「ベンチでOKではない。先発になるために」日本代表FW後藤啓介が語る、ブンデスで向き合う“自分との差”
ブンデスリーガ初挑戦の21歳は、まだ先発の座をつかんではいない。目の前には「何でもできるフォワード」と認める強力なライバルがいる。それでも、フライブルクの後藤啓介には焦っている様子はない。ワールドカップの舞台も経験した若き日本代表FWはいま、欧州の地で出場時間を増やすことだけではなく、世界最高峰との差を一つずつ埋めようとしている。
(文=中野吉之伴、写真=アフロ)
手強いライバルからも学ぶ姿勢
「もちろんスタメンで出たいという気持ちは、移籍してからずっとあります。でも、やっぱりすべてにおいてまだブンデスリーガのレベルに達していないというのも分かっています」
9月12日のブンデスリーガ第3節、フライブルクはボルシアMGを5-0で下し、開幕から3連勝を飾った。この試合で78分からピッチに立った後藤啓介。試合後、自身の現在地を冷静に見つめていた。
今季ベルギーリーグのシントトロイデンからの移籍で、ブンデスリーガ初挑戦となった21歳。フライブルクの前線にはクロアチア代表FWイゴール・マタノビッチがいる。ボルシアMG戦でも2ゴールを挙げたストライカーは、ビルドアップに関わり、ロングボールを収め、足でも頭でもゴールを奪える。前線からの守備でも一切手を抜かない。ブンデスリーガ全体でもトップレベルのFWの一人だ。
「本当に何でもできるフォワードだなというふうにはすごく感じます。参考にすべき、いいお手本だなと思います」
スタメンを争う相手を「ライバル」とだけ捉えるのではなく、「学ぶべきお手本」として見て、そう語る。フライブルクでは高い強度でのハードワークが何よりのベース。後藤も加入後、「フォワードに求められる守備強度に違いを感じた」と語っている。
「今まで守ってたところよりも戻るっていうのはありますし、そこの戻りっていうのもジョグじゃなくて、しっかりスプリントで、しっかり形を作ってからもう一回プレスに行く。練習からも常に言われています」
「今は本当に自分と向き合う時間」
何をすべきかが分からないわけではない。ただ、その要求をブンデスリーガのスピードと強度の中で繰り返し実行できるかどうかが、いま取り組んでいる課題だ。
「戻って出ていく、出ていってから戻るというインテンシティの部分に関しては、まだまだ時間が必要というか。ブンデスリーガでやっている強度、スピード感というのは、また違うなと感じます。ベルギーリーグよりさらに速いなと。まあ回数を重ねていくしかないなと思います」
身体に染み込ませるには、それなりの時間が必要だというのは自分が一番よく分かっている。今季チーム初の公式戦だった、8月20日のUEFAカンファレンスリーグ・プレーオフのマザーウェル(スコットランド)戦で途中出場から公式戦初ゴールを記録。それでも後藤は慌てることなく、自分のやるべきことと向き合い続けた。その後にあった23日のドイツカップ1回戦デュッセルドルフ戦後にはこう話していた。
「いきなりスタメンを取るというのは難しいと思って入ってきました。与えられた時間で自分のできることを出して、評価してもらいながら徐々に出場時間を伸ばせれば。モチベーションを高くやるのはもちろんですけど、しっかり冷静に、自分が今どういう立ち位置で、何ができていないのか、何ができているのかというところに向き合っていかないといけないと思っています。今は本当に自分と向き合う時間というか、新しい環境で、新しいチームメート、新しいクラブなので、一つひとつ向き合いながらという感じだと思います」
フライブルクの前線で求められるのは、スペースでパスを受けたり、足元にボールを収める能力だけではない。ラフなボールやセカンドボールの競り合いでも、前線で起点になることが求められている。
「チームは基本的にはつなぎますけど、ラフにボールが入ったときにもしっかり起点になれるというところは、学んでいかないといけないなと思います」
「10分、15分のプレーを、90分間同じように」
ボルシアMG戦を終えた後の言葉には、その考え方がさらに明確に表れていた。この試合では、すでに勝敗の大勢が決した時間帯でも前線から守備に奔走し、味方に指示を送り、ボールを受ければ前を向いて仕掛けた。ポストプレーから味方にラストパスを送り、シュートチャンスも演出。試合終盤にはボックス内へ飛び込み、チームの5点目につながる場面にも絡んだ。
「しっかり中に入っていく、ボックスに入っていくというのは意識しています」
限られた時間の中で、自分にできることを全力で積み重ねる。だから10分から15分の出場でも、その中でチームでやるべきことと自分がやれることを出そうとする姿勢がうかがえる。そして本人はそこがあくまでも基準だと強調する。
「自分もベンチでOKというわけではない。先発になるためには、こういう10分、15分の時間でのプレーを、90分間同じようにやれないといけない。『出そう』というより、あれが基準で、あれ以上のことをやらないと、イゴールからスタメンを奪えないと思います。だから、あれ以上のことをどんどん試合を重ねていく中でできればなと思います」
求められる強度、守備、ポストプレー、ゴール前への侵入、そして得点に絡む。それらをコンスタントに続けられる選手になることが、スタメンを奪うための条件だと後藤は考えている。
「レベルが落ちた」と言われないために
フライブルクで現在レギュラーを務めるマタノビッチ、日本代表MF鈴木唯人、ドイツU-21代表MFデリー・シェルハント、元ドイツ代表MFニコラス・ベステの4人はみな2025年の加入選手。1月にチームに加わったベステの加入は半年早いが、いずれにしてもクラブが期待して獲得した選手が、しっかりと成長して、こうしてスタメンに名を連ねるようになっているところに、ユリアン・シュースター監督の手腕の素晴らしさが表れている。彼らも加入当初からすぐレギュラーだったわけではない。
後藤も、そんな監督のサポートを受けながら、少しずつフライブルクらしいプレーができるようになってきている。
「そうですね。プレススピードも徐々に適応できています。何より監督が短い時間ですけど、しっかり毎試合使ってくれているということが、コンディション維持という面でもそうですし、やっぱりメンタル的にも大きいと思います。出られないのと、出られるのとでは、気持ち的にもやっぱり違う。監督がそういうところをうまくコントロールして、マネジメントしてくれているのかなと思います」
フライブルクは開幕3勝1分で代表ウィークに入った。チームの状態が良ければ良いほど、レギュラーの座を動かすことは簡単ではない。一方で、カンファレンスリーグにも参戦するフライブルクには、ローテーションの必要性も高まっていく。
「ローテーションは絶対必要になってくる。正直いま、誰が出てもいい結果、誰が出てもやることが変わらず、継続して90分間できているというのは、今のこのクラブのいいところだと思う。代表明けから年末まで、毎週のように週2回ゲームがあるので、そこにスタメンで出られる準備をしないといけないなというのはありましたし、そのつもりできました。なので、焦りっていうのはまったくないです」
目の前にいるトップレベルの選手たちから学び、自分との差を知る。そして、その差を埋めるために必要なものを一つずつ身につけていく。
「スタメンが変わって、『レベルが落ちたな』と言われないように、しっかりいい準備ができればと思います」
チームの基準そのものを担える選手になりたいという意志がある。焦らずに自身に矢印を向け、自分に足りないものを一つずつ埋めていく。その積み重ねが、フライブルクでのスタメン争いだけでなく、その先の日本代表での競争にもつながっていく。
<了>
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