柏レイソル・小泉佳穂はなぜ岩尾憲の名前を口にしたのか。5連敗の夜に語った「腹をくくる」という覚悟
「岩尾憲がどういう腹のくくり方をしていたのかというのが、ちょっとわかるようになってきたかなと」。2026年5月3日、東京ヴェルディに敗れ、柏レイソルが5連敗を喫した夜。小泉佳穂は、かつて浦和レッズでともに戦った8歳年上の岩尾憲の名前を口にした。なぜ、あの苦しい状況で小泉の脳裏に浮かんだのが岩尾だったのか。浦和で過ごした2年半、そして柏で迎えた新たなシーズンをたどると、小泉が背負おうとしているものが見えてきた。
(文=佐藤亮太、写真=アフロスポーツ、アフロ)
小泉佳穂が5連敗の夜に口にした「岩尾憲」の名前
このときサッカーJ1柏レイソルは出口が見えない長いトンネルを突き進んでいた。
明治安田J1百年構想リーグ第14節(2026年5月3日)東京ヴェルディとのアウェイゲーム。0-0で迎えた90分。東京V、GK長沢祐弥のロングボールから最後は新井悠太に決められ1-0の敗戦。柏は5連敗を喫した。主導権を握りながらも肝心のゴールが決まらない試合が続いた。
敗戦後のミックスゾーンで多くの記者に囲まれた小泉佳穂は特長の理知的な語り口で「昨年は惜しいところまでいったし、この大会では負けていますが歯車一つかみ合えば、違った結果になった試合もありました。そこまできているのに諦めてはあまりにももったいない」と継続する重要性を語った。
昨シーズン(2025シーズン)は小泉にとって躍進の年となった。浦和レッズから完全移籍して早々に主力として活躍。リーグ35試合出場。自己最多の7得点をマーク。首位の鹿島アントラーズに勝点1差の2位。貢献の高さから初のベストイレブンに輝いた。長短を織り交ぜた小気味よいパス、ここぞのときに見せる勝負のパス、そして豊富な運動量。これこそ小泉佳穂と思わせるプレーを存分に発揮した。
その一方で、受け答えする佇まいから、以前あまり感じられなかった、たくましさのようなものがあった。
ひとしきり質疑応答が終わり、記者の輪が解けた間隙を縫い、その印象を伝えた。
小泉は「ようやく本当の意味で……腹をくくれたかもしれないです」と話したあと、特有の長い間を置き話し始めると、ある選手の名前が出た。
「岩尾憲がどういう腹のくくり方をしていたのかというのが、ちょっとわかるようになってきたかなと。その麓がやっと見えている感じで……遅かったかもしれないけど、やるしかないので」
浦和でともに過ごした2年半。小泉と岩尾、それぞれの覚悟
なぜ小泉から岩尾の名前が出たのか?
2人にはいくつか共通点がある。まず浦和レッズに所属していたこと。2人は2022年から岩尾がJ2徳島ヴォルティスに完全移籍する2024年6月までの2年半ともに戦った。
そして移籍組であること。小泉は2021年、当時J2のFC琉球から加入。当時の浦和は年齢的に若いものの経験値があり、かつ伸びしろが期待される選手を次々に獲得した。小泉のほか、明本考浩、金子大毅と主力級が加入。さらに流通経済大学から伊藤敦樹、ユースから鈴木彩艶がトップ昇格した。
この年、浦和の指揮官として就任したロドリゲス監督のもと、つなぐサッカーを目指した結果、リーグ6位。ルヴァンカップはベスト4で終わったが、天皇杯優勝を果たし、AFCアジアチャンピオンリーグ出場を決めた。
続く翌2022年、前年同様、流通経済大から安居海渡、宮本優太のほか、即戦力として松尾佑介、大畑歩夢らを獲得。そして徳島時代、戦術の要を担った岩尾が期限付き移籍で加入した。外国籍選手を含め総勢13人の大型補強だったが、戦績は及ばずリーグ9位。ルヴァンカップはベスト4。天皇杯はまさかの3回戦敗退。一方で、FUJIFILM SUPER CUP優勝とAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝進出(決勝戦は2023年4月・5月に開催)を果たした。しかし、期待された成績は残せず、このシーズン限りでロドリゲス監督は契約解除となった。
2023年、新たにマチェイ・スコルジャ監督を迎えると3度目のACL優勝を果たすと、厳しい日程に苛まれながらリーグ4位。ルヴァンカップ準優勝。シーズン後の12月に開催されたFIFAクラブワールドカップでは4位となった。
「結果を出さなければならない」2人が背負ったもの
同じ移籍組の2人だが、浦和ではそれぞれの道をたどった。
小泉が加入当時の2021年、攻撃の要には柏木陽介という絶対的選手がいた。ロドリゲス監督のなかでは当初柏木中心のチーム作りをしたうえで、小泉を育てながら、あるいは競わせながら、選手層を厚くする構想があったと思われる。しかしシーズン前の2月に行われた沖縄合宿で柏木は規律違反を犯し、その後、柏木は浦和を離れることになった。
柏木が去ったのち、小泉がそのポジションに座るわけだが、周囲からの期待にどう応えるのか。チームをどう勝たせるのか。大きなプレッシャーがかかった。小泉は生来考えるタイプの選手。それゆえに考えすぎてしまいパフォーマンス自体に影響し、悩みの淵をさまよいながら戦う時期があった。
一方の岩尾。決して派手なプレーではないが、戦術の軸として加入当初から順応した。存在感の大きさはプレーだけではない。例えば試合中、チームになにかピンチが起きた際、イレブンの視線が岩尾に集まる。そうした瞬間を何度も目にした。それは監督が替わっても変わらなかった。いや、より存在感は増すものとなった。
同じ移籍組として結果を出さなければならない立場。その厳しさをわかちあえる、いわば2人は同志。そして小泉にとって8歳年上の岩尾は、尊敬し、慕う存在となった。

岩尾憲がロドリゲス監督と選手の間で果たした役割
岩尾が浦和に移籍したときに味わったように、小泉が新天地・柏で戦う覚悟や厳しさを改めて感じた。だからこそ小泉は岩尾の名を出したのではないか。
その答えを確かめるべく、JリーグオールスターDAZNカップが開催された前日(6月12日)、味の素フィールド西が丘での公開練習後、岩尾にはいまの小泉はどう映っているのか尋ねた。
「僕もリカルドと一緒にやってうまくいかない時期はありました。それをどんな結果、内容であっても起用され続けるプレッシャーを彼(小泉)はものすごく感じていると思います。いかに悪い状況から良い状況に持ち直すか、いかに早く上昇していくための努力をするか、そこで葛藤していると感じます」
岩尾を語るうえで思い出すエピソードがある。
J2徳島にロドリゲス監督が就任した2017シーズン、チームは決して順調ではなかった。指揮官が志向する戦術に対して選手はなかなかついていけず、安定した戦いができなかった。うまくいかなさに監督、選手ともに不満と不安を募らせていた。その間に入ったのが主将を務めた岩尾だった。
ある時、岩尾はチームメイトを前に、いまチームができていること、できないことをホワイトボードでそれぞれ列挙し課題を整理し、選手間の共有に努めた。一方で岩尾はチームの意見や現状をロドリゲス監督に伝えるなど、バラバラになりそうなチームを一つにまとめた。最終節でプレーオフ進出を逃し7位となったが、岩尾はピッチ上だけでない、チームを良い方向に向かわせる手腕を見せた。
浦和でも岩尾は、ピッチ上のプレーだけでなく、チームを良くするための役割を担っていた。実際、小泉のように岩尾を慕う選手は多くおり、岩尾自身、チームをより良くしたい気持ちはあった。しかし志なかばというべきか、2024年6月古巣徳島に岩尾は再び加入することとなった。
小泉佳穂が柏で目指す「岩尾憲という山」
小泉は岩尾についてこのように語った。
「一人のプレイヤーとして、それ以上のことを徳島でも浦和でも求められていた選手。僕も柏ではそのようなものを求められています。自分のプレーをよくするだけでなく、チームがどうやったら強くなるのかという視点に立って、よりマクロな視点でチームを見られるようになりました」
5連敗目となった東京V戦のミックスゾーンで岩尾憲の名が出た理由。それはピッチだけでなく、チーム全体に良い影響を与えられる、岩尾憲のような選手になりたい、小泉の決意表明なのかもしれない。
そして最後に「でもやっぱり難しいですね」そう吐露したところが実に小泉らしかった。
それからおよそ2カ月。秋春制に移行となり、新しく迎えた2026/27シーズン。柏は開幕戦で水戸ホーリーホックに2-1で勝つと、続く第2節、東京Vに3-1で快勝。内容と結果が伴う連勝スタート。小泉も開幕2試合で先発。水戸戦では決勝ゴールも記録するなど、好スタートを切った。
東京V戦の勝因を小泉は大ケガから復帰して間もない熊坂光希の貢献ぶりを称えつつ「チームとしてよどみなくボールが動く感覚があります。どこかで誰かが無理をしないとチームが回らないという状態ではないです。なので、チームからものすごい良い影響をもらっています」と充実ぶりがうかがえた。
そして最後に聞いてみた。「岩尾憲という山に少しは近づけましたか」と。
「もう少し頑張ってみます。まだまだ。まだまだなので」そう微笑みミックスゾーンをあとにした。
<了>
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