ってほしいですね」

答えは決して一つではないし、正解はない。サッカー面だけではなく、人間性を育むことも含め、後悔をしないように選ぶ。そのために何ができるのか。子どもたちの未来を紡ぐべく、稲垣代表は今日も子どもたちのためにグラウンドに立つ。

<了>

育成型クラブが求める選手の基準は? 将来性ある子供達を集め、プロに育て上げる大宮アカデミーの育成方法

アカデミー強化のキーマン2人が共有する育成の真髄とは? J1初挑戦のFC町田ゼルビアが招聘した「ラストピース」

100人中最下層の子供がプロサッカー選手になれた理由 橋本英郎が実践した、成功する選手の共通点とは?

なぜトッテナムは“太っていた”ハリー・ケイン少年を獲得したのか? 育成年代で重要視すべき資質とは

育成年代の“優れた選手”を見分ける正解は? 育成大国ドイツの評価基準とスカウティング事情

この記事をシェア

LATEST

最新の記事

RECOMMENDED

おすすめの記事