“世界一国際的な”育成年代サッカー大会「ゴシアカップ」。なぜ半世紀以上も人々を惹きつけるのか?

Opinion
2026.08.03

今は世界中で分断が進んでいる。国籍、宗教、人種、文化──違いを強調する言葉を耳にする機会は増えた。そんな時代だからこそ、毎年7月になると世界中から4万人以上の子どもたちが集まり、一緒にサッカーを楽しむ大会があることに驚かされる。スウェーデン・イエテボリで開催される世界最大の育成年代大会「ゴシアカップ」。1975年から変わらない理念は、「世界中の子どもたちが出会う場所をつくること」。現地で大会関係者に話を聞くと、この大会が半世紀以上も世界中から支持され続ける理由が見えてきた。

(文・撮影=中野吉之伴)

「世界中の子どもたちが出会う場所」として生まれた大会

現代は世界中で分断が進む時代と言われる。

そんななか“世界で一番国際的なユース大会”と称され、スウェーデンのイエテボリで毎年7月に開催されている「ゴシアカップ」は、そんなわれわれに大切なことを教えてくれる大会だ。

「フェアプレー」「国際交流」「地域との共創」といった明確な理念のもと、この価値観に共感した世界約80カ国からU-10〜U-18まで約2000チーム、約4万5000人の子どもたちが集まってくる。男女それぞれトップレベルの国のクラブや選手だけではなく、グラスルーツの小さなクラブからの参加が多いのもこの大会の特徴だ。

今回実際に現地へ足を運び、試合や会場を視察しただけではなく、大会事務総長ニクラス・フライホルツに直接話をする機会をつくってもらうことができた。

世界最大の育成年代大会は、なぜ半世紀以上も世界中の子どもたちを惹きつけているのだろう?

「ゴシアカップは1975年に設立されましたが、最初から非常にクリアなミッションがあるんです。それは、ミーティングプレイスをつくり出そうということ。宗教や国籍、文化、肌の色に関係なく、世界中の若者たちが集まり交流できる場をつくろうという思いです。

 私自身はこの大会に関わるようになって20年になりますが、私も、そしてそれ以前に関わってきた人々も、この出会いの場をつくるために絶え間なく努力してきました。それは、サッカーが世界中の人々がつながり合うことができるきっかけになるからです。私たちはサッカーのピッチでは皆同じだと気づくことができるからなんです」

フライホルツは、丁寧にそう話し始めた。イエテボリを含むスウェーデンの南部はラテン語でゴシアと呼ばれていた。国際大会として世界中に親しまれるよう、歴史的なラテン語名を取ってゴシアカップという名にしたという。

それにしても1975年当時に、なぜ世界中の子どもたち、若者たちのための大会を開催しようと思ったのか?

そんな筆者の質問に対して、フライホルツはニコッと笑って背後を指さしながらこう答えた。

「あそこにいる老人。彼に後で話を聞いてみるといい。彼こそがゴシアカップの創始者の一人でミスター・イエテボリと呼ばれるほどリスペクトされているデニス・アンダーソンだ」

学校を宿泊施設に。「誰でも参加できる大会」が世界最大になった理由

こちらからの突然の問いかけに対して、アンダーソンはとても快く応じてくれた。日本に何度も行ったことがあるという。

「誰一人として、この小さなユース大会が現在のような世界最大級の大会へ成長するとは想像していませんでした。当時としては画期的だった『海外のチームも招待する国際大会』という構想。でも、結果的に大きな成功を収めることになったんです。スウェーデン人ジャーナリストのレイネ・フェルトが、当時こう書き残しています。『ここには国際理解の芽が生まれている。誰もが口をそろえて言う。ゴシアカップは大成功であり、ぜひ続けるべき大会だ』と。最初から単なるサッカー大会ではなく、人と人をつなぐ場として評価されたことが大きいですね」

人と人をつなぐ場を実現するうえで欠かせなかったのが、「誰でも参加できる大会にする」という発想だった。スウェーデンで国際サッカー大会をやるから来てください、だけで人は集まらない。欧州諸国からでもチームを率いて泊まりで参加となると、お金もかかる。その点こそ大会成功の大きな要因だったと語る。

「どこに滞在すればいいのか? どうやって彼らみんなの宿泊先をつくり出せるのか? ということでした。他のトーナメントではホテル利用が多かったので、費用も高くなる。誰もが参加できたわけではありません。でも、私たちは参加したい全員に参加してもらえる大会にしたかった。

 そこで私たちは行政に話を持っていき、政府とも話し合いをして、夏休みの間は、すべての学校が空いていて、その施設を有効活用する可能性があることを知りました。スウェーデンのすべての学校には、シャワー付きの体育館やキッチンのある食堂が備えられています。教室にエアマットや簡易ベッドを入れたら、そこで雑魚寝をすることができる。体育館で寝泊まりもできます。こうすることでとても手頃な費用で運営できたというのが大きい」

いまでも一番安いカテゴリーだと1週間滞在で参加費、食事費、市内交通費込みで1人約400€(約7万5000円)。北欧のユースホステル滞在における相場を考えると半額ほどになる。

北スカンジナビアでこれほど大きな大会が開催される大きな理由の一つは、使用するすべての学校やその施設が政府所有であることが関係していると、フライホルツは指摘する。

「常に若者向けに補助金が出されています。スウェーデンでサッカーをする費用は非常に安い。1人当たり1年間の平均費用は約130ユーロ(約2万円)です。すべてのクラブはボランティアによって運営されていますし、私も自由な時間には、クラブでコーチをしています。子どもたちのコーチになるためにクラブへ会費を払いますし、報酬はありませんが、それが私たちの生活の一部なんです。私の妻もコーチとして娘が所属しているチームを指導しています。スポーツがある日常が人生の幸せにつながっていると実感していますね」

50年経っても変わらない。「勝つ」より大切にしてきた理念

第1回大会には6カ国275チームが参加。16会場で全700試合が行われた。「ゴシアカップ、夢のようなスタート!」という見出しとともに、遠方から訪れた子どもたちが、当時まだ珍しかった人工芝のグラウンドで興奮気味に楽しくサッカーをしていた、と当時の新聞に記されている。

参加者が経験するのは試合だけではない。学校に滞在し、徒歩圏内にある市内を散策し、公共交通機関を利用して近郊地域へ観光にも出かけられる。充実した体験ができるだけにリピーターもとても多い。

1995年の20回大会のころには、積極的な国際プロモーションの成果により大きく飛躍。48カ国から1094チームが参加した。イエテボリ郊外には20面の天然芝グラウンドが新設され(現在28面)、大会規模は一気に拡大。また、世界陸上選手権の開催に合わせて整備された選手村を宿泊施設として活用するなど、大会運営も大きく進化していった。

規模だけではなく、運営のクオリティも年々成長し、発展してきたゴシアカップ。コミュニケーションや品質、親しみやすさといったイベントの運営レベルを高めるために、新しいチャレンジに取り組んでいる。

「もちろんすべてが順調だったわけではありません。多くの問題もありました。でも私たちは自分たちの基本理念を忘れることなく、継続して取り組むことを大切にしてきました。その思いとともに、自分たちのビジョンを人々に伝えています。ここに人々を招き、スポーツとは勝つことだけではなく、交流を通してつくり出せる思い出に焦点を当てています。

 お互いに学び合い、新しい友達をつくる。私がヨーロッパ人であなたがアジア人でも、私たちはとても似ているということを人々に理解してもらいたいのです。違いなどないんです。今も昔も戦争や紛争が起こり続けるのは、そうした誤った認識が原因だからではないでしょうか。私たちが人として違うという誤解から生まれています。これこそが、私たちが世界の若者に伝え、教育したいことなんです」フライホルツ)

参加者が自分たちも参加していると実感できるかどうか、参加者も主催者も観客も楽しむことができるかというのはとても大事なこと。そして理念のすばらしさを実感できるからこそ、当事者意識を持つことができるし、確かな感触を持ち帰ることができる。

最後にアンダーソンが、「1970年代からやっているこの大会に参加したことがある若者は世界中にたくさんいます。そして旅をする若者同士が『え、僕もゴシアカップ参加したことあるよ!』といってそこで新しい交流が生まれる例がたくさんあるんです。まさに私たちが願っていたことが、実際に起きています」と優しく微笑んで話してくれたことがとても印象的だった。

「世界中の子どもたちが出会う場所をつくりたい」という一枚の紙に書かれた理念から始まったゴシアカップは、2025年に大会創設50周年という節目を迎えた。その理念はいまも毎年夏になるとイエテボリで形になり、世界中の子どもたちの新しい出会いを生み続けている。

2026年大会は7月13日から18日にかけて行われ、79カ国から1964チームが集結し、5105試合が行われた。

<了>

何事も「やらせすぎ」は才能を潰す。ドイツ地域クラブが実践する“子供が主役”のサッカー育成

ユルゲン・クロップが警鐘鳴らす「育成環境の変化」。今の時代の子供達に足りない“理想のサッカー環境”とは

育成年代で飛び級したら神童というわけではない。ドイツサッカー界の専門家が語る「飛び級のメリットとデメリット」

専門家が語る「サッカーZ世代の育成方法」。育成の雄フライブルクが実践する若い世代への独自のアプローチ

「Jクラブユースか、高体連か?」論争に終止符。プレミアリーグが示す“継続性”と“競争力”

この記事をシェア

LATEST

最新の記事

RECOMMENDED

おすすめの記事