ラグビー伝統国撃破のエディー・ジャパン、再始動の現在地。“成功体験”がもたらす「化学反応」の兆し
2019年ワールドカップ以来となる伝統国撃破。7月に行われたウェールズ代表との2連戦で、ラグビー日本代表が1勝1敗と一定の成果を残した。若手主体のチームにとっては貴重な成功体験であり、『超速ラグビー』というコンセプトの下、新たな挑戦が始まっている。だが課題も少なくない。エディー・ジョーンズ体制2年目の現在地を振り返る。
(文=向風見也、写真=アフロ)
伝統国に勝ったのは2019年ワールドカップ日本大会以来
面目は保たれたか。
ラグビー日本代表は7月5日、12日の対ウェールズ代表2連戦を1勝1敗で終えた。
現体制初年度に当たる昨年は、テストマッチで4勝7敗と負け越していた。何よりケガ人続出のなかで迎えた秋のキャンペーンでは1勝3敗。強豪国から大量失点を喫していた。今年に入って初の試合となるこの2連戦の結果次第では、いまの体制が続かない可能性もあった。
果たして5日の初陣は、24―19と僅差で制した。
最高気温34度の福岡でキックオフを迎え、当時17連敗中だった相手をガス欠状態に追い込みラスト10分で逆転した。ヘッドコーチのエディー・ジョーンズが事前に「景観のいいスタジアムで、その日は晴れ。太陽の光がさんさんと降り、暑いなか、運動量で勝ちたいです」と展望した通りの展開だった。
日本がウェールズを下したのは2013年以来、伝統国に勝ったのは2019年のワールドカップ日本大会でのスコットランド撃破以来となる。約9年ぶりに現職に就いて2シーズン目のジョーンズは述べた。
「若手で構成されたチームにとってはいい勝利」
2023年までの約8年間は、ジェイミー・ジョセフ前ヘッドコーチがある程度メンバーを固定して一体感を醸してきた。通算2度のワールドカップにチャレンジする中、長年固定してきた主力がかなりキャリアを重ねていた。
2027年の次回大会へ若手の抜擢は急務で、ジョセフを支えたスタッフの一人も「2024年以降は(誰が指揮を執るにせよ)厳しい戦いになる」と読んでいた。
いわば想定された産みの苦しみを経て、今年のグループは欲しかった成功体験をつかんだわけだ。代表2年目でスクラムハーフの藤原忍はこう話す。
「(ゲームプランに即した)10分ごとの役割を皆が明確にわかっていて、オーガナイズ(全体の統率)がしやすかった」
国際舞台における日常。強度、緊迫感、狡猾さ…
万事に素早くあるべしという『超速ラグビー』というコンセプトのもと、考えのすり合わせがされつつある。
前年度は防御の崩壊が敗因となったが、それも新アシスタントコーチ候補のギャリー・ゴールドの助言で改善傾向が見られた。これから代表資格を得る海外選手の資質との合わせ技で、さらに伸びる可能性もある。
攻防の起点にあたるスクラム、ラインアウトでは、オーウェン・フランクス、伊藤鐘史の両アシスタントコーチの教えに原田衛、ワーナー・ディアンズらが共鳴した。
スクラムでは初戦の終盤でのプッシュを勝因の一つとし、ラインアウトでは2試合平均の自軍ボール獲得率を93.5パーセントにしながら相手ボールのそれを80.5パーセントに止めた。
もっとも、12日は連勝を逃した。22―31。ウェールズ代表がモール、攻め方を修正してきた傍ら、自分たちは課題を改善できなかった。
高い弾道のキックの争奪、攻撃中の接点といった、初戦で後手を踏んだ領域では引き続き手こずった。どちらも、ワールドカップのような一発勝負においては避けられぬコンテストだ。ここで後手を踏む試合が増えると、大一番への期待感は薄まる。
右プロップの竹内柊平は、接点について「ラックに寄る選手(日本代表のサポート役)がそうする前に(ウェールズ代表の防御役が巧妙に)体を当ててきて……」と指摘。国際舞台における空中、地上での球の奪い合いには、多くの選手が普段戦う国内シーンでは味わえぬ強度、緊迫感、狡猾さがある。それが日常だ。
「強い人とのコンタクトを繰り返すほうが、身体は成長できる」
これからはまず、可能な限り選手が海外リーグへ出ることが求められる。
2019年までは国際リーグのスーパーラグビーにサンウルヴズという日本のチームを派遣も、現在この事業は撤退となった。代表選手が国際経験を積めるかは、自己責任によるところが増えた。
現在はスクラムハーフの齋藤直人がフランス挑戦中で、同国帰りとなるテビタ・タタフの代表復帰が待たれる。現役代表では他に、前掲の原田、ディアンズがこれからスーパーラグビーへ挑む。竹内もフランス行きを目指して国内の所属先をやめている。
海外挑戦を控えた原田はこう話す。
「伸ばしたいところは全部。なかでもゲームテンポ、フィジカルのところ(を学びたい)。強い人とのコンタクトを繰り返すほうが、身体は成長できる」
首脳陣がいまの国際競争に即し、コーチングをアップデートできるかも注目される。
セットプレーで前向きな効果が見られる一方、互いのシステムが整った状態での攻撃でラインブレイクが少なかったりと、組織的な戦いに関する伸びしろもなくはない。
2戦目で苦戦したハイボールの競り合いについて、ジョーンズは「(ハイボールキャッチは国内の)リーグワンではあまり重要視されないスキルだが、テストマッチではこだわっていかないといけない。引き続き強化を」と話す。国内リーグのプレースタイルをすぐに変えるのが現実的でなく、かつ誰もが他国のオファーを受けられるとは限らないのだとしたら、限られた代表活動期間での落とし込みは必須だ。
いばらの道を歩み、化学変化を起こせるか
プレーを問う以前の環境も、見るべき点の一つだ。
1987年にワールドカップができた世界のラグビーシーンにあって、件の2019年まで決勝トーナメントに進んだことのない日本代表が恒常的に世界に勝ち続けるようになるには不断の努力が請われるだろう。
これまで複数のナショナルチームに携わってワールドカップのファイナルへ進んできたジョーンズも、「ハードワークができないのなら(代表に)来てもらわなくて結構」。午前中のうちに2部練習が終わるタフなスケジューリングでスタッフ、選手に献身を求める。
いばらの道を歩む必要性については論をまたないのだとしても、あるリーグワンクラブのスタッフは「大袈裟に言えば、選手が『その監督のために命を捧げる』と思えるのかどうかが大事」だと話す。ただしジョーンズ体制になってからは、経験のある選手の招集がさまざまな理由で簡単ではなくなっていると複数の関係者が指摘する。
選手選考と作戦遂行の責任の一切を指揮官が負うという普遍は保ったうえで、かつ、双方の協調関係は見直されたい。
今度の2連戦では、2023年のフランス大会で活躍のジャック・コーネルセンが攻守に奮闘していた。
ここ1年半ほどでジョーンズが「前回のラグビーワールドカップではずっと戦っていた選手に頼っていた。フレッシュなタレントの発掘が課題です」と発掘し、鍛え込んできた中堅年代以下の隊列に、ワールドカップでのトライアルアンドエラーを経験したメンバーをどう融合させるか。その化学変化が興味深い。
<了>
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