福島を支えるスノーボード文化の現在地。星野リゾート ネコマ マウンテンに学ぶ普及のリアル

Business
2026.04.15

ミラノ・コルティナ五輪の熱狂を一過性で終わらせず、“やってみたい”という気持ちを実際の行動につなげるには、どんな受け皿が必要なのか。福島県の「星野リゾート ネコマ マウンテン」では、子どもや親子が最初の一歩を踏み出しやすい仕組みづくりを進めている。話を聞いたのは、同施設でスノーリゾートユニット スキーマーケティングを担当する中嶋希望さん。初心者支援の工夫と、地域に根ざす未来像について聞いた。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=星野リゾート ネコマ マウンテン)

初心者の「最初の一歩」を支えるレッスン

――まず、ネコマ マウンテンで現在展開されている、子ども向けや初心者向けのスノーボードプログラムについて教えてください。

中嶋:ネコマ マウンテンでは「Snow Academy」という形で、キッズ向けのスノーボードプログラムを展開しています。スノーボードはレベル1からレベル4まで細かく段階を分けていて、それぞれのレベルで「何ができれば次に進めるのか」がわかるようにしています。私たちはそれを「カルテ」と呼んでいるのですが、チェック項目に沿って挑戦しながら、できたことを一つずつ確認していく仕組みです。子どもたちにとっては「できることが増える楽しさ」がありますし、保護者の方にとっても「今日は何ができて、次に何を目指せばいいのか」がわかりやすいと思います。

――今季は「手ぶらでスノーボードデビューパック」も期間限定で実施されていました。こうした初心者向けの施策は、継続的に展開されているのでしょうか。

中嶋:キッズレッスン自体は常時受け付けていますが、それに加えて、今年は初心者向けエリアをリニューアルし、「スノーエスカレーター」というエリアを新たに整備しました。レッスンだけでなく、もっと気軽にスキーやスノーボード、雪遊びに触れられる場所です。

 ミラノ・コルティナ五輪の後は、雪遊びをきっかけに「スキーやスノーボードを始めてみよう」というお客様でかなりにぎわいました。また、レッスン受講者にはスノーボードのギアを無料で貸し出していますし、安全面を気にされる方のためにヘルメットも無料でお貸ししています。そうした不安をできるだけ取り除きながら、初心者やお子さんに始めてもらいやすい環境づくりは、シーズンを通して続けています。

一過性で終わらせないステップアップの仕組み

――オリンピックの熱狂を一過性に終わらせず、競技人口の裾野を広げていくために、特に意識していることはありますか?

中嶋:オリンピックに関係なく、もともと大切にしてきたことではありますが、私たちは「ステップアップパーク」という、ジャンプ台が揃ったパークを持っています。そこでは、初心者から上級者、さらにはオリンピック選手まで、同じパークの中でそれぞれのレベルに合った練習ができるようにしているんです。初心者でも一つ一つステップを踏みながら上達できる環境を大事にしています。

――ステップアップの仕組みづくりについて、もう少し詳しく教えてください。レッスンのカルテやパークの設計は、どのように作られているのでしょうか。

中嶋:レッスンについては、ネコマ マウンテンと、提携するトマムスキー場も含めたスクールスタッフで何度も会議を重ねて、子どもたちの成長段階に応じて「この段階ではこの技術を身につけてもらおう」という形で細かく設定しました。

 パークについても、一般的にはジャンプ台の距離が2メートル、3メートルと大きくなりがちですが、私たちは1メートル刻みでジャンプ台を設定しています。1メートル飛べたら次は2メートル、と細かくステップアップできるようにするためです。また、ゲレンデは滑れるけれどパークには入ったことがない、という方から、パーク内のルールや待ち方、スタートの仕方に関して不安を感じるとのお声もあったので、「ビギナーパークセッション」という無料プログラムを用意しています。パーク初心者の方が技術だけでなく、「これなら一人で入っても大丈夫」と思って挑戦できることも大切にしています。

旅の魅力が、雪山へのハードルを下げる

――競技の流儀やルールを覚えることも、初心者のハードルを下げてくれそうですね。一方で、会津地方は観光面の魅力も大きいと感じます。

中嶋:それも、私たちが力を入れていることの一つです。スノーボードやスキーは、スポーツであると同時に、レジャーや旅としても楽しめるものです。ですから、いきなり本格的に始めるぞ、と気負わずに、まずは旅行の一環として、遊びにくる感覚で触れていただくのがいいのかなと思っています。

 ネコマ マウンテンは会津という魅力のある地域にありますので、会津の旅そのものを楽しんでもらいながら、その中でスキーやスノーボードにも触れていただけるよう、地域との連携も深めています。施設内の食事やカフェ、周辺の温泉施設も含めて、スキーやスノーボードをする人もしない人も一緒に楽しめる環境があることは大きいと思います。スノーボードは誰かに誘われて始めることが多いので、やらない人でも「おいしいものが食べられる」「旅として楽しめる」と思えれば、誘いやすくなると思います。

――会津地方は伝統工芸や温泉、豊かな自然など、観光の魅力も大きいですよね。

中嶋:はい。会津は喜多方ラーメンも代表的なグルメの一つですが、例えば私たちの施設に併設しているホテルでは、提携先のお店に朝ラーメンを食べに行く送迎サービスなども行っています。単なるスキー・スノーボード旅行ではなく、地域そのものの魅力と一緒に楽しんでもらうことが、入り口を広げることにつながると思っています。

親子が安心して始められるサポート体制

――保護者へのサポートという点で、特に意識していることはありますか?

中嶋:まずは安全面ですね。スノーボードは後頭部を打ちやすいスポーツではあるので、後頭部を守るヘルメットの有無は気にされる方も多く、そうしたギアも含めてご案内しています。また、レッスン後のフィードバックにも時間を割いています。「ここはできたけれど、ここはまだ難しかった」「その理由はこうです」「ご家族で滑る時には、ここを見てあげるといいと思いますよ」といった形で、丁寧にお伝えしています。レッスン後も家族で一緒に上達を楽しめるように、見るポイントまで含めて共有するようにしています。

――初心者の親子にとっては、「お金がかかりそう」「準備が大変そう」という不安もあると思います。その点で、もっと解消していきたい課題はありますか。

中嶋:子どもはすぐにウェアのサイズが変わるので、特に競技として本格的にやる段階でなければ、レンタル用品の充実はとても重要だと思っています。私たちは最新のレンタルギアを使えるようにしていて、例えば「ステップオン」という、スキーのように簡単に装着できるタイプのスノーボードも取り入れています。昔のようにベルトを締める手間が少なく、両足に体重を乗せるだけで履けるようになって、かなり使いやすくなっています。スキーやスノーボードはおしゃれも楽しめるスポーツだと思うので、レンタルウェアも、自分で好きなデザインや色のジャケットとパンツを選べるようにして、気分もしっかりと上げて滑っていただきたいなと思っています。

――レンタルウェアは、どのぐらいの料金がかかるものなのですか?

中嶋:通常料金ですと、お子さまのセットでトータル6000円ほど、大人だと1万円くらいになります。これは春限定の取り組みですが、ネコマ マウンテンでは毎年、春にレンタル無料の期間を設けています。今年も4月6日から、今シーズンの営業期間中は、スキー・スノーボードのギアセットとウェアセットを無料で貸し出しています。

――そういった取り組みを春に行うのはなぜですか?

中嶋:春は実は初心者にとって始めやすい季節なんです。雪がやわらかいので、転んでも痛くなりにくいですし、寒さも厳しくありません。初心者や子どもたちにとっても「寒い」というハードルが下がりますし、真冬ほど厚着でなく、パーカーを一枚羽織るくらいでも過ごせる日があるので、まず始めてみるにはすごくいい時期なんです。そうしたこともあって、春は初心者が始めやすい時期として、レンタル無料の期間を設けています。

裾野を広げ、成長を支える

――今後、さらに競技人口が増えていった時の受け皿についてはどう見ていますか。

中嶋:受け入れ体制はしっかり整っていると思っています。ネコマ マウンテンには、最新の技術を毎年取り入れながら指導するインストラクターがいて、始めたい方が増えても十分対応できる体制です。ただ、現在は、どんどん上達していく子どもたちが年々増えている状況なので、パークだけでなく、ジャンプやキレ味鋭いターン技術である「カービング」など、さらに上を目指したい子たちが技術を習得できるような環境やプログラムも準備していきたいです。裾野を広げて、頂点も高くしていきたいと考えています。

――今後、ネコマ マウンテンとして描いている展望を教えてください。

中嶋:私たちは、国内のお客様に向けてパークやスノーボードを楽しめる環境を提供し続けながら、将来的には海外の選手やお客様にも「パークならネコマ マウンテンだよね」と思ってもらえる場所にしていきたいと思っています。日本はパウダースノーのイメージが強いですが、実はパークも充実していて楽しい場所だと思ってもらえるようにしたい。そのためにも、選手たちの活躍が大きなきっかけになりますし、良い環境を整えながらより良いものを作っていきたいです。

地域とともに育てる未来のスノーボード文化

――学校や地域、保護者との連携について、今後さらに強めていきたい思いはありますか。

中嶋:あります。スキー、スノーボードは、地域にとって文化であり、産業でもあり、大事な働き場所でもあります。会津にとって、スキー場があることは地域の誇りの一つだと思っています。

 だからこそ、山という財産や地域の文化を、次の世代にしっかり残していきたい。そのためには、子どもたちが触れる機会をなくしてはいけないと思っています。親がやっていないと、子どもが始めるきっかけがないスポーツでもあるので、学校との連携もそうですし、それ以外の形でも、福島の子どもたちがスキーやスノーボードを体験できる機会を増やしていきたいですね。ネコマ マウンテン単体ではなく、福島県内のスキー場とも連携しながら、地域にスキー文化を残していきたいと思っています。

――インバウンドの広がりという点では、変化を感じていますか。

中嶋:感じています。私たちは今年から、世界的なスキーアライアンスの一つである「Ikon Pass(アイコンパス)」に加盟しました。北米を中心に60カ所近くのスキー場で使えるシーズンパスで、それを持っている海外の方がネコマ マウンテンでも滑れるようになり、インバウンドの好影響も見られます。

 福島は他地域に比べると冬のインバウンドが少なく、2015年頃までインバウンド率はほぼゼロに近い状況でした。そこから10年ほどかけて、地域と一緒に少しずつ積み上げてきて、ようやく一桁台から二桁を目指せるところまできました。そうした流れの中で今回のアライアンスへの加盟があり、日本人選手たちの活躍もあって、海外の方に向けてもさらに広がりが出てきたと感じています。

――では最後に、まだスノーボードをやったことがない子どもたちや保護者の方へ、メッセージをお願いします。

中嶋:私はもともと競技スキーをやってきた人間なのですが、スノーボードには本当に自由な文化があると感じています。年齢の幅も広いですし、気軽に始めやすい。何より、チャレンジすることをすごく肯定してくれる文化があるんです。

 できなくても「ナイストライ」と言ってもらえて、また次やってみようと思える。そういう空気があるので、まずは「やってみたい」という気持ちを大事に飛び込んでみてほしいですね。私たちはその受け皿をしっかり準備していますので、「始めてみたい」と思ったら、あとは任せてください。

【連載前編】五輪後、ゲレンデに何が起きたのか。「スノーボードの聖地」が挑む人気の広がりと文化の醸成

<了>

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