「自分で考えろ」では育たない。スポーツ心理学者が語る、自立した選手の育て方

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2026.08.06

近年、スポーツの現場では「主体性」や「選手主体」という言葉が広く浸透している。一方で、その意味を十分に理解しないまま、「主体性を育てる指導」が求められる場面も少なくない。では、本当の意味で「自立した選手」とはどのような選手を指し、指導者はどのように育てていけばよいのだろうか。スポーツ心理学を専門とし、自立型選手の育成や、選手を中心に据え、一人ひとりの主体性を尊重する「プレイヤーズセンタードコーチング」を長年研究してきた日本女子体育大学教授・澁倉崇行氏は、「自立とは、自ら考え、判断し、行動できること」だと話す。選手の主体性を引き出し、自立した選手を育てるために、指導者や保護者に求められる役割について聞いた。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=ロイター/アフロ)

自立した選手はどのように育つのか

――澁倉先生は、スポーツにおける選手の自立をどのように捉えていますか。

澁倉:スポーツの試合では、まったく同じ状況や文脈が繰り返されることはほとんどありません。練習でも、選手によって問題意識や課題は異なります。だからこそ、さまざまな状況の変化に応じて、柔軟に対応できる選手育成をしていく必要があります。コーチから言われたことはできても、それ以外のことはできない。つまり、指示がなければ動けないという状態では選手は成長しているとはいえません。私は、自ら関与し、考え、判断し、行動できる選手を「自立した選手」と呼んでいます。

――選手の主体性を尊重するために、選手に「自分たちで考えてみて」と委ねる指導者もいます。そうした経験が少ない選手には難しい面もあるのではないでしょうか。

澁倉:主体性が大事だと言われると、コーチは選手にいきなり「自分たちで考えてみろ」「自分でやってみろ」と言いがちです。しかし、経験がなく、やり方もわからない選手にそう言ってもできるわけがありません。その姿を見て「この選手たちに主体性を求めるのは無理だ」と判断するのは無責任だと思います。最初はできなくても、できるように導いていく。育成という視点を持ち、そのプロセスを支えることが重要です。

――具体的には、どのような段階を踏んでいけばよいのでしょうか。

澁倉:初期の段階では、指示をすることも非常に重要です。経験の少ない選手は、コーチから指示を受けることで、まず行動を起こせます。その中で、「こういう場合はどうすればいいのだろう」と疑問が生まれる。コーチはその疑問に説明を加え、選手が質問しやすい雰囲気をつくる必要があります。そうして、指示や説明を受けながら活動できるようになった段階で、今度は「あれをしなさい、これをしなさい」という指示を少しずつ減らしていきます。

 これまでコーチの指示で動いていた選手は、指示がなくなれば、自分で考え、自分で行動しなければなりません。もちろん、最初からうまくいくわけではなく、多くの失敗をします。失敗した自分を振り返り、「なぜうまくいかなかったのか」「次はどうすればいいのか」と考えて、また挑戦する。そのサイクルを繰り返すことで、できなかったことがやがてできるようになります。コーチには、その段階に応じて指示を減らし、選手が失敗から学べ、彼らの試行錯誤のプロセスを支えることで自立を促していく役割が求められます。

主体性は、失敗と挑戦の中で育つ

――「選手主体のチーム」という言葉もよく聞きます。そうしたチームをつくる上で、指導者は選手の主体性をどのように育てていけばよいのでしょうか。

澁倉:最初から自立した選手が集まっているわけではありません。遊びの中では、子どもたちは自然に主体的に動きますが、クラブに入れば、役割や練習方法など、遊びとは異なる枠組みがあります。最初はできないことをコーチが導き、うまくいかない経験も積ませながら、主体的な選手へと育てていくものだと思います。

――そうした過程では、失敗を経験することも大切になるのでしょうか。

澁倉:選手が失敗できる条件をきちんとつくることは、とても大切です。指示を減らすことは、コーチにとって勇気が要ります。練習でも試合でも、あれこれ指示をすれば、選手はその通りに動いてくれるでしょう。それをあえて手放し、待つ。選手の成長プロセスを見通すことができれば、コーチも安心して指示を減らせます。さらに、心理的安全性が確保されていれば、選手は安心して失敗し、挑戦することができます。それも重要なコーチの仕事です。

――心理的安全性を重視した指導は、時に「甘い」と受け取られることがあります。主体性を促すことと、厳しさは両立するのでしょうか。

澁倉:主体性を促すことは、決して甘いことではありません。選手が自分で目標を持ち、課題を設定し、その解決や達成に向けて練習を組み立て、自分自身をコントロールしながら取り組む。それは、むしろ非常に厳しいことです。プロセスの中で思い通りに進まないこともありますし、楽をしたり、甘えたくなることもあると思います。その中で自分を律するのは簡単ではありません。一方、「厳しい」と言われがちなコーチ主導型の指導では、コーチが選手をコントロールしてくれます。その意味では、選手にとってはそちらのほうが楽で、むしろ甘いという側面も併せ持つのだと感じられます。

――スポーツを通じて身につけた主体性は、競技を離れた後の人生にも生きるのでしょうか。

澁倉:もちろんです。自分で目標に向かい、自立に向かっていくプロセスは、「成長するための学び方を学ぶ」ことだと思います。自分の課題を見つけ、自分で解決に向かう姿勢は、受験勉強や進路選択、仕事など、人生のさまざまな局面で生きますし、スポーツの中でそうしたスキルを身につけることはとても価値があります。逆に、権威主義的な指導や、自律支援型ではない指導によって、その機会をコーチが奪ってしまえば、スポーツの価値は半減してしまうと思います。

10年後に花開く選手を育てるために

――年代によって、自立の育て方はどのように変わりますか。

澁倉:年齢によって、できることとできないことがありますし、物事を習熟させる適切な時期があります。小学生なら、まずは自分でスパイクを準備するところから始めてもいいと思いますし、年齢が上がれば、自分でトレーニングメニューを考える段階にも進めます。小学生や中学生が最初からそうしたメニューをつくるのは難しいでしょう。ただ、できない段階でも挑戦させることが大切です。

 最初から正解を求めるのではなく、考える経験を積ませる。10歳の頃からそうした経験を重ねていれば、学び方が身につくので、年齢が上がった時にも自立した活動へ速やかに移行できます。

――海外では、育成年代で早くから勝敗や順位にこだわらず、長期的な育成を重視し、できるだけ多くの子どもにプレー機会を与える取り組みもあります。こうした育成の考え方には、どのような意味があるのでしょうか。

澁倉:競争意識そのものより、主体性が重要だと思います。育成年代で競技性の高いコーチが細かく指示し、選手をコントロールすれば、その時点では勝てる確率は高まると思います。しかし、選手を育てるために考えさせ、いろいろなことを試してみたりさせれば、当然失敗も増え、勝てないこともあります。でも、選手たちの力を今すぐ花開かせようとするのではなく、10年後に花開かせることを目指すなら、目の前の勝利だけを優先することが将来の強化につながるとは思いません。

――その点は指導者だけでなく、競技団体や、各スポーツ協会の方針も影響しますか?

澁倉:競技団体や協会が、コーチ育成をどのように考えているかは反映されると思います。勝ちを目指すこと自体が悪いわけではありませんが、問題は、そのためにどのような手段を取るかです。長い時間をかけて選手やコーチを育成するのか、それとも目先の結果を優先するのか。その違いは大きいと思います。

――子どもの試合やプレーを見ていると、つい技術的な助言をしたり、結果について口を出したくなる保護者もいると思います。子どもの主体性を育てるためには、どのような関わり方が望ましいのでしょうか。

澁倉:選手に最も大きな影響を与えるのは保護者だと思います。たとえコーチが適切な指導観を持ち、自立を促していても、家庭や保護者の考え方と噛み合わなければ、子どもは混乱します。スポーツをどこまで生活の中心に据えるかということもありますが、保護者が適切なスポーツ観を持つことはとても重要です。

 目の前の大会で勝たせたい、わが子をレギュラーにしたいという気持ちもあるかもしれませんが、それ以上に、子どもがスポーツを好きでいられることを大切にしてほしいです。頑張ってパスを出したり、仲間と協力できたりしたことなど、小さな経験でも一緒に喜んでくれる。そうした保護者の関わり方は、今後、子どもがスポーツに取り組む上でとても前向きに働くと思います。一方で、試合直後に「なぜあそこでシュートしたのか」「なぜ外したのか」と反省会を始めれば、子どもたちはうんざりしてしまいます。そういう意味でも、保護者の関わり方は非常に重要です。

<了>

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[PROFILE]
澁倉崇行(しぶくら・たかゆき)
1972年生まれ、新潟県出身。日本女子体育大学体育学部スポーツ科学科教授。博士(心理学)。専門はスポーツ心理学。コーチ育成プログラムの開発、選手の心理的ストレス、自立型選手の育成などを研究している。県立新潟南高等学校3年時に第71回全国高等学校野球選手権大会に投手、四番打者として出場。平成元年度優秀選手(財団法人日本学生野球協会)。一般社団法人スポーツフォーキッズジャパンでは、指導者向けの研修やコーチ育成に携わる。日本体育・スポーツ・健康学会体育心理学専門領域理事、日本スポーツ少年団指導育成部会部会員、全日本軟式野球連盟指導部会外部委員などを務める。

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