なぜマンチェスター・シティ「2季の2部生活」が浮上したのか? 英国で広がる厳罰論の背景
マンチェスター・シティに、2季連続で2部にとどまる可能性が浮上した。財務規則違反を認定されたクラブに対し、今季の降格につながる勝ち点剥奪に加え、翌季の昇格も難しくする処分案が英国で報じられている。ただし、処分はまだ決まっておらず、シティは違反認定を不服として申し立てている。なぜ、これほど厳しい処分が議論されているのか。その背景には、長年の財務処理と、他クラブが抱く競技上の公平性への疑念がある。
(文=田嶋コウスケ、写真=ロイター/アフロ)
「Cheats」の罵声が響いたアンフィールド
マンチェスター・シティが2部に降格し、少なくとも2シーズン、プレミアリーグに戻れなくなる──。英国で報じられた厳しい処分の見通しが、波紋を広げている。
財務規則違反を認定されたシティは、不正を否定して不服を申し立てている。正式な処分は別の審理で決められるが、その手続きが進む中、現地で具体的に語られ始めたのが、今季と来季にまたがる「大幅な勝ち点剥奪の処分」だ。
今季の勝ち点を大きく減らし、2部チャンピオンシップへ降格させる。さらに翌季も減点し、1年での昇格を難しくする。「2部に2季」とは、こうした処分によってもたらされる状況を指している。
この問題への怒りは、すでにスタンドにあふれている。
10月11日、リバプールの本拠地アンフィールド。シティの選手がボールを持つたび、ブーイングが起きた。両クラブは、何度もリーグ優勝を争ってきたライバルだ。リバプールのスタンドでは「Cheats(不正野郎ども)」という罵声が響き、「お前らは降格するぞ」と歌われた。
シティは3-0で勝った。選手たちが見せた強さとともに、クラブの過去を責める声が耳に残った。その試合から約1週間後、降格後のシーズンまで影響する処分の見通しが伝えられたのである。
なぜ「1年での復帰」では不十分なのか
報じたのは、英紙デーリー・メールのオリバー・ホルト記者である。10月19日、手続きに近い関係者への取材をもとに、有力な処分として「降格につながる大幅減点」と「多額の罰金」を挙げた。翌季にも減点を科し、2部での戦いを厳しくする可能性にも触れている。
この記事を複数の媒体が引用し、「2シーズンの2部生活」という話が広がった。処分の具体像を伝える取材報道として、注目すべき内容だ。
その背景には、1年だけの降格では十分な罰にならないという、他クラブ側の考えがある。
英衛星放送スカイスポーツも、シティの不服申し立てが退けられた場合、ライバルクラブは「シティが来季のプレミアリーグにいるとは考えていない」と報じた。さらに、1年で戻れる処分では「不十分」とする声が多いと伝える。
シティには豊富な資金があり、強力なチームを作ってきた経験もある。降格によって主力が去っても、2部で優勝を争う戦力を整え、すぐに復帰する展開はたしかに想像できる。
長期間の違反によって得た優位性が残り、降格の影響を短期間で乗り越えられるなら、処分は十分なのか。この問いから、翌シーズンにも減点する案が浮かんでいるという。
2部の昇格争いで出遅れれば、「選手の引き留め」や「補強計画」にも影響する。プレミアリーグへの復帰が遅れるほど、放映権料などの収入が減る影響も長引く。複数年にわたって減点されれば、シティが再びプレミアリーグで優勝を争えるようになるまで、時間がかかるわけだ。
稼いだ金を、実際より多く見せ…「多くの損害を与えた」
厳しい処分を求める声の根底にあるのは、独立委員会が認定した不正の規模と、その進め方だ。
中心となる仕組みは、「オーナーが出した金を、スポンサーから得た収入に見せかける」というものだった。
財務規則では、クラブに認められる赤字に上限がある。選手の給与や移籍金に多額を使うなら、それを支える収入が必要になる。スポンサー料をはじめ、入場料や放映権料など、クラブが稼ぐ金が「支出の土台」になる。
所有者は出資によってクラブを支えられるが、それで埋められる赤字にも規則上の限度がある。スポンサー料として計上する金は、支出を支える収益として計算されるため、両者の区別は重要になる。
所有者の資金を収入として紛れ込ませれば、その土台が実際より大きく見える。規則上は支出を抑える必要があっても、帳簿の上では余裕が生まれる。
委員会の認定によると、シティのスポンサー企業が負担していたのは、「契約額の一部」だった。残りをクラブの所有者であるアブダビ・ユナイテッド・グループ(ADUG)が補い、シティは全額をスポンサー収入として計上した。
この仕組みによる収入の水増しは約8億3000万ポンド(約1760億円)。ほかの取引による収入の過大計上や、費用を少なく見せる処理も含め、会計上の操作は9億ポンド(約1908億円)を超えた。
対象は2009-10から2017-18シーズンまでの9年間。シティが強豪へとのし上がり、3度のプレミアリーグ優勝を果たした時期とちょうど重なる。
正しく会計処理されていたら、補強や給与への支出は規則の範囲内に収まっていたのか。委員会は、収入と費用を修正して計算すれば、対象となる支出規則の上限を大幅に超えていたと判断した。
さらに、調査を妨げようとした行為も認定されている。長年の会計処理に加え、問題が追及されてからの対応も、クラブへの厳しい視線につながった。
かつてトッテナムを率いたマウリシオ・ポチェッティーノは、新スタジアム建設の負担を抱え、18カ月にわたって選手を獲得できなかった時期を振り返り、規則の扱いへの不満を口にした。そのうえで、こう語っている。
「どんな処分を選んでも、時間を巻き戻すことはできない。多くの損害を与えた」
補強を見送る、選手を売る、給与を抑える。規則を守って支出を抑えてきたクラブにとって、シティに違反に見合う処分が科されるかは、重要な問題だ。
降格後にも減点する、その仕組み
実際の処分を決めるのは、最初の審理を担当した3人の独立委員会だ。プレミアリーグ側が求める処分を提示し、シティ側が反論する。
翌季の減点を実施する場合には、2部を運営するイングリッシュ・フットボールリーグ(EFL)との調整も必要になる。プレミアリーグとEFLは別組織だからだ。
ホルト記者は、EFLに処分を受け入れる義務はないとしたうえで、「受け入れる可能性が高い」と報じている。「2部に2季」という見通しには、シティの降格後も両組織が連携する想定が含まれている。
ただ、大幅な減点処分を受けても、シティが今季、多くの勝ち点を積み上げれば残留できる可能性がある。降格につながるほどの処分となれば、それだけ大きな減点が想定される。
これまでの報道では、具体的な減点数は明らかになっていない。関係者が見込む処分と、委員会が審理を経て下す結論との間には、なお手続きが残っている。
シティは、何を覆そうとしているのか
一方のシティ側は、重い処分の前提となる違反認定を覆そうとしている。
クラブが重視するのは、当時の銀行明細、政府の記録、領収書、メールなどだ。英紙デーリー・テレグラフの報道によると、それらの資料が適切に評価されなかったとして、判断の取り消しや再審理を目指している。
主張の中心は、スポンサー料を支えた資金の出所にある。スポンサー企業を支援したアブダビ政府の金であり、クラブ所有者のADUGが負担した金とは扱いが異なる、という立場だ。
最初の委員会は、この説明を退けた。加えて、契約額を通常の取引として妥当な金額に直して計算しても、対象の支出規則に違反するとの判断を示している。「資金の出所」と「契約の評価」を巡り、争いは続きそうだ。
プレミアリーグは早期の決着を求めており、処分の審理を不服申し立てと並行して進めることも可能とされる。今後は、違反認定への不服申し立てに加え、新たに決まる処分を巡る争いも起こり得る。
違反認定への不服申し立ては、年明けにも判断が出ると見込まれている。処分の確定まで、どれほど時間がかかるのか。選手にもファンにも、次のシーズンに向けた準備は必要だろう。
もちろん、その間も、試合は続く。
敵地アンフィールドの罵声には、過去の戦いへの疑念がにじんだ。僅差で逃した優勝も、悔しさを抱えて終えたシーズンも、今からやり直すことはできない。
シティのファンにも、クラブと過ごした年月がある。契約や会計処理を決めた首脳陣の行為によって、喜んだタイトルを疑われ、将来の所属リーグまで見通せなくなった。
委員会が認定した行為について、シティの首脳陣が負う責任は重い。その判断を争う手続きが続く間、スタンドではファン同士が怒りや非難をぶつけ合っている。
アンフィールドでシティが見せた強さにも、選手たちの優れたプレーにも、もっと目を向けていたかった。
3-0という結果のそばに、「不正野郎ども」という罵声が残ったことを、ひどく残念に思う。
<了>
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