「個を育てる」をどう実現するのか? イブラヒモビッチを育てたマルメの現場に見る育成の本質

Training
2026.11.02

人口約1000万人のスウェーデンから、イブラヒモビッチ、ギョケレシュ、イサク、バルドグジといった世界で活躍するアタッカーが生まれている。彼らに共通するものは何なのか。その答えを探るため、イブラヒモビッチやバルドグジの古巣マルメFFを訪ねた。そこで目にしたのは、技術練習を切り離して行うのではなく、ゲーム形式のなかで技術と判断を磨くトレーニングだった。「個性を尊重する」「個を育てる」という言葉を、マルメの指導者たちはどのように日々の現場に落とし込んでいるのか。U-14年代の練習と指導者への取材から、その育成哲学を探る。

(文=中野吉之伴、写真=なかしまだいすけ/アフロ)

イブラヒモビッチの“個性”が育った背景

かつてはヘンリク・ラーションやフレドリック・ユングベリ、ズラタン・イブラヒモビッチ、最近ではアレクサンデル・イサク、ヴィクトル・ギョケレシュ、アンソニー・エランガ、ルーニー・バルドグジ……。人口1000万人ほどのスウェーデンから、世界トップレベルで活躍するアタッカーが生まれている。それぞれに異なる武器を持ち、試合を決定づける選手たちだ。

なぜ、こうした“個”の突出した選手が育ってくるのか。「個性を尊重するから」という説明だけでは、育成の現場で何が行われているのかは見えてこない。大切なのは、その考えを日々の練習や選手への関わり方にどう反映しているかだろう。

筆者は今回、言わずと知れたイブラヒモビッチや、FCバルセロナの新生ルーニー・バルドグジらが育ったスウェーデンのマルメFFの下部組織を実際に訪ね、育成指導者たちに話を聞き、U-14のトレーニングを見学してきた。クラブが何を大事にしているのか、どのように選手と向き合っているのか。その具体的な取り組みに間近で触れることができた。

「技術の高い選手を育てたいと考えています」

昼食をともにしながら、クラブの育成哲学について尋ねると、U-15監督アダム・オーンハンマルはそう答えた。技術の高い選手を育てたいという言葉は、世界中のクラブや指導者からよく耳にする。ではどのように技術の高い選手が育つ環境を作るのか。そこに違いが出てくる。日本では技術力アップというと技術トレーニングの徹底がイメージされるかもしれない。今回見学したマルメU-14の練習には、技術だけを切り出して反復するメニューが一つもなかった。行われていたのは、インテンシティの高いゲーム形式のトレーニングの連続。

「技術を大切にする」と話しておきながら、それはなぜなのか?

クラブに掲げられた「マルメFFのDNA」。問われるのは…

その疑問を考える手がかりが、クラブに掲げられた「マルメFFのDNA」という図にあった。U-14監督ボリス・ビェルカノヴィッチが詳しく話をしてくれた。

例えば、「インテンシティ」の項目には、「技術・判断・身のこなしを最大速度で発揮する」と記されている。相手が迫るなかで状況を捉え、プレーを選び、ボールを扱う。そこは常にセットだ。

筆者がオーンハンマルに「みなさんがいう技術とは、サッカーの試合で武器となるスキルを身につけるという解釈ですよね? つまり相手ありきの状況で何ができるかがセットでないと技術トレーニングとは言えない、と」と尋ねたら、我が意を得たりという様子でうなずいていた。

「その通りです。まさにそれがスタートであり、なくてはならない視点です」

技術の高い選手とは技術を発揮できる選手。となるとトレーニングには試合と遜色ない強度が求められる環境が必要になる。もちろん、一度の見学ですべてを語ることはできない。それでも、技術をどう捉えているかという説明と、目の前のトレーニングには、はっきりとしたつながりを感じた。

日本でも「技術の高い選手を育てたい」という言葉はよく聞く。ただ、その技術が、ドリブルの巧みさやファーストタッチの正確さだけを意味していないだろうか。それが悪いというわけではない。ただそれ以上に、相手や仲間の位置を見て、いつ、どこで、何のために使うかまで含めて考えて取り組むことがサッカーでは求められている。

問われるのは、そうした練習をやっているか、やっていないか、ではない。どのくらいの密度と頻度で行っているか、こそが大事となる。

「1対1に挑め」と「仲間を見ろ」は矛盾しない

マルメでは小学校低学年の段階から、積極的に1対1に挑むことと、顔を上げて仲間を見ることを、つながりのあるものとして扱っていた。U-9までは自分とボールの関係を重視し、できるだけ多く1対1に挑戦することを求める。それでも仲間を使うことを促すことは忘れない。年齢が上がるにつれて、2対1の関係性の活かし方にフォーカスが高まる。ワンツーを使う、パスを出した後に動くなど、集団でのプレーを学ぶ機会は増えてくる。

「ただし」といって、ビェルカノヴィッチは付け加えた。

「低学年に対して1対1だけではなく、仲間を見ることが大事だよと伝えるのと一緒で、高学年に対しては集団でのプレーを学びながらも、そのなかでも勝負すべき1対1の状況があれば、常にチャレンジしてほしいと伝えています。いずれの成長段階でも、判断がセットにないと、サッカーがうまくならない」

個の育成について話すとき、ドリブルかパスか、個人技か組織かという議論になることがある。しかし、実際の試合では、それらは連続しているし、交錯している。選手が状況に応じて選び取れるようにするには、練習のなかにも、その選択を経験する機会が必要になる。

個々の可能性を重視する姿勢は、チームのつくり方にも表れている。試合では勝利を目指すなかで、選手個々がどのような経験を積めるかへのアプローチと配慮がなければならない。いろいろなチャレンジをするなかで、いまの自分に何ができて、何が足りないかが問われる。そして指導者の役割には、その挑戦が生まれる環境を用意することも間違いなく含まれている。

興味深いものを「マルメFFのDNA」の最上段に見つけた。「勝者のメンタリティ」という言葉が置かれているのだが、その説明として書かれていたのが、「絶対に勝たなければならない」とか、「勝つためには何でもやる」というものではなく、「学び、競い、自ら進んで取り組む姿勢を持つこと」。

マルメで考えられる「勝者」とは、常に学び続ける姿勢や、自ら行動する力を持つ人という解釈には、育成における非常に本質的なものが感じられる。

さらに、このDNA図には「ベスト・インディヴィジュアリスト(Best individualist/最高の個性)」という言葉があり、その隣には「選手と指導者」が同じ枠内で記されている。選手も指導者も、一人ひとりがサッカーを通じて自らの力を伸ばし、発揮するという考え方だ。

成長するのは選手だけではない。指導者に関しても、現在の能力とこれからのポテンシャルを把握して、さらに成長するために最適な取り組みができるようにサポートするのが、クラブとしての役割なのだ。

「個を育てる」を、言葉だけで終わらせないために

マルメの指導者と、「マルメFFのDNA」についていろいろとディスカッションをさせてもらったなかで確認したのは、「個」を大切にするという言葉に込められた意味だ。それはエゴとは遠く離れたところにある。仲間との関係から切り離された個人を目指すわけではない。

土台には「喜び」「向上心」「クラブへの思い」「フェアプレー」があり、その上には「一体感」と、それを説明する「支え合いと助け合い」がある。「個を大切にする」とは、こうした価値観や関係性のなかに置かれてはじめて、価値あるものとなる。

日本でも「個を育てる」「個性を尊重する」という言葉は、広く使われている。だからこそ、その言葉がどのように解釈され、どのように用いようとしているのかをしっかりと考えたい。

選手に挑戦を求めるなら、練習には自分で状況を見て判断する余地があるだろうか。選手の可能性を大切にするなら、その力が生きる役割や配置を考えているだろうか。成長を求めるなら、適切な難しさのある試合を用意できているだろうか。そして指導者自身も、学び続けているだろうか。

マルメの現場で見えたのは、育成への考え方を、練習、配置、対戦相手の選択にまで反映させようとする取り組みだった。個性的な選手が育つ背景を考えるには、その一つひとつに目を向ける必要がある。われわれも、自分の現場で「個を育てる」という言葉を何によって実現するのか、そこから問い直せるはずだ。

<了>

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