中学で控えでも遅くない。U-19日本代表GKの父ノグチピントが貫く“考えさせる”育成論
最後尾でゴールマウスを預かる――。一人だけ違うユニホームを身に纏い、チームのピンチを救う。GKはサッカーにおいて、ヒーローになれるポジションだ。ただ、それを担える人材を育てるのは簡単ではない。指導者は選手とどう向き合い、力を伸ばしていくか。育成年代のGK指導に長年携わり、自身の息子ノグチピント天飛もGKとしてU-19日本代表に名を連ねるノグチピント エリキソンフランキ氏はどのような考えで選手の未来に触れてきたのだろうか。
(インタビュー・文・撮影=松尾祐希)
中学時代は控えでもいい。“伸びるGK”に共通する条件
誰が花開くかはわからない。中学時代に二番手でレギュラーではなかったとしても高校で一気に伸びるパターンもあるし、世代別代表に入っていてもうまくいかないケースもある。ノグチ氏は言う。
「高校生くらいまでは二番手でもその先で花開く可能性がある。実際に(大成高校で指導した現在ガイナーレ鳥取でプレーする)バーンズ・アントンは中学生の頃にレギュラーではありませんでした。二番手でも可能性を見て、チームに加えて成長させられる。中学時代までに活躍していてもうまくいかないケースはあります。例えば地区や県の選抜に入った選手であっても消えていくケースもある。
代表に入ったとしてもそうです。サイズもあり、スキルもある。でも、達成感を得て安心してしまうのかもしれないけど、燃え尽きてしまう。絶対に上に行くという強い意志が必要だし、そういう時にライバルがいると、焚きつけられる。このタイミングで代表に入ったら勘違いしてしまうというケースも見られるので、そこは神経を使うべきではないでしょうか」
もちろん、世代別代表入りやプロ入りだけが成功ではない。高校3年間や大学4年間をやり切って別の道に進むこともある。そうした選手の目標に合わせて指導していく考えも重要で、ノグチピント氏はそうした視点も持って指導にあたっていると話す。
「チームが預かった選手をどう育てたいかが大事だと思います。選手の目標を聞きつつ、プロまで持っていきたいのか、それとも高校レベルで活躍をさせたいのか。目先の目標で変えていく必要はあります。例えば、身長が低くても3年間でチームのために何かこいつは残してくれそうだな、腐らずに最後までやり抜けそうだなと考えて選手を獲得するケースもあります。一方でプロを目指すのであれば当然要求は上がりますし、僕らもそれなりに厳しいことを求めますね」
「選手自身に考えさせる」ことの重要性
指導者に求められる“目”。選手がどこを目指しているのか、チームにどういう影響をもたらすのかも含めて、未来を一緒に作っていく必要がある。そうした地道な積み重ねを経て、次世代のGKをいかに育てていくのか。意欲があるのは大前提だが、性格的な要素も成長のために関わってくるという。
では具体的には何が求められるのだろうか。ノグチピント氏の息子で柏レイソルU-18から筑波大学に進んで現在はU-19日本代表にも入っている次男・ノグチピント天飛と接する中でもそうだが、選手自身が考えることを促す点だ。
「自分よりも大きいんですよ」
183cmのノグチピント氏はニヤリと笑いながら、息子の話を始めた。柏のアカデミーで育ち、各年代の世代別代表に継続して招集されてきた。高校時代はケガに泣かされて思うように活躍できなかったが、190cmのサイズと洗練されたGKスキルは同世代のGKにおいてトップクラスの類に入る。GKを始めたのも自然な流れだったという。
ノグチピント氏が当時プレーしていたタイのクラブを退団して帰国した時だった。家族で食事をした際に報告があった。「レイソルのセレクションに行って合格したよ」。小学3年生だった息子からの報告に思わず、頬が緩んだ。自身も席を置いた古巣のユニホームに息子が袖を通す。その事実がうれしかったが、それ以上に喜んだのが事前に父へ何も伝えなかったことだ。
「僕からしたらセレクションを受けるのであれば、一言言ってくれれば、知っているスタッフに受験の事実を伝えていたと思うんです。でも、そういうのではなく、自分の力でつかみ取りたいという気持ちがあったから言わなかったと。最初はフィールドプレーヤーで受けて、GKの適性も見たいということだったんです。結果的には、名前を見れば自分の息子というのはわかるので、GKで取りたいという目線にレイソル側がなったのもあると思うんですけどね」
「お前はどう思うの?」考える力を育てるGK指導論
自分の力でつかみ取った権利。そこから努力を重ねてきた。自身の背中を追う息子に対し、父は何も言わなかった。息子が小学生の頃である。近所の公園で一緒にボールを蹴った際、GKの技術に関しては思うことがあっても言葉を飲み込んだという。
「ある時、『GKグローブをはめるから、パパ蹴って』って言うんですよ。天飛に僕が蹴ると、結構衝撃的でグラウンダーのボールを足を広げて取っていたんです。『レイソルで教わったの?』って聞くと『そう』と言うので、僕の考えもあったので『大丈夫なの?』って聞いたら、『大丈夫』だと。足を広げて取ると後ろに逸らした際に股下を通るリスクがある。肘も開いてしまうので倒れた瞬間に後ろに逸らす可能性もあります。でも、僕はそれ以上何も言わなかったんです。クラブを信じて預けているし、そこで僕の考えを押しつけたら彼自身も混乱するので」
GKコーチによって指導理論は異なる。指導者によって違った考えがあり、その結果混乱する選手も少なくはない。そうした状況を生まないためにもノグチピント氏は口を挟まなかった。もちろん、アドバイスを求められれば、答えるケースもあったが、あくまで選手自身が考えるという大前提を踏まえて一つの意見として伝えて絶対ではないことを強調していた。
「このプレーに対して、『パパはどう思う?』って聞いてくるけど、その時に僕は『お前はどうなの?』って言うようにしていました。要するにどういう考えでプレーをしたのか。同じ場面があった時に次の対策はあるのかと。そうすると、答えてくる。なので、あくまで答えを引き出してあげることに徹していました。結局は僕が考えることではない。あくまでも選手がどうするかなんです。すると、途中から変わってきて、聞くよりも『このプレー見てよ』といった具合で自分の考えを言ってくるようになったんです。そうすると、僕も『なるほど。そういう考えで選んだのか』と僕自身すごく勉強になることが多かった。高校2年生くらいからはそんな感じでしたね」
導くのではなく寄り添う。ノグチピントが貫く育成哲学
選手に寄り添う。決して考えは押しつけない。それはGKコーチとして選手に接する時も変わらない。
「車に例えるなら、助手席に乗って道路から外れていないかを見てあげる。外れたときにハンドルを助手席側から握って方向を変えるのではなく、あくまで大丈夫かと声掛けをしてあげて、自らの意思でハンドルを切る。多少のトラブルは仕方がない。教えるという意味ではタイミングが大事。遅すぎてもダメだし、早すぎてもダメ。人の感情や考えていることをしっかり見て、今の状況はどうなんだろうなっていうのはめちゃくちゃ気にしていますね」
考える力をいかにつけさせるか。選手を混乱させないために寄り添いながら、最適解を導き出してあげる。そうした取り組みが良いGKを育てる上で不可欠。ノグチピント氏の挑戦は終わらない。新たな逸材を上のステージに送り出すべく、今日もグラウンドに足を運ぶ。
【連載前編】鈴木彩艶は「次元が違う」。ノグチピントGKコーチが明かす、育成年代の才能の見抜き方
<了>
「木の影から見守る」距離感がちょうどいい。名良橋晃と澤村公康が語る、親のスタンスと“我慢の指導法”
なぜ鈴木彩艶はオランダの決定機を防げたのか。セリエAで刻まれた“2つの好守”への伏線
「日本人GKは世代を超えて実力者揃い」松永成立が語る、和製GKの進化。世界への飽くなき渇望
日本で「世界一のGK」は育成できない? 10代でJデビューして欧州移籍。世代を超えて築く“目標設定”
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
「小学生の全国大会が一つしかない」Fリーグ引退・森岡薫、GM転身で目指すフットサル界の改革
2026.10.22Career -
世界3位ドイツ戦で見えた、なでしこジャパンの変化。新体制で増えた選択肢と残された課題
2026.10.14Opinion -
世界1位・松島輝空も安全圏ではない。卓球で相次ぐ大番狂わせ、101位が中国女王を破った背景
2026.10.13Opinion -
「自信を失った経験がない」瀬古歩夢、4戦連続先発で示した成長。森保ジャパンで高まる存在感
2026.10.09Career -
五輪から外れた空手、世界1億人に広がる現在地。アジア大会金・尾野真歩が伝えたい「日本の形」
2026.10.09Career -
フットサルで磨いた判断は欧州サッカーでどう生きるのか。浅野蓮の可能性を広げた育成と「環境を選ぶ力」
2026.10.09Training -
「空手が楽しくない」からアジア大会金メダルへ。尾野真歩、4年間届かなかった日本代表と“自分の空手”
2026.10.09Career -
欧州に挑む16歳・浅野蓮の感性はいかに育ったのか。上田綺世も輩出したmalvaに学ぶ「正解」を教えない育成
2026.10.07Training -
「きれいごとを貫いて、利益にする」東京ドーム社長・斎藤裕が描く“4万坪の街”への夢
2026.10.06Business -
東京ドームはどう変わる? 4月就任の斎藤裕社長が語る「4万坪のエンタメの街」の新たな可能性
2026.10.06Business -
「国内組」からなでしこジャパンへ。アジア大会3連覇で見えた現在地と、W杯への生存競争
2026.10.05Opinion -
14歳でFリーグ最年少記録、英2部QPRのトライアルでも3得点。日大藤沢・浅野蓮が語る欧州での手応え
2026.10.05Career
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
フットサルで磨いた判断は欧州サッカーでどう生きるのか。浅野蓮の可能性を広げた育成と「環境を選ぶ力」
2026.10.09Training -
欧州に挑む16歳・浅野蓮の感性はいかに育ったのか。上田綺世も輩出したmalvaに学ぶ「正解」を教えない育成
2026.10.07Training -
「24時間、君はプロなんだよ」RB大宮・西村卓朗SDが語る“伸びる選手”の条件。その原点にあった苦悩
2026.10.01Training -
「20時でスマホを切る」原田衛の“休む力”。「ラグビーができる期間は限られている」日本代表の現在地
2026.09.11Training -
なぜ優秀な若手がドルトムントに集うのか? 世界中の才能を引き寄せる「5年後、10年後」の育成戦略
2026.09.08Training -
県4部だった豊川高校が、なぜ4年で全国大会へ? 山梨学院を日本一に導いた監督の挑戦
2026.09.07Training -
「黄金世代」は育成の失敗なのか? なぜ世界の強豪国は“偉大な才能”を育て続けられるのか
2026.09.02Training -
イングランドが育成で大切にする「3つの言葉」。選手の限界を決めない“正解がない”指導とは
2026.09.01Training -
なぜ強豪高校サッカー部員を集めてフットサル交流戦? 新たな育成策から日本代表候補6人が生まれた理由
2026.09.01Training -
なぜ世界王者スペインはゲームを支配できるのか? 「ポゼッション」の奥にある“ゲームを止めない”技術
2026.08.20Training -
コーチを超える選手はどう育つ? 主体性を引き出すためのコーチング実践論
2026.08.10Training -
選手を支配せずに、どう伸ばす? スポーツ心理学者に聞く「自立を支えるコーチング」
2026.08.07Training
