なぜ神戸スティーラーズは7年ぶり日本一になれたのか。デイブ・レニーが変えた世界基準の組織改革
リーグワン2025-26シーズンを制し、旧トップリーグ時代の2018年度以来、7年ぶりの日本一に輝いたコベルコ神戸スティーラーズ。その中心にいたのが、今季限りで退任するデイブ・レニー ヘッドコーチだった。2023年の就任当初、チームは低迷期にあった。しかしレニーは戦術以前に、「何を代表して戦うのか」という原点を問い直し、組織文化やコンディショニング、選手間の関係性まで改革。スティーラーズを優勝チームへと変貌させた。本稿では、日本一を成し遂げたレニー体制3年間の歩みを振り返りながら、その手腕とチームに残したものを考える。
(文=向風見也、写真=西村尚己/アフロスポーツ)
「真顔で、冗談を言います」選手が語るデイブ・レニーの素顔
つくづく本質的な人だ。
ジャパンラグビーリーグワンのコベルコ神戸スティーラーズを旧トップリーグ時代の2018年度以来の日本一に導いたのは、ニュージーランド出身のデイブ・レニー ヘッドコーチである。
6月7日、東京・国立競技場での決勝戦。クボタスピアーズ船橋・東京ベイの猛攻を耐え続け、22—13で勝った。ほっとした気持ちで涙ぐんだような瞬間を、テレビカメラに抜かれた。
そのことを問われると、「ストレスでそうなっている」とニヒルな笑み。約30分の会見を通し、互いを「兄弟」と呼び合う選手たちを褒めた。
「大一番でお互いのために努力し、仲間をケアする気持ちを示すことができた。今日は小さな差で勝利した」
恰幅がよく、短髪で、眼光が鋭く、勤怠管理に厳しいけれど部下にはさほど憎まれていない。2019年に来日して23年よりスティーラーズにいるティエナン・コストリーは、端正な日本語で特徴を述べる。
「真顔で、冗談を言います」
前職はオーストラリア代表の指揮官だ。この人が23年までに職を解かれると、空位には現日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズが座り、1年も経たぬうちにやめている。
現役時代にオーストラリア代表のベテランとしてレニーに学び、現在は花園近鉄ライナーズのアシスタントコーチをするクウェイド・クーパーが迷わずに言う。
「私はさまざまな方の指導を受けていましたが、レニーさんはもっとも優秀なコーチの一人でした。あのような素晴らしい人間へのオーストラリア協会の関わり方(任期満了前の解任)には、納得いかない部分がありました」
震災を経験した都市を代表して戦う。レニー体制最初の改革
62歳のボスが神戸に来たのは23年。スティーラーズは直近のリーグワンで12チーム中9位と、戦力と戦績との折り合いがアンバランスに映っていた。
まず打ち出したのは戦う大義だ。製鉄会社、震災を経験した都市を代表して戦うという前提を改めて訴えた。
本人としては「プレーする意味がいろんな場所にあるのは世界中どのチームも同じ。何を代表しているかを理解し、自分よりも大きな存在のためにプレーする」。集団競技で勝つための常識的なおこないと捉えていた。
ただそこにいて、行動するだけで、組織に張りをもたらすのが真骨頂だ。
毎朝7時からのスタッフミーティングを習慣化。試合後の選手の取材対応は、主将らによる公式会見とロッカー内でのミーティングの間の短時間に限定した。他方で仲間内での交歓会では、自ら料理をする姿で知られる。
プレーヤーの勤怠管理のための1on1ミーティングの様子について、コストリーが証言する。
「(選手側は)もちろん緊張するんだけど、まずいいプレーを褒めてくれる。『ここがよくできている。その代わりここを直して』と。(ネガティブに)言われ過ぎることがないから全然、嫌な気持ちにならない。本当に、人間との関係(作り)がうまい」
低迷の原因だったコンディショニングを世界基準へ
本人が自覚するストロングポイントは、「周りに素晴らしい人間を置けること」。力のあるアシスタントコーチを揃える。
厳格な指導者のもとでもさほど組織が硬直化していないのは、そのためである。
パフォーマンスを進化させた右腕には、フィル・ヒーリー氏が挙がる。
ヘッドアスレティックパフォーマンスコーチとして、従来の低迷の理由だったコンディショニングを大幅に改善した。
実戦練習の際は、発生する見学組に走り込みを課す。「(メンバー外を含めた)全員がゲームで求められる強度に耐えられるようにしなければならない」からである。
定型的に各人のハイスピードによる走行距離などを記録し、そのデータをもとに個別のメニュー内容を調整。「それぞれが前週に受けた負荷に対応できるようなタイミングでリカバリー(適切な休息)」を付与し、さらにタフなチャレンジを課す。
「他のチームにありがちなのは、プレシーズンからシーズンを通して徐々に(状態が)下がり、シーズン序盤と終盤のところでパフォーマンスが落ちること。我々にはそれがないように、最後にもピークが来るようにしています」
多くの選手は、あまりケガをせずにとことん追い込まれて底力をつけてきた。果たして、プレーオフ突入後の個々の身体のキレは圧巻だった。
レニー並みに細やかかもしれぬヒーリーをレニーは信じ、また、ヒーリーも自分と第六感が似ているレニーを信じていた。
「練習の強度を見るためにGPSの数値をダウンロードしたとする。それを見ながらレンズ(レニーの愛称)が話す『これくらいの強度で練習したら、これくらいの走行距離になるだろう』という感覚が、私と似ています。コーチ陣は毎日90分くらいかけて、練習メニューについて話します。ここで正しい強度で、必要なラグビーの内容をカバーできるようプランニングします。いろんなチームを見ていると、計画ができていないゆえに練習が無駄に長くなり、かつ正しい強度でできていないというケースもありがちです。だから、(スティーラーズは)正しくプランニングするのです」
サベア加入だけではない。日本一を支えた“組織の成熟”
方針を信用した面々が有機的なつながりを生み、昨季はプレーオフ3位となった。今季はアーディ・サベア、アントン・レイナートブラウンといった、オールブラックスことニュージーランド代表の選出経験者2人が1季限りの参戦。底上げされたグループに爆発力と技巧を上乗せした。
アーリーエントリー(大学4年時からの途中参加)にして新人賞候補の一人である上ノ坊駿介は、フィールド内外のサベアの凄みをこう述べていた。
「いつも優しくしゃべりかけてきて、フランクにハンドシェイクもしてくれる。ただ、オンフィールドでは人格が変わる。試合になれば、相手を×××(極端に威圧的な顔つきに関する極端な言い回し)というのか……。オールブラックスの血が騒いでいるのかなと」
ただしサベアはサベアで、今回は自分一人で勝ったわけではないと強調する。レニーの就任したシーズンにもスティーラーズに限定参加し、3位だったシーズンに参加せずに2季ぶりにチームへ加わると、ミーティングなどで日本人選手がよく話すようになっていたと目を細めた。
「選手たちがたくさん発言をするのは、それぞれが自信を持っている証拠です。今回は、私が何かをするというより、成長した皆にフィットしていくだけでよい」
コストリーらの証言によれば、今季は相手のコピーを務める控え組も首尾よく機能していたという。まさに勝つべくして勝ったとも取れるスティーラーズの今後の課題は、継続性だろう。
改めて、殊勲のサベア、レイナートブラウンはこの日限りで退団する。そしてかねて報じられる通り、今季終了後、レニーはオールブラックスの新ヘッドコーチに就任する。
さらにヒーリーとアタックコーチのマイク・ブレアもレニーとオールブラックスへ入閣。フォワードコーチのダン・マクファーランドはイングランドの名門ニューカッスルへ、ディフェンスコーチのピート・マーチィはウェールズ代表へ渡る。
コストリーが「コーチングはワールドクラス。(好調は)その人たちのおかげでもあります」と称賛し、レニーはそれぞれの進路を引き合いに出し「彼らがどれだけクオリティの高いコーチであるかを表している」と自慢していて、かえって、抜けた穴の大きさが浮き彫りになる。
群雄割拠のリーグワン。レニー体制後のスティーラーズは…
レニー体制後のスティーラーズについて、レニーその人は言う。
「この3シーズンで成し遂げてきたことを誇りに思います。いまチームには素晴らしいスコッド(選手)、来季も素晴らしいプレーヤーが入ると聞いています。我々スタッフは去ったとしてもこのチームへの愛がある。いい成績を収めるのを願っています。私の就任当初はやりたいラグビーのためのフィットネスもスキルも知識もディテールが欠けていた。しかし、皆が努力して(目標を)達成した。今日は23人しかゲームメンバーに選べませんでしたが、それ以外の面々もチームの成功に貢献してくれている。チームはいい状態。優勝争いをする能力は持っています」
コストリーはこうだ。
「来年になったら(新たな指導陣が)何を言うかわからないので(今後の細かい方針については)はっきり言えないんですけど、神戸の DNA はスティールワーカーです。スキルを持っていて、(ポジションを問わず)パスをうまく放れる。(タックル後に)すぐに立ち上がってディフェンスに参加する。このマインドセットが、重要になってきます」
リーグワンは群雄割拠の様相を呈する。ファイナルで戦ったスピアーズはこれからルディケ体制11年目へ突入し、堅守速攻の埼玉パナソニックワイルドナイツとともに覇権争いの軸を担いそう。
やや海外選手が出場しづらくなる新レギュレーションのもと、このほど初のプレーオフ行きを決めたリコーブラックラムズ東京、2017年度以来の日本一へ原点回帰が予期される東京サントリーサンゴリアスも、勢力分布図に影響を与えそうだ。
混とんとしたコンペティションのもと、スティーラーズはボスが変わっても変わらぬ力を誇示できるか。それは今年の冬以降に明らかになる。
<了>
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