高校生が示した男子卓球の未来。インターハイで垣間見た新時代の「ハイブリッド化」
8月16日に行われたインターハイ卓球の男子学校対抗・決勝。2年ぶり23回目の優勝を飾った愛工大名電と、前回王者の野田学園による激闘のなかで、とりわけ目を引いたのが、持田陽向と中野琥珀による4番手の一戦だった。台に張りついて速いボールを打ち合う前陣卓球と、やや下がって時間を作りながらドライブを引き合う中陣卓球。持田と中野は、その両方を一つのラリーのなかで繰り返した。中国が長く世界をリードしてきた前陣型の卓球。そして近年、欧州勢が存在感を高めている中陣でのラリー。2つのスタイルを使い分ける「ハイブリッド型」こそ、日本男子卓球の次の時代を予感させる戦いだった。
(文=本島修司、写真=アフロスポーツ)
インターハイ決勝で見えた、日本男子卓球の「次の形」
8月16日に行われたインターハイ卓球・男子学校対抗の決勝は、大方の予測通りに愛知の愛工大名電と山口の野田学園の壮絶な激闘となった。
なかでもエース格の中野琥珀と持田陽向の死闘は、見た者全員が目を離せない打ち合いの一戦となった。そのレベルはすでに世界を見据えた実力にあり、現役高校生にできるこれ以上はない高いパフォーマンスだった。
ただ、この一戦は「すごい試合」というだけではない、次世代の卓球の可能性が込められている。
近年、日本の女子卓球は中高生を中心に「まるでバックスイングがない」と言われるほど、コンパクトなスイングにパワーを乗せるスタイルが頂点を極めてきた。今大会でもやはり高校生女子卓球からはその傾向が続いている様子が見られた。
しかし、男子のほうは、この最高峰の一戦での立ち位置が「中陣」の場面もかなり多くあった。松島輝空が見せるような「前陣での殴り合い卓球」のシーンも多々あった一方で、今、欧州の男子トップ選手たちが極めている中陣で時間的余裕を作りながらのラリー。これに近いシーンも見られたのだ。
日本の男子高校卓球の現在地。そして高校生たちがそこから世界で活躍するために必須になりそうな次世代のスタイルを探る。
「前でも後ろでも打ち合う」中野琥珀と持田陽向の激闘
1-2で野田学園がリードして迎えたインターハイ・男子学校対抗の決勝終盤。4番手と5番手はほぼ同時進行となった。
5番手の原井敢田(愛工大名電)が島田翼(野田学園)に3―0のストレート勝ちを決めると2-2となり、実質的にこれで団体戦のチャンピオンが決まるという状況の「4番手対決」になった。それが持田陽向(愛工大名電)対中野琥珀(野田学園)の一戦だった。
まずは持田が序盤から勢いよく襲いかかり2ゲームを先取。たまに順切りの横回転を混ぜながら、基本的には下回転から台上でストップし合う展開。王道の激しい打ち合いになっていく。
この一戦でとにかく目立ったのは「前後の大きな動き」だ。
ストップ合戦から隙があるとドライブ、この攻防ではそのまま前陣だけの「ドライブの引き合い」となる。
逆に、長いボールから始まる展開では、お互いが中陣までやや下がりながら大きなラリーでドライブを引き合って打ち合う。
前にいる相手とは、前で打ち合い。後ろにいる相手とは、後ろで打ち合う。
中盤は中野が第3ゲームを取り返したが、最後は、持田がデュースにもつれ込んだ接戦を制して勝利。インターハイの花形である学校対抗の日本一には、愛工大名電が輝いた。
王国・中国と真っ向勝負を挑む日本のシステム
下馬評では野田学園が有利と言われていた男子学校対抗。しかし、愛工大名電の今枝監督の「今までのことは関係ない」と選手にハッパをかけたこともうまく作用したか、「強い愛工大名電」が復活した。まずはこの点がクローズアップされるところだが、着目すべき点は他にもありそうだ。
近年、男子卓球はレベルが高くなれば「前で、前で」と台に張りついて体幹の入れ替えだけでパワーボールを放つような選手が台頭していた。
中国で言えば、馬龍や樊振東など、近年の王者たちは、台の前陣で両ハンドを振り回す「早くて速い」卓球を展開してきた。これにより、世界中のどの国にもつけ入る隙を与えない圧倒的な強さを見せてきた。
それに対し、日本の男子選手はどんなスタイルで戦ってきたか。
日本の男子は水谷隼こそ中陣での強さと安定感が特筆ものであったが、そこからの張本智和と松島輝空が引っ張る現在はかなり「前陣」での卓球をしていると言える。つまり、日本男子の王者クラスは近年、中国のトップと真正面から似たようなスタイルでぶつかり合う道を選んできた。
松島輝空の「全部フルスイングの殴り合いスタイル」の卓球はまさに代表例。
張本智和の「立ち位置が台に張りついて前で」というスタイルもまた、中国に近いのだ。
彼らはその戦い方を貫きながら、現在、松島は世界ランキング3位、張本が4位と堂々と世界で渡り合っている。
アレクシス・ルブランが示した「中国だけではない」世界
しかし近年、欧州の選手が中陣で上手に戦い、中国勢を負かしてしまう姿を目にするようになった。
その代表格がアレクシス・ルブランである。中国男子の不振もささやかれてはいるが、それだけで負かせるほど甘くはないはず。ヨーロッパスマッシュ2026の男子シングルスでは、中国勢がベスト16で全滅したことが世界中で話題となった。この時、それを強く印象づけたのがアレクシス・ルブランVS林詩棟の一戦だった。
中国の若手筆頭の林詩棟を中陣で捌き、ボールを曲げながらロビングも織り交ぜ、両ハンドを振って反撃しながら撃ち抜いたり、そこから再び前陣へ戻ってきたりする縦横無尽なスタイルで勝ち切って見せた光景は、男子卓球は中国の前陣攻撃一辺倒だけではないことを印象づけた。
もちろん、現代のトップ選手を「中国=前陣」「欧州=中陣」と単純に分類することはできない。それぞれの選手が、前陣から中陣、さらに後陣までを状況に応じて使い分けている。ただ、そのなかで中国は伝統的に前陣での戦いに強く、近年の欧州勢には中陣で時間を作りながら攻撃を組み立てる選手が目立つようになっている。
その上で、今年、日本のインターハイで中野琥珀と持田陽向という2人の高校生が見せたスタイルは、1試合の中で「中国のスタイル」と「欧州のスタイル」の両方を兼ね備えていた。ストップ合戦から台に張りついてフルスイングで打ち合う姿。そしてさらに多く見られたのは中陣になってのドライブの引き合いのような攻防だ。この前後の切り替えを、2人は何度も繰り返していた。
もちろん、彼らがすぐに世界のトップレベルで通用するということはないだろう。しかし、さらに多くの経験値を手にした時、彼らが世界の舞台で大きく花開いている可能性は十分にありそうだ。
今夏のインターハイを通じて見えたものは、若い男子のトップ選手たちはこの2つのスタイルを両方使いこなせなければ、もう日本国内の頂点にも手が届かない雰囲気があるということだ。
日本の高校生が手にし始めた「ハイブリッド」という武器
インターハイの上位で戦った高校生たちのトップ勢力は、これから世界の舞台へ立つだろう。なかでも、学校対抗の決勝では敗れたとはいえ、男子シングルスとダブルスで優勝を飾り、Tリーグ・T.T彩たまへの内定も決まっている中野琥珀はその筆頭格となるはずだ。
長く中国が見せてきた徹底した前陣の卓球のスタイル、現在欧州が盛り返した要因となっている中陣で時間的余裕をつくりながらラリーを展開する卓球。
そこに、日本の高校生年代が生み出しつつある前陣・中陣のハイブリッドスタイルの時代が訪れそうな予感がある。
中国勢対欧州勢の争いがここからどうなるか。日本勢はそこにどのように挑んでいくのか。これからどのようなスタイルが世界の覇権を握るのかはいまだ未知な領域ではある。
しかし、すでに日本には強力な2つのスタイルを両方極めていく「ハイブリッドな攻撃型」という新しい風が吹いている。
張本智和や松島輝空に続く次世代の扉が開く予感を漂わせたインターハイ。ここから彼らが世界へと羽ばたく。
<了>
「バックスイングがない」18歳・面手凛は現代卓球を変えるか。新世代に起きている新たな現象
崖っぷちの中国男子卓球「最後の砦」梁靖崑。“逆転の王”が世界トップで戦い続けられる理由
最強中国の敗退、欧州復権の兆し、松島優勝の背景。世界の男子卓球で何が起きている?
まさに現代ペンホルダーの教科書。松島輝空と張本智和を封じたドイツのチウ・ダンが見せた“台上の罠”
18歳・松島輝空が世界1位を追い詰めた夜。中国との“殴り合い”が示した日本卓球の進化
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
塩貝健人が語る「4年後に向けて」。W杯での課題をドイツ2部で磨き、再び迎えるブラジル戦
2026.09.11Career -
「20時でスマホを切る」原田衛の“休む力”。「ラグビーができる期間は限られている」日本代表の現在地
2026.09.11Training -
世界で勝つには「組織力だけでは足りない」。長谷川唯が語る、なでしこジャパンの現在地
2026.09.10Career -
なぜドルトムントは日本を選ぶのか? CEOが語った「クラブの価値」と「日本の評価」
2026.09.09Opinion -
なぜ優秀な若手がドルトムントに集うのか? 世界中の才能を引き寄せる「5年後、10年後」の育成戦略
2026.09.08Training -
県4部だった豊川高校が、なぜ4年で全国大会へ? 山梨学院を日本一に導いた監督の挑戦
2026.09.07Training -
角田裕毅に再び巡ってきたチャンス。F1残留を懸けてイタリアで問われる「2度目の挑戦」
2026.09.04Career -
原口元気加入が示すベールスホットの現在地。日本人選手の欧州挑戦と日本資本クラブの可能性
2026.09.04Business -
「いつも誤解されてた」25年の時を経て、アレン・アイバーソンが本当に伝えたかったこと
2026.09.04Career -
「努力できる人」と「続かない人」何が違う? 長谷川唯が語る、目標設定が人生を変える理由
2026.09.03Career -
「黄金世代」は育成の失敗なのか? なぜ世界の強豪国は“偉大な才能”を育て続けられるのか
2026.09.02Training -
イングランドが育成で大切にする「3つの言葉」。選手の限界を決めない“正解がない”指導とは
2026.09.01Training
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
なぜドルトムントは日本を選ぶのか? CEOが語った「クラブの価値」と「日本の評価」
2026.09.09Opinion -
16歳・三井寺眞が開幕戦で放った「シャペウ」の衝撃。10代が互いに刺激し合う、Jリーグ新時代
2026.08.14Opinion -
欧州名門クラブに見るサステナビリティ最前線。人種差別、貧困、就労支援…に挑むマルメFF
2026.08.07Opinion -
“世界一国際的な”育成年代サッカー大会「ゴシアカップ」。なぜ半世紀以上も人々を惹きつけるのか?
2026.08.04Opinion -
3800億円が生んだチェルシーの混沌。前任は「代理教師」と揶揄…。シャビ・アロンソ新監督は名門を変えられるか
2026.08.04Opinion -
「優勝」を掲げた日本代表に何が起きたのか。曖昧なW杯総括で浮かび上がった、選手とJFAのギャップ
2026.08.03Opinion -
日本で“傑物”ストライカーは育成できる? W杯で見えた「日本にまだ足りないもの」
2026.08.03Opinion -
W杯MVPが大卒? 日本サッカーが世界で勝つための「育ち方」考――中西哲生×岩政大樹
2026.07.29Opinion -
欧州女子サッカーは混戦時代へ。RB大宮戦から鮫島彩、岩渕真奈が読み解くバイエルンとUWCLの現在地
2026.07.29Opinion -
なぜ森保監督は「半年だけ」続投するのか。大岩監督への“つなぎ”に不安も…JFA異例人事の舞台裏
2026.07.27Opinion -
「声が出なくなるまで戦った」ケインでも届かなかった。イングランドが世界一を逃した“37分間”の真実
2026.07.23Opinion -
最強中国の敗退、欧州復権の兆し、松島優勝の背景。世界の男子卓球で何が起きている?
2026.07.08Opinion
