リーチマイケルに継ぐ“橋渡し役”。日本代表を支えるコストリーが流暢な日本語で果たす重要な役割
2015年、2019年とラグビー日本代表を率いたリーチマイケルは、多国籍チームを一つにまとめるため、「日本人はどう思う?」と仲間に問いかけ続けた。2027年ワールドカップを目指す現在、その役割を担いつつある選手がいる。 オーストラリア生まれ、ニュージーランド育ち。それでも流暢な日本語を操り、時には通訳となり、時にはチームの空気を和ませる。ティエナン・コストリー。「タマ」の愛称で親しまれる26歳は、プレーだけではない価値で、日本代表を支えている。
(文=向風見也、写真=志賀由佳/アフロ)
リーチが問いかけた「日本人はどう思う?」という言葉
ラグビー日本代表では日本生まれの選手、海外出身者が混ざりあっている。
言語や文化の壁をどう溶かすかが、常に問われている。競技の特性上、プレー中に複雑なコンビネーションが求められるからなおさらだ。
計7勝を挙げた2015、2019年のワールドカップでは、15歳で来日のリーチマイケルが主将となった。
2015年のイングランド大会で南アフリカ代表を倒す直前には、内部で不満がくすぶるのを防いだ。長期合宿に途中から合流し、途中で抜ける外国人メンバーを見て、親しい国内組の一人に「ああいうの、日本人はどう思うの?」とヒアリングした。
2019年の自国開催大会時は、ミーティングで震災や戦争といった日本史の講話を英語で実施。戦う大義を再確認し、各自の「潜在能力」を高めようとした。
2027年のオーストラリア大会を翌年に控え、リーチは37歳でなお健在。かつ、集団内のつながりを強固にする若者が他にもいる。
「外国人じゃない(笑)」と言われる日本語力
ティエナン・コストリー。2019年に滞在先のニュージーランドから来日した26歳は、身長192センチ、体重102キロのサイズでスピードが豊かだ。何より、ナショナルチームの他国勢にあって屈指の日本語力を誇る。14歳から日本に住むワーナー・ディアンズ主将と並び、練習や試合における掛け声、指示を、その都度、翻訳できる。
2023年より所属するコベルコ神戸スティーラーズの練習現場で、英語を話すプレーヤーの取材の通訳をしたこともある。ちょうどその場に本職のスタッフがいなかったなか、事なきを得た。本人はこう振り返る。
「この前、ニュージーランドの友達が(日本に)来て。店に行ったら全部注文するとか、そういう役割がありました。チームでも通訳が入れない時、僕が役に立つかな、と」
2016年にオーストラリアからやって来たベン・ガンターに、日常会話で用いる日本語でこのように感謝される。
「ティエナンさん、日本語がうまい。外国人じゃない(ようだ)!」
岡山の環太平洋大学に入学時、自ら作った愛称は「タマ」。ニュージーランド先住民族マオリの言葉で、「男の子」を指す。
まもなくこれが「猫みたい」に聞こえると気づき、さらに時が経てば内輪での話し合いはもちろん、大勢の記者に囲まれた状態での取材対応もスムーズにできるようになった。時折、報道陣の質問に聞き慣れない日本語があればその単語をスマートフォンの機能で英語に転換。意味を理解し、この国の言葉で答える。
センターもウイングも。万能性で広げた代表での居場所
7月18日には東京・国立競技場で、フランス代表戦に後半22分より出場。新設ネーションズチャンピオンシップの前半3試合を締めくくる一戦は、15―42で落とした。通算戦績は1勝2敗だった。
もっともコストリーは、この大会で特長を示した。本職のフランカーのほか、不測の事態に備え不慣れなウイングもカバーできるよう練習してきた。さかのぼって11日、アイルランド代表との大会2戦目では、故障者が続出したセンターに入った。速さと器用さが買われ、前半32分に緊急登板した。20―36と応戦するなか、ピンチを防ぐタックルで光った。
33名のスコッドでハードな真剣勝負を繰り返すワールドカップでも、この万能性は請われるだろう。コストリーは「バックス(ウイングやセンター)の役割を緊急の時にカバーできなかったら、もしかしたら私は試合に出ていないから、スキルを準備してきてよかった」と話し、クリアな口調でチームの進歩を称える。
コストリーは、「経験」「自信」というフレーズを繰り返す。
「このチームはどれだけ成長できるか(限界が)決まっていない。トップのチームとの試合の経験が、これからのいい結果につながる自信はあります。(27―10で唯一の勝利を挙げた)イタリア戦はよかったし、アイルランド戦ではどれだけケガがあってもリザーブメンバーがカバーした。いい経験をしている。本当に、これからのジャパンを楽しみにしてほしいし、応援してほしいです。どんどん成長していって、来年には19年のような興奮する試合をする自信があります」
「編集はリフレッシュ」Vlogが映す、日本代表の”素顔”
異なる言語を用いずとも、人と人とをつなげられる。その姿勢が垣間見えるのが、自身のYouTubeチャンネルだ。
代表キャンプのさなかビデオを回し、仲間の様子をVlogとして伝える。ディラン・ライリーをはじめ、メディアの前ではスマートに応じる面々も、同志のカメラの前ではお茶目な様子だ。一人ひとりの素顔を見せる動画について、関西弁を交えて説く。
「Vlogは、自分の個人的な経験をファンに見せるチャンスです。1本ずつの時間などのルールが決まっているのですが、私の目からの合宿が、『どんなんやろう』と考えている人が、それを見られるのはいいと思う。皆、どうしてもチームのカメラの前だと固まったりする。知らない人のカメラの前でのインタビューとなったら、フルの自分は出しにくいじゃないですか。でも、チームメイト同士の行動が面白いかなって。できるだけ、本当の性格、いいインサイトを伝えたい」
Vlogの編集は、厳しいトレーニングの合間におこなう。
素材にオフィシャルスポンサーの競合他社の看板、商品が映り込んでいたら、モザイク処理で対応する。
「たくさん確認して、許可をもらってから上げないといけない。協力してくれているブランドさんのサポートは大切で、ルールの重要さはわかる。それを守りながら、続けられればいいなと思います」
専用ソフトでの細かい手作業には、リフレッシュ効果もあるようだ。
「ちょっとだけパソコンで編集することは、一旦ラグビーから離れてクリエイティブになれる。それがいい休みになる。もちろんラグビーは優先ですけど、時間があれば違う好きなことでリフレッシュすることも大事です」
オーストラリア戦へ。「全力で倒したい」
件の国立競技場のミックスゾーン。コストリーは、肩にコンパクトデジタルカメラをぶら下げていた。
外部チェックに時間のかかるVlogと同時並行で、ポートレイトをインスタグラムにアップするのが楽しみだという。「これは、最近の買い物です」と紹介し、ロッカールームで撮りたての両国選手のデータを見せ、微笑む。
「思い出になるような写真を、画質高く」
バイリンガルの特性でチームの調和を作り、オンとオフの切り替えで内なるバランスを保つ。
7月25日からの網走合宿を経て、8月中旬に両国開催の対オーストラリア代表2連戦をにらむ。オーストラリアは幼少期を過ごした出生国で、親戚も暮らす。凱旋が近づく「タマ」は言う。
「家族はいるし、いい時間もたくさん過ごしている。だからといって優しくする思いはまったくない。オーストラリアの海は好きだけど、オーストラリアを全力で倒したい気持ちです」
<了>
「準備がすべてだった」日本代表デビューの21歳・伊藤龍之介が救われた、齋藤直人との“試合前の習慣”
“勉強するラガーマン”文武両道のリアル。日本で戦う外国人選手に学ぶ「競技と学業の両立」
「カテゴリ問題」は差別論のみが本質ではない。リーグワンが抱える“競争力低下”と“構造の歪み”
ラグビー日本人選手は海を渡るべきか? “海外組”になって得られる最大のメリットとは
なぜ神戸スティーラーズは7年ぶり日本一になれたのか。デイブ・レニーが変えた世界基準の組織改革
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
なぜスポーツブランドが水戸の「育成」に投資するのか? 青木ハヤト代表の決断を生んだ原風景
2026.09.18Business -
40歳・長友佑都はなぜ現役を続けるのか。W杯後に一度は傾いた「引退」と「FC東京で優勝」の情熱
2026.09.18Career -
塩貝健人が語る「4年後に向けて」。W杯での課題をドイツ2部で磨き、再び迎えるブラジル戦
2026.09.11Career -
「20時でスマホを切る」原田衛の“休む力”。「ラグビーができる期間は限られている」日本代表の現在地
2026.09.11Training -
世界で勝つには「組織力だけでは足りない」。長谷川唯が語る、なでしこジャパンの現在地
2026.09.10Career -
なぜドルトムントは日本を選ぶのか? CEOが語った「クラブの価値」と「日本の評価」
2026.09.09Opinion -
なぜ優秀な若手がドルトムントに集うのか? 世界中の才能を引き寄せる「5年後、10年後」の育成戦略
2026.09.08Training -
県4部だった豊川高校が、なぜ4年で全国大会へ? 山梨学院を日本一に導いた監督の挑戦
2026.09.07Training -
角田裕毅に再び巡ってきたチャンス。F1残留を懸けてイタリアで問われる「2度目の挑戦」
2026.09.04Career -
原口元気加入が示すベールスホットの現在地。日本人選手の欧州挑戦と日本資本クラブの可能性
2026.09.04Business -
「いつも誤解されてた」25年の時を経て、アレン・アイバーソンが本当に伝えたかったこと
2026.09.04Career -
「努力できる人」と「続かない人」何が違う? 長谷川唯が語る、目標設定が人生を変える理由
2026.09.03Career
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
40歳・長友佑都はなぜ現役を続けるのか。W杯後に一度は傾いた「引退」と「FC東京で優勝」の情熱
2026.09.18Career -
塩貝健人が語る「4年後に向けて」。W杯での課題をドイツ2部で磨き、再び迎えるブラジル戦
2026.09.11Career -
世界で勝つには「組織力だけでは足りない」。長谷川唯が語る、なでしこジャパンの現在地
2026.09.10Career -
角田裕毅に再び巡ってきたチャンス。F1残留を懸けてイタリアで問われる「2度目の挑戦」
2026.09.04Career -
「いつも誤解されてた」25年の時を経て、アレン・アイバーソンが本当に伝えたかったこと
2026.09.04Career -
「努力できる人」と「続かない人」何が違う? 長谷川唯が語る、目標設定が人生を変える理由
2026.09.03Career -
170cm弱だった少年が195cmに。G大阪の18歳GK荒木琉偉が語る「鈴木彩艶を追い越す」未来
2026.09.01Career -
「友人を捨てろ」と言われても断った。アレン・アイバーソンが最後まで貫いた“自分らしさ”
2026.08.28Career -
大一番を「特別」とは思わない。長谷川唯が世界最高峰で貫く“準備の習慣”
2026.08.27Career -
柏レイソル・小泉佳穂はなぜ岩尾憲の名前を口にしたのか。5連敗の夜に語った「腹をくくる」という覚悟
2026.08.21Career -
「あのベンツは返してこい、クソガキが」恩師トンプソンがアイバーソンをNBAへ送り出した日
2026.08.21Career -
「教えることで自分が学ぶ」選手と大学助教の両立。安藤梢が新天地でも挑戦し続ける理由
2026.08.21Career
