優勝を掲げた森保ジャパンは何を残したのか。ブラジル戦の「後出しじゃんけん」と3期目続投の是非
優勝を目標に掲げて臨んだ北中米ワールドカップで、日本代表はブラジルに逆転負けを喫し、ラウンド32で敗退した。前半は佐野海舟のゴールでリードしながら、相手が戦術を変更した後半は防戦一方の展開に。帰国後の総括会見では、森保一監督が自身の采配への悔しさを口にした。ブラジル戦を中心に森保ジャパンの現在地を検証し、森保監督に3期目を託すことの是非を考える。
(文=藤江直人、写真=松尾/アフロスポーツ)
森保監督が制した「最初のじゃんけん」
先発メンバーの決定から交代カードの人選や切り方、もっと言えばその試合に臨む上でのフォーメーションや戦術を含めた采配を、日本代表を率いる森保一監督は「じゃんけん」に例えた。
じゃんけんを繰り広げる相手は、もちろん対戦チームの監督となる。その観点で見れば、FIFAワールドカップ北中米大会における最後の戦いとなったブラジル代表戦はどうだったのか。
アメリカから帰国した7月2日。羽田空港から直行した東京・文京区のJFAハウスで臨んだ総括会見で、森保監督は佐野海舟のゴールで1-0と折り返した前半を次のように振り返った。
「まずはスタートの時点で相手を想像して、相手を上回る準備をしてきたなかで、試合が始まれば今大会であればハイドレーションブレイクが設けられていたので、その3分間でどのような振り返りをして、どのように戦術的な修正をして戦っていくのか、というのがありました」
最初のじゃんけんで、森保監督はブラジルのカルロ・アンチェロッティ監督に勝った。
自陣でコンパクトな守備網をキープ。ボール回しをせざるをえないブラジルの焦りを誘い、青写真通りにセンターサークル内で安易な横パスを佐野がカット。そのままドリブルで突破するカウンターを発動させて、ペナルティーエリアの外からゴール左隅へミドルシュートを突き刺した。
ヴィニシウスの配置変更で一変した後半
しかし、ハーフタイム明けにアンチェロッティ監督が新たなじゃんけんを挑んできた。
前半終了間際に左太もも裏を痛めた中盤のルーカス・パケタに代えて、フォワードのエンドリッキを投入。19歳のストライカーを前線の真ん中に陣取らせ、マテウス・クーニャを一列下げさせ、さらに前線で自由にプレーしていたヴィニシウス・ジュニオールを得意の左サイドでプレーさせた。
前半から日本の脅威になっていたヴィニシウスにボールが入ると、日本は冨安健洋と堂安律、あるいは堂安と伊東純也ら複数人で止めにいった。必然的に左右の幅を広げられ、ブラジルの最終ラインの選手、特にセンターバック(CB)が手薄になった中央に次々と顔を出す展開になった。
後半11分にボランチのカゼミーロに頭で決められた同点ゴールは、CBのガブリエウ・マガリャンイスが利き足の左足であげたアーリークロスを、ファーサイドで決められたものだった。
同点とされる前にも決定的なピンチを招いていた展開を、森保監督はこう振り返っている。
「じゃんけんで試合中にあいこはない。どちらかが手を出したら、後出しじゃんけんで相手を上回れるようにする応酬だと思っています。アンチェロッティさんがこれまでやってきた戦術的な変更という意味では、選手たちに『シンプルにクロスを上げてくる』かもしれないと伝えていた。そこでボール保持者にアタックせず、最終ラインが引きすぎてしまえば結局はやられてしまうので『ボールを奪いにいこう』とも伝えていた。それができたかどうかは結果論で、みなさんに評価いただければ」
【キャッチ】
「めちゃくちゃ悔しい」交代策に残った指揮官の後悔
ならば、森保監督は後出しじゃんけんで何をしたのか。それでブラジルを上回れたのか。
指揮官が最初の交代カードを切ったのは、同点とされてから10分後の後半21分。左右のウイングバックを、左は中村敬斗から鈴木淳之介に、右は堂安から菅原由勢にそれぞれ入れ替えた。
守備でも奮闘していた中村と堂安にかかる負担は大きかった。一方で鈴木淳も菅原もディフェンダー登録の選手であり、アタッカーでもあるファースチョイス組と比べると前への推進力は落ちる。後出しじゃんけんで敗れた日本は、左右の翼だけでなく劣勢の流れを押し戻す術も失った。
防戦一方になった後半を、森保監督は「後悔」や「悔しさ」という言葉を介して振り返る。
「いまの心境を言えば、自分に対してめちゃくちゃ悔しくて残念に思っています。試合を振り返ったときに、交代カードを含めた采配でチームを勝利に導けたとも考えられるので。押された展開で相手がやろうとするプレーに、選手たちはほとんどのところでは対応できていた。それが完璧だったのかと言うと、失点してしまったところはサッカーでは起こり得るものなので、受け身の展開になったのが悪いのではなく、守り切って攻撃に移れるように力をつけていかなければいけない」
指揮官としてヨーロッパの5大リーグすべてで優勝。さらに最高峰の舞台となるUEFAチャンピオンズリーグもACミランで2度、レアル・マドリードでは3度制しているイタリア出身の名将アンチェロッティ監督とのじゃんけんで、後出しをしても勝たせてもらえなかった。
相次ぐケガと、出番を得られなかった若手
主力選手にケガが続いた影響は否定できない。南野拓実と三笘薫が選外となり、開幕直前に遠藤航も離脱。オランダ代表とのグループステージ初戦で久保建英が左膝を痛めて離脱し、スウェーデン代表との同最終戦でも遠藤からキャプテンを引き継いだ板倉滉が前半途中でベンチへ退いた。
板倉はブラジル戦でもベンチからチームを鼓舞する役目を担った。ブラジル戦の後半33分に田中碧と交代した鎌田大地も右足の内転筋を痛めたためだった。久保はブラジル戦で3試合ぶりにベンチ入りを果たしたがプレーはできず、2度目のワールドカップを75分間のプレーで終えている。
ただブラジルもパケタだけでなく、ハイチ代表とのグループステージ第2戦で負傷退場した主力フォワードのラフィーニャも、スコットランド代表戦に続いて日本戦を欠場している。それでもパケタに代わったエンドリッキと同じ19歳のラヤンが、ラフィーニャの穴をしっかりと埋め続けた。
ひるがえって日本はどうだったか。サプライズ選出に映った21歳の塩貝健人、開幕直前に21歳になった後藤啓介の両フォワードはともに1試合、6分間の出場に終わった。手薄になったシャドーを補える存在として期待された24歳の鈴木唯人も1試合、12分間プレーしただけだった。
いずれの選手もゴールがほしかったブラジル戦をリザーブのままで終えている。遠藤の代わりに追加招集され、後半33分に伊東純也に代わって前回カタール大会を含めて初めてワールドカップのピッチに立ったシャドーの町野修斗も、残念ながら流れを変えるプレーは見せられなかった。
「26人の選手がいるなかで全員が横一列かと言われれば決してそうではなくて、序列を決めて出場をしてもらうところを考えていました。練習で明らかに他の選手を上回っている選手がいれば、その選手を出します。練習を見たなかで使うか、使わないかを決めた部分はあります」
選手起用に関してこう言及した森保監督は、さらに塩貝や後藤らへ向けてこう語っている。
「若手に関しては、もちろん育成枠として選んだなどとは考えていません。それでも若手を含めた初出場の選手たちがワールドカップの基準を知ったのは、使われなかった悔しさとともに必ず今後の成長につながっていく。彼らをなぜ使わなかったのか、という理由にはならないですけど」
「10回に1回」から勝負できる段階へ
ワールドカップで優勝経験のある強敵のドイツ、スペイン両代表をともに逆転劇の末に2-1で撃破。世界を驚かせた前回カタール大会のグループステージ初戦と第3戦を、森保監督は「10回戦って1回勝てるかどうか、という戦い方をしたと思っています」と位置づけてきた。
あれから3年半。日本代表史上で初めて2大会続けて指揮を執り、チームの目標として「優勝」を掲げて今回のワールドカップに挑むまでの変化を森保監督はこう振り返っていた。
「例えば2対8だったボール保持率を含めて、これまでの間にすべてを逆転できるかと言えば、それは不可能です。五分五分と言いたいところですけど、まだそこまでは至っていないのが正直な思いです。ただ、成功体験はやはりすごいと言うか、勝負強くなっていますよね。勝つか負けるかわからない勝負にはもっていける、というくらいの段階まではきているかな、と」
指揮官の自信を裏づける一戦となったのが、通算14度目の対戦でブラジルから初勝利をあげた昨年10月の国際親善試合だった。味の素スタジアムで前半を0-2で折り返した日本は、守備陣のテストを行っていたブラジルから3連続ゴールを奪った。森保監督はさらにこう続けていた。
「圧倒して勝つというイメージだったら、多分無理だと思います。でも、いまの選手たちは厳しいけれども何とかなる、勝つチャンスがあると思いながら戦ってくれている。アグレッシブさと我慢強さの両方を抱き続けて、最後まで戦い抜いてくれるメンタリティーをもっている」
イラン戦から変わらなかった試合の流れ
くしくもブラジルとの再戦で、圧倒的な差を突きつけられた。ボール支配率で30%に対して61%と上回られるのは覚悟の上だったが、シュート数で5対19、枠内シュート数で2対7と後塵を拝し続けた。特に後半は防戦一方となり、延長戦に突入する直前で耐えてきた守備網が決壊してしまった。
「交代の選手をどのように送り込むのか、というところが変わっていれば、ひょっとしたら結果も変わっていたかもしれない。そこはいろいろな選択肢があったと自分自身も考えています。ただ、ケガ人を含めていろいろなアクシデントがありましたけど、常日頃から言ってきた『想定外も想定内』だと思って現実に向き合い、ピッチ内でもピッチ外でもベストを尽くせたと思っています」
総括会見でこう語った森保監督は、ベストメンバーだったら、という思いへの答えを封印した。しかし、ブラジルとのじゃんけん合戦に後出しでも勝てず、試合の流れをもっていかれたままになった後半の戦いぶりは、2024年2月のイラン代表とのアジアカップ準々決勝を思い出させた。
3大会ぶりの優勝を狙った日本はイランのロングボール戦法に苦しめられ、交代枠を一つ残したまま試合終了間際に1-2と逆転された。森保監督が3枚目と4枚目の交代カードを切ったのは、ロングボールから献上したPKを決められた直後のアディショナルタイム8分だった。
選手の成長と、森保監督3期目への問い
選手たちは悔しさを糧に成長した。23歳の鈴木彩艶は守護神として君臨し、上田綺世はオランダリーグで得点王を獲得。佐野や中村はプレミアリーグへのステップアップが報じられている。
しかし、厳しい言い方をすれば、森保監督だけが変わっていない現状がブラジル戦で露呈した。人格者であり、選手から慕われ、チームを戦う集団へとまとめ上げる術は誰もが認める。ただ、特に選手交代を含めた采配で勝利を引き寄せられたかと問われれば、残念ながら答えはノーとなる。
32チームが臨むノックアウトステージ初戦での敗退と、想定よりかなり早くワールドカップの舞台を去った森保監督は、自身の今後を問う質問にこう答えるに留めている。
「これから少し休んで、そこから大会の振り返りをしたい。いま決まっているのはそこまでです」
報道によれば、日本サッカー協会は森保監督へ続投オファーを出す方向で調整に入ったとされる。しかし、契約期間は次回ワールドカップが開催される2030年までの4年間ではなく1年間と短期のもので、その間の来年1月から2月にかけてはサウジアラビアでアジアカップが開催される。
4大会ぶり5度目のアジアカップ優勝は、9月下旬から活動を再開させる代表チームに課された至上命題となる。森保監督が応じるかどうかはともかく、異例にも映る1年間の続投オファーには指揮官の手腕を、アジアの頂点を決める戦いを介して見極める意味も込められていると言っていい。
<了>
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