リーチマイケルに継ぐ“橋渡し役”。日本代表を支えるコストリーが流暢な日本語で果たす重要な役割

Career
2026.08.03

2015年、2019年とラグビー日本代表を率いたリーチマイケルは、多国籍チームを一つにまとめるため、「日本人はどう思う?」と仲間に問いかけ続けた。2027年ワールドカップを目指す現在、その役割を担いつつある選手がいる。 オーストラリア生まれ、ニュージーランド育ち。それでも流暢な日本語を操り、時には通訳となり、時にはチームの空気を和ませる。ティエナン・コストリー。「タマ」の愛称で親しまれる26歳は、プレーだけではない価値で、日本代表を支えている。

(文=向風見也、写真=志賀由佳/アフロ)

リーチが問いかけた「日本人はどう思う?」という言葉

ラグビー日本代表では日本生まれの選手、海外出身者が混ざりあっている。

言語や文化の壁をどう溶かすかが、常に問われている。競技の特性上、プレー中に複雑なコンビネーションが求められるからなおさらだ。

計7勝を挙げた2015、2019年のワールドカップでは、15歳で来日のリーチマイケルが主将となった。

2015年のイングランド大会で南アフリカ代表を倒す直前には、内部で不満がくすぶるのを防いだ。長期合宿に途中から合流し、途中で抜ける外国人メンバーを見て、親しい国内組の一人に「ああいうの、日本人はどう思うの?」とヒアリングした。

2019年の自国開催大会時は、ミーティングで震災や戦争といった日本史の講話を英語で実施。戦う大義を再確認し、各自の「潜在能力」を高めようとした。

2027年のオーストラリア大会を翌年に控え、リーチは37歳でなお健在。かつ、集団内のつながりを強固にする若者が他にもいる。

「外国人じゃない(笑)」と言われる日本語力

ティエナン・コストリー。2019年に滞在先のニュージーランドから来日した26歳は、身長192センチ、体重102キロのサイズでスピードが豊かだ。何より、ナショナルチームの他国勢にあって屈指の日本語力を誇る。14歳から日本に住むワーナー・ディアンズ主将と並び、練習や試合における掛け声、指示を、その都度、翻訳できる。

2023年より所属するコベルコ神戸スティーラーズの練習現場で、英語を話すプレーヤーの取材の通訳をしたこともある。ちょうどその場に本職のスタッフがいなかったなか、事なきを得た。本人はこう振り返る。

「この前、ニュージーランドの友達が(日本に)来て。店に行ったら全部注文するとか、そういう役割がありました。チームでも通訳が入れない時、僕が役に立つかな、と」

2016年にオーストラリアからやって来たベン・ガンターに、日常会話で用いる日本語でこのように感謝される。

「ティエナンさん、日本語がうまい。外国人じゃない(ようだ)!」

岡山の環太平洋大学に入学時、自ら作った愛称は「タマ」。ニュージーランド先住民族マオリの言葉で、「男の子」を指す。

まもなくこれが「猫みたい」に聞こえると気づき、さらに時が経てば内輪での話し合いはもちろん、大勢の記者に囲まれた状態での取材対応もスムーズにできるようになった。時折、報道陣の質問に聞き慣れない日本語があればその単語をスマートフォンの機能で英語に転換。意味を理解し、この国の言葉で答える。

センターもウイングも。万能性で広げた代表での居場所

7月18日には東京・国立競技場で、フランス代表戦に後半22分より出場。新設ネーションズチャンピオンシップの前半3試合を締めくくる一戦は、15―42で落とした。通算戦績は1勝2敗だった。

もっともコストリーは、この大会で特長を示した。本職のフランカーのほか、不測の事態に備え不慣れなウイングもカバーできるよう練習してきた。さかのぼって11日、アイルランド代表との大会2戦目では、故障者が続出したセンターに入った。速さと器用さが買われ、前半32分に緊急登板した。20―36と応戦するなか、ピンチを防ぐタックルで光った。

33名のスコッドでハードな真剣勝負を繰り返すワールドカップでも、この万能性は請われるだろう。コストリーは「バックス(ウイングやセンター)の役割を緊急の時にカバーできなかったら、もしかしたら私は試合に出ていないから、スキルを準備してきてよかった」と話し、クリアな口調でチームの進歩を称える。

コストリーは、「経験」「自信」というフレーズを繰り返す。

「このチームはどれだけ成長できるか(限界が)決まっていない。トップのチームとの試合の経験が、これからのいい結果につながる自信はあります。(27―10で唯一の勝利を挙げた)イタリア戦はよかったし、アイルランド戦ではどれだけケガがあってもリザーブメンバーがカバーした。いい経験をしている。本当に、これからのジャパンを楽しみにしてほしいし、応援してほしいです。どんどん成長していって、来年には19年のような興奮する試合をする自信があります」

「編集はリフレッシュ」Vlogが映す、日本代表の”素顔”

異なる言語を用いずとも、人と人とをつなげられる。その姿勢が垣間見えるのが、自身のYouTubeチャンネルだ。

代表キャンプのさなかビデオを回し、仲間の様子をVlogとして伝える。ディラン・ライリーをはじめ、メディアの前ではスマートに応じる面々も、同志のカメラの前ではお茶目な様子だ。一人ひとりの素顔を見せる動画について、関西弁を交えて説く。

「Vlogは、自分の個人的な経験をファンに見せるチャンスです。1本ずつの時間などのルールが決まっているのですが、私の目からの合宿が、『どんなんやろう』と考えている人が、それを見られるのはいいと思う。皆、どうしてもチームのカメラの前だと固まったりする。知らない人のカメラの前でのインタビューとなったら、フルの自分は出しにくいじゃないですか。でも、チームメイト同士の行動が面白いかなって。できるだけ、本当の性格、いいインサイトを伝えたい」

Vlogの編集は、厳しいトレーニングの合間におこなう。

素材にオフィシャルスポンサーの競合他社の看板、商品が映り込んでいたら、モザイク処理で対応する。

「たくさん確認して、許可をもらってから上げないといけない。協力してくれているブランドさんのサポートは大切で、ルールの重要さはわかる。それを守りながら、続けられればいいなと思います」

専用ソフトでの細かい手作業には、リフレッシュ効果もあるようだ。

「ちょっとだけパソコンで編集することは、一旦ラグビーから離れてクリエイティブになれる。それがいい休みになる。もちろんラグビーは優先ですけど、時間があれば違う好きなことでリフレッシュすることも大事です」

オーストラリア戦へ。「全力で倒したい」

件の国立競技場のミックスゾーン。コストリーは、肩にコンパクトデジタルカメラをぶら下げていた。

外部チェックに時間のかかるVlogと同時並行で、ポートレイトをインスタグラムにアップするのが楽しみだという。「これは、最近の買い物です」と紹介し、ロッカールームで撮りたての両国選手のデータを見せ、微笑む。

「思い出になるような写真を、画質高く」

バイリンガルの特性でチームの調和を作り、オンとオフの切り替えで内なるバランスを保つ。

7月25日からの網走合宿を経て、8月中旬に両国開催の対オーストラリア代表2連戦をにらむ。オーストラリアは幼少期を過ごした出生国で、親戚も暮らす。凱旋が近づく「タマ」は言う。

「家族はいるし、いい時間もたくさん過ごしている。だからといって優しくする思いはまったくない。オーストラリアの海は好きだけど、オーストラリアを全力で倒したい気持ちです」

<了>

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