日本競馬の夢、再び――凱旋門賞に3頭参戦。ダービー馬クロワデュノールらが挑む欧州の壁、歴史の扉
日本競馬が挑み続けてきた“世界最高峰の壁”――凱旋門賞。今年はダービー馬クロワデュノールを筆頭に、ビザンチンドリーム、アロヒアリィの3頭が出陣する。フランスでの前哨戦にて欧州馬場を経験して臨む精鋭たちは、長年はね返されてきた欧州の厚い壁を打ち破れるのか。悲願達成へのカギを探る。
(文=本島修司、写真=スポーツ報知/アフロ)
日本調教馬が初めて凱旋門賞を制するか? 高まる期待
2025年10月5日。フランス・ロンシャン競馬場で今年も凱旋門賞(G1)が行われる。
日本からは3頭が参戦する見込みだ。
フォワ賞(G2)を勝った4歳馬ビザンチンドリーム。プランスドランジュ賞(G3)を勝った3歳馬クロワデュノール。ギヨームドルナノ賞(G2)を勝った3歳馬アロヒアリィ。
昨年もこのレースに参戦し、今年も出走を予定していたシンエンペラーは残念ながら回避となったが、期待を集める3頭それぞれが独自に現地入りした。各馬がフランス国内のステップレースを選びながら10・5の決戦に向かう姿に、日本調教馬が初めて夢の舞台を制覇する期待は高まっている。
しかし、これまでも厚い壁に跳ね返されてきたのがこのレース。能力・適性・調子・競走馬としてのピーク。すべてが噛み合って、初めて勝ち負けできるかどうか。そんな厳しさを日本の馬たちは何度も味わってきた。
今年、その悲願は遂に達成されるのか。その課題とポイントを探る。
2025年、3頭に共通するのは「現地入りして一戦使う」
今年参戦する3頭には、一つの共通点がある。それは現地の欧州でステップレースを使って挑むという点だ。
日本から輸送して「ぶっつけ」がいいか、現地に「慣れさせて」挑むのがいいか。喧々諤々の議論がなされてきたことでもある。これは、明確に何が正解とは言えない。馬それぞれに合う形というものもあるだろう。
ただ、現地入りして「ステップレースを使ってから本番へ挑む」というやり方には、間違いなくメリットも多い。欧州の馬場を走ることを経験できる。そして気候を含めて現地の生活に慣れることができるなどだ。本番の前に必要な課題も見える。
デメリットと言えば、賞金面か。クロワデュノールが勝ったプランスドランジュ賞はG3という格付け。日本ではG3となれば1着賞金が数千万円だ。例えば、同日に日本で行われたチャレンジC(G3)は、1着賞金が4300万円もある。
しかし、欧州のプランスドランジュ賞は1着賞金が680万円だ。簡単に言えば、クロワデュノール陣営は、そこに「賞金以上に得るもの」を見出して参戦していることになる。同じことがアロヒアリィの陣営にも言えるだろう。
賞金以上に得ることができるもの。それはやはり「試走により現地でさまざまな手応えをつかめる」ということだ。
フォワ賞を勝ったビザンチンドリームにとっても「さらに必要な要素」や「修正ポイント」を見つけることができているはずだ。
脇役から躍進、4歳馬ビザンチンドリーム
まずは4歳馬から。ビザンチンドリームは日本のG1では、やや脇役のような存在だったが、3歳時はクラシック3冠をすべて完走。なかでも5着となった菊花賞の走りは「スタミナあり」を印象づけた。
その能力がいよいよ目覚めたのは、2025年、4歳になって2月のサウジアラビア・レッドシーターフハンデキャップ(G2)。3000mという距離のこのレースで騎手がマーフィーに乗り替わって末脚が爆発。海外初出走で圧勝して見せた。
この勝利がマグレではないことを証明したのが、5月、帰国初戦となった天皇賞・春(G1)。今度は鞍上にアンドレアシュ・シュタルケを迎えて後方から一気に伸びて2着。無尽蔵のスタミナとパワーを感じさせた。そしてフォワ賞は再びマーフィーが騎乗し欧州特有の揉み合いの激しい「おしくらまんじゅう」のような競馬が展開される中で、馬群を割って出て快勝した。
ロベルト系・エピファネイア産駒らしいパワーがウリ。本番に向けて、かなり期待が高まっている1頭だ。課題は欧州トップホースたちと激突した際に、地力と能力自体が足りるか否かだろう。
“1勝馬”の身で…3歳馬アロヒアリィの好走に期待
アロヒアリィのギヨームドルナノ賞の勝利には、日本中が驚かされた。日本では4戦1勝の“1勝馬”の身で、主な実績は「弥生賞(G2)3着」。前走は皐月賞(G1)8着からの参戦だった。春の時点では、この馬が凱旋門賞で有力の一角にいることは想像することができなかった。
しかし、田中博康調教師は「オーナーと私の夢」というコメントとともに、適性も見込んで果敢に欧州へ乗り込んだ。ここまではその采配がズバリと当たっている形。近年、ダートでレモンポップという名馬を育て上げて完璧な形で現役を終わらせるところまで完結させた、若き敏腕トレーナーの挑戦が見ものだ。
この馬も課題は「欧州最高峰のG1で能力が足りるか」という点になりそうだ。ただ、3歳馬ということを加味すると、もし今年の凱旋門賞で好走できれば、来年、4歳で再度の挑戦も視野に入ってくるのではないか。斤量は重くなる。それでも日本馬は3歳より4歳シーズンにアスリートとしてピークとなる馬も多い。将来を見据えての好走も期待したい存在だ。
日本ダービー馬、クロワデュノールが最注目
最も注目を集めるのが、クロワデュノールだろう。日本の3歳ナンバーワンなのはもちろんのこと、今年の日本ダービー(G1)を制し、もしかすると日本馬の中で現役最強かもしれない3歳馬の挑戦となる。
前哨戦はプランスドランジュ賞を選択し、3番手の外目あたりからなんとかエンジンがかかり快勝。ただし2着馬との着差はわずかだった。この点が、本番で好勝負できるか意見が分かれているようだ。
まず、このレースでプラスになったことは「本番と同じロンシャンを経験できたこと」。これは間違いないだろう。
このレースは主催者発表で10段階ある馬場の中で「7」という評価だったことにも注目したい。これは日本のJRAでは「重」に相当するとされる馬場だ。つまり「重馬場のロンシャンを勝てた」ということになる。
クロワデュノールはキタサンブラック産駒だ。同産駒の大物は競走馬ランキング世界1位にまでなったイクイノックスがいた。イクイノックスは高速馬場の東京で特に無類の強さを誇ったが、キタサンブラック産駒の大物はパワーのいる馬場でも強い。キタサンブラック自身が重馬場の天皇賞・秋(G1)でインを豪快にすくって勝ったこともある。
そういった意味で、クロワデュノールにとってこのロンシャンがベストな馬場ではないかもしれない中でも「馬場適性は大丈夫」という手応えは得ることができた。58キロの斤量克服も、日本のこの時期の3歳馬としては経験できてよかったはず。
課題は「3歳で挑戦してどうか」という点。3歳は斤量が軽いという恩恵がある。今のクロワデュノール自身がとても充実しているということもあるだろう。ただ、このクラスのトップホースになれば、やはり日本調教馬は4歳で最高の時節を向かえる馬が多い。
過去に、日本の3歳馬が凱旋門賞にチャレンジしたこともあるが、スーパーホース・キズナが4着になり現地を大いに沸かせた。しかし他は、ドウデュースが19着、マカヒキが14着、ハープスターが6着、ヴィクトワールピサ7着など、上位進出までにはなかなか至らなかった歴史がある。
夢をつかみ取るその日まで…日本人は凱旋門賞を愛し続ける
3頭それぞれに克服すべき課題があることは確かだ。
それでも今年は日本競馬の悲願“凱旋門賞制覇”の可能性を感じずにはいられない精鋭がそろったと言えよう。大将格クロワデュノールを筆頭に誰もが夢を見てしまう。
なぜ、これほどまでに日本人は凱旋門賞が好きなのか。
一時期は世界と比較されて“ガラパゴス馬場”とまで称された日本の芝、それに対し、重く馬の脚にまとまわりつくような芝で、ひとたび激しい雨が降れば田んぼの中を走っているようにすら見える欧州の馬場。
同じ芝2400mでも、日本のG1ジャパンカップと比較すればわかる通り、勝ち時計が何秒も違う。それは時に「同じ陸上競技であっても、同じ種目ではない」とも言われてきた。
それほどまでに違う競馬でも、日本人は今でも凱旋門賞に特別な思いを抱く。
1999年、エルコンドルパサーの2着惜敗。あの時つかみ損ねたもの。多くの人がそれを「夢」と呼び、英雄・ディープインパクトに、暴君・オルフェーヴルに、他にもたくさんの名馬に思いを託し、“忘れ物”を取りにいこうとした。
凱旋門賞は歴史上「欧州調教馬」しか勝利したことがない。
英オークス(G1)、愛オークス(G1)、ヨークシャーオークス(G1)を3連勝中のエイダン・オブライエン厩舎の3歳牝馬ミニーホーク。ヴェルメイユ賞(G1)
を勝って勢いに乗る昨年の凱旋門賞2着馬アヴァンチュール。昨年4着から巻き返しを狙うソジー。今年の欧州勢も多彩な強敵がそろう。
それでも、たとえ「違う種目」と言われても、難しければ難しいほど、人はチャレンジをしたくなる。そんな「みんなの夢」の象徴のゲートが、今年も10月5日の深夜に開く。
いつか訪れるはずの悲願達成を祈りながら。今年も激戦必至の夜が始まる。
<了>
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