史上稀に見るJリーグの大混戦――勝ち点2差に6チーム。台頭する町田と京都の“共通点”
勝ち点2差に6チームがひしめく未曽有の大混戦――。今季のJ1リーグは、伝統ある強豪と新興勢力が入り乱れ、かつてないサバイバル色を強めている。その象徴が、FC町田ゼルビアと京都サンガF.C.だ。J1参入2年目の町田は怒涛の8連勝で優勝戦線に加わり、京都も今季初の3連勝で首位に浮上し、存在感を放つ。両者の快進撃の背景にある「共通点」とは何か。現場取材から見えた監督や選手の言葉を通してその源泉を探るとともに、大混戦を勝ち抜く条件を分析し、優勝争いの行方を占う。
(文=藤江直人、写真=YUTAKA/アフロスポーツ)
勝ち点2差に6チーム、前例なき大混戦
全日程の3分の2あまりを終えた今シーズンのJ1戦線が、未曾有の大混戦と化している。
今週末に行われる第28節を前にして京都サンガF.C.が勝ち点51で首位に立ち、同じ勝ち点ながら得失点差で後塵を拝する鹿島アントラーズが2位。勝ち点1ポイント差の同50でFC町田ゼルビア、柏レイソル、ヴィッセル神戸が、さらに1ポイント差の同49でサンフレッチェ広島が続く。
勝ち点2ポイント差以内に6チームがひしめき合う状況は、第28節の結果次第で順位が大きく入れ替わる可能性を意味する。実際、第30節が前倒しされた20日のガンバ大阪戦で勝利し、破竹の連勝を8に伸ばして暫定首位に浮上した町田の黒田剛監督は、その後の戦いへ向けて「そう簡単に首位を維持できるとは思っていません」とサバイバル戦を覚悟している。
「最後の1、2節まで勝負は続くでしょう。一つ結果が出なければ、あるいは油断をすれば水を開けられてしまう状況ですし、実際に私たちも8合目や9合目から転がり落ちる経験をしているので」
序盤戦の4月6日の第9節後に首位に立ちながら、翌節の浦和レッズ戦で敗れた同13日には一気に7位へと転落。苦い経験をもつ黒田監督の予想通りに、22日に柏、23日に鹿島、そして24日には京都と勝利したチームが日替わりで首位へ浮上。23日の横浜F・マリノス戦で引き分け、連勝がストップした町田も後半戦で無敗をキープして予断を許さない状況を生み出している。
さらに上位集団の顔ぶれをあらためて見ると、鬼木達新監督のもとで常勝軍団復活を期す鹿島、その鹿島に続く史上2チーム目のリーグ戦3連覇を目指す神戸などに加えて、タイトルを獲得した経験がない2チーム、町田と京都の存在が大混戦に拍車をかけているのがわかる。
しかも町田と京都には、躍進の源泉になった「共通点」が存在している。それが何なのかを紐解いていく前に、それぞれが現時点に至るまでの経緯をあらためて記しておきたい。
模索と試練、町田が味わった前半戦の苦境
町田は前述したように7位へ後退してから一転して不振に陥った。青森山田高校監督から転身した黒田体制になって3シーズン目で、J2時代を含めて初めて3連敗を喫するなど、前半戦の19試合を終えた段階で10位と苦しみ、首位の鹿島との勝ち点差は15ポイントも離れていた。
7勝4分け8敗と黒星が一つ先行した前半戦を、黒田監督は次のように総括していた。
「敗戦が多かった点を真摯に受け止めて、後半戦の19試合へ臨まなければいけない。昨シーズンが3位だったから、リーグ最少失点だったからと言って、今シーズンの成績が保証されているわけではありません。私たちはまだJ1の2年目のチーム。まだまだやるべきことがたくさんあります」
クラブ史上で初めてJ1に挑んだ昨シーズンの町田は開幕前の予想を大きく覆す形で、5月中旬から3カ月あまりにわたって首位をキープ。高温多湿の夏場以降に大きく失速したものの、リーグ最少の34失点と守備陣が踏ん張り、最終的には堂々の3位でフィニッシュした。
追われる側になった今シーズン。黒田監督は3バックへ本格的に移行するなど、チームへのアップデートを施した。しかし、神戸から加入して3バックの真ん中を託された青森山田高校時代の教え子、菊池流帆が両太もも裏の肉離れを繰り返して長期離脱するアクシデントが生じた。
昨シーズンの前半終了時と比べて、総失点も16から23へと増えた。対戦相手から研究され、思うように勝ち点を伸ばせなかった前半戦を、キャプテンの昌子源はこう振り返る。
「3バックでいろいろとトライをすれば、必ずエラーをするような状況でした。前半戦があまりうまくいかなかったなかで、昨シーズンまでの4バックに戻す方法も絶対にあったはずです。それでも監督やコーチが『3バックの形をつくっていこう』とトライし続けた結果として、少しずつですけど自分たちのものになりつつある。エラーが繰り返されたなかで落とした試合が数多くあっても、自分たちに疑いをもたずに、自分たちを信じて戦ってきた結果が出ていると思っています」
怒涛の8連勝で復活、広島から学んだ強さ
6月の代表ウイーク明けから始まった後半戦で、町田はクラブ記録だった昨シーズンの4連勝の倍となる怒濤の8連勝をマークして再び上位戦線に加わってきた。8個の白星には鹿島だけでなく、昨シーズンから一度も勝てていなかった神戸から快勝とともに奪ったものも含まれる。
さらにアルビレックス新潟との第22節からセレッソ大阪との第26節まで、5試合続けて勝利にクリーンシートで花を添えた。1996シーズンの横浜フリューゲルス以来、29年ぶりにJ1リーグ記録に並ぶ6試合連続無失点勝利こそ逃したものの、攻守で圧倒的な存在感を放っている。
菊池らが復帰して戦力が充実したプラス材料以上に、昨シーズンに味わった悔しさが驚異的なV字回復を遂げた糧になっている。優勝したのは神戸だったが、町田の脅威となったのは夏場以降に圧巻の7連勝をマークし、一時は12ポイントも引き離した状況から逆転された広島だった。
広島の強さを身にまとおう、を合言葉にしてきた今シーズン。昌子は笑顔を浮かべながら「その意味でも、非常にいい方向に進んでいると思っています」とこう続ける。
「本当に強いチームは、どれだけ苦しくても自分たちに矢印を向けて勝ち上がってくる。広島さんの強さを一番感じたのが僕たちだし、だからこそ広島さんのように夏場にしっかりと勝ち点を稼ごう、もう一度優勝争いをしよう、という強い気持ちをずっと抱いてきたので」
「どん底」からの浮上を支えた信念とエースの力
一方の京都は昨シーズンの前半戦にどん底を味わった。第7節から3連敗を喫すると、一つの白星をはさんで第11節から今度は5連敗。浦和に0-3で完敗した第14節後に最下位へ転落した時期を、曺貴裁(チョウ・キジェ)監督は「本当に散々な成績でした」と振り返る。
「これを言うと言い訳みたいに聞こえますけど、別にすべてが悪かったわけじゃなくて、勝負の際や大事なところでミスが出て失点して自信をなくしたときに、じゃあ別の方法でやりましょうとなるとどうなるか。これは負けが込んでいくチームの典型であり、それでうまくいくのならばどのチームもそうする。実際はそうじゃなくて、負けたときこそ光と闇を自分たちのなかに明確につくっていかなきゃいけない。すべてが闇で光は別のところにある、という指導を僕はしてこなかったつもりですし、そうした積み重ねがいま、結果として表れているところだと思っています」
昌子の言葉とダブって聞こえてくる。信念に基づいて決めた戦い方を、そう簡単には変えない。迷走こそが最大の敵、とするイズムが今シーズンの町田と昨シーズンの京都とで共通している。
昨シーズンの京都は、夏場に期限付き移籍で加入したブラジル出身のラファエル・エリアスが、出場15試合で11ゴールを量産。後半戦だけで9勝6分け4敗、リーグ全体では3位となる勝ち点33をあげたチームを力強くけん引し、最終的には14位でのJ1残留へと導いた。
オフに完全移籍へ移行したエリアスは、今シーズンも出場20試合で得点ランキング2位となる13ゴールをマーク。4-0で大勝した24日のFC東京戦では今シーズン2度目、通算では3度目のハットトリックを達成して、チームを首位へ返り咲かせる原動力になった。
曺監督の「イズム」と進化するチームスタイル
エリアスにもたらされた個の力を認めつつも、それでも曺監督は「昨シーズンの後半戦から誰かが入って明らかに何かを変えたわけでも、ましてや変わったわけでもない」とこう続ける。
「この後に自分たちがすぐ闇に埋没していく可能性もいつもあると思っているなかで、ホームに神戸さんを迎える今シーズンの最終戦を終えた後に、僕たちがどのような景色を見ているのか。いまはそれをチームの目標にしているので、それに向かって進んでいくだけです」
当時J2だった京都の監督に2021シーズンに就任。わずか1年で実に12シーズンぶりとなるJ1復帰へ導き、クラブ史上初の3シーズン連続J1残留を果たしたばかりか、今シーズン序盤の第11節後にはこれも初めてとなる首位に立った京都の何を曺監督は変えてきたのか。
曺監督は湘南ベルマーレを率いたときから、走れば勝てるわけではないが、勝つチームのほとんどはよく走る――を根幹的なイズムにすえてきた。今シーズンも1試合平均の総走行距離でリーグ3位タイの118kmを、同スプリント数でトップの146回をそれぞれマークしている。
2020シーズンから京都に在籍し、J2時代からいまに至るチームの変化を肌で感じてきたゴールキーパーの太田岳志は「曺さんの要求は、年々アップデートされている」とこう続ける。
「ハイプレス、ハイラインのサッカーを続けてきたなかで、昨年の夏あたりからそれらをうまく応用するというか、すべて前から行くのではなく行くタイミングを考えるとか、ボールを奪って蹴るだけじゃなくて、つないで自分たちの時間を作るサッカーにもチャレンジしている。曺さんも『いまのお前たちだから、この要求ができる』といつも言ってくれているなかで、選手一人ひとりがレベルアップしてきたのも、昨シーズンから今シーズンにかけて好調が続いている要因だと思います」
上位を襲う過密日程、浮上の条件とは
今後は他の公式戦も加わるなかで生まれる過密日程もカギを握ってくる。町田、神戸、広島が天皇杯ベスト4に進出し、柏と神戸、広島はYBCルヴァンカップでもベスト8に勝ち残っている。さらに神戸、広島、町田は9月開幕のAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)にも臨む。
リーグ戦以外の公式戦ですでに敗退したか、あるいは出場しないチームは京都と鹿島だけ。同時に京都はリーグ戦で広島、町田、鹿島、神戸と上位陣との直接対決を最も多く残している。大混戦を抜け出すには何が必要なのか。曺監督は「わかりません」と断りを入れながらこう続けた。
「わからないなりに答えると、自分たちを含めて、どのチームも目の前の試合で勝ち点3を目指す温度をしっかりと上げて臨む姿勢だと思います。各チームの今後の対戦相手を見ても、直接対決がある一方で残留がかかったチームとの対戦を残しているチームも多い。どこだったら勝ち点3を取れて、どこだったら勝ち点1になるのかを計算したチームが落ちていくと思っていますし、京都が置かれている状況でいえば、すでに天皇杯とルヴァンカップで負けてしまったなかで、集中できるのがリーグ戦だけとなった状況をポジティブに考えていきたいと思っています」
2005年の再来か。最終節まで続くスリル
Jリーグが初めて1シーズン制になった2005シーズン。最終節を残した状況でセレッソ大阪が勝ち点58で首位に浮上して初優勝に王手をかけ、勝ち点1ポイント差の57でガンバ大阪が、さらに勝ち点1差の56で浦和、鹿島、ジェフユナイテッド千葉が続く大混戦となった。
迎えた運命の最終第34節は、2位以下の4チームがすべて勝利したのに対して、唯一、自力優勝の可能性があったセレッソはホームでFC東京とまさかのドロー。しかも後半終了間際に2-2の同点とされる悲劇の末に一気に5位へと後退し、ガンバが悲願の初優勝を手にした。
初代チェアマンの川淵三郎氏が、黎明期に宣言した「Jリーグに読売巨人軍はいらない」が具現化された大混戦からちょうど20年。ビッグクラブを巡り、Jリーグ全体の魅力を高めて若手有望選手の海外流出も防げるとする待望論と、実力が拮抗する世界的にも稀有な面白さを追い求めるうえでの不要論が飛び交ってきたなかで、再びスリルと興奮に満ちた戦いが繰り返されようとしている。
京都か町田が12番目の初優勝クラブに名を連ねるのか。あるいは鹿島、柏、神戸、広島が優勝回数を一つ上積みするのか。元スウェーデン代表のイサーク・キーセ・テリンを獲得し、勝ち点44の7位からの追い上げを期す浦和も加わってくる可能性もあるJ1の覇権争いは、12月6日の最終節まで残り11試合、ACLEに臨む3チームは同10試合となった終盤戦へいよいよ突入する。
<了>
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