コーチを超える選手はどう育つ? 主体性を引き出すためのコーチング実践論

Training
2026.08.10

自分のプレーを振り返り、成功や失敗に至った理由を論理的に説明することができる選手が増えている。こうした言語化する力や、発信力は、どのような指導環境の中で育まれるのだろうか。選手の自立やストレスマネジメントを研究する日本女子体育大学教授・澁倉崇行氏に、選手を中心に据え、その考えや判断を尊重しながら成長を支える「プレイヤーズセンタードコーチング」の具体的な実践について聞いた。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=ロイター/アフロ)

言語化する力は、どのように育つのか

――最近は、自分の成功や失敗を論理的に説明できる若い選手が増えたように感じます。こうした「言語化する力」は、主体性や自立した選手の育成と、どのように関係しているのでしょうか。

澁倉:統制的な指導ではなく、自立を支援するような指導を受けている選手は、自分で考え、行動し、振り返るという内省のプロセスを経験しています。だから、自分の考えを言葉にしたり、結果に至るまでのプロセスを説明したりできるようになります。一方、自分のプレーを振り返り、言語化するトレーニングを受けてこなかった選手は、勝因や敗因について質問されても抽象的にしか答えられないことがあります。どのようなスポーツ環境で活動してきたかがとても大きく、言葉にも表れる傾向があります。

 スポーツだけではありません。大学入試の面接でも、「志望動機はなんですか」と聞かれた時、自分の言葉でしっかりと語れる学生もいれば、どこかで聞いたような言葉になってしまう学生もいます。どのような環境で考え、振り返る経験を積んできたかは、こうした場面にも表れてきます。

――指導者が答えを与え続けると、選手は考える機会を失ってしまうと思います。言語化する力を育てるために、コーチは何を意識すべきでしょうか。

澁倉:コーチは、選手にとっての正解を知っているわけではなく、コーチが持っている答えは、あくまでコーチ自身の答えであって、選手にとっての正解とは限りません。そのことを忘れてはいけないと思います。どうやって正解を導くかというと、選手が自分で考えて、答えを導くプロセスを手助けすることが、本当のコーチングだと思います。そのために求められるスキルが、質問力です。いかに効果的な質問を投げかけ、選手に考える機会を提供できるか。コーチが自分の考えを一方的に押しつければ、選手は考えなくなってしまいますから。

ストレスに向き合い、競技を続けるために

――先生はストレスマネジメントも研究されています。選手にとっては成長につながるストレスへ対処する力も必要だと思いますが、理不尽な環境に耐えることと、どのように区別して考えればよいでしょうか。

澁倉:ストレスがまったくない環境はありません。どのような環境にもストレスはあり、その中に自分で身を投じることで対処法を身につけ、自分らしく振る舞える能力は身につくと思います。ただし、コーチが理不尽に厳しく、暴力を振るうなど、環境そのものが不適切であれば、選べる状況であれば、別のクラブへ移ることも選択肢の一つです。

 私がストレスマネジメントの研究を始めた頃は、部活動を中心に見ていましたので、スポーツが好きなのに、その環境に適応できず、競技をやめて、好きなスポーツそのものを諦めざるを得なかった生徒もいたんです。私自身、学生時代に野球を続けられたのは、ある程度ストレスに対処する力があったからだと思います。厳しく、時には理不尽な環境の中でも何とか適応できたことで、高校野球を続け、野球を通してさまざまな経験をすることができました。その意味では、ストレスマネジメントで環境に適応できたことが、スポーツを続けることを支えてくれた面はあります。

 ただ、ここはバランスが非常に難しいところです。まず何よりも、コーチや学校、クラブ関係者が適切な環境をつくることが一番大切です。その上で、現実には環境が十分に整わず、それによって好きなスポーツを諦めざるを得ない状況もあります。そうした状況を避け、競技を続けていくためには、選手自身のストレスマネジメントの力も必要になってくると思います。

――競技を続けるためには、選手自身もストレスに対処する力を少しずつ身につけていく必要があるということですね。ただ、若い年代では難しい部分もあると思います。

澁倉:若い年代の子どもたちには難しい部分もあります。ただ、昔のように理不尽な指導が当たり前だった時代に競技を続けられた選手は、ストレスに対処する力をある程度持っていた、あるいは、その環境に適応する中で身につけていった面があるのかもしれません。だからこそ、「あの経験があったから今の自分がある」という解釈につながることもあるのでしょう。

 実際に、社会人になってから厳しい職場でも何とかやっていける力が、当時のスポーツ経験を通して培われたという人もいると思います。ただ、それはストレスに対処する力が身についたということであって、暴力的な指導そのものを肯定する理由にはなりません。そこは切り分けて考える必要があります。

失敗を成長の材料に変える問いかけ

――子どもの成長にとって、失敗はどのような意味を持つのでしょうか。

澁倉:子どもにとって失敗は恥ずかしく、避けたいものだと思います。ただ、スポーツでも仕事でも、失敗は避けられないものです。人は失敗し、そこから学ぶことで、できなかったことができるようになります。だからこそ、失敗を経験させないことは成長の機会を奪うことにもつながります。失敗なくして成長はありませんから、失敗から学ぶプロセスを大切にしてほしいと思います。

――選手が安心して失敗できる環境をつくるために、指導者はどのように声をかければよいでしょうか。

澁倉:まず、失敗を恥ずかしいこと、悪いことと捉えない姿勢を、コーチ自身が持つことです。挑戦した結果として失敗した選手がいたら、その挑戦を認めて、「その失敗から何を学んだ?」「何ができるようになった?」「次は何に挑戦したい?」と問いかけながら、失敗を成長の材料につなげていく。そうした働きかけができれば、選手は安心して失敗し、また挑戦できると思います。

コーチも学び続けることで変わっていく

――こうした考え方は、企業のマネジメントにも応用できますか。

澁倉:もちろんです。研修会などでも、「企業研修に役立つことなので」と講演依頼をいただくことはありますよ。企業でも、社員の動機づけやコミュニケーション能力、自立を促すという点では、自分で課題や問題を見つけ、解決策を考え、困難があれば仲間と協力し、自分をコントロールしながら仕事を進めるスキルは重要です。「上司から命令を受けて動く」というやり方は、高度経済成長期や、以前の価値観に近いのかもしれません。今は、多くの正解がある中で、最適解を社員自身が考え、問題を解決するプロセスが求められる時代だと思います。

 コーチと選手の関係と同じで、上司も社員一人ひとりの正解を知っているわけではなく、現場にいる当事者が最もよく分かっていることもあります。本人が問題意識を持ち、自分で解決へ向かうことを支える。それが、上司のコーチング力だと思います。

――指導者が研修で得た学びを、実際の指導へつなげていくために、どのようなプロセスが必要なのでしょうか。

澁倉:私の研修では、講義を聞くだけで終わらせず、ワークシートを使って、「次はこうしてみたい」という計画を立ててもらいます。そして、一週間、二週間、実際に取り組んでもらい、どのような変化があったかを振り返ります。そういった中で、計画通りにいかなかったこともあると思いますが、それでもコーチ自身が実践し、失敗から学ぶプロセスを体験してほしいと思っています。数値で成果を図ることはできないのですが、主催者から研修会の依頼を繰り返しいただくことも多く、こうした学びが求められているんだなと感じます。

――先生が研究されている、選手を指導の中心に置き、その主体的な学びと成長を支える「プレイヤーズセンタードコーチング」は、スポーツの価値や競技力の向上に、どのような意味を持つと考えていますか。

澁倉:この考え方を広めていかなければ、スポーツの価値は損なわれると思います。教育的な価値という点でもそうですし、競技力の向上という点でも重要です。以前は、競技性の高いコーチから手取り足取り教えてもらうことで上達できたかもしれませんが、その教え方では、選手はコーチ以上には成長しないと思いますし、コーチもそのほうが楽だと思います。ただ、コーチを超える選手を育てるには、選手の主体性を尊重し、選手が自分で答えを見つけていくことを支援するコーチングが必要です。スポーツの価値を高めるためにも、競技力を伸ばすためにも、ぜひ広がってほしいコーチングのあり方だと思います。

【連載前編】「自分で考えろ」では育たない。スポーツ心理学者が語る、自立した選手の育て方

【連載中編】選手を支配せずに、どう伸ばす? スポーツ心理学者に聞く「自立を支えるコーチング」

<了>

指導者の言いなりサッカーに未来はあるのか?「ミスしたから交代」なんて言語道断。育成年代において重要な子供との向き合い方

スポーツ界のハラスメント根絶へ! 各界の頭脳がアドバイザーに集結し、「検定」実施の真意とは

高圧的に怒鳴る、命令する指導者は時代遅れ? ビジャレアルが取り組む、新時代の民主的チーム作りと選手育成法

[PROFILE]
澁倉崇行(しぶくら・たかゆき)
1972年生まれ、新潟県出身。日本女子体育大学体育学部スポーツ科学科教授。博士(心理学)。専門はスポーツ心理学。コーチ育成プログラムの開発、選手の心理的ストレス、自立型選手の育成などを研究している。県立新潟南高等学校3年時に第71回全国高等学校野球選手権大会に投手、四番打者として出場。平成元年度優秀選手(財団法人日本学生野球協会)。一般社団法人スポーツフォーキッズジャパンでは、指導者向けの研修やコーチ育成に携わる。日本体育・スポーツ・健康学会体育心理学専門領域理事、日本スポーツ少年団指導育成部会部会員、全日本軟式野球連盟指導部会外部委員などを務める。

この記事をシェア

LATEST

最新の記事

RECOMMENDED

おすすめの記事