本田圭佑はなぜFCジュロンを選んだのか。是永大輔チェアマンが語る“クラブの土台をつくる補強”
シンガポール・プレミアリーグのFCジュロンが、本田圭佑の加入を発表した。ワールドカップ3大会連続ゴールを記録し、日本サッカー界を牽引してきた本田の新たな挑戦は、シンガポールでも大きな注目を集めている。アルビレックス新潟シンガポールからFCジュロンへと名を変え、より深く地域に根を下ろそうとするクラブにとって、本田はピッチ上の戦力であると同時に、クラブの文化や基準をともにつくっていく存在でもある。本田加入の舞台裏、クラブにもたらす影響、そしてシンガポールサッカーの未来。FCジュロンの是永大輔チェアマンに、その狙いを聞いた。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=©︎Albirex Niigata FC (S))
チャリティーマッチ構想から始まった加入の舞台裏
――本田圭佑選手の加入は大きな反響を呼びました。まずは、今回の加入に至った経緯から教えてください。
是永:最初は全然別件の話をしていたんです。去年の4月か5月くらいから、シンガポールと日本の外交関係樹立60周年となる今年の節目に合わせて、チャリティーマッチのようなものをやれないか、という話をしていました。JFA(日本サッカー協会)の宮本恒靖会長やJリーグの野々村芳和チェアマンとも相談をする中で、実施するのであれば本田選手にも参加してもらって、単なる記念イベントではなく、後世に残る意義のある形にしたいという思いがありました。
ただ、実現に向けて調整を進める中で、費用面も含めて簡単ではない部分があり、企画としては一度立ち止まる形になりました。その流れの中で、本田選手本人から「プレーしたい」という話が出てきたんです。それなら、うちでやればいいじゃないかと。当初は今年の1月くらいからプレーする可能性もありましたが、せっかくやるなら新しいシーズンから一緒にやりましょう、という流れになりました。
――本田選手を迎えることは、FCジュロンが次の段階へ進む上でも大きな意味を持つのでしょうか。
是永:そうですね。今のクラブにとって大切なのは、ローカル化を進めていく中で、もう一度このクラブの土台をつくることだと思っています。鹿島アントラーズにとってジーコさんがそういう存在だったように、FCジュロンにとって本田圭佑と一緒にクラブの土台をつくれるなら、こんなに面白いことはない。本田選手自身も、そういうことに対して前向きに捉えてくれました。
――本田選手のような世界的な選手を獲得するには、本人へのアプローチや信頼関係も重要だと思います。経営側から見て、どのような過程があったのでしょうか。
是永:僕が言うのもおこがましいのですが、彼はお金ではなく、チャレンジする機会を求めています。彼自身が常々そういうことを言っています。本田選手はまっすぐに向き合ってくれるので、こちらもまっすぐに向き合いたくなりますよね。そういう関係性が、今回の契約につながったと思います。
妥協を許さないプロフェッショナリズムへの期待
――是永チェアマンが以前から本田選手と近くで接してきたからこそ感じる、人としての魅力はどんなところですか。
是永:彼は嘘をつかないし、シンプルで、まっすぐなんです。世の中には、駆け引きをする人もいますが、彼はサッカー選手としても、人としても、ごまかさない。かっこいいなと思いますし、男気があるなと思います。だから、うちにきてくれるからには、後悔させたくない。
――本田選手が加わることで、日々のトレーニングや選手たちの意識に、どんな変化を期待していますか。
是永:一番は、チームの甘さをなくしていきたいです。今年は「ハードワーク」と「チームワーク」を掲げてやってきました。そういう意味では、納得できる試合も多く、見ていて面白い試合も増えています。ただ、トレーニングを見ていると、どうしても力を抜いているように見える時があって。最初はいいけれど、だんだんインテンシティが落ちていくような場面もあります。その点は、僕自身も気づいていなかったわけではないですが、「試合の合間だし、仕方ない部分もあるか」と受け止めてしまっていたところもありました。
そんな中で、本田選手が去年のシーズン前に時々練習に参加してくれていた際に、「序盤より緩くなってきていますよね」と言っていたんです。やっぱりそういうところを見ているんだなと思いました。プロフェッショナリズムが徹底していて、妥協しない。練習の強度や日々の基準をチーム全体で引き上げていかないと、次のレベルには行けません。ましてや、うちはお金のあるチームではないのだから、そういう面で妥協せずに努力しなきゃいけないと思っています。
――本田選手は、言葉でも背中でも見せられる選手だと思います。周囲を引き上げる力は、どんなところに感じますか?
是永:まだFCジュロンの選手としてトレーニングをしたわけではないので、実際にどこまで影響が出るかはわかりません。ただ、彼は頭の中に明確なビジョンがあって、グイグイと「これはこうだ」と言ってくれる。そういう存在は、一緒にプレーする選手たちにとってありがたいことだと思います。

優勝、そしてACL2へ。本田圭佑加入が生む熱
――競技面で期待することはどんなことですか?
是永:個人的には、やっぱりフリーキックを見たいですよね。2010年の南アフリカワールドカップのデンマーク戦で決めたような、ヒリヒリした試合でああいうフリーキックを見たいじゃないですか。いちファンとしても、そこは期待してしまいます。もちろん、本人は90分フルタイムで出るつもりだと思いますが、現実的にはコンディションなども見ながらになると思います。
――本田選手はリーグ優勝を目標に掲げています。上位をうかがう位置につけている現時点でのクラブの立ち位置を踏まえて、その言葉をどのように受け止めていますか?
是永:今季は残り2試合の時点で3位にいて、2位とは勝ち点2差です(編注:5月14日現在、今季残り1試合で前節同様に2位と勝ち点差2の3位)。2位に入ればACL2(AFCチャンピオンズリーグ2)に行ける可能性があるので、まずはそこに行きたい。ACLに出ることはずっと夢だったので、今年行ければもちろんいいですし、行けなかったとしても来年どうやってそこに行くかを考えています。ただ、優勝となると、ライオン・シティ・セーラーズという、スペインでいうレアル・マドリードのようなチームが立ちはだかります。Jリーグで2年連続得点王にも輝いたアンデルソン・ロペスがいるチームですから。実績だけでなく、まだトップレベルで十分に力を発揮できるストライカーです。リーグに突然、強烈なストライカーが現れた感覚で、あのチームは特別です。その他にもクオリティの高い選手たちが数多くいます。
――本田選手の加入によるクラブやサポーターへの発信力、影響力の大きさは、すでに感じていますか?
是永:サポーターはもしかしたらまだ半信半疑で「本当にくるの?」という感じかもしれません。実際に試合に出て、プレーする姿を見た時に、さらに大きな反応になるのかなと思います。入団会見も、せっかくなら大きめにやりたいなと考えています。ヨーロッパのビッグクラブの入団会見のように、スタジアムにファンを集めて、ピッチで本田選手がリフティングをして、同時に本田選手のユニフォームを販売するようなこともやってみたいですね。
――本田選手の加入が、ほかの選手にも影響を与える起爆剤になる可能性もありますね。
是永:それはありますね。今の若い選手たちの中にも、本田圭佑に憧れている選手はたくさんいます。選手たちと話していて、それはすごく感じます。

本田圭佑と語る、シンガポールサッカーの未来
――公式発表では「新たな価値創出」や「シンガポールサッカー界全体への貢献」という言葉もありました。本田選手の存在を通じて、クラブとしてどのような広がりを生み出したいと考えていますか。
是永:シンガポールでやっている以上、一番のステークホルダーはシンガポールに住んでいる人たちです。ただ、シンガポールの人口は611万人くらいしかいません。東京都の半分弱です。国土も東京23区と同じくらいだと言われています。
だからこそ視野を広げて、これまでバルセロナやカンボジアにチームをつくったり、ミャンマーや香港などでスポーツ事業をやったりと、シンガポールを拠点にしながら、シンガポール以外の場所でつくったものを、シンガポールをハブとして経営的にどうつなげていくか、ということに挑戦してきました。うまくいかない時期もありましたし、特にコロナ以降は難しくなりましたが、視野を広げることは常に必要だと思います。本田選手の加入も、大きなきっかけになると思っています。
――本田選手とは、シンガポールという国やシンガポールサッカーの可能性についても話していますか?
是永:めちゃくちゃ話しています。彼が加入してから来年、どのようにチームづくりを進めていこうか、土台をつくっていくかという話もしています。僕としては、彼にはジーコさんのような存在になってほしいという思いもあります。だからいろいろ話を聞きますし、逆にこちらからも話をします。その時間がすごく楽しいんです。
――本田選手も、その経験を通じて何かを学ぼうとしているのでしょうか。
是永:そうかもしれません。僕も彼の頭の中をもっと知りたいと思っているので、彼が発起人として立ち上げたEDO ALL UNITEDの試合も全部見ています。試合が終わった後に、「今日はこういう感じでしたね」と連絡をしたりして、チームの話で盛り上がったりします。話し始めると、彼は忙しいはずなのに、だいたい予定時間をオーバーします。サッカーの話になると熱くなりますし、すごく面白いですね。
【連載中編】日本のクラブから“地域のクラブ”へ。アルビレックス新潟シンガポール→FCジュロン改称に込めた覚悟
【連載後編】FCジュロン是永大輔チェアマンが語る経営と冒険「シンガポールで100年続くクラブをつくる」
<了>
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[PROFILE]
是永大輔(これなが・だいすけ)
1977年生まれ、千葉県出身。FCジュロン チェアマン。日本大学芸術学部卒業後、IT企業でサッカーメディア事業に携わり、サッカージャーナリストとして欧州を中心に世界各国で取材を行う。FCバルセロナ、マンチェスター・ユナイテッド、リバプールなど海外クラブとのビジネスにも携わった。2008年、アルビレックス新潟シンガポールのCEOに就任。クラブの経営を立て直し、スクール事業、飲食事業、カジノ事業など多角的な展開で黒字化を実現した。チームも強化し、2016年から2018年まで3シーズン連続で国内タイトル全制覇を達成。2019年にアルビレックス新潟代表取締役社長に就任し、2020年11月に同職を辞任。アルビレックス新潟シンガポールは2004年からシンガポール・プレミアリーグに参戦し、2026/27シーズンよりFCジュロンへ名称変更。同シーズンから本田圭佑が加入することも発表し、シンガポールと日本をつなぐ存在として新たな挑戦を進めている。
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