
サッカー×麻雀が生み出す可能性。“異例の二刀流”田島翔が挑むMリーグの高い壁、担うべき架け橋の役割
「サッカー界と麻雀界をつなぐ役割を担っていきたい」。そう語るのは、今年7月に麻雀のプロ試験に合格し、サッカー選手との“異例の二刀流”への挑戦を始めた田島翔だ。近年スポーツ選手のデュアルキャリアが注目されているなかで、新たな選択肢の開拓を模索する田島は、なぜ麻雀プロを目指し、サッカーとの二刀流にどのような可能性を見出しているのか?
(インタビュー・構成=中林良輔[REAL SPORTS副編集長]、写真提供=田島翔)
「自分も多井隆晴プロのような麻雀のプロになりたい!」
――麻雀はいつ頃から始めたのですか?
田島:高校生のころにサッカー部の仲間がやっていたのを見て覚えました。その後は海外生活が長かったので、インターネットのゲームでやるようになりました。スペインでプレーしていた2010年くらいからは、インターネットを通じて対人でもやっていましたね。
――プロのサッカー選手でありながら、麻雀の世界でもプロを目指そうと考えたきっかけは?
田島:2020年に欧州のサンマリノでプレーしていたときに、コロナ禍でロックダウンを経験しました。家に閉じこもる日々のなかで、インターネットで麻雀をやったり、あと、渋谷ABEMAS所属のMリーガーであり、RMUという麻雀プロ団体の代表もされている多井隆晴プロの「たかちゃんねる」というYouTubeチャンネルをよく見ていました。
この時期に改めて麻雀熱が再燃し、多井プロの打ち方がとにかくすごくて憧れを抱くようになり、「自分も多井プロのような麻雀のプロになりたい!」と考えるようになりました。サッカー選手としてはいつ引退してもおかしくない年齢にはなってきていたので、真剣に麻雀のプロを目指すことで、新しい目標や、緊張感を持ちたいという思いもありました。
――実際に、2022年に麻雀界でもプロという肩書を手にするわけですが、麻雀ではどのようにしてプロになれるのです?
田島:日本に麻雀のプロ団体が5つあり、各団体が年に2回ほどプロ試験を行います。そこで筆記、実技、面接をクリアすれば、団体に入ることができて、プロ入りとなります。僕は今年7月に多井プロが所属する団体RMUのプロ試験を受けて一発合格し、サッカーに続く2つ目のプロの肩書を得ました。
麻雀のプロとアマの違い。プロはなにより「所作」が美しい
――プロ入りに際して、一番苦労されたことはなんですか?
田島:僕は海外生活が長かったこともあり、主にインターネットで麻雀をやってきた人間だったので、所作や点数計算に苦労しました。ゲームでは学べない要素だったので。
――プロとして求められる麻雀と、アマチュアが趣味でやる麻雀は、やっぱり別物ですか?
田島:全然違いますね。プロは細かいルールや、覚えるべき所作も多く、プロとしてのあり方が問われます。プロの皆さんは所作が本当にきれいなんです。あと、これはサッカーも同じですが、放送対局などを通じて多くの人に見られながら麻雀をするので、極限の緊張感のなかでも動揺しないメンタルの部分にもプロとアマチュアの違いを感じます。プロからは誰に見られても恥ずかしくない麻雀を打てるようにというこだわりを感じますね。
――そのあたりにサッカーにも通じる部分があるのですね。
田島:そうですね。ただ、麻雀の世界は運の要素も強いので、トッププロがアマチュアに負けることも正直あるんですよね。そこが麻雀の面白いところでもあるのですが。その意味でも、プロとアマのより際立つ違いとして、「やっぱりこれがプロだよね」と思わせる所作が大事にされているといいますか、プロなら「できて当たり前」と考えられている部分があるかもしれません。
――プロになってからも学ばなければいけないことがたくさんありそうですね。
田島:プロ試験に合格したら、新人研修があるんです。そこで所作とか、自分たちのリーグ戦の運営の仕方とか、そういったものを勉強しています。来年4月から団体内のリーグ戦に参加できる予定なので、それまで引き続きプロとしてのあり方を勉強したいと思います。
Mリーグの高い壁。ただし、Jリーガーになることだって東大入学より難しい
――田島さんが現在所属するRMUはどのような団体なのですか?
田島:僕の所属するRMUは、多井プロらが2007年に設立した団体で、現在300人ぐらいが在籍しています。役者さんや声優さんなど著名人の方も多く在籍されています。所属プロの年齢層は年配の方から若い方まで幅広いのですが、39歳でプロとして活動し始めた僕は間違いなく遅いスタートだと思います。早い人だと20歳ぐらいからプロとして活動しているので。ここから皆さんに追いつけ追い越せの気持ちで、真剣に取り組まなければいけないという焦りは正直ありますね。
――若い年齢からプロとしてチャレンジされている方も多いというのは意外でした。
田島:とはいえ麻雀だけでは生活することはなかなか難しいので、仕事をしながら、掛け持ちで活動している方がほとんどです。
――現在、麻雀のプロとしては、主にどういう活動をされているのですか?
田島:シニア層向けの麻雀教室で講師をさせていただいています。麻雀は頭も手先も使うので認知症の予防に効果があるといわれていて、麻雀を覚えたい、覚えたばかりというお年寄りに向けた教室です。これまでは麻雀といえば、タバコを吸ったり、お酒を飲んだりしながらやるもの、また賭け事というイメージが強かったと思いますが、近年は“賭けない、飲まない、吸わない”健康麻雀が少しずつ浸透してきているんです。年明け1月からは子ども向けの麻雀教室も行う予定です。
――麻雀の世界における現在の目標は、麻雀のプロリーグ「Mリーグ」の出場に置かれているのですか?
田島:2000人ほどプロがいるなかで32人しかその舞台に立てないMリーグ出場は、はるか遠い夢のような存在で、まだ目標とは呼べないかもしれません。まずは麻雀でなにかしらのタイトルを取ることをいまは一番の目標にしています。その積み重ねの先にいつかMリーガーを目指せる日もくるはずだと考えています。
――高校までは無名選手だったにもかかわらず、プロとして国内外で活躍された経歴も十分に多く人が憧れる夢を実現されていると感じますが、その田島さんにとっても、Mリーガーになることはとても難しい目標だと捉えているのですね。
田島:そうですね。サッカーに例えると、J3の選手が日本代表になるという感じですかね。それくらい難しいことだという感覚です。ただ、先日麻雀関係者とお話しする機会があったのですが、「(より多くの人が目指している職業である)Jリーガーになることのほうがすごいことなので、もっと自信を持ってください。Jリーガーになることだって東京大学に入るより難しいことなんですから」というお話をしてくださって、もう少し自分に自信を持ってもいいのかなとは感じました(笑)。
「サッカー選手と麻雀プロが真剣に麻雀で勝負する」という未来
――サッカー選手で麻雀をやっている方ってけっこう多いのですか?
田島:多いですね。2012年にロアッソ熊本に所属していたときも、選手やスタッフと一緒に空き時間に麻雀をやったりしていました。現Jリーグチェアマンの野々村(芳和)さんも麻雀が好きで、現役時代に自分たちでリーグ戦を開いていたという話も聞いたことがあります。
――サッカー選手が競技を続けながらチャレンジするビジネスとして、麻雀のプロを目指すという選択は、選手たちにおすすめできるデュアルキャリアになりそうですか?
田島:麻雀だけでたくさんお金を稼ぐというのはなかなか難しいので、例えば、雀荘カフェを経営するとか、教室を運営するとか、そういった部分も見据えているのであれば面白い選択肢にはなってくると思います。
――その先駆者として現在、田島さんが二刀流の成功例を目指されているわけですよね。
田島:そうですね。例えばサッカー選手と野球選手が、競技を通じて真剣勝負で交流するのって難しいと思うんです。ただ、サッカー選手と麻雀のプロが真剣に麻雀で勝負することはできる。さまざまな可能性を探りながら、サッカー界と麻雀界をつなぐ役割を担っていきたいと考えています。
実際に、Mリーグ設立者で初代チェアマンの藤田晋さんはサッカーの町田ゼルビアの代表取締役社長兼CEOもされていますし、Jリーグ初代チェアマンの川淵三郎さんがMリーグの最高顧問を務められてもいます。もともとサッカーと麻雀って親和性は高いと考えているので、多くの可能性を秘めていると思っています。
【連載後編】憧れの存在は、三浦知良と多井隆晴。“サッカーと麻雀”の二刀流・田島翔が川淵三郎と描く未来
<了>
【過去連載・前編】なぜ非サッカーエリートが、欧州でプロ契約を手にできたのか? 異色の経歴が示す“開拓精神”を紐解く
【過去連載・後編】海外挑戦を後押しし得る存在。4大陸制覇した“異色のフットボーラー”田島翔が語る「行けばなんとかなる」思考
東海オンエア・りょうが考えるこれからの“働き方” デュアルキャリアは「率直に言うと…」
中村憲剛は経営者として成功できる? 年商380億円の元Jリーガー社長・嵜本晋輔との“共通点”
スポーツ複業時代、ツムラ社とアイスホッケー選手に見る「二足の草鞋」取り巻く関係者の本音
[PROFILE]
田島翔(たじま・しょう)
1983年4月7日生まれ、北海道出身。高校卒業後にシンガポールにサッカー留学。帰国後、2004年からFC琉球、2008年からクロアチアのNKヴァルテクス、2010年からスペインのTSKロセス、2012年にロアッソ熊本に所属。2013年にフットサルに転向してシュライカー大阪のサテライトで半年間プレーしたのち、2014年にニュージーランドのオークランドシティFCで再びサッカー界に復帰。2015年に十勝フェアスカイFC、2016年にアメリカのマイアミ・ユナイテッドFC、2017年にラスベガス・シティFC、2018年に韓国のソウル・ユナイテッドFC、2020年にサンマリノのSSペンナロッサでのプレーを経て、2022年より江の島FCに所属。同年7月、プロ競技麻雀団体RMUのプロ試験を受け合格した。
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
高校ラグビー最強チーム“2006年の仰星”の舞台裏。「有言実行の優勝」を山中亮平が振り返る
2025.02.14Career -
プロに即戦力を続々輩出。「日本が世界一になるために」藤枝順心高校が重視する「奪う力」
2025.02.10Opinion -
張本美和が早期敗退の波乱。卓球大国・中国が放つ新たな難敵「異質ラバー×王道のハイブリッド」日本勢の勝ち筋は?
2025.02.10Opinion -
「やるかやらんか」2027年への決意。ラグビー山中亮平が経験した、まさかの落選、まさかの追加招集
2025.02.07Career -
女子選手のACLケガ予防最前線。アプリで月経周期・コンディション管理も…高校年代の常勝軍団を支えるマネジメント
2025.02.07Opinion -
前人未到の高校女子サッカー3連覇、藤枝順心高校・中村翔監督が明かす“常勝”の真髄
2025.02.06Opinion -
一流選手に求められるパーソナリティとは? ドイツサッカー界の専門家が語る「実行に移せる能力」の高め方
2025.02.03Opinion -
柿谷曜一朗が抱き続けた“セレッソ愛”。遅刻癖、背番号8、J1復帰、戦術重視への嫌悪感…稀代のファンタジスタの光と影
2025.02.03Career -
「アスリートを応援する新たな仕組みをつくる」NTTデータ関西が変える地域とスポーツの未来
2025.02.03Business -
卓球・17歳の新王者が見せた圧巻の「捻じ伏せる強さ」。松島輝空は世界一を目指せる逸材か?
2025.01.30Career -
最多観客数更新のJリーグ、欧米女子サッカービジネスに学ぶ集客策。WEリーグが描く青写真とは?
2025.01.28Business -
4大プロスポーツ支えるNCAAの試合演出。「ジェネラリストは不要」スポーツエンターテインメントはどう進化する?
2025.01.28Business
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
「アスリートを応援する新たな仕組みをつくる」NTTデータ関西が変える地域とスポーツの未来
2025.02.03Business -
最多観客数更新のJリーグ、欧米女子サッカービジネスに学ぶ集客策。WEリーグが描く青写真とは?
2025.01.28Business -
4大プロスポーツ支えるNCAAの試合演出。「ジェネラリストは不要」スポーツエンターテインメントはどう進化する?
2025.01.28Business -
なぜWEリーグは年間カレンダーを大幅修正したのか? 平日開催ゼロ、中断期間短縮…“日程改革”の裏側
2025.01.23Business -
総工費3100億円アリーナの球場演出とは? 米スポーツに熱狂生み出す“ショー”支える巨額投資の現在地
2025.01.23Business -
WEリーグは新体制でどう変わった? 「超困難な課題に立ち向かう」Jリーグを知り尽くすキーマンが語る改革の現在地
2025.01.21Business -
北米4大スポーツのエンタメ最前線。MLBの日本人スタッフに聞く、五感を刺激するスタジアム演出
2025.01.21Business -
「SVリーグは、今度こそ変わる」ハイキューコラボが実現した新リーグ開幕前夜、クリエイティブ制作の裏側
2025.01.17Business -
なぜミズノは名門ラツィオとのパートナーシップを勝ち得たのか? 欧州で存在感を高める老舗スポーツブランドの価値とは
2024.12.24Business -
ドイツ6部のアマチュアクラブとミズノがコミットした理由。岡崎慎司との絆が繋いだ新たな歴史への挑戦
2024.12.24Business -
なぜNTTデータ関西がスポーツビジネスに参入するのか? 社会課題解決に向けて新規事業「GOATUS」立ち上げに込めた想い
2024.12.10Business -
スポーツ組織のトップに求められるリーダー像とは? 常勝チームの共通点と「限られた予算で勝つ」セオリー
2024.11.29Business