大会の経済効果は約167億円。世界最大の育成大会ゴシアカップはいかにしてスポンサーを集めたのか?
世界最大の育成年代のサッカー大会「ゴシアカップ」には、世界中から約2000チームが集まる。その運営を支えるのは莫大な参加費ではない。企業スポンサーも、単なる広告効果だけを求めているわけではない。「サッカー選手に売る商品はありません」。そう語った企業が、なぜ長年パートナーであり続けるのか。約167億円の地域経済効果を生む大会の裏側には、「何のために大会を開くのか」という揺るがない理念があった。
(文=中野吉之伴、写真=アフロ)
「参加費で利益は出さない」世界中の子どもが集う大会
世界約80カ国から約2000チーム、4万人を超える選手や指導者がスウェーデンに集う「ゴシアカップ」。開会式ではスタジアムが熱気に包まれ、市内100面以上のグラウンドで数千試合が繰り広げられる。学校は宿泊施設となり、街全体が大会会場へと姿を変える。
育成年代のサッカー大会としては世界最大級、世界中の子どもたちが安心して交流できる環境づくりなどを考えると、これほどの規模を誇る大会を毎年開催するには、莫大な資金が必要になるのは間違いない。
一体、その費用は誰が負担しているのだろうか。どのように費用をつくり出しているのか。
大会事務総長のニクラス・フライホルツ氏にその問いを投げかけると、返ってきた答えは、日本で一般的に考えられているスポーツイベントの運営とはまったく異なるものだった。一つずつ探ってみよう。
「1975年に大会を立ち上げたとき、私たちも最初に考えたのは『誰が支払うのか』という問題でした。私たちの目標は、参加者一人ひとりの負担が実際にかかる費用とほぼ同じになるようにすることです。つまり、参加費で利益を生み出すという考え方ではないんです。もしアフリカのチームにもっと費用を負担してもらうようにしたら、誰も来なくなるでしょう。そうなれば、スウェーデンやノルウェー、アメリカのチームだけが集まる大会になります。それは私たちが願う大会ではないんです」
哲学は明確で、世界中の子どもたちが集う大会という理念は絶対だ。そのために必要だったのが、スポンサーではなく、理念を共有するパートナー。その象徴的な存在が、ヨーテボリに本社を置く世界的軸受メーカーのSKFである。
「サッカー選手に売る商品はありません」
一見すると、工業製品メーカーと少年少女のサッカー大会に接点は見当たらない。実際、最初の反応もそうだったという。
「私たちが一緒に何かできないかと相談したとき、SKFは『私たちはボールベアリング(玉軸受)を販売している会社です。サッカー選手に売る商品はありません』とはっきり言いました。確かにその通りですよね」
子どもたちはベアリングを買うわけではない。企業広告という視点だけで見れば、このスポンサーシップは成立しない。ただ、ゴシアカップとして企業と話し合ったのは商品宣伝ではなかった。
「私たちが話し合ったのは、ブランドやスタッフの価値観をどう一つにできるかということでした。社員のみんながSKFで働いていることを誇りに思えるにはどうしたらいいのか。そしてSKFが世界中の子どもたちの交流を支える企業だと感じられたら、社員の誇りにもつながるのではないかと考えたのです」
対話を重ねる中で両者が共有していたのは、どのような社会を実現したいか」という価値観。SKFは「摩擦を減らし、人や社会の可能性を広げる」という考え方を企業理念として掲げている。その理念は機械工学だけの話ではない。文化の違い、人と人との壁、世界の距離を縮めることもまた「摩擦をなくす」ことにつながる。
「日常生活やサッカーの世界における摩擦が少なくなれば『イノベーションが生まれる』『エネルギー効率が向上する』『人と人とのつながりが強くなる』。世界中の子どもたちが集うゴシアカップこそ、その理念を体現する場だと考えています」
SKFはゴシアカップについてそう表現している。「自分たちは世界中の子どもたちへ機会を届ける活動に関わっている」と実感できるからこそ、社員も自社の活動に誇りを持てるようになる。その価値こそが、両者を結びつける理由になったのである。
そして、この理念は行政との関係にも大きな影響を与えている。
約167億円の経済効果。“街全体の資産”になった大会
いまやイエテボリ市はゴシアカップを街全体の重要な資産として位置づけている。その理由は明確だ。大会による地域経済への観光消費額は年間約9億9300万スウェーデン・クローナ、日本円で約167億円に達するという。市の大型イベント全体が生み出す観光収入の実に約43%をこの一大会だけで生み出しているという調査結果がある。
しかも、その経済効果はスタジアム周辺だけに集中しない。100面を超えるグラウンドと学校が市内と郊外各地に点在しているため、ホテルやレストランだけではなく、郊外のスーパーマーケットや飲食店、公共交通機関まで恩恵を受ける。
さらに試合観戦は無料で、市民は世界中の子どもたちと自由に交流できる。会場にはスポンサー企業の体験ブースが並ぶので、イエテボリ市民が一緒に楽しみ、一緒につくり上げる機会にもなる。企業は地域貢献と営業活動を同時に実現できる。
「入場料は一切かかりません。イエテボリから多くの人が試合を見に来て、サッカーを楽しんで、大きな交流の場の一部となっていく。つまり、参加者だけのためのものではないというところを大事にしたのです。そして単に商品を販売するだけでなく、こうした体験の一部となり、トーナメントの発展に関わってくれるパートナーが必要でしたし、ありがたいことにそこに共感するスポンサーが集まってくるようになったんです」
理念は世界へ。「Meet the World」が生んだ新しい価値
イエテボリという街全体を舞台に、世界中の人々が交流する場をつくろうとしたから、行政も企業も協力する。明確な社会的価値が存在するからだ。
そして新しいプロジェクトが生まれていく。その一つが「Meet the World」である。海外へ行く機会がなかった子どもたちに、世界と出会う最初の一歩を届けるために。
「人々がここへ来られないなら、私たちが彼らのところへ行けばいい」
その考えから、1998年にはブルキナファソにサッカースクールを設立。放課後に子どもたちが勉強し、それを終えた子どもがサッカーを楽しめる場所を整備した。活動はコンゴ民主共和国へと広がり、タイでは津波で親を失った子どもたちを支援するサッカースクールにも関わった。
さらにゴシアカップ財団(Gothia Cup Foundation)を設立。支援プログラムをつくり、毎年、経済的な理由などで参加が難しいチームに対し、参加費や渡航費を補助できるようになった。この支援によって、本来であれば世界大会へ出場できなかった子どもたちにも、ゴシアカップへ参加する機会が生まれた。
「サッカーには世界を変える力がある」という理念に共感し、ソーシャルパートナーとなった企業は、サステナビリティ(持続可能性)や社会貢献を重視し、自らも地域社会に積極的に関わりながら、ゴシアカップという大会をともに育てていくことを大切にしている。
規模は大きくなり、動くお金も人も増え続けても理念を忘れずに、スポンサーにも、行政にも、「何のための大会なのか」という軸をブレさせない。信念と信頼でつながれたタッグが、ゴシアカップを支えているのだ。
「誰一人取り残さない」という理念を、企業も行政も地域も共有し、ともに形にしてきたことこそ、ゴシアカップ最大の強さといえるのかもしれない。
【第1回連載】“世界一国際的な”育成年代サッカー大会「ゴシアカップ」。なぜ半世紀以上も人々を惹きつけるのか?
【第2回連載】海外サッカー遠征の目的は「強豪と試合すること」ではない。ゴシアカップで見えた、育成の本当の価値
<了>
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