日本で“傑物”ストライカーは育成できる? W杯で見えた「日本にまだ足りないもの」
今夏のワールドカップでは、優勝したスペインをはじめ、上位進出国には決定的な違いがあった。ヤマル、メッシ、ケイン、エンバペ、ハーランド――。試合を一人で決められる“傑物”がいたことだ。ベスト32で敗退した日本も上田綺世が存在感を示したが、世界一を狙うには、その先のレベルが求められる。では、日本はどうすれば世界を獲れるストライカーを育てられるのか。高校年代の名将たちへの取材から、そのヒントを探った。
(文・撮影=松尾祐希)
W杯で改めて浮かび上がった「日本最大の課題」
今夏のFIFAワールドカップはスペインの優勝で幕を閉じた。初の3カ国共催となり、過酷な移動や時差、気候変動への対応など、ピッチ外ではさまざまな問題が話題になったのは記憶に新しい。一方でピッチ内では新たなトレンドなどもあり、ラウンド32で敗退した日本が新たな景色を見るために必要なことも見えてきた。
とりわけ、4強以上に進んだチームに共通していたのは、“傑物”と呼ばれる圧倒的なストライカーやアタッカーが各国にいた点だろう。優勝したスペインは19歳のMFラミン・ヤマル、準優勝のアルゼンチンはリオネル・メッシ、イングランドはFWハリー・ケイン、フランスはFWキリアン・エンバペが躍動。ベスト8のチームでもノルウェーのFWアーリング・ハーランドが194cmのサイズとスピードを武器に各国のDFを薙ぎ倒すようにゴールを重ねていた。
日本がベスト8、そして優勝を目指す上で解決すべき課題はいくつもあるが、先んじて不可欠なのは世界を席巻するようなストライカーの育成だろう。もちろん、昨季のオランダリーグで得点王に輝いたFW上田綺世は今回のワールドカップで活躍し、チュニジアとの第2戦で挙げた2ゴールも素晴らしいものだった。
だが、世界一を争うチームを牽引する世界的な名手と比べれば、日本はまだまだ上を目指さないといけない。上田が4年後に31歳になる点を考えれば、5大リーグで得点王争いができるような“傑物”を早急に育てなければならないだろう。
“傑物”はどう育つのか? 高体連だからできる育成
では、いかにして“傑物”を育てていくべきなのだろうか。やはり、育成年代から素材を見つけ、刺激を与えながら多くの経験値を積ませてA代表へと送り込む必要がある。高校サッカー界で長年にわたって指導に携わり、今回のワールドカップにも教え子であるDF谷口彰悟が出場した大津高校のテクニカルアドバイザー・平岡和徳氏はこう話す。
「規格外の選手をどうやって育てるかでしょう」
身体能力が高く、サイズがある選手をいかに育てていくか。長年、日本は高身長の選手を育てるのが得意とは言えず、苦労してきた歴史もある。サイズがあったとしても機動力に欠けるケースもあり、時間をかけて育てないといけない。特に中学時代に身長が伸びた選手は成長痛などの影響でプレーができない時間が多く、いわゆるゴールデンエイジの時期にボールを蹴っていないケースもある。そうした選手は遅咲きになる場合があり、トッププロスペクトの選手ではない限り、Jユースに籍を置くのも難しい。そうなると、受け皿になるのは高体連のチームとなる。平岡テクニカルアドバイザーもこう言う。
「高体連は我慢ができるけど、Jユースの場合はなかなかそうもいかない」
時間をかけて育てられるのは高体連の強みであり、選手の個性や性格に合わせた指導がしやすい。そういう意味でも、遅咲きの選手にとって高体連は理想郷と言えるだろう。
多くの選手を育ててきた平岡テクニカルアドバイザーがもう一つポイントに挙げるのは、海外にルーツを持つ選手をいかに育てていくかというところも大事だという。
「今はどのカテゴリーにもいろんなルーツを持った選手がいる。生まれた環境や場所が違っても、日本人の魂を持っている選手が重要ではないでしょうか。アジリティやジャンプ力といった、要するに海外ルーツの選手の潜在的な運動能力は高い場合が多い。異なるルーツを持つ選手はベースがまた違うので、可能性は大きい」
インターハイで躍動する若き才能たち
海外にルーツを持った選手もいれば、日本で生まれ育った選手もいる。昨今、国際結婚も増え、日本にも多様なルーツを持つ選手が増えた。
ガーナにルーツを持ち、アメリカで生まれたGK鈴木彩艶は早くから浦和レッズのアカデミーに加わり、素材を伸ばしながら、GKとしてのベースを積み上げてきた。2017年には15歳ながら飛び級でU-17ワールドカップに出場し、2019年にはひと世代上のU-20ワールドカップに参戦。同年には自分たちの世代でU-17ワールドカップにレギュラーとしてプレーし、2021年にも飛び級で東京五輪を経験した。そうした積み上げがあったからこそ、今夏のワールドカップで目覚ましい活躍を見せたとも言える。同じようにFWでも素材感があり、“傑物”になりそうなストライカーを日本全体で育てていく必要があるだろう。
実際に今夏のインターハイでも遅咲きの選手が可能性を示した。旭川実業高校のストライカー、オニブチジデオフォー太郎だ。182センチで80キロと恵まれた体格とスピードを武器に、1回戦で難易度の高いシュートを次々に決めてハットトリックを達成。ベスト8まで勝ち上がった今夏は1回戦の活躍がハイライトとなったが、飛躍の予感を匂わせた。しかし、今回のインターハイが全国初出場。湘南ベルマーレU-15時代はオスグッドの影響でほとんどプレーができず、高1から高2かけてもケガが多く、満足いく出場時間を得られなかった。それでも地道に冬場は室内でボールコントロールを鍛え、フィジカル面の強化にも注力しながら飛躍する土台を構築。現状では高卒でプロ入りするのは難しいが、大学を経て化ける可能性は大いにあるだろう。
一方で両親が日本人のケースであっても運動能力が高いストライカーはいる。今夏のインターハイでも静岡学園のFW坂本健悟は184センチのサイズに加え、しなやかさとスピードも併せ持つ。ゴール前のクロスに入るセンスがあり、裏抜けもうまい。初戦となった2回戦でハットトリック、準々決勝と準決勝でも得点を挙げて静岡学園の優勝に貢献。得点王にも輝いて自信を深めた。ポストワークなどに課題があるものの、ストライカーとして覚醒する余地は大いにあるだろう。
考えずに「ゴールを奪う」ストライカーの育て方
では、そのようなストライカーに対して、具体的にどのようなアプローチをしていくべきなのだろうか。50年近く高校サッカーに携わり、東海大五(現・東海大福岡)高校や岡山学芸館高校で指導にあたってきた鳥栖のアカデミーゼネラルアドバイザーの平清孝氏はFWの育て方についてこう説く。
「九州には昔から負けん気の強い気質もあったし、絶対に取るっていう思いを持った選手も多い。ジュニア年代からいろんなことができないとダメみたいな感じでいくと、絶対に無理。魅力がある選手は早い段階からゴールを奪う仕事を覚えさせる。もちろん、基本的なことは絶対に必要だけどね」
ゴールに対する意識を植えつける。それは言われて打つのではなく、何も考えずに自然と意識がシュートに向かうようなメンタリティーを指す。身体能力に磨きをかけ、サッカーのイロハを落とし込みながら、ストライカーという特殊なポジションに沿った育成をしていくべきだろう。
日本サッカー界にはさまざまなパスウェイがある
今夏に日本サッカー協会(JFA)は新たな施策をスタートさせる。それが、“JFA×SCO GROUP 「FUTURE CAMP」 inspired by BLUE LOCK”という海外版のトレセン活動だ。日本にルーツがあり、海外で生活している選手を一堂に集め、タレントを発掘していく。8月3日から6日までアメリカのカリフォルニア州で実施され、U-16日本代表の廣山望監督らがコーチとして参加する。選手発掘のルートを拡充しながら、預かった選手にどうやって刺激を入れていくか。根気がいる作業でもあるが、日本の未来を占う上では必要不可欠だ。
日本サッカー界にはさまざまなパスウェイがある。街クラブ、Jジュニアユース、中体連といった3種(中学生)年代から2種(高校生)年代に進んでいく。2種でも高体連、Jユース、街クラブによってカラーが異なり、幼い頃から将来を嘱望されてきた選手はJユースでさらに経験を積んで早い段階でプロデビューを飾る環境があればより伸びるし、高体連や街クラブのようにJユースから漏れたものの、遅咲きの選手が3年間を通じて力をつけるパターンもある。高校卒業後にプロになれなかったとしても、日本には大学サッカーという受け皿もある。
そうした多くのパスウェイがあるなかで、JFAも早くから海外サッカーを体験できるように身体的に有望な選手を短期留学という形で世界各国のクラブに2週間ほど送り込んでいる。“育成年代応援プロジェクト JFA アディダス DREAM ROAD”という取り組みも今年で4年目を迎えており、そうした取り組みがストライカーを育てていく土台にもなる。
その上で日本サッカー全体を通じて一貫した取り組みやノウハウを共有し、ストライカーに必要な要素をいかに教え込んでいくか。過去に元U-20日本代表監督の内山篤氏(現ガンバ大阪コーチ)が「海外の選手はウォーミングアップ前の遊びでまずパス回しはやらない。シュートを打つんだよね」と話していた。そうした文化の違いもまだまだある。サッカーはゴールを奪うスポーツ。そういう価値観をしっかり植えつけていくことも、バロンドールを狙うような“傑物”を育てる上で大事になるだろう。
<了>
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