なぜ優秀な若手がドルトムントに集うのか? 世界中の才能を引き寄せる「5年後、10年後」の育成戦略
世界中から若い才能が集まるドルトムント。その舞台裏には、選手を「育てる」だけではない、独自の考え方がある。なぜ若手はこのクラブを選び、クラブは彼らをどのようにトップチームへ近づけていくのか。育成アカデミーを率いるパウル・シャフランの言葉から、その一端が見えてきた。
(文=中野吉之伴、写真=ロイター/アフロ)
なぜ若手選手はドルトムントを選ぶのか?
欧州サッカーでは多額のお金が動く。今夏の移籍市場でも、プレミアリーグ史上最高額といわれる1億2500万ポンド(約265億円)でマンチェスター・シティがエンソ・フェルナンデスをチェルシーから獲得するなど、数多くの選手が何十億、何百億円もの移籍金で新天地へ移っていった。一昔前までは天文学的な金額と驚かれていた金額が、日常化しつつあるとさえ感じさせられる。
ただ、だからといって、欧州にあるすべてのクラブが多額の移籍金を支払って選手を次々に獲得できるわけではない。さらに、外から選手を獲得することがベースとなってしまったら、育成アカデミーは何のためにあるのか、という疑問も浮かび上がってくる。
こうした現実と、欧州クラブはどのように向き合っているのだろう?
ブンデスリーガ主催のインターナショナルメディアツアーで、ドルトムント育成アカデミーダイレクターのパウル・シャフランが、興味深い話をしてくれた。
ドルトムントには世界的な若い才能が集結していた印象がある。アーリング・ハーランド(→マンチェスター・シティ)、ジュード・ベリンガム(→レアル・マドリード)、ウスマン・デンベレ(→バルセロナ/現パリSG)、ロベルト・レバンドフスキ(→バイエルン/現シカゴ)ら数多くの選手がここからさらに飛躍し、そして今季はカリム・アデイェミがバルセロナへの移籍を果たした。
面白いことに、ドルトムントは若手を育てることに長けたクラブだが、その「育てる」には、自前のアカデミーだけでなく、世界中から若い才能を獲得して育てることも含まれる。シャフランはこのように話す。
「若い選手たちがドルトムントに来るのは、私たちが最もお金を持っているからではありません。ドルトムントのスタジアムでプレーできる。そして、今後3〜4年かけてUEFAチャンピオンズリーグレベルで成長できるプラットフォームがある。それを知っているからです」
若手とベテランが刺激し合える環境
もっとも、ここ最近のドルトムントには、若手だけを獲得するのではなく、ポジションごとに経験ある選手を配置するなど、クラブ戦略の変化も見られる。
10代後半の選手ばかりでチームを構成すれば、爆発力や意外性がある反面、不安定さや試合運びの拙さなど課題も生まれる。シャフランは、クラブとして今だけではなく、5年後、10年後を見ることの重要性を語っていた。
「これはクラブ全体の戦略と哲学の一部だと思います。何度もクラブのルーツ、DNAを見つめ直し、『私たちはどこから来たのか?』『5年後、10年後にどこにいたいのか?』という戦略的な問いを自分たちに投げかけました。
私たちは成長の可能性を生み出さなければならない。そして、もっとスペクタクルを生み出さなければならない。私たちの行動や選手たちを通して、もっと心を動かしてもらいたい。そのためには若い選手と経験のある選手を組み合わせる必要がありました。国内外、地元出身か外国人かという単純な問題でもありません。そしてユース部門についても、よりプロチームとつなげていきたいんです」
この若さと経験のミックスという考え方については、監督のニコ・コバチも次のように言及している。
「常にいいバランスが大切です。若く才能のある選手は、チームに必要なものを与えてくれます。彼らは経験のある選手たちを押し上げる。もし経験豊富な選手だけだったら、どこかでもう十分だとなってしまうかもしれない。すべてを快適にしたくなる。若い選手の存在は、そこにいい意味でのプレッシャーをもたらしてくれる。
一方で、経験のある、少し年齢の高い選手たちは、若い選手たちを導いてくれます。そうすれば、若い選手たちはより早く、よりクリアに学ぶことができます。若い選手だけだったら、若い選手は誰から何を学べばいいのでしょうか?
経験ある選手が若い選手たちに、『トップ選手になるためには何が大切なのか』『目標を達成するためにどんなトレーニングが必要なのか』を示してもらう。だから、ミックスが重要なんです。ピッチ上でも、トレーニングでも、試合でも、お互いに刺激し合える環境を求めています」
「安全」と「快適」は違う。トップに行く前に…
クラブ戦略の方向性が明確になれば、育成アカデミーに求められる役割もよりはっきりとする。トップチームに昇格できればそれでいいわけではない。トップチームでの競争に耐えうるクオリティを身につけておく必要があるからだ。シャフランは育成部門の目標をこう説明していた。
「例えば25歳のトップスターを獲得するとなれば、若手がそこでポジション争いするのは当然難しくなる。でも18歳のトップタレントを獲得するのであれば、そこにストップをかけられる可能性があります。例えば、いまトップチームでプレーしている18歳のサムエレ・イナシオが、2500万ユーロを払って獲得しようとしている選手と同じレベルなら、なぜ外から獲得する必要があるのでしょうか。アカデミーの仕事は、スポーツディレクターやトップチームのスタッフに、『この選手は、外から獲得しようとしている選手と同じレベルにあります』と示すことです」
外から選手を獲得する道と、アカデミーから育てる道を並行させる。そのうえで自分たちの選手が競争に勝てる状態を目指す。それができれば、そのための資金を他に使うことができると、シャフランは捉えている。
「現在は、両方の道がうまく機能しています」
昨季はアカデミーから4人がトップチームデビューを果たし、さらに2人のアカデミー選手とトップチーム契約を締結。その後も新たな契約が続いている。
ただし、プロ契約を結んだからといって、すぐに毎週先発するわけではない。
「重要なのは、少しずつ彼らのレベルをトップチームで求められる水準に近づけていくことです。現実的に考えて、トップチームに入ったとしても、最初のシーズンからいきなり先発11人に入ることはありません。だからこそ、育成の段階でそうした環境への準備をさせる必要があります」
選手がトップチームに入った後に初めて厳しい競争を経験するのではなく、その前から準備させる。シャフランが重視するのは、試合の強度だけではない。選手自身が、苦しい環境を乗り越える経験も育成年代で必要になると主張する。
「安全な環境を用意する必要があります。選手が試合の中でミスをしてもいい。リスクのあるプレーにも挑戦できる。そういう環境です。ただし、安全であることと、快適であることは同じではない。できるだけ多くのチャレンジを経験させることが重要です。育成年代からシニアレベルへ移行する最後のステップが、常に一番難しいんです」
いち早くトップに上げることが、育成のゴールではない
その考え方を象徴するのが、U-17からU-19へ昇格したある選手のケースだ。U-17ではスターだった。しかし飛び級で上がったU-19では試合に出られず、前半戦は苦しんだという。だがそれこそが求められる環境だった。
「チャレンジに直面すると、彼はすぐにコンフォートゾーンへ戻ろうとしてしまうことがわかっていました。だからこそ、あえて簡単な環境には戻さなかった。ある意味で彼にとって『やるか、終わるか』という状況になると考えました。もし今この状況を乗り越えられなければ、トップチームには到達できないだろう、と。これが、チャレンジを通して選手を形づくっていくプロセスなのです」
その選手は、最終的に壁を乗り越え、出場機会を手にするようになる。では、その選手をトップチームの練習へ「いつ」「どのように」参加させるのか。その判断についても、シャフランは一律ではないことを強調する。
「段階的に『次の代表ウィークでトップチームに合流』『継続的にトップチームで練習』『プレシーズンから参加』など、タイミングを判断します。
選手によっては、トップチームの11対11に入れないこともあります。例えば、技術的には非常に優れているけれど、フィジカル的にはまだトップチームと競争できない晩熟型の選手だっています。
そうした選手を最初からトップチームの11対11に入れる必要はないかもしれません。無理に最後の段階までチャレンジさせてしまうと、トップチームの自信を失った状態になってしまうこともあります」
トップに選手を上げることがゴールではない。そこでコンスタントに活躍できるだけの成長を遂げられるかどうかがカギとなる。そうやって「外から獲得しないほうがいい」と判断されるような選手を、アカデミーから継続的に生み出すこと。それが、いまドルトムントが育成に求めている、一つの答えなのだ。
<了>
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