
[甲子園 勝利数ランキング]都道府県別・学校別で見る、過去10年「甲子園の主役」はどこ?
高校野球は昨年、夏の甲子園が100回大会の区切りを迎え、新元号「令和」の訪れとともに新たなフェーズに突入する。高野連が掲げる「高校野球200年構想」のもと、次の100年に向けてスタートを切るわけだが、近年叫ばれ続けている球数問題や過密日程など、解決すべき課題は多い。
そんな中、新時代の高校野球を牽引する学校、都道府県は果たしてどこになるのか――。2010年から今春までの春夏甲子園の成績をもとに、「今、最も強い学校、都道府県」はどこかを探ってみる。
(文=花田雪、写真=Getty Images)
学校別で圧倒的1位の大阪桐蔭 その要因は?
過去10年間の甲子園通算勝利数を見ると、1位は断トツで大阪桐蔭(大阪)。2010年夏から今春センバツまで、19回行われた甲子園に12回出場し、6度の優勝を遂げている。42勝は2位の八戸学院光星(青森)の20勝にダブルスコア以上の差をつけており、近年の高校野球界がいかに大阪桐蔭を中心に回ってきたのかが如実に分かる数字となった。
(※ランキングはページ下に記載)
2度の春夏連覇は100年を超える甲子園の歴史においても、大阪桐蔭しか成し遂げていない偉業だ。PL学園(大阪)、横浜(神奈川)といった全国にその名を轟かせる名門野球部ですら、春夏連覇は1度ずつ。高校野球で「勝ち続ける」ことがいかに難しいかがよく分かる。
そもそも高校野球はプロ野球と違い、3年周期で選手がすべて入れ替わる。メンバーが替われば、当然戦力も大きく変動する。そんな中で、「負けたら終わり」の高校野球においてコンスタントに勝ち続ける大阪桐蔭の強さの理由は、どこにあるのか――。
全国屈指の名門・大阪桐蔭野球部には、毎年のように有望な中学生が入部してくる。彼らは皆、入部してきた段階から「甲子園出場」ではなく「甲子園優勝」、もっといえばさらにその先の「プロ野球」を目指している。その意識の高さが、伝統として代々受け継がれているのだ。
そして、その伝統をつくり上げ、継承しているのが、監督の西谷浩一だ。
筆者も回数こそ多くないが、西谷監督の話を聞いたことがある。その中で特に印象的だったのが、明確に「日本一」という言葉を何度も発するということだ。高校野球界には名将と呼ばれる監督は数多くいるが、西谷監督ほど意識して「日本一」という言葉を口にする者はいない。
常日頃から「日本一」を口に出し、選手たちに頂点を意識づけする。
言葉だけではない。例えば、年始に行われるラグビーの高校日本一を決める花園の決勝に選手を連れていったり、高校野球とはカテゴリーの違う社会人野球の日本選手権決勝を部員に観戦させることもある。どんな形であれ「日本一」をその目で見て、実際に体感させる。そういった意識づけの段階から選手たちに勝つことを意識させ、それが結果へとつながっているのだ。
昨夏、大阪桐蔭は根尾昂(中日)、藤原恭大(ロッテ)、柿木蓮(日ハム)、横川凱(巨人)といった、同年ドラフトで4人をプロに送り込んだ圧倒的な戦力を武器に春夏連覇を達成した。彼らの世代は2017年センバツも含め、甲子園で3度の日本一を経験している。
今年は彼ら「最強世代」が抜け、センバツの出場を逃し、春の大阪大会でも5回戦敗退と決して大阪桐蔭らしい強さを見せられてはいないが「日本一を強く意識する」伝統がある限り、まだまだ高校野球界における大阪桐蔭の時代は続いていきそうだ。
東北勢はいまだ優勝無しも、学校別ベスト10に3校ランクイン
勝ち星2位の八戸学院光星は、校名が光星学院だった2011年夏からの甲子園3季連続準優勝もあって、この10年で20もの勝ち星をあげている。ただし、東北勢悲願の甲子園優勝にはまだ手が届いていない。
7位の聖光学院(福島)は昨年まで夏の甲子園に12年連続で出場。県内では無類の強さを誇るが、甲子園ではベスト8どまり。仙台育英(宮城)も聖光学院と同じ16勝をあげているが、2015年夏の準優勝など、あと一歩で優勝を逃している。
甲子園優勝は東北勢の悲願だが、ベスト10に3校がランクインしていることから分かるように、決して実力が劣るわけではない。事実、昨夏は金足農(秋田)も決勝進出を果たすなど、これまで東北勢の甲子園決勝進出は春夏合わせて12回。その12回すべて敗れているというデータは確かに不吉だが、令和の高校野球界で東北勢が悲願の初優勝を果たす可能性は高いといえるだろう。
都道府県別は大阪が圧倒 北関東勢も目覚ましい活躍
都道府県別で見ると、大阪が59勝で他県を圧倒。このうち前述の大阪桐蔭が42勝をあげているのだから、この結果は納得といえる。2位は46勝の東京だが、夏は東西2校が出場し、春のセンバツも1枠が確保されている「出場枠」に恵まれている印象が強い。
3位以下は埼玉、神奈川、群馬と関東勢が続くが、埼玉勢は2017年に花咲徳栄が県勢として夏の甲子園初優勝。群馬も2013年夏に前橋育英が甲子園を制している。7位の栃木も近年は作新学院が甲子園で好成績をあげている。関東地方は伝統的に甲子園でも強さを発揮してきたが、ここ数年は特に群馬、栃木といった北関東勢の活躍が目覚ましい。
一方、甲子園でなかなか結果を残せていないのが鳥取と島根。過去10年、10大会であげた勝ち星はわずか2。出場しても、ほとんどが初戦敗退という現状だ。そもそも学校数が絶対的に少なく、相対的に県の高校野球レベルを押し上げるのが難しいという事情もあるが、10年間で2勝というのはやはり寂しい数字だろう。この2県を含む中国地方は、広島が17勝と気を吐いている以外は軒並み低迷が続いている。
過去10年間の甲子園を振り返ってみると、大阪桐蔭を中心とした大阪勢が圧倒的な数字を残しながら、関東勢がそれに追随し、東北勢が着実に力をつけてきているということが分かる。
果たして、「次の100年」で甲子園の主役となるのは、どの高校、どの都道府県になるのだろうか――。
<了>
[高校別 春夏甲子園通算勝利数ランキング]
1位 大阪桐蔭(大阪) 42勝
2位 八戸学院光星(青森) 20勝
3位 日大三(東京) 18勝
4位 作新学院(栃木) 17勝
4位 東海大相模(神奈川) 17勝
4位 敦賀気比(福井) 17勝
7位 仙台育英(宮城) 16勝
7位 聖光学院(福島) 16勝
9位 履正社(大阪) 15勝
9位 明徳義塾(高知) 15勝
11位 浦和学院(埼玉) 14勝
11位 興南(沖縄) 14勝
13位 健大高崎(群馬) 13勝
13位 龍谷大平安(京都) 13勝
15位 花咲徳栄(埼玉) 12勝
15位 智弁学園(奈良) 12勝
15位 智弁和歌山(和歌山) 12勝
19位 盛岡大付(岩手) 10勝
19位 前橋育英(群馬) 10勝
19位 関東一(東京) 10勝
19位 三重(三重) 10勝
18位 済美(愛媛) 11勝
19位 秀岳館(熊本) 10勝
24位 常総学院(茨城) 9勝
24位 木更津総合(千葉) 9勝
24位 東邦(愛知) 9勝
24位 報徳学園(兵庫) 9勝
24位 広陵(広島) 9勝
24位 鳴門(徳島) 9勝
30位 早稲田実(東京) 8勝
30位 天理(奈良) 8勝
32位 花巻東(岩手) 7勝
32位 近江(滋賀) 7勝
32位 九州国際大付(福岡) 7勝
36位 北海(北海道) 6勝
36位 横浜(神奈川) 6勝
36位 東海大甲府(山梨) 6勝
36位 日本文理(新潟) 6勝
36位 星稜(石川) 6勝
36位 大垣日大(岐阜) 6勝
36位 明豊(大分) 6勝
43位 東海大四(北海道) 5勝
43位 金足農(秋田) 5勝
43位 常葉菊川(静岡) 5勝
43位 中京大中京(愛知) 5勝
43位 明石商(兵庫) 5勝
43位 高松商(香川) 5勝
43位 九州学院(熊本) 5勝
43位 延岡学園(宮崎) 5勝
43位 鹿児島実(鹿児島) 5勝
43位 沖縄尚学(沖縄) 5勝
[都道府県別 春夏甲子園通算勝利数ランキング]
1位 大阪 59勝
2位 東京 46勝
3位 埼玉 27勝
3位 神奈川 27勝
5位 群馬 26勝
6位 青森 24勝
7位 栃木 23勝
7位 福井 23勝
7位 兵庫 23勝
10位 沖縄 22勝
11位 奈良 21勝
12位 千葉 20勝
12位 愛知 20勝
12位 高知 20勝
15位 北海道 19勝
15位 熊本 19勝
17位 岩手 18勝
17位 京都 18勝
19位 宮城 17勝
19位 広島 17勝
19位 福岡 17勝
22位 福島 16勝
22位 滋賀 16勝
22位 和歌山 16勝
25位 三重 14勝
26位 石川 13勝
26位 愛媛 13勝
26位 鹿児島 13勝
29位 岐阜 12勝
29位 徳島 12勝
31位 秋田 11勝
31位 茨城 11勝
33位 静岡 10勝
33位 宮崎 10勝
35位 山梨 9勝
35位 新潟 9勝
37位 富山 8勝
37位 山口 8勝
37位 香川 8勝
37位 長崎 8勝
41位 山形 7勝
41位 岡山 7勝
41位 大分 7勝
44位 長野 4勝
44位 佐賀 4勝
46位 鳥取 2勝
46位 島根 2勝
※集計対象はいずれも2010年センバツから2019年センバツまで
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