海外で活躍する日本代表選手の食事事情。堂安律が専任シェフを雇う理由。長谷部誠が心掛けた「バランス力」とは?
サッカー選手にとって「普段の食事」は非常に大切。そのためヨーロッパでプレーする日本代表選手の中には専任シェフを雇う選手も多い。一方で、プレーする地のローカルフードに慣れる必要もあるし、ストイックに食事を制限し過ぎることは禁物だ。では、自分にあった理想の食事についてどのように考え、何を意識して食生活に取り組むべきなのだろう?
(文=中野吉之伴、写真=アフロ)
海外で活躍する選手たちの食事事情
ヨーロッパを中心に世界に出るサッカー選手は年々増え続けている。レベルやカテゴリーに差こそあれ、海外でプレーする日本人選手にとって食事はとても重要なテーマになるのは間違いない。環境への順応が大事なのはいうまでもないし、その土地のものを楽しむのも長く海外で生活していく上では欠かせない。
ただどれだけ食べ物に好き嫌いがない人だとしても、現地の食材や食事だけで過ごすのは簡単なことではないし、現地のものだけで暮らしていかなければならないわけでもない。何事もやりすぎは体にも心にも負担となる。
今回は海外で活躍する選手のそんな食事事情についてお届けしたい。
フライブルクで中軸として活躍する日本代表MF堂安律は以前こんなふうに話していたことがある。
「ヨーロッパのフードは嫌いじゃないですよ。嫌いじゃないけど、毎日食べるのはつらくなる。やっぱりコメが好きやし、コメで育った。日本食って野菜だったり、魚だったりメニューが豊富でヘルシーだし、いろんな栄養素が取れる」
コメとみそ汁がある食事を食べるとホッとする感覚を持つ日本の方はたくさんいると思われるが、小さいころから慣れ親しんだ食事は体だけではなく、心も温かく柔らかくする効果を持っている。
堂安や同じく日本代表DF板倉滉(ボルシアMG)は、専任シェフを雇うことでこうした問題をクリアしている。栄養学的な見解に加え、慣れ親しんだものを口にできる安心感や満足感がもたらすメンタルバランスへの影響はとても大きいし、大事だ。また堂安は栄養面でのことだけがシェフにお願いしている理由ではなかったと明かしていた。
「栄養面での理由が80〜90%を占めてます。残りの10〜20%は、もしシェフがいなかったら、夕方から夕食のことを考えないといけなくなる。作るならスーパーで買い物してとか。お店で食べるにも予約する必要がでてくるし、ヘルシーかどうかを気にしないといけない。なにより時間が失われてしまうんです。それがシェフのおかげで7時からご飯って決まっていたら、6時59分までリカバリーしたり、リラックスしたり、マッサージしたりとか自分の時間に費やせる。この2〜3時間ができるのはでかいと思います」
体が資本のアスリートにとって、投資効果は非常に大きいはずだ。とはいえ専任シェフを雇えない場合はどうしたらいいのだろう? むしろそちらの環境に身を置く選手のほうが多いはず。
岡崎慎司、中村敬斗らがそれぞれのやり方で向き合った栄養摂取
元日本代表FW岡崎慎司は「僕はずっと家族と一緒に住んでいたので、日本食を食べられるじゃないですか。やっぱりそれはよかったですよね」と自身の現役時代を振り返りつつ、「でもいまヨーロッパでチャレンジしている留学生みたいな状況になったらどうしたらいいかわからないですよね」と難しい現実があることにも触れた。
所属するクラブが食事を準備してくれるケースもあるが、朝昼晩とすべてを完備しているという整った環境の話はさすがに聞かない。外食メインだと栄養バランスに偏りが生まれがちなので、自炊の必要性も出てくるが、トレーニング後の疲れのある中で食事を作って食べて片付けてというのはそれなりにストレスにもなる。そのため友人知人にお願いする選手もいる。日本代表FW中村敬斗もそうだった。オーストリアのリンツ時代に食事との向き合い方を明かしてくれたことがある。
「最初のころは自炊していたんですけど、特にスタメンでずっと試合に出ているとやっぱり疲労が蓄積してくるんですよね。正直練習が終わった後はもう作る気がなくなってしまう。僕の場合はオーストリアで仲良くさせてもらっているご夫婦にご飯を作ってもらったりととてもお世話なってます」
それぞれがそれぞれにあったやり方で向き合っている。ではトッププロではどこまで栄養摂取に関してこだわりを持って取り組むことが求められているのだろう? ヨーロッパでも食事療法で体質が変化し、フィジカルレベルがぐっと上がったという話をよく聞く。徹底してストイックに取り組んでいるポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウドだけではなく、ポーランド代表FWロベルト・レバンドフスキはバイエルン時代に栄養学のエキスパートでもある妻のアンナからの提案で食事法を改善。乳製品と距離をとっていることを明かしていた。元ドイツ代表FWマッツ・フンメルスも全粒粉のパスタや体内の炎症を抑える効果があるオメガ3脂肪酸を豊富に含む菜種油を用いた料理を口にすることでフィットネス値がグッと向上したという。
長谷部誠が語った「長くプレーできている理由」
さまざまな研究が進み、体に良い食事の情報は多岐にわたって手に入る時代だ。ではどの程度育成年代から気をつけて取り組むべきなのだろうか。育成クラブとしてドイツ内外で高い評価を受けているSCフライブルク育成ダイレクターのアンドレアス・シュタイエルトに話を伺ってみた。
「昔のほうが伝えるのはもっと難しかったと思います。今の若者たちは食事の大切さに気づいている子が多い。彼ら、彼女らが目にするTikTokやInstagramで多くの人が推奨していますから。どんな情報が正しく、どんな情報が健康を大事にする上でより大切なのかの注意は必要ですが、最高のパフォーマンスを発揮するためには良い栄養が重要であることを多くの子が理解していると思います。
ただ、だからといってコーラを一杯も飲んではいけないというわけではないんです。重要なのはいつそれをするかを知ることです。例えば、翌日に試合があるのに夜の10時にマクドナルドに行くべきではありません。ただし、試合の翌日に食べることはかまわないと思います。許容されるところもなければいけません。毎日の生活の中で何が必要なのか、何が自分に役立つのか、何が自分の体に良いのかを彼らが正しく知り、そして自分で判断できるようになることが望ましいし、重要なのだと思います」
そういえば元日本代表キャプテンの長谷部誠も現役時代終盤にこんなことを話していた。同僚だった元オーストリア代表DFマルティン・ヒンターエッガーが30代後半になっても平然とプレーしている長谷部について「彼はもう遺伝子が違うから」という言い方をしていたことがあった。それに対する長谷部の答えがこれだ。
「長くプレーできている理由について明確なことはわからないけど、一つ、サッカー選手として、人間としてのバランス力かなと思ってるところはあります。小さいところでいえば食べ物。もちろん僕は食事に気をつけてはいる。家で日本食とか体にいいものを食べるようにはしている。でも僕はお菓子も大好きで、お菓子も食べます(笑)。揚げ物も食べる。揚げ物を食べないサッカー選手もいますけど、僕は食べる。ただ自分の中でこれ以上は食べないと決めたら食べない。そのバランス感覚かなと思ってますね」 ブンデスリーガのフランクフルトで栄養士として働いていたアンナマリー・シュタインは「知識は使わないと結局何も変わらないです。『絶対的にこれがよくて、絶対的にこれがダメだ』というものではないんです。だから知ることではなく、取り組んでみることが大事」と話していた。
好きな食べ物。それはとても大切な要素
食事とは栄養素の摂取だけを意味するわけではない。試合前の食事、試合中のエネルギー補給、試合後の補食と気をつけられることはいろいろある。でもそればかりを気にしすぎて本来の食事の時間がおざなりになってしまっては本末転倒だ。それぞれ好きな食べ物もこだわりもある。テンションが上がる大好物だってあるわけだ。それはとても大切な要素なのだ。
堂安が言っていた。地元記者とのインタビューで好きな食べ物を聞かれたときのことだ。
「好きな食べ物は寿司ですね。でも日本の寿司。ヨーロッパのSUSHIじゃない。それは違うから!」
それまでは打ち解けたオープンな雰囲気のインタビューだったが、この時ばかりは少しムキになって日本の寿司への愛を熱弁していたのが面白い。食へのこだわりは力にもなる。ただ例えば大事な試合当日に「試合に勝つためにカツを食う!」は体に対する負担が大きすぎるのでおすすめはしない。どれだけゲンを担ごうにも体へのマイナス作用が大きすぎたらもったいない。何事もやりすぎはご法度だ。
<了>
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