「優勝」を掲げた日本代表に何が起きたのか。曖昧なW杯総括で浮かび上がった、選手とJFAのギャップ

Opinion
2026.08.03

堂安律が「W杯は優勝以外目指しません」と発信した言葉は、多くの共感を集めた。一方、北中米大会でベスト32敗退を喫した日本代表は、森保一監督の続投とともに新たなサイクルへ歩み始めている。しかし、続投会見やJFA幹部の発言からは、大会前に何度も掲げられた「優勝」をどのように総括し、次につなげようとしているのかが見えてこない――。選手たちが背負い続ける「優勝」への思いと、指揮官・JFA上層部との間に生じた認識のギャップを追う。

(文=藤江直人、写真=松尾/アフロスポーツ)

堂安が再び示した「優勝」への覚悟

堂安律の決意表明が大きな反響を呼んだ。FIFAワールドカップ北中米大会で日本代表の「10番」を背負った28歳は、7月26日に自身のX(旧ツイッター)へ、こんな文言を投稿した。

「個人的には、W杯は優勝以外目指しません。現実的な目標を掲げた方がいいっていう意見もわかります。でも、日本に帰ってきて一番言われたのは次は優勝してください!の言葉で次はベスト8って言われたことは、一度もありません」(原文ママ)

前キャプテンの遠藤航が2023年3月の第2次森保ジャパンの船出時に唱えた「優勝」の二文字は、いつしか北中米大会へ向けた合言葉となってファン・サポーターの間にも浸透した。

しかし、結果はノックアウトステージ初戦でブラジル代表に逆転負け。優勝に遠く及ばないベスト32で敗退し、帰国したチームに対してはねぎらいの声とともに批判も飛び交った。

堂安がX上で記した「現実的な目標を掲げた方がいい」も批判の一環となる。投稿自体にも賛否両論が寄せられたなかで、キャプテンの板倉滉は握手と炎をそれぞれ意味する絵文字で賛同した。

さらに日本の帰国時に自身のXで次期日本代表監督へ立候補。大きな騒動を巻き起こした元日本代表の本田圭佑も、再びXに「優勝を目指さんでどうする。勘違いしないでどうする」と投稿。さらに「いやいや、現実的?どうでもいい。ビジョナリーであり続けろ」と連投した。

引用元などは記されていないため、本田が何に対して主張したのかはわからない。それでも堂安の決意表明の直後の投稿だけに、共感した本田が日本代表へエールを送ったと見ていいだろう。

「優勝」の総括で言及された「2050年宣言」

対照的に森保一監督はどうだろうか。半年契約での続投が決まり、都内のホテルで記者会見に臨んだ7月24日。前例のないオファーを受け入れた理由を問われた指揮官はこう答えている。

「4年であれ、2年であれ、1年であれ、半年であれ、私自身は2050年までに日本がワールドカップで優勝するという、川淵さんが宣言された目標に向けて、自分に与えられた契約期間の中でやるべきことをやっていく。日本サッカーの発展のためにやっていきたいという思いのなかで話をいただき、私自身も納得してやらせていただいている。そこに関してはシンプルかなと思っています」

森保監督が言及した「川淵さんが宣言された目標」とは、日本サッカー協会(JFA)の第10代会長、川淵三郎キャプテンが2005年元日に発表した「JFA2005年宣言」を指している。

4つの宣言の最後で、川淵キャプテンは「JFAの約束2050」として次のように記している。

「FIFAワールドカップを日本で開催し、日本代表チームはその大会で優勝チームとなる」

しかし、選手たちに呼応するように、森保監督も北中米大会を前にして何度も「優勝」の二文字を口にした。ベスト32敗退という結果に対して、続投会見では次のように言及している。

「結果について悔しい、という思いはもちろんあります。応援してくださった方々に、もっと勝って喜んでいただきたかったし、その点については申し訳ないという気持ちです」

それでも1時間を超えた会見で、今大会で目指していたはずの「優勝」に対しては最後まで言及しなかった。それどころか「JFA2005年宣言」を引き合いに出し、優勝を目指していたのは2050年までの期間だと明言した。森保監督が今大会で「優勝」を目指していなかったと言ったわけではない。それでも、今大会への総括が十分に語られなかった印象は否めなかった。

2030年目標の見直しに残された問い

違和感はJFAの宮本恒靖会長の言葉からも伝わってきた。ロサンゼルス五輪を目指す年代別日本代表の大岩剛監督が兼任する形で、来年3月の国際親善試合から船出する新生日本代表へ求めるものを問われた宮本会長は、北中米大会でベスト8入りしたチームを目標にすると次のように語った。

「前回のワールドカップ(カタール大会)後に『最高の景色を』というスローガンとともにベスト8を目標に掲げましたので、まずはそこを一つの目処に、と考えています。ただ、2030年大会にはベスト4を目指すと2015年の時点で宣言しています。当時とは参加国数も含めて状況も変わっていますし、そういったところは修正も必要なのかなと、いまの時点では思っています」

宮本会長が持ち出した2030年大会のベスト4とは、2015年5月に大仁邦彌会長のもとで制定された「JFA中期計画」を指す。そのなかの「JFAの目標2030」でこう謳われている。

「日本代表チームは、FIFAワールドカップに出場し続け、2030年までにベスト4に入る」

この中期計画を引き合いに出したことも唐突感を否めなかった。さらに出場国が当時の「32」から今大会で「48」に増え、必然的にヨーロッパや南米、アフリカ勢と対戦する頻度が増すからと言って、中期目標をわざわざ下方修正する必要はあったのだろうか。特にヨーロッパ勢に対する森保ジャパンの不敗記録は、ともに引き分けた北中米大会グループステージのオランダ、スウェーデン代表戦を含めて11戦(8勝3分け、カタール大会でPK戦の末に敗れたクロアチア代表とのノックアウトステージ初戦戦は引き分け扱い)に伸びているだけになおさらだ。

北中米大会では日本を破ったブラジルがラウンド16でノルウェー代表に完敗。ノルウェーを準々決勝で破ったイングランド代表も準決勝でアルゼンチン代表に敗れた。最終的に攻守両面で圧倒的な力を発揮したスペイン代表が頂点に立った総括を問われた同会長は、こんな言葉を残している。

「育成や強化、人材育成の部分をさらにしっかりやっていかなければいけない。これらは次のワールドカップまでだけではなく、日本がより一層強くなるために常に必要だと思っています。ベスト8に入ったチームとの違いについてもデータでいろいろと出てきていますし、今大会の準々決勝や準決勝を見て、そこのレベルに到達するためにはさまざまな課題があると思っています」

言葉こそ伝わってくるものの、残念ながら具体的な要素は伝わってこない。開幕前は何度も発せられた「優勝」の二文字を代表監督、そしてJFA上層部はどのように受け止めているのか。

「個の力」に委ねられた敗退の理由

さらに記者会見の2日前に行われた技術委員会後にブリーフィングに臨んだ山本昌邦技術委員長は、最高峰の戦いとなるUEFAチャンピオンズリーグ(CL)を取り上げてこう語っている。

「CLのベスト8以上のクラブに所属している選手で言えばスペインが圧倒的に多い。それはフランスも、かつて所属していた選手を含めればアルゼンチンもそうですが、日本の選手たちがそういった日常に、CLのベスト8以上に常に身を置くのもまた一つの基準なのかな、と思います」

山本技術委員長はあくまでも今回の北中米大会で見られた傾向に言及した。しかし、所属クラブでCLのベスト8以上を経験した選手数の差が北中米大会のラウンド32で敗退した要因だったと、どうしても受け止めてしまう。森保監督が後出しじゃんけんでも及ばなかったと振り返った、ブラジルのカルロ・アンチェロッティ監督との采配や戦術の差、ケガ人が続出したなかで抜擢された塩貝健人や後藤啓介らの若手がほとんど起用されなかった点など、総括するべき点はもっとあったはずだ。

昨シーズンのCLを振り返れば、連覇を達成したパリ・サンジェルマンと準優勝したアーセナル、ベスト4のバイエルン・ミュンヘンとアトレティコ・マドリード、そしてリバプールとレアル・マドリード、バルセロナ、スポルティングがベスト8に勝ち進んだクラブだった。

ノックアウトステージ以降の日本人選手の出場記録は、バイエルンの伊藤洋輝が1試合7分間で途中出場し、リバプールの遠藤はケガで不出場。主力として奮闘し、ベスト8でアーセナルに敗れたスポルティングの守田英正は、昨年3月を最後に代表から遠ざかったまま北中米大会も終えた。

守田の選外を「戦術的な理由」とだけ言及した森保監督は、スペインがアルゼンチンを下した決勝に現地からゲスト出演したNHK総合テレビで、日本代表の今後へ向けてこう言及した。

「すべての力を上げていかないといけない。組織力という部分では素晴らしいものがあると思うが、組織力をより高めるために個の力を培っていく必要がある」

高みを目指す選手と、見えない組織の検証

案の定と言うべきか。指揮官が地上波で発したこの見解は、選手個々の力が及ばなかったためにベスト32で敗退したと言いたいのかなど、サッカーファンの大きな反発を招いた。

何よりもPK戦の末にクロアチア代表に屈し、ラウンド16で敗退したカタール大会以降、堂安や鎌田大地、久保建英ら主力の大半が「個の力を磨く」と決意を新たにしてヨーロッパで戦ってきた。今大会に臨んだ26人のうち、ゴールキーパー2人と長友佑都を除く23人がヨーロッパ組だった。

しかもヨーロッパ組のうち、開幕直前にアンデルレヒトからフライブルクへの移籍が決まった後藤を含めた13人がヨーロッパ5大リーグの1部クラブの所属。さらに上田綺世はオランダリーグで得点王を獲得し、大会後には前田大然がプレミアリーグのイプスウィッチへ移籍。冨安健洋や佐野海舟、中村敬斗、鈴木彩艶にもステップアップの可能性が報じられている。

CLのベスト8に名を連ねる、いわゆるビッグクラブへ移籍するのは並大抵な道ではない。しかし、選手たちは必死になって高みを目指し続けている。こうした積み重ねが日本代表をレベルアップさせてきたなかで、指揮官やJFA上層部もレベルアップして車の両輪となるべきだろう。

カタール大会後の3年半で、フライブルクからブンデスリーガの強豪の一角に名を連ねるアイントラハト・フランクフルトへ移籍した堂安は、冒頭で記したXの投稿をこんな言葉で締めている。

「本気で優勝を目指して戦った姿が、少なからずみんなの心を動かせたと信じています。正解は結果論やけど僕は優勝だけを目指します!!!」(同)

どれだけ異論や反論を浴びようと、堂安をはじめとする選手たちは、ワールドカップ北中米大会で「優勝」を公言してきた責任を背負い、プレッシャーを力に変えて前へと進もうとしている。

森保監督のもとで、日本代表は9月下旬から国内で行われる国際親善試合4連戦から再出発する。十分な総括をしたと言い難い指揮官やJFA上層部と、選手たちとの間にくっきりと浮かび上がったギャップは、そのまま4年後の次回大会へ向けた不安要素に変わりかねない。

<了>

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