MLS NEXT Proで見えたトップへの距離。22歳DF秦英志が語るアメリカサッカーの可能性
米国の短期大学、シアトル大学を経て、2026年3月にヒューストン・ダイナモ2とプロ契約を結んだ秦英志。MLSの下部に位置するMLS NEXT Proで戦う日々は、大学サッカーとは何が違い、トップチームへの距離をどのように感じさせているのか。スポーツビジネスの世界でグローバルに活躍してきた父・秦アンディ英之氏への思い、そしてアメリカサッカーの可能性についても聞いた。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=ヒューストン・ダイナモ)
ヒューストンで始まったプロ生活
――前橋育英高校からフェニックス大学、シアトル大学と、アメリカでステップアップしていく中でプレースタイルに変化はありましたか?
秦:ものすごく変わったと思います。アメリカに来てから筋力トレーニングも頑張ってきたので、まず体重が高校時代から10キロ以上増えて、当たり負けすることは少なくなったと思います。
――2026年3月にヒューストン・ダイナモ2との契約が決まりました。その瞬間はどんな気持ちでしたか?
秦:素直にうれしくて、ガッツポーズしました(笑)。それから、両親に「今までありがとうございます」と伝えました。高校時代、ずっとベンチにいる時期も支えてくれていたので、本当にありがたかったですし、今も心の支えになっていて、離れていても通じ合う部分はあります。
――契約の内容について改めて教えてください。
秦:お金をもらってサッカーだけで生活ができるプロ契約です。期間は2026年末までで、2027年のクラブオプション付きです。
――現在チームはフロンティア・ディヴィジョンで首位を走っています。クラブ側は、秦選手の運動量やプロ意識、複数ポジションをこなせる点を評価していますが、守備が堅いチームで、DFとしてどのような手応えを感じていますか?
秦:練習からみんな高い意識でやっていて雰囲気が良く、そこが首位にいる要因なのかなと思います。チームには若い選手が多くて、22歳の自分が最年長に近い立場なので、経験をみんなに伝えたい気持ちはあります。今はベンチから見守る時間もありますが、そこで腐らない姿勢を見せることも、自分の良さだと思っています。
――ファーストチームに昇格する選手も身近にいますよね。
秦:はい。身近な選手がファーストチームに行くのは大きな刺激ですし、自分もトップチームの選手たちとサッカーをしたいと思っています。
――ファーストチームへの昇格については、今はどのような距離感で見ていますか?
秦:シーズン前に、運よくファーストチームの選手たちに帯同して一緒に練習をしたり、試合をする機会がありました。その中で、自分のできるところとできないところを感じました。ファーストチームには、スペイン1部リーグで優勝した選手や、UEFAチャンピオンズリーグに出ていたような世界のトップレベルの選手が集まっています。自分にはまだまだ足りないところが多いと感じますし、特に伸ばしたいのは判断力です。DFは一つの判断ミスが失点につながる世界なので、そこは常々感じています。
大学とは違うMLS NEXT Proのリアル
――全米大学体育協会(NCAA)1部で戦っていたシアトル大学の環境も非常に良かったと思いますが、プロであるMLSのクラブに入ったことで感じる違いはありますか?
秦:大学の環境も、プロに遜色ないぐらい良かったです。ただ、サッカーのスタイルは違います。大学は縦に速いサッカーが多かったのに対して、MLS NEXT Proはファーストチームがあって、そのクラブの2軍という位置づけなので、トップチームに合ったサッカーを指向しています。狙いを持ってパスをつなぐ場面も多いですし、大学よりは日本のサッカースタイルに近い部分があると感じます。その中でも、MLS NEXT Proでは、後ろからどんどんパスをつないで、リスクを取りながら点を取りに行くサッカーをしている感じがあります。
――強度やスピード感は、大学サッカーと比べてどうですか?
秦:MLS NEXT Proには、アメリカ全土で活躍してきた選手たちがドラフトされて入ってくるので、スピードや個の技術は、大学サッカーに比べると格段に上がっている印象です。
――アメリカに渡られてからもさまざまな環境を経験されていますが、これまでのキャリアで、一番レベル差や環境差を感じたのはどのタイミングでしたか?
秦:前橋育英高校時代です。Bチームではなく、トップチームのサブという立場でしたが、本当に試合に絡めませんでした。同期やチームメートが華やかに活躍しているのを横で見ているのは本当に悔しかったですが、その経験があったからこそ這い上がれたと思います。
逆境で培った適応力と自己表現
――その経験は、どんなふうにアメリカでの挑戦に生きましたか?
秦:フェニックス大学からシアトル大学に移った最初の1カ月も、同じように試合に出られない時期がありましたが、その時は「やり続ければできる」という確かな自信があったので、まったく焦りがありませんでした。そこは高校時代の経験が生きたと思います。
――多民族国家であるアメリカならではの文化や、自己表現の違いを感じることはありますか?
秦:自己表現の部分は本当に鍛えられました。日本から来た時は英語も話せなかったので、少しシャイでしたが、だんだんコミュニケーションができるようになり、人前で歌ったりすることもありました。チームの中では明るく場を盛り上げるようなキャラクターが受け入れられやすいので、いかになじんでいくかを学びました。
――日本人が少ない環境でプレーする孤独感はありますか?
秦:今はあまり感じていません。チームのブラジル人選手たちとも仲が良く、日本の良さを伝えたり、逆にブラジルの良さを教えてもらったりしています。日本人と話しているだけでは味わえない学びや経験になっています。
――全米で4番目の規模を誇る大都市と言われるヒューストンでの生活はいかがですか?
秦:生活はしやすいです。テキサスはすべてが大きくて、布団くらいのサイズのステーキが出てきたりします。州内を5時間くらい運転してもまだテキサス、ということも普通にあるので、そういうスケールの大きさはすごく感じています。
――食事面では、身体を大きくするために意識していることもありますか?
秦:短大時代は体重を増やしたくて、1日4食にしたりしていました。今はチームから昼食は出ますけど、朝と夜は自分で用意しないといけないので、肉をメインにしたり、ヒューストンにあるアジアンスーパーに行って納豆などを買ったりもしています。
――英語でのコミュニケーションも、今は問題なくできていますか?
秦:そうですね。先にアメリカでプレーしていた兄や、ビジネスで英語を使うことが多い父に比べると全然大したことないと思いますけど、自分の思ったことを伝えられるレベルにはなっています。日常生活やサッカーをする中では遜色なく話せるようになってきました。
選択肢が多いアメリカサッカーの魅力
――秦選手のキャリアは、大学サッカーでくすぶっている選手や、海外挑戦でプロを目指す選手にとっても希望になると思います。そうした選手たちに、伝えたいことはありますか?
秦:自分の経験から言えるのは、高校時代や大学時代に目立った実績がなくても、挑戦と努力次第でプロになれる道はあるということです。自分のこれからのキャリアを通して、そういった、くすぶっている選手たちにもっと勇気を与えられればいいなと思います。
――アメリカの大学サッカーの魅力についても教えてください。
秦:アメリカの大学には奨学金があります。NCAA1部になると資金力を誇る大学も多いので、大学側から「お金を出すから来てほしい」と言ってもらえることもあり、プロに近い対応をしてもらえます。そうすると、お金をもらいながらサッカーができて、大学にも通える。そこはアメリカの魅力だと思います。
あとは、プロになるためのチャンスが多くて選択肢が多いことです。アメリカにはMLS、MLS NEXT Proの他に、USL Championshipというプロのカテゴリーがあります。USLはMLSとは別の独立リーグで、アメリカの2部相当と言われています。今はその下にUSL League OneやUSL League Twoがあって、2028年からは昇降格制度を含む形に変わっていく予定です。MLSだけではなく、いろいろな選択肢があることもアメリカの魅力だと思います。
――アメリカサッカー全体の可能性についてはどう感じていますか?
秦:アメリカのサッカーは本当にチャンスしかないと思います。メッシのような歴史上最高の選手がアメリカに来たり、ヨーロッパで全盛期を迎えた有名な選手たちもアメリカに来ています。お金の面でも、サッカーのレベルにおいても、チャンスしかないと感じています。
次の目標はMLSか欧州か。22歳DFが描く未来図
――ここまでのキャリアを振り返って、ご自身にとってどんな道だったと感じていますか?
秦:自分にとっては、これがベストな道だったんじゃないかと思っています。マリノスのジュニアユースでは、遊びのサッカーから真剣なサッカーに変わる分岐点になりました。前橋育英高校では、日本一を目指す集団で揉まれて、人間性の部分も学びましたし、自分がうまくいかない時にどうメンタルを保つかを学びました。アメリカでの4年間は、できなかった時の悔しさを克服して、表現できるようになった時間だったと思います。今のところ悔いはありませんし、いつかサッカーをやめる時に振り返って「やめなきゃよかった」と思わないようなサッカー人生にしたいです。
――10年後、どんな選手になっていたいですか?
秦:将来的にはMLSを目指すのも一つの選択肢ですし、ヨーロッパに行くのも一つの選択肢だと思っています。ヨーロッパはアメリカよりも市場が格段に大きいですし、いろいろな選手と一緒にサッカーができる喜びも、さらに大きいのかなと思います。いつか挑戦したいです。
――最後に、お父様である秦アンディ英之さんの存在についても聞かせてください。アンディさんはアメリカンフットボールの選手として日本一を経験。Jリーグ特任理事、格闘技団体ONE チャンピオンシップの日本法人代表、BリーグクラブのGMなどを歴任され、2025年からスポーツアクティベーションひろしまの代表に就任されるなどスポーツ界で幅広く活躍されています。
秦:父は尊敬している存在です。仕事で忙しく、小さい頃から毎日顔を見られるようなお父さんではなかったんですけど、それでも父は自分に「トップとは何か」ということを見せてくれて、いろいろなことを経験させてくれました。小さい頃から、「お父さんってすごいんだな」と感じていましたし、今はライバル意識のような思いもあって、いつかは超えなければいけない存在だと思っています。父は常にチャレンジしている人なので、自分も将来、そういう人を目指して頑張りたいと思っています。
【連載前編】「高校選手権出場7分」からプロへ。秦英志が前橋育英、米大学経由で切り拓いた異色のキャリア
<了>

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[PROFILE]
秦英志(はた・えいじ)
2003年7月19日生まれ、神奈川県出身。ヒューストン・ダイナモ2所属。ポジションはDF。横浜F・マリノスジュニアユース追浜、前橋育英高校を経て、アメリカの短期大学にあたるフェニックス大学へ進学。同校では全米短期大学体育協会(NJCAA)2部のファーストチーム・オールアメリカンに選出されるなど評価を高め、全米大学体育協会(NCAA)1部のシアトル大学へ編入した。2026年3月にヒューストン・ダイナモ2とMLS NEXT Pro契約を結び、プロキャリアをスタートさせた。両足のキックと複数ポジションをこなすユーティリティ性を武器に、アメリカで新たな道を切り拓いている。
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