16歳・三井寺眞が開幕戦で放った「シャペウ」の衝撃。10代が互いに刺激し合う、Jリーグ新時代
秋春制へ移行したJリーグの新シーズン、その幕開けで横浜F・マリノスの16歳、三井寺眞が強烈なインパクトを残した。鹿島アントラーズとの開幕戦でJリーグ史上最年少となる16歳4カ月5日で先発に抜擢され、開始7分で先制ゴールを記録。その後も百戦錬磨のDF植田直通を華麗な「シャペウ」でかわし、追加点の起点になるなど、堂々たるプレーを見せた。チームメートや指揮官は、その才能をどう見ていたのか。そして三井寺の活躍は、同世代の選手たちに何をもたらしたのか。周囲の証言を通して、新星がもたらした衝撃と、若き才能たちが刺激し合うJリーグの新たな潮流を追う。
(文=藤江直人、写真=アフロ)
百戦錬磨の植田直通を翻弄。大観衆を沸かせた「シャペウ」
自らが放ったロングフィードが夜空に描く軌道とボールの落下地点の状況を注視しながら、横浜F・マリノスのセンターバック(CB)諏訪間幸成は次のプレーに対してこんな思いを抱いた。
「自分としては、普通に後ろ向きの姿勢でキープするのかなと思っていたんですけど……」
ホーム扱いのMUFGスタジアム(国立競技場)に王者・鹿島アントラーズを迎えた7日のJ1リーグ開幕戦。諏訪間が驚きを込めて振り返ったのは、1-1で迎えた前半18分のシーンだった。
自陣左サイドの深い位置から、諏訪間が50メートルを超えるロングパスを前方へ供給する。ターゲットにすえた右サイドハーフの三井寺眞の足元へ、ボールが落ちていった直後だった。
身長174cm・体重65kgの三井寺の背後に186cm・79kgの巨躯を誇り、国内屈指の武闘派と畏怖される鹿島のCB植田直通が忍び寄ってきた。まともに対峙しては勝負にならない。
だからこそ諏訪間は「普通に後ろ向きの姿勢でキープする」と予想した。植田がかけてくるプレッシャーに対峙するには、ボールと植田との間に体を挟み込んで耐えるしかないと思えたからだ。
しかし、開幕戦ではJリーグ史上で最年少となる16歳4カ月5日で先発をゲット。さらに開始7分には先制ゴールも決めていた三井寺が下した判断は、周囲の予想をはるかに上回った。
ハーフウェイラインを越えた左タッチライン際で、三井寺はバックスタンド側を向いた体勢から体重をやや前方にかける。次の瞬間、落ちてくるボールに利き足の左足を軽くタッチさせた。
ボールが植田の頭上を緩やかに越えていく。周囲が呆気にとられる間に、三井寺はワールドカップ・ロシア大会代表にも名を連ねた百戦錬磨の植田の背後へ素早く抜け出していった。
ボールをすくい上げて相手の頭上を越す。ポルトガル語で「帽子」を意味する、シャペウと呼ばれるトリッキーなテクニックに、歴代最多の6万3960人で埋まったスタンドが大きくどよめく。
自身の予想をもいい意味で裏切った三井寺のテクニックと、何よりも大観衆の前で見せた物怖じしない度胸のよさに、諏訪間は「堂々としたプレーでした」と脱帽しながらこう続けた。
「非常に力のある選手、というのは普段の練習の段階からわかっていましたけど、あの状況から前へ行けるプレーはなかなかできるものではない。本当にすごいと思いました」
プロレスラーの諏訪魔を父にもつ屈強な23歳はさらに同じCBとして、16歳の選手にシャペウを駆使され、手玉に取るようにかわされた植田の胸中を慮るようにこんな言葉を紡いでいる。
「あの場面では、普通ならば後ろ向きにトラップするしかないんじゃないか。植田選手もそのように予測していたと思うんですけど、そこで意表を突いて前に行った。さらにそこから得点にまでつなげてくれた、という意味でも本当に素晴らしいプレーだったと思っています」
「もうホットラインですね」天野純が語る3人の関係性
Jリーグが産声をあげた1993年から続いてきた春秋制から、秋春制へ移行した最初のシーズン。その開幕戦で飛び出し、おそらく語り継がれていく三井寺のスーパープレーには続きがあった。
かわされた植田が必死に追走してきた状況で、抜けきれないと判断した三井寺は一転して左タッチライン際でボールをキープして時間を作る。これに以心伝心で応えた味方の選手がいた。
「ゴールを決めて(メンタル的にも)乗っているのかなと、僕は感じていたので」
今シーズンからチームキャプテンに就任し、トップ下で先発していた35歳の天野純は、三井寺がサイドを縦へ突破すると確信。2人の内側のラインをすでに前へ走り出していたと声を弾ませた。
「(三井寺)眞に関しては、中でも外でもボールを受けられる選手ですし、(谷村)海那も相変わらずゴールを決めてくれるので、3人の関係性は非常によくなってきていると思います。眞が本当にうまいシャペウでかわして、僕が抜け出して海那が決める。もうホットラインですね」
三井寺から託されたボールをワンタッチでクロスに変えて、谷村海那の勝ち越しボレーをアシストする。三井寺から天野、そして谷村の流れから後半13分にも追加点が生まれている。
鹿島の底力の前に3-4と逆転負けを喫した試合後の取材エリア。幾重ものメディアに囲まれた主役の三井寺は、シャペウを駆使した箇所を「アウトサイドです」と明かしながらこう続けた。
「(相手が)来ていたので、その後ろのスペースが空いているかなと思ってトラップしたらいい感じになりました。たまたまですけど、すごく気持ちよかったです」
20クラブ超が争奪戦。三井寺眞を抜擢した指揮官の評価
青森県弘前市出身の三井寺は、ベガルタ仙台で「10番」を背負った財前宣之氏に類いまれな才能を見出され、中学進学とともに財前氏が代表を務めるFCフォーリクラッセ仙台へ加入。寮生活を送りながらサッカーに打ち込んだ3年間で、天才中学生と呼ばれるまでに成長した。
年代別の日本代表としても活躍した三井寺を巡っては、実に20を超えるJクラブが争奪戦を繰り広げた。そのなかで今年に入って最も熱烈なラブコールを送ったマリノスのユースに加入し、プロ契約が可能になる16歳を迎えた4月2日を待っていたかのようにプロ契約を結んだ。
シーズン移行への端境期だった今年前半に特別シーズンとして開催された、J1百年構想リーグでは一度もベンチ入りを果たせなかった。それでも新シーズンからマリノスの指揮を執る、オーストラリア出身のスティーブ・コリカ監督は三井寺を大抜擢した理由をこう説明している。
「私にとって選手の年齢はまったく関係ない。16歳であろうとトレーニングでのパフォーマンスがよければ試合には出られる。彼は非常に素晴らしいプレシーズンを送ってきたなかで今日のチャンスをつかみ取った。今日のパフォーマンスは本当に素晴らしいものがあった」
開始早々の先制ゴールは、知念慶とのコンビネーションで右サイドを突破した近藤友喜が、ゴールライン際までポケットをえぐってから折り返したグラウンダーのクロスを、逆サイドから詰めてきた三井寺が鹿島の右サイドバック、広瀬陸斗と交錯しかけながらも左足で押し込んだものだった。
2004シーズンに森本貴幸(東京ヴェルディ)が記録した15歳11カ月28日に次ぐ、J1リーグ史上で2番目の年少得点記録。開幕戦に限れば2013シーズンの石毛秀樹(清水エスパルス)が記録した、18歳5カ月9日の最年少記録を更新した三井寺の口調は、快挙を達成しても淡々としていた。
「近藤選手の個人技がすべてだったと思いますし、自分はクロスに合わせただけでした。キックオフ前にいろいろな選手から『今日はお前が決めそうだな』と言ってもらって緊張をほぐしてもらいましたし、本当にいいところにボール転がってきたのですごくうれしかったです」
内田篤人に次ぐ年少記録。それでも吉田湊海が抱いた悔しさ
1993シーズンのJリーグ元年に参戦したオリジナル10のなかで、唯一トップカテゴリーで戦い続ける両チームの激突は、地上波では実に24年ぶりにゴールデンタイムで全国に生中継された。まるで用意されたような舞台で、まばゆい輝きを放つ新星が秋春制リーグの第1号ゴールを決めた。
十代の選手が与えた「Teen Sensation」は、瞬く間にさまざまな波及効果を生んでいる。
たとえば対峙した鹿島の吉田湊海(みなと)。7月15日に18歳になったばかりの高校3年生は、開幕戦で2トップの一角で先発。前半途中からは左サイドハーフに回ってゴールを狙い続けた。
鹿島が臨んできた開幕戦では、2006シーズンに17歳343日で先発した内田篤人に次ぐ史上2位の年少記録。それでも1点を追うハーフタイムに交代を告げられた吉田は満足していなかった。
「チームは勝ちましたけど、自分は何もできなかった。相手チームに自分よりも2つ年下の選手がいましたし、自分と交代した選手が活躍した点も含めて、悔しい気持ちでいっぱいです」
神奈川県大和市で生まれ育った吉田は、高校進学とともに憧憬の念を抱いてきた鹿島の下部組織へ加入。高校年代の最高峰の舞台、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグですでに3シーズン連続で2桁ゴールをマーク。その間の昨年12月には鹿島とプロ契約を結んでいる。
トップチームに2種登録されているのは、選手層が厚い鹿島で出場機会を得られない場合に、ユースの試合に出場できるようにするためだ。自身の武器を問われると、迷わずに「ゴールを決めること」と答えてきた吉田は、自らに言い聞かせるように今後を見すえている。
「もう練習あるのみですね。とにかくゴール。ゴールだけを自分は求めていきたい」
盟友の活躍を刺激に。北原槙が開幕戦で示した存在感
FC東京に2種登録されていた昨年3月の鹿島戦で後半38分から途中出場。森本が持っていた15歳10カ月6日のJ1歴代最年少出場記録を15歳7カ月22日に塗り替えた北原槙(まき)は、この夏から育成型期限付き移籍しているJ2の藤枝MYFCの一員として三井寺の快挙を知った。
7月7日に17歳になった北原は、今年3月にアルゼンチンへ遠征したU-17日本代表へ、当時15歳だった三井寺とともに招集されて同じ時間を共有。お互いを認め合う仲になった。
開幕戦の数日前にも電話しているだけに、北原は「もちろん刺激になりました」とこう続ける。
「眞は一つ年下ですけど、J1で開幕スタメンを勝ち取った意味で本当にすごいと思いましたし、同時に悔しく思う気持ちもありました。その意味でも、さらに力が入る試合ではありました」
三井寺の快挙から一夜明けた8日。ホームの藤枝総合運動公園サッカー場にベガルタ仙台を迎えたJ2リーグ開幕戦で、左シャドーで先発を射止めた北原は開始11分にまばゆい輝きを放った。
武器の一つと自負する正確なプレースキックの封印を、自ら放ったシュートで得た左コーナーキックで解く。プロになって決めた初アシストで先制点を呼び込み、仙台に快勝する原動力になった。
2種登録時代は公式戦10試合に出場した北原は、16歳の誕生日だった昨年7月7日にプロ契約を結び、背番号を「53」から誕生日にちなみ「77」に変更。その後は試合出場から遠ざかった。
今年前半のJ1百年構想リーグでは一度もベンチ入りを果たせなかったなかで、6月下旬に藤枝への移籍が発表された。FC東京の公式ホームページ上ではこんな決意を綴っている。
「成長スピードを加速させるためにこの決断をしました」
藤枝でも引き続き「77番」を背負い、将来へ向けて決意を新たにした矢先に、盟友でもある三井寺の活躍に背中を押された北原は「狙った通りのボールでした」とアシストに声を弾ませている。
ガンバ大阪では195cm・86kgのサイズを誇る18歳297日のGK荒木琉偉が7日の浦和レッズとの開幕戦で先発。U-21代表に名を連ねる荒木はJ1リーグでのデビューを飾るとともに、1999シーズンに南雄太(柏レイソル)が樹立した開幕戦GKの最年少出場記録を塗り替えた。
マリノスの全得点に絡む三井寺の大活躍とともに、日本サッカー界に発生した「Teen Sensation」は他チームの十代選手たちにも大きな刺激を与えた。これからは対戦相手に対策を講じられ、マークも厳しくなると予想されるなかで、それらを上回る期待を否が応でも抱きたくなってくる。
<了>
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