欧州名門クラブに見るサステナビリティ最前線。人種差別、貧困、就労支援…に挑むマルメFF

Opinion
2026.08.07

欧州のサッカークラブは、勝敗だけを追いかける存在ではない。人種差別をなくすため地域の学校を回り、貧困地域では夜10時から子どもたちの居場所をつくり、障がいのある人たちと一緒にボールを蹴り、さらには就職支援まで行う。ズラタン・イブラヒモビッチを輩出したスウェーデンの名門マルメFFは、そうした活動を「社会貢献」ではなくクラブ経営そのものと位置づけている。サッカーは社会をより良くできるのか。その答えを探しに現地を訪れた。

(文=中野吉之伴、写真=AP/アフロ)

マルメFFは「何をもって最高のクラブというのか?」

サステナビリティと聞いて、何を思い浮かべるだろうか。

環境への配慮やリサイクル、CO₂排出量の削減……。近年はそうしたイメージで語られることが多いし。もちろんそれも大切なテーマだ。しかし本来は、「環境」「社会」「経済」の3つのバランスが取れている状態を指す言葉である。では具体的にサッカークラブにできるサステナビリティとは何があるのだろう?

参考になるクラブとして、北欧スウェーデンのマルメFFを紹介したい。サッカーと教育プログラムを掛け合わせた「人種差別に反対する小学校サッカー」、金曜深夜に子どもたちを集めてサッカーを行う「ナイトフットボール」、障がいのある人たちとサッカーを楽しむ「Sky Blue Togetherプロジェクト」、求職者とスポンサー企業をつなぐ「キャリアアカデミー」などその活動は多岐にわたる。

現地でクラブのサステナビリティ部門で地域社会との連携を担当するルイージ・コルダスコに、直接話を聞くことができた。

「私たちのビジョンは、スウェーデンで最高のクラブとなり、ヨーロッパでも確固たる地位を築くことです。何をもって最高のクラブというのか。それはスポーツやサッカー面だけではありません。社会的な取り組みや持続可能性、環境も含め、私たちが行うすべての活動が当てはまります」

この言葉が象徴するように、マルメFFではサステナビリティは社会貢献活動ではなく、クラブ経営そのものに組み込まれている。専任の責任者を置き、地域活動を担当するスタッフが日々プロジェクトを推進する。地域の子どもたちに向けたプロジェクト担当者だけでも14人のフルタイムスタッフが働いており、理念を掲げるだけでなく、人材と予算へ継続的に投資していることからも、その本気度がよくわかる。

すでにその取り組みはスウェーデン国内だけにとどまらず、欧州クラブ協会(ECA)のサステナビリティ・ワーキンググループにも参画するなど、ヨーロッパでも高い評価を受けている。

「人種差別に反対する小学校サッカー」とは

マルメFFにとって象徴とも言える取り組みの一つが、「人種差別に反対する小学校サッカー」だ。

2010年にスタートしたこのプロジェクトは、国連の子どもの権利条約と差別禁止法を土台に、毎年約1700人の小学6年生を対象として実施されている教育プログラム。教育機関と連携し、「すべての人は等しく尊重される存在である」という価値観を根づかせることを目的としている。

子どもたちと先生がマルメFFエレダスタジアムで子どもの権利についてのカンファレンスを開催し、各学校では教室で専門の指導員からのワークショップを通じて、自分の権利、そして他者の権利について学ぶ。

「2010年に4校でこの取り組みを始め、最も多い年には35校にまで成長しました。そこから少し変更を加え、プログラムをより良くするとともに、より厳しい基準と内容にしました。そのため、いくつかの学校は参加できませんでしたが、それでも今年は27校が参加しています」

他にもスウェーデンの差別禁止法や多様性の価値を学ぶワークショップを実施したり、マルメFFの男女トップチーム選手が「ロールモデル(手本)」として関わり、子どもたちとダイレクトな対話をおこなう。

またマルメFFの公式戦ハーフタイムを利用して、このプロジェクトに参加している児童代表200人がピッチからサポーター全座席に向けて、「差別に対してレッドカードを出す」というメッセージをかかげる。参加児童は当然、無料で試合観戦に招待される。

一年の最後には、それぞれの学校が集まり、ミックスでチームをつくり、交流大会を行う。大会に勝ったかどうか以上に、「フェアプレー」「新しい仲間づくり」に重きが置かれているのが特徴だ。

コルダスコも、この活動で最も重要なのは「サッカーそのものではない」と語る。

「サッカーを通じることでそのメッセージ性がとてもクリアで、ダイレクトになるんです。学校でも人権や差別について学びます。でも、正直な話、どれだけの子どもが真剣にそのテーマと向き合えると思いますか? 先生方がとても丁寧に準備をして臨んでも、学校という環境だとそのメッセージ性が伝わりにくくなるのは仕方ないことなのかもしれません。ただチームスポーツでは、そのことの大切さが実感できるシーンがたくさんあるんです。仲間とは? 差別とは? 権利とは? 肌で感じられるものがそこにある。サッカーを一緒にプレーしてみて、それを通して伝えることで、本当に100%理解してくれる子どもたちがたくさんいるんだな、ということに気づいたんです」

夜10時開催のサッカーが子どもを犯罪から守る

マルメは、多くの移民が暮らす国際色豊かな都市でもある。多様性についてはいろいろと語られているが、どんなことでもメリットとデメリットがある。民族や宗教、文化の違いから生まれる差別という課題を抱えているのは事実だ。

「学校には移民の家庭で育つ子どもたちがたくさんいます。アラブ系、黒人、白人、あるいは宗教の違いによる差別が起きることもあります。でもそれを『仕方がないこと』で済ませていいわけがありません。私たちは、この問題に向き合わなければならないのです。サッカーは一つの競技だけではなく、人権を学ぶための『共通言語』でもあると解釈しています」

欧州においてプロスポーツクラブは社会におけるステータスを持っている。誰もが一目を置くからこそ、社会に対して正しい振る舞いをする責任がある。ここはセットだ。だからこそ、そのメッセージは教室だけでは届かない深さで心に届く可能性を高めてくれる。

こうした考え方は、ほかの活動にも一貫している。

2025年から始まった「ナイトフットボール」は、金曜日の夜10時から深夜まで、市内の社会経済的に厳しい地域で開催されている。目的は、子どもたちが安心して過ごせる居場所をつくること。

「この活動は主に、社会経済的に恵まれない地域で行っています。そこでは子どもたちが犯罪に巻き込まれたり、スポーツをするためのお金がなかったりします。残念なことですが、これも現実なんです。そしてこの活動はマルメFFだけで運営しないようにしています。地域のスポーツクラブや団体と協力し、その地域を最もよく知る人たちと一緒に活動する。私たちにとっても良いことですし、地域のクラブにとっても活動を知ってもらう機会になります」

つまり、マルメFFが一方的に地域を支援するのではなく、地域クラブも活性化し、子どもたちに笑顔が戻り、その子どもたちのエネルギーで大人も活力を得て、さらに街全体のスポーツ環境を豊かにしていくことを大事にしている。

「Sky Blue Togetherプロジェクト」も同じ発想から生まれている、という。これは知的障がいや精神障がいのある人たちが、週に一度マルメFFのユニフォームを着てサッカーを楽しむ活動だ。コルダスコ自身もコーチとして関わっている。

「彼らがマルメFFのシャツを着てプレーするとき、本当に誇らしそうなんです。表情がとても生き生きしてくる。その姿を見ることは、私にとっても魔法のような体験です。本当にうれしいし、素晴らしい。サッカーには、スポーツには、そうした力があるんです。誰もがスポーツに参加できることを当たり前にする。とても大切なことだと思います」

就職まで支援するクラブ。地域に必要とされ続けるために

マルメFFは、就労支援にも精力的に取り組んでいる。

「キャリアアカデミー」は、生活支援を受けている求職者と、クラブを支える500社以上のスポンサー企業を結びつけるプロジェクトだ。毎年開催されるキャリアデーでは、企業が仕事内容や理念を説明し、求職者と直接交流する機会を設ける。11年間で484人が就職し、その社会的価値は年間1800万クローナ(約3億円)に相当すると試算されている。

「独自のアイデアとしてスタートしたこのプロジェクトは、スウェーデンで他の10クラブも取り入れるなど影響を与えました。広がりが生まれているんです」

教育、人権、雇用、障害のある人たちのスポーツ参加や地域コミュニティづくり。サッカークラブが持つ影響力を社会課題の解決に生かし、その活動が地域からの信頼を生み、さらにクラブ自身の価値も高めていく。その好循環こそが、彼らの考えであり、実践しているサステナビリティだ。

コルダスコは、昨季トップチームが苦戦し、クラブが経済的に厳しい状況に置かれても、社会プロジェクトは継続されたと話してくれた。マルメFFは直近10年で6度スウェーデンリーグ優勝を果たしている名門だが、2025年はリーグ6位で終え、欧州カップ戦出場枠を逃している。

「もちろん市からの支援もあります。しかし、それ以上にクラブ自身が、この活動を続けることを重要だと考えているのです」

社会貢献だから続けるのではない。サステナビリティとは、地域、企業、行政、そしてクラブが互いに支え合い、ともに成長し続ける循環をつくること。地域に必要とされ続けるクラブであるためにやるべきこと。マルメFFの取り組みは、そのための大事なヒントを教えてくれた。

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<了>

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