「日本の大学野球はもっと面白くできる」カブス傘下・常松広太郎が語る日本野球の可能性
シカゴ・カブス傘下でメジャーリーグを目指す常松広太郎は、厳しい競争に身を置きながら、日本のスポーツが持つ可能性にも目を向けている。アメリカで実感した選手を支える環境やスポーツビジネスの発展は、日本の野球界を見つめ直すきっかけにもなった。打者としての課題や成長への思い、大学スポーツの事業性、そして挑戦の過程を自ら発信する理由。メジャーリーグへの挑戦を続ける中で、自身のキャリアと日本スポーツのこれからをどのように見据えているのだろうか。
(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=松岡健三郎)
感覚とデータの両立。マイナーリーグで向き合う成長への課題
――日本の野球界でもデータ活用は進んでいますが、感覚とデータのバランスについてはどう考えていますか?
常松:僕は、感覚で野球をやることも、理論的に野球をやることも、どちらもバランスが大事だと思っています。日本は日本で、これまで野球ではずっと結果を出してきているわけなので、成功体験があると変わりづらい部分もあると思います。実際、「データ偏重が本当にいいのか」という議論もされていますし、何がベストなのかは簡単には決められない。どちらのスタンスにも面白さがありますし、いい部分があると思います。
――渡米後には、左手首の骨折も経験されました。大きなアクシデントだったと思いますが、どのように受け止めましたか?
常松:自分ではどうしようもないことって起こるじゃないですか。そこに対してネガティブに考えても意味がないので、自分のせいじゃないしな、と割り切っていましたね。自分ではどうしようもないことを、すべて責任として背負う必要はないので、いい意味で、他責的になってもいい部分はあるのかなと思います。
――今季の経験を経て、メジャーリーグに到達するための課題をどこに感じていますか?
常松:課題はもう、全部です(笑)。その中でも、特に速球への対応ですね。100マイルのボールが来ても速いとは思わずに「普通だよね」と思えるようなバッターになりたいですし、初球から速いボールを投げられても、簡単に弾き返せるような選手になりたいと思っています。

ホームランを最大の武器に。アメリカで実感したスポーツの事業性
――打者として、今後最も磨いていきたい強みはどこでしょうか?
常松:やっぱりホームランを打つことが一番大事だと思っています。それは単純なパワーだけではなくて、打球の角度だったり、スキルだったり、技術的な部分が大きいと思うんです。最低限のパワーはあると思うので、技術を高めて、自分の一番の強みにしていきたいですね。
――課題については、球団のコーチとも共有しているのでしょうか?
常松:そうですね。球団のコーチとも課題を共有していますし、練習メニューも個人に合わせて作ってくれています。コーチと自分の考えが違うこともありますけど、そこは日々コミュニケーションを取って、議論するようにしています。そうやって話していれば基本的に衝突することはないですから。
――幼少期からエンターテインメントとしてのスポーツに触れてきた中で、選手としてアメリカに戻り、改めて感じることはありますか?
常松:アメリカのスポーツがビジネスとして発展していることの恩恵は、すごく受けていると感じます。マイナーリーグには多くの選手がいて、それだけの規模がありながら、選手の待遇もいい。それはMLBがビジネスとして成功しているからだと思います。
もちろん、日本のプロ野球も興行としてはすさまじいものがありますし、観客もたくさん入っていて、競技としてのレベルも高い。ただ、ビジネス的にはまだまだ伸ばせる部分が残っていると思うんです。アメリカでその恩恵を受けているからこそ、日本のポテンシャルの高さについて考えるようになりました。
日本野球に残された可能性。競技力とビジネスの関係
――具体的には、どのような部分に日本の野球界の可能性を感じていますか?
常松:アメリカは、いろいろなものをビジネスにすることに対してすごく積極的です。日本では何でもビジネスにしようとすると抵抗が生まれることもあると思いますが、アメリカはファストパスのような仕組みも含めて、露骨に資本主義なんですよね。
もちろん、それがすべていいとは思っていません。日本には行き過ぎた資本主義がないからこその良さもあると思います。ただ、野球で考えると、いい選手を集めるためにはお金が必要です。日本の野球は競技力では世界でも高いレベルにあると思いますが、海外への選手流出が続いているという話もありますし、ビジネス面でもっと活発になってもいいんじゃないかなと思います。
――アメリカで多様なタイプの選手を見る中で、日本人選手がMLBで生かせる強みはどこにあると思いますか?
常松:ピッチャーだったら、落ちる球を高い精度で投げられることだと思います。アメリカでは横に曲がる変化球やチェンジアップ系の球が多いので、そこは大きな差別化になると思います。
野手でいうと、MLBでは近年、ベースのサイズが大きくなったこともあって盗塁の重要性がすごく高まっています。僕がプレーしているチームでも、カブスの組織全体でも盗塁への意識が高いんです。だから、ザ・日本人的な右投げ左打ちで、盗塁をたくさんできる選手にも大きなチャンスがあるんじゃないかなと思います。
――日本の野球界を発展させる上で、特に可能性を感じるのはどのような分野ですか?
常松:特にアマチュア界かなと思います。アメリカの大学では、選手が自分でスポンサーをつけることもありますし、コーチや練習施設にかけられるお金も大きく、大学スポーツの規模感が違います。意識を変えるということではなく、仕組み的な部分で面白くできるんじゃないかなと思います。
東京六大学野球には100年の歴史があって、すごいポテンシャルがあると思うんです。神宮球場が満員になるのは早慶戦を含めた複数のカードのみという印象ですが、もっともっと面白くできるはずですし、コンテンツとしての価値はすごく高いと思います。

大学野球の価値をどう高めるか。選手に還元する仕組み
――アマチュア野球のビジネス化については、伝統との兼ね合いもありそうです。
常松:そうですね。ただ、ビジネス化することで一番大きな恩恵を受けるのは、選手だと思うんです。練習環境も良くなりますし、プラスになることがたくさんあると思います。そこを議論の前提にしていけば、あまり間違った方向にはいかないんじゃないかなと思っています。
――日本でプロ野球を経由せずに、直接アメリカに渡って挑戦するケースも増えています。そうした動きが、日本の野球界を変える可能性もありますか?
常松:日本の高校からアメリカの大学へ進む選手も増えていますし、現地で経験したことが日本にも伝わっていけば、考え方が変わる可能性はあると思います。
アメリカでは大学でスポーツをすることで数千万円の収入を得る選手もいますし、僕のチームメートにも、大学時代に車を用意してもらった選手がいます。学費を払ってスポーツをするだけでなく、学びながらスポーツで収入を得られる時代です。そうなると、選手が進路を選ぶ時の考え方も変わってくると思います。
――常松選手はRakuten Sportsからマネジメント支援を受けていますが、スポーツビジネスの観点から、日本のスポーツにはどのような発展の可能性があると考えていますか?
常松:日本には伝統的なスポーツや文化もたくさんありますし、例えば大相撲は海外巡業もうまくいっていますよね。日本のスポーツには、世界的な興行としてさらに発展できる可能性があると思うんです。
僕は今、アスリートとしてスポーツ界でプレーしているので、自分の経験や、いろいろな人とつながれることを生かせたら楽しいんじゃないかなと思っています。
現役選手だからこその価値。挑戦の過程を発信する理由
――スポーツビジネスへの関心を持つことで、競技以外の世界の人たちと接する機会も増えていますか?
常松:増えていますね。日本に帰ってきても、いろいろな方と食事をしたり、ビジネスの話を聞かせていただいたりしています。以前、「名刺をどれだけ使えるかが大事なんだ」という話をされたことがあります。
大学や会社、チームなど、その環境にいるだけで満足するのではなく、その名刺を使って何ができるかが大事だと。現役選手だからこそ知っていることや、感じられることにも価値があると思いますし、いろいろな人との対話から吸収する機会を大事にしています。
――そうした対話は、ご自身をさらに客観的に見つめることにもつながっているのですか?
常松:そうですね。ただ、メタ認知が効きすぎると、逆に何も行動できなくなる部分もあると思うんです。適度に自分に酔うことも大事だと思っていますし、必要なタイミングでは自分のことをちゃんと理解する。そのバランスが重要かなと。
――YouTubeやnoteなど、ご自身での発信にも積極的に取り組んでいます。そこにはどのような思いがあるのですか?
常松:何かで成功してからYouTubeを始めれば、見てくれる人はいると思うんです。ただ、その時に話せるのは過去のことになってしまいますよね。僕は成功する前の過程にこそ面白さがあると思っています。今だからこそ伝えられることがあって、自分の人生をコンテンツにして生きている感覚もありますし、何より自分自身が面白いと感じています。発信を続ければ批判的な意見も出てきますけど、SNSは賛否があるからこそ、多くの人に知ってもらえるチャンスにもなると思っています。
――改めて、メジャーリーグへの挑戦を続ける中で、今、ご自身が最も大切にしている目標は何でしょうか?
常松:毎日生き残ることですね。本当に熾烈な環境ですし、常にライバルがいて、その中で抜きん出ないと自分の席がなくなる世界です。
だから次のシーズンも毎日ベストを尽くして「気づいたらここまで上がれたね」という感じが理想です。「ここに辿り着きたい」と考えるより、自分の課題と向き合いながら毎日やっていく。自分の決断を正解にするためにも、目の前の一日一日をしっかり積み重ねていきたいですね。
【連載前編】「プロなんて全然考えてなかった」常松広太郎はなぜ慶應からカブスへ? 異色の挑戦を生んだ原点
【連載中編】ゴールドマン・サックス内定辞退からカブスへ。常松広太郎が語る「決断を正解にする」覚悟
<了>

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[PROFILE]
常松広太郎(つねまつ・こうたろう)
2003年10月27日生まれ、神奈川県出身。シカゴ・カブス傘下のマイナーリーグ所属。外野手。右投右打。小学4年生から6年生までニューヨークで過ごし、帰国後は慶應義塾湘南藤沢中等部・高等部に進学。高校では主将を務め、慶應義塾大学法学部政治学科に進んだ。大学3年春に東京六大学野球リーグデビューを果たし、4年時には主軸として活躍。リーグ通算37試合に出場し、打率.263、4本塁打、19打点を記録した。2025年のNPBドラフトでは指名されなかったが、シカゴ・カブスからオファーを受け、内定していた米金融大手ゴールドマン・サックスへの就職を辞退。2026年1月にカブスとのマイナー契約を結んだ。
【常松広太郎 公式YouTubeチャンネル連動動画はこちら】↓
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