東京ドームはどう変わる? 4月就任の斎藤裕社長が語る「4万坪のエンタメの街」の新たな可能性

Business
2026.10.06

今年6月から7月にかけて行われたFIFAワールドカップ北中米大会では、エアコン完備、近未来的な雰囲気に包まれたスタジアムが大きな注目を集めた。日本でも各地に新しいアリーナやスタジアムが生まれ、スポーツの試合や音楽ライブを観る体験の価値に新たなスポットが当たっている。

日本で最も名を知られたスポーツ施設といえば、「面積、体積の単位」としても知られる東京ドームだろう。さまざまな体験の価値が向上し続け、スタジアム・アリーナ新時代を迎えた現在、東京ドームは、自らの存在価値をどう高めていくのか?

2021年に三井不動産のTOBを経て同社グループに加わった株式会社東京ドーム。それから5年、今年4月に就任した斎藤裕社長に、スタジアム、エンタメの聖地としての東京ドームの価値、そして周辺施設を含めた“東京ドームシティ”の可能性について聞いた。

(インタビュー・構成=大塚一樹、撮影=大木雄介)

「4割は寂しかった」三井不動産から東京ドームへ

――三井不動産で法人営業の責任者を務めてきた斎藤社長ですが、東京ドームの社長に就任が決まった経緯と、その辞令を聞いたときに率直にどんなお気持ちだったかを聞かせてください。

斎藤:今年の2月末だったと思いますが、三井不動産の植田(俊)社長から、4月1日付で株式会社東京ドーム社長という辞令を受けました。

 この2年、僕は三井不動産で法人営業の責任者をしてきました。その仕事をしていく中でも、2021年に三井不動産グループに加わった東京ドームの価値、そのポテンシャルはものすごく感じていたんですね。スポーツ、エンターテインメント界でいえば聖地のような場所。僕もこれまでのお仕事の中で、スポーツやエンターテインメントの世界の人たちとの交流がありましたから、辞令を受けたときは、「絶対、面白いだろうな」「これは楽しくなるだろう」という思いでワクワクしました。

 ただ、これは東京ドームの社員にも言っているんですけど、4割ぐらいかな。寂しさもありました。グループの会社とはいえまったく違う会社に行く。三井不動産の先輩たち、後輩たちと離れる寂しさはやはりありましたけどね。

法人営業時代に感じた「東京ドームのポテンシャル」

――法人営業をしている中で、東京ドームのポテンシャルを感じられた部分というのは?

斎藤:一番分かりやすいのは、会話の中でお客さまが東京ドームについて興味を持ってくださったことです。特にエンターテインメント業界のお客さまですね。我々は法人営業として、不動産販売や土地開発に関わるプロジェクトの中で、プロモーションに関わるイベントへの出演や企画への協力などで、こちらから「何かご一緒できることはありませんか?」と、お願いする立場だったんです。それが東京ドームがグループに加わったことをきっかけに、「東京ドームを使わせていただけませんか?」と興味関心を持っていただき、そこからいろいろな話が発展することがありました。

 スポーツ界でも同じように、「東京ドームで何かイベントできませんか?」、「東京ドームシティを使って子どもたちと触れ合うような企画をやりませんか?」と、お客さま側からの提案を受けるようになったんです。

 このこと自体、東京ドーム、東京ドームシティの知名度はもちろん、ハードとしての価値、これまで積み重ねられてきた歴史も含めて、改めて「東京ドームってすごいんだな」と再認識していました。

東京ドームが「夢」であり続ける理由

――半分外から見ていた東京ドームを主管する会社の社長に就任されたわけですが、数カ月が経ち、あらためて東京ドームの魅力についてはどう感じていますか?

斎藤:現在では、日本中にドーム型の球場、スタジアムは複数あるわけですけど、アーティストの方にとってはやっぱり「東京ドームで公演をする」ことが夢だったり、特別なこととして根づいていることを改めて感じます。それは日本のアーティストだけでなく、海外の大物アーティストも、「日本でやるなら東京ドーム」という認識がありますし、そこを目標にするという話も聞きます。東京ドームでライブをすることが、いろんな方にとって一番の目標でもあり、エンジンの源になっているんじゃないかと思いますけどね。デビューしたアーティストの方が、最終的な目標、夢は東京ドーム公演だとおっしゃるのは、やっぱりすごいブランドなんだと思います。

「大都市の真ん中に4万坪」は奇跡

――東京ドームは、都心にあり、JR・地下鉄からのアクセスも考えると、かなり希少な存在です。専門家として、不動産として見たときの価値については、どう捉えていらっしゃいますか。

斎藤:東京ドームを含む東京ドームシティは約4万坪の敷地を持っています。東京ドームだけでも1万5000坪。世界的な大都市・東京の中心地に、エンタメの要素が詰まった“一つの街”が存在するというのは、奇跡的なことだと思います。これについては、よく言っているのですが、先人が残してくれた大きな財産というか、本当に幸運なことだと思っています。

 もし現在、この立地に4万坪の更地があったら、オフィスビルが建ち、マンションが建ち、商業施設がちょっとでき、というような複合施設が新設されるでしょう。不動産屋的に見ても経済効率的にはそれが一番いいんですね。でも、東京ドーム、もっと遡るなら後楽園スタジアムをつくった先人たちは、球場と遊園地、さらにそれぞれに特徴を持った複数のホールを用意し、さまざまなエンタメを詰め込んだ街をつくった。彼らがやろうとしたことが、今となってはもう再現不可能な唯一無二の価値になっているように思います。

 世界を見渡しても、大都市のど真ん中に4万坪の複合エンタメが集積したエリアというのは例がないと思うんですよね。

――世界的に見ても例がない?

斎藤:パッと思い浮かぶのはラスベガスなんですけど、ラスベガスと東京ドームシティを比較しても、都心にあって、東京という巨大な都市の中にあるという意味でやっぱり違う。ラスベガスは砂漠の中にあって、カジノやライブ、ショーなどのエンターテインメントを楽しむためだけにそこに行く場所なんですよね。

 ラスベガスの年間来訪者が4000万人を切ったというニュースを見たんですけど(編集部注:2025年のラスベガス年間来訪者数は約3850万人。2024年から7.5%減で4000万人を切った)、東京ドームシティの年間来訪者数は、約4000万人(※編集注:2019年度、現在は非公表)なので、単純には言えませんが、ラスベガスと同じだけの集客力を持ったエンタメシティが大都市のど真ん中にあるとも言えるんです。

「世界一のエンタメカンパニー」へ

――趣味や世代によって東京ドームに対するイメージもだいぶ違うと思うのですが、やはり一定以上の年代の人にとっては「ジャイアンツの本拠地」としてのイメージが強いと思います。なかには東京ドーム自体、ジャイアンツが保有していると勘違いしている人もいると思いますが、株式会社東京ドームは何をする会社なのでしょう。

斎藤:そうですね。これまでお話ししてきたように、東京ドームは非常に影響力のある重要な存在ではありますが、我々は東京ドームを運営しているだけではないんです。東京ドームシティ アトラクションズ、東京ドームホテル、後楽園ホール、LaQua(ラクーア)、ASOBono!(アソボーノ)、Space Travelium TeNQ(テンキュー)、シアターGロッソなど、東京ドームの周辺にあるさまざまな施設を含んだエンターテインメントシティ全体を運営することが僕たちの仕事になります。

 これはもっと知られていないと思いますが、そのほかにも熱海後楽園ホテル、船橋のLaLa arena TOKYO-BAY 、これからの話をすると秩父宮の新しいスタジアム、建設中の(仮称)名古屋アリーナ、なんばの駅前での開発が決まった大阪の(仮称)Kubota LaLa arenaの運営もグループ会社として、人材交流等も含め協力していくことになっています。

 東京ドームシティでいえば、遊園地があったり、スポーツを楽しむ施設、宇宙旅行を楽しむ施設、温浴施設もある。さらにこの街には、ドーム以外にホールが6つあるんですね。そこで毎日、格闘技やヒーローショー、演劇と、いろんなコンテンツをお見せしている。そのことを、もっともっと日本中の人に知っていただきたい。

 僕たち株式会社東京ドームは「世界一のエンターテインメントカンパニーを目指す」ということを掲げているのですが、ここで培ったノウハウやコンテンツを地方のアリーナに横展開していくことで、東京ドーム社じゃないと提供できないコンテンツを発信していけるんじゃないかなと思っています。

深夜の草野球と、文京区の「庭」

――核となる東京ドームについてもう少し聞かせてください。東京ドームの稼働率は、どのくらいなのでしょうか。

斎藤:ほぼ100%ですね。ジャイアンツの試合を中心にライブやイベントがぎっしりと詰まっています。野球の試合が終わった瞬間からライブの設営が始まって、ライブが終わった日の夜に全部撤収して、次の日の朝からジャイアンツが練習している、という感じです。

 実は一般の方にもご利用いただけるのですが、さらに空いている時間となると夜中がメインになってしまいます。夜11時ぐらいから朝まで草野球をやる方もいて、そういう活用もしていただいています。いろんな競技や種目の “聖地”としてご活用いただいていますね。

――都心にあるということもありアクセスの良さで語られますが、地域の人たちにとっても身近な場所ですね。

斎藤:(東京ドームの所在地である)文京区出身の方とお会いすると、みなさん、小さい頃はここが庭でしたっておっしゃいますね。僕の子どもも、文京区の小・中・高で学んだので、しょっちゅう来ていました。今後も全国の子どもたちはもちろん、文京区の子どもたち、地域の方々に利用していただける、楽しんでいただけるような施策を計画しています。

 東京ドームはスポーツのスタジアムとして、または音楽ライブ、イベントなどの会場として、多くの方々に認識してもらっていますが、そこから、このエリア全体を「東京ドームシティ」として認識してもらって、実質的に「スポーツ、エンターテインメントの街」として楽しんでもらえるようになるのが理想的だと思っています。おしゃれなレストランやきれいな広場は、日本橋にも丸の内にも六本木にもありますけど、そこにお化け屋敷もあって、お風呂もあって、卓球場もあって、という街はたぶんありませんからね。

ライブが終わっても、帰らない街へ

――サッカーの北中米ワールドカップでは、アメリカのスタジアムの巨大なビジョンや快適さに驚いた人も多かったと思います。スタジアムやアリーナの可能性をどう感じていますか。

斎藤:本当に大きな可能性があると思っています。気候がこれだけ激しく変動する中で、スタジアムやアリーナでないと音楽やスポーツが楽しめないという現実もあります。東京ドームは屋内型ですし、そういう意味で気候変動への対応は比較的しやすい。

 音楽フェスについても、屋外でやるのは過酷だという声も聞こえ始めています。ドーム施設なら安全に楽しくそれが開催できるかもしれない。昨年、ap bankの音楽フェスを東京ドームで初めてやりました。例えば、隣接する6つのホールを使えばもっと大規模な、複数のステージが同時並行で展開される、文字どおりの“都市型フェス”ができるかもしれない。そんなことにもチャレンジしてみたいと思っています。

 アメリカの例に学ぶことがあるとすれば、演出ももっと考えなきゃいけないし、例えばスポーツと音楽が一緒になったようなイベントとか、新しいエンターテインメントを、その道のプロ、本物のみなさんと一緒に考えていかなきゃいけない。

 東京ドームシティとしての可能性について言うなら、今まではスポーツの試合でも、音楽ライブでも、イベントでも、目的が終わったら帰ってしまう傾向が強い。もちろんアクセスがいいことはメリットなのですが、東京ドームシティ全体で、連携して非日常体験を演出したり、試合やライブ、イベントの観戦体験をさらに充実させるような滞在を実現できないかと思っています。レストランや他のホールと連携して、ライブの前や後を楽しんでいただく仕掛けをするとか、もっともっとできることをやっていきたいと考えています。

「挑戦し続ける勇気」東京ドームが次に挑むこと

――体験そのものに価値がある時代になってきているということですよね。

斎藤:エンタメ産業も今、大きな成長産業の一つで、年々消費額が増えている。それは自分の子どもたちを見ていても思いますけど、僕ら世代のような物欲はまったくなくて、ブランド物を買いたいとか、いい車に乗りたいとかではなくて、推しのアーティストや自分のこだわりのコンテンツ、体験価値にお金をガンガン払うじゃないですか。好きなアーティストのライブでファンと一緒に盛り上がることや、応援するチームの試合でビールを飲みながら過ごす。大人が3時間、4万人で壮大な飲み会をしていると思うと、その価値って、やっぱりなかなかレアですよね。

――就任から数カ月、変化の種を蒔いているところだと思いますが、実際の手応えと課題みたいなものがあれば教えてください。

斎藤:やりたいことはいろいろあるんですけど、東京ドームシティの敷地4万坪といっても、意外に空いている場所はないんですよね。都市計画公園の中なので、何かを壊さないと新しいものがつくれないんです。これまで築き上げてきたもの、歴史や伝統があっての東京ドームブランドだということは噛みしめつつ、新しいことに挑戦する勇気がなくちゃいけないなと。

 あとは、エンターテインメントやスポーツでは、新しい施設やイベントが成功するかどうかの予測や数値化が難しい。オフィスビルを建てるなら、立地による需要やマーケット賃料があって数字が読めますけど、新しいヒーローショーにお客さまがどのぐらいいらっしゃるかは、分からない。でも、そこに踏み出さないと新しいものは生まれない。社長になって思うのは、社員のチャレンジをもっともっと後押ししないといけないし、まずは僕が勇気を持ってやってみようと決意を新たにしています。

目的地としての東京ドームシティへ

――最後に、社長として実現したいことを教えてください。

斎藤:一つはやっぱり、この東京ドームシティに、もっともっと日本中の、世界中の人に来てほしいということですね。

 そのためにまずは、今あるものをもっと知ってもらえればと思っています。一年を通してヒーローショーをやっていて、日本の特撮やアニメのヒーローに会える。欧米やアジアの人はまだ知らないかもしれないけど、それは日本のソフトコンテンツのパワーと合わさってもっとすごい価値になるはずなんです。

 海外の方は日本に来ると、まず東京で浅草に行って、銀座でご飯を食べて、買い物をして、あとはもう富士山を見に行って京都に行っちゃうじゃないですか。ニューヨークに行ったら、ハイラインを見に行って、必ずミュージカルを見る。それと同じように、東京に来たら必ず東京ドームシティに遊びに来て、世界最先端のエンタメを体験する。必ず立ち寄りたくなる、目的地になる、そういう場所にしたいですよね。

【連載後編】「きれいごとを貫いて、利益にする」東京ドーム社長・斎藤裕が描く“4万坪の街”への夢

<了>

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[PROFILE]
斎藤裕(さいとう・ゆたか)
1966年4月12日生まれ、宮城県出身。株式会社東京ドーム 代表取締役社⻑・執行役員。早稲田大学を卒業後、1990年に三井不動産株式会社に入社。商業施設本部アーバン事業部長、人事部長などを歴任し、2023年に同社の常務執行役員、2024年に株式会社東京ドームの取締役に就任。2026年4月1日付で株式会社東京ドームの代表取締役社長・執行役員に就任した。三井不動産株式会社のグループ上席執行役員も務める。

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