欧州女子サッカーは混戦時代へ。RB大宮戦から鮫島彩、岩渕真奈が読み解くバイエルンとUWCLの現在地
ドイツ王者FCバイエルンWOMENが25日、NACK5スタジアム大宮でRB大宮アルディージャWOMENと国際親善試合を行い、4-1で勝利した。昨季UEFA女子チャンピオンズリーグ(UWCL)ベスト4の実力を示した一方、RB大宮も積極的にボールをつなぎ、自分たちのスタイルで世界トップクラスに挑戦。随所に手応えも残した一戦となった。WOWOWで試合をダブル解説し、今季もUWCLの解説を務める元なでしこジャパンの鮫島彩さんと岩渕真奈さんに、バイエルンの強さ、大宮が見せた可能性、そして世界との差について聞いた。
(インタビュー・構成・本文写真=松原渓[REAL SPORTS編集部]、トップ写真=西村尚己/アフロスポーツ)

バイエルンが示した地力とRB大宮の現在地
――まずは試合全体をご覧になって、バイエルンの強さはどこにあり、RB大宮アルディージャWOMENはどのような手応えを見せたと感じましたか?
鮫島:バイエルンは、後ろからボールをつなぐことを徹底しながら、状況に応じてダイナミックに前進する形も織り交ぜられるのが強みだと感じました。その両方を高いレベルで表現できる選手がそろっていますし、それを支える組織力も非常に高い。そこはバイエルンらしさだと思いました。
岩渕:正直に言うと、本来はもっと強いチームだと感じました。ただ、プレシーズンが始まってまだ2週間ほどで、この暑さもあり、コンディション的には難しい部分があったのかなと思います。それでも、一瞬一瞬で見せる戦術の完成度や個々の技術の高さは十分に伝わってきました。
――WEリーグのクラブとして世界トップクラスと対戦し、RB大宮はどの程度通用したと感じましたか。
鮫島:今日の大宮は、相手がバイエルンだからといって引いて守るのではなく、自分たちのスタイルを貫こうとしていました。それは簡単なことではありませんし、その中で自分たちの狙い通りにゲームを運べた時間帯もあったと思います。一方で、失点の仕方や時間帯を見ると、球際の強度や一瞬の判断の質ではバイエルンが一枚上でした。もちろんコンディションの違いもありますが、大宮にはまだ伸びしろがあると感じました。
岩渕:結果は4-1でしたが、その中でも十分に戦えていた時間帯はありましたし、1点を返せたこともポジティブな材料です。ただ、鮫ちゃんも言っているように、世界レベルの相手は一瞬のマークのズレや判断ミスを逃しません。そうした勝負どころの差を、選手たちは身をもって感じたんじゃないかと思います。試合後、選手も「通用した部分はあった」と話していましたが、それと同時に、まだ足りない部分もはっきり見えた試合だったのではないでしょうか。
球際に表れた世界基準と谷川萌々子の現在地
――お二人はそれぞれ守備者、攻撃者として世界のトップレベルを経験されています。今日の試合で特に印象に残ったプレーや選手を教えてください。
鮫島:バイエルンで印象的だったのは球際の強さです。両チームの選手が同時にコンタクトした場面でも、ボールはほとんどがバイエルンの選手の前にこぼれていました。足が出る範囲やタイミング、コンタクトの強さは、日本のリーグではなかなか体感できないレベルだったと思います。
ただ、大宮も守備では良い対応ができていました。特にサイドの1対1やボランチ同士のマッチアップでは、相手のスピードを恐れずに距離を詰め、しっかりフィジカルコンタクトにいけていました。そういった判断力や守備技術の高さは、しっかり見せてくれたと感じます。
岩渕:バイエルンでは、やはりペルニレ・ハーダー選手とクララ・ビュール選手ですね。ボールを持つたびに「何かが起こる」と期待させてくれる存在感がありました。
大宮は個人というよりも組織として良さが出ていたと思います。少ないタッチでカウンターを仕掛けてシュートまで持ち込めていましたし、西尾葉音選手がいくつかフィニッシュに持ち込む場面があったなかで、決め切ってほしかったですね。ただ世界トップクラスの相手にもカウンターでチャンスを作ってシュートまで持ち込めるのは彼女の魅力だと思いますし、この経験を今後につなげてほしいと思います。
――谷川萌々子選手はボランチで先発しました。プレーをどのようにご覧になりましたか。
鮫島:バイエルンはオフにジョージア・スタンウェー選手が抜けた中で、彼女がその役割をしっかり担っていました。ディフェンスラインまで下りてビルドアップに加わったり、ボールを引き出したりと、バイエルンのスムーズなパスワークに大きく貢献していたと思います。
ポジショニングの良さやサポートの速さを意識していると本人も話していましたが、それをしっかり表現できていました。ボランチでも鋭い縦パスを何本も通していましたし、攻撃の起点になれる力は十分に示していました。もう一列前でプレーする谷川選手を見てみたかったですが、今シーズンも攻撃面での活躍には期待しています。
岩渕:負傷者や代表活動で不在だった選手もいる中で、この試合はチーム事情もあってボランチでの起用だったのかなという印象です。フォワードやトップ下でのプレーも見たいですが、ボランチでも効果的なくさびのパスを刺す場面があり、面白いプレーを見せていたと思います。ボールを持った時の技術やパワー、丁寧さは申し分ないですが、攻守両面で運動量が求められるポジションだからこそ、さらに守備面でも力強くなっていくんだろうなと思いました。
RB大宮の収穫とバイエルンのUWCL展望
――RB大宮アルディージャWOMENは、この試合からどのような収穫や課題を得られたと思いますか。今シーズンへの期待も聞かせてください。
鮫島:今日一番感じたのは、自分たちのスタイルを最後まで貫いて自分たちの良さを出そうとしていたことです。その点は、今シーズンも期待しています。それに加えて、交代選手の入り方がとても良かったですね。選手が替わってもチームの勢いが落ちず、それぞれ違うタイプの選手が流れを変えられていました。チーム全体の層が厚くなった印象を受けましたし、総合力という意味でも楽しみです。
岩渕:RB大宮はタイトルへの思いが強いチームだと思います。昨季はリーグカップ準優勝と、本当にあと一歩のところまで行きました。その悔しさを今シーズンは結果につなげてほしいですね。
試合後のインタビューで、バイエルンのキャプテンのグロディス・ヴィゴスドッティル選手がRB大宮の印象について「RBグループらしさ」という言葉を使っていたのが印象的でした。チームとしての明確な色があるのは大きな強みです。インテンシティ高く、タフに走るサッカーで、WEリーグを引っ張る存在になってほしいと思います。
――今シーズンのUEFA女子チャンピオンズリーグ(UWCL)で、バイエルンがベスト4の壁を破るためのポイントは何でしょうか。
鮫島:各クラブの戦力が大きく変わったので、今シーズンは未知数な部分があります。昨季、準決勝で敗れたバルセロナ戦でも、相手にボールを持たれる時間はありつつ、バイエルンにも自分たちの時間帯がありました。戦術的で非常に緻密なサッカーをするチームで、優勝を狙える力はあると見ていますが、スタンウェー選手とカロリン・ジモン選手が抜けた影響は大きいと思います。単純に穴を埋めるというより、新しい戦力でチーム全体の力をさらに引き上げられるかがポイントになると思います。若手の成長にも期待したいですね。
欧州女子サッカーは混戦時代へ
――近年の欧州女子サッカーは、進化していると感じますか?
鮫島:解説しながら改めて思いましたが、ブッチー(岩渕さん)がこのレベルでプレーしていたのは本当にすごいことですよ。スピード感が全然違いますから。
岩渕:やめてください(笑)。昔に比べると、「このチームにはどうやっても勝てない」と思わせるような存在は少なくなりました。以前のアメリカ代表やリヨンのような圧倒的なチームは減り、どのクラブにも優勝のチャンスがある時代になったと思います。
でも、たとえば以前のアメリカ代表のアビー・ワンバック選手やアレックス・モーガン選手、ホープ・ソロ選手のように、一人で試合を決めてしまうような、突出した個の力を持つ選手は以前より少なくなった印象があります。
鮫島:ただ、戦術は本当に緻密になっています。試合の中でも前半と後半でまったく違う戦い方をしてきますし、「ここまで変えてくるのか」と感じることもあります。フィジカルだけなら対策を立てられそうでも、ここまで戦術的にやられると、「これをやられたら、日本(なでしこジャパン)はどうやって対応すればいいんだろう」と思うこともあります。
岩渕:そうですね。どの国も、どのクラブも、自分たちのベースとなる戦術はしっかり持っていて、その戦術を体現できる選手がいるチーム、相手に応じて柔軟に戦い方を変えられるチームが強いと思います。例えばバイエルンは、スタンウェー選手が抜けた影響はあると思いますし、バルセロナも以前ほど圧倒的ではなくなっています。
そういう変化もあって、今シーズンは勢力図が読みにくいですよね。バルセロナも、育成からしっかりクラブの哲学を持っているチームですが、そのサッカーを体現してきたアレクシア・プテジャス選手がいなくなったシーズンでもあります。だから今シーズンは、どのチームが強いのか、本当に分からないですね。
拮抗する戦いで問われる「個」の力
――各クラブの実力が拮抗する中で、最後に勝敗を分けるものは何だと思いますか。
岩渕:最後に勝敗を分けるのは、やっぱり個の力なんですよね。戦術ありきのサッカーの中でも、個で輝ける選手がどれだけいるかが、一番大事なんじゃないかなと思います。
鮫島:去年のUWCLを見ていても思ったんですけど、勝ち残るチームには決め切れる選手がいるんですよね。バイエルンならペルニレ・ハーダー選手もそうですし、そういう選手がいるチームは強いなと思います。今回の(男子の)ワールドカップを見ていてもそうでしたけど、最後はやっぱり個の力が重要なんだなと感じました。
――最後に、鮫島さんはディフェンダーとして「対戦したくない選手」、岩渕さんは「一緒にプレーしてみたい選手」という視点で、今シーズンのUWCLで注目している選手を教えてください。
鮫島:マンチェスター・シティのバニー・ショー選手ですね。あれだけの強さを持ちながら、すごく繊細なプレーをするじゃないですか。動き出しもうまいですし、対戦相手には絶対にいてほしくないなと思いながら見ていました(笑)。
岩渕:私は、やっぱりバルセロナのアイタナ・ボンマティ選手ですね。プレーの発想やサッカーの感覚が独特で、ピッチでは自分とは違う景色が見えているんだろうなという印象があるので、一緒に細かいパスを回してみたいです。
<了>
岩渕真奈が語る、引退決断までの葛藤。「応援してくれている人たちの期待を裏切るようなプレーをしたくない」
WEリーグ得点王・吉田莉胡はなぜ覚醒したのか。移籍1年目で越えた“沈黙”と決定力不足
オランダMVP・板村真央が磨く世界基準。冨安健洋、毎熊晟矢のアドバイスに学ぶ“嫌なFW像”
ブライトンで高まる信頼。清家貴子が語るWSLの世界基準、三笘薫から受ける刺激とクラブが描く未来
女子サッカー日本人選手20人がプレーするWSL。林穂之香が語る進化と求められる役割
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
「個を育てる」をどう実現するのか? イブラヒモビッチを育てたマルメの現場に見る育成の本質
2026.11.02Training -
「プロなんて全然考えてなかった」常松広太郎はなぜ慶應からカブスへ? 異色の挑戦を生んだ原点
2026.11.02Career -
「カットマンは5番手に置け」橋本帆乃香が中国撃破で示した、卓球の定石
2026.11.02Opinion -
ハリー・ケインはイングランド代表史上最高の選手か? バロンドール受賞でも残る「無冠」の壁
2026.10.29Career -
引退を告げた妻の涙に秘められたもの。川崎F・小林悠を支えた家族の絆と最後の戦い
2026.10.26Career -
小杉啓太がフランクフルトで抱く危機感。昨季は公式戦出場ゼロ、今季は定位置確保も「改善が必要」
2026.10.26Career -
なぜマンチェスター・シティ「2季の2部生活」が浮上したのか? 英国で広がる厳罰論の背景
2026.10.23Opinion -
批判と低迷から始まったエディー体制の現在地。ラグビーW杯まで1年、日本代表に起きている変化
2026.10.23Opinion -
「小学生の全国大会が一つしかない」Fリーグ引退・森岡薫、GM転身で目指すフットサル界の改革
2026.10.22Career -
世界3位ドイツ戦で見えた、なでしこジャパンの変化。新体制で増えた選択肢と残された課題
2026.10.14Opinion -
世界1位・松島輝空も安全圏ではない。卓球で相次ぐ大番狂わせ、101位が中国女王を破った背景
2026.10.13Opinion -
「自信を失った経験がない」瀬古歩夢、4戦連続先発で示した成長。森保ジャパンで高まる存在感
2026.10.09Career
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
「カットマンは5番手に置け」橋本帆乃香が中国撃破で示した、卓球の定石
2026.11.02Opinion -
なぜマンチェスター・シティ「2季の2部生活」が浮上したのか? 英国で広がる厳罰論の背景
2026.10.23Opinion -
批判と低迷から始まったエディー体制の現在地。ラグビーW杯まで1年、日本代表に起きている変化
2026.10.23Opinion -
世界3位ドイツ戦で見えた、なでしこジャパンの変化。新体制で増えた選択肢と残された課題
2026.10.14Opinion -
世界1位・松島輝空も安全圏ではない。卓球で相次ぐ大番狂わせ、101位が中国女王を破った背景
2026.10.13Opinion -
「国内組」からなでしこジャパンへ。アジア大会3連覇で見えた現在地と、W杯への生存競争
2026.10.05Opinion -
コモで見つけたクラブの魅力、日本への感謝。なでしこジャパン前監督ニルス・ニールセンが語る現在
2026.09.29Opinion -
張本智和が託し、松島輝空が決めた中国撃破。日本男子卓球、60年ぶり金で変えた景色
2026.09.28Opinion -
なぜドルトムントは日本を選ぶのか? CEOが語った「クラブの価値」と「日本の評価」
2026.09.09Opinion -
高校生が示した男子卓球の未来。インターハイで垣間見た新時代の「ハイブリッド化」
2026.09.01Opinion -
16歳・三井寺眞が開幕戦で放った「シャペウ」の衝撃。10代が互いに刺激し合う、Jリーグ新時代
2026.08.14Opinion -
欧州名門クラブに見るサステナビリティ最前線。人種差別、貧困、就労支援…に挑むマルメFF
2026.08.07Opinion
