「もしそれがW杯の試合だったら」鈴木唯人が語る“走り続ける”理由。開幕4試合4ゴールも最優先するものとは

Career
2026.10.02

4年後のワールドカップは、まだ遠い。ドイツ・ブンデスリーガ開幕からゴールを重ね、フライブルクで存在感を増している鈴木唯人。だが、本人が口にするのは、4年後の大きな目標や華々しい結果よりも「毎日のトレーニング」のことだった。なぜ、鈴木はこれほどまでに走り続けられるのか。その答えは、ドイツで過ごした日々の中にある。

(文=中野吉之伴、写真=ロイター/アフロ)

「毎日のトレーニングのほうが大事。充実しています」

日本代表としても着実に存在感を増している鈴木唯人の成長ぶりには、目を見張るものがある。今季、所属するフライブルクでは開幕戦でハットトリックを達成すると、第4節のフランクフルト戦では貴重な同点ゴールを記録。開幕から4試合で4ゴールを挙げ、早くも昨季の得点数に並んでいる。

その活躍ぶりを見れば、次の2030年FIFAワールドカップに向けた期待が高まるのは自然なことだろう。だが、鈴木本人にワールドカップについて聞いても、ゴール量産の手応えについて尋ねても、返ってくる言葉はとてもシンプルだ。

「毎日のトレーニングのほうが大事。充実しています」

大きな舞台について語るよりも、目の前にある日々へ意識を向けるというのがなんとも鈴木らしい。そして、この姿勢は今に始まったものではない。

振り返れば、昨季のスタートは開幕から2試合連続でスタメン出場したものの、その後は出場機会が減り、ベンチに座る時間が続いた。試合メンバーから外れることもあった。久しぶりにピッチへ立ったのは第7節のフランクフルト戦。64分から途中出場すると、鋭くボールを収めて味方につなぎ、プレスバックでボールを奪い、何度も相手を追いかけた。

「僕自身もまだ伸びしろしかない」

試合に出られない期間を、鈴木はどう過ごしていたのか。

「特別それに対してネガティブに考えることはまったくなくて、こういうことはほかのチームでも何回も経験しているので、このあと必ず良くなるというのはわかっていました。僕自身も完璧な選手ではないので、まだ伸びしろしかない。監督とコーチ陣に求められていることを、毎日練習でトライしながら、一歩ずつ成長に向けてずっとやっている」

フライブルクで鈴木が適応して、自分の力にしていったものの一つが、高いインテンシティだ。前線からの守備、ボールを失った直後の切り替え、何度も繰り返すスプリント。フライブルクでは攻撃の選手であっても、チームのために何度も走ることが求められる。

11月の第10節ザンクト・パウリ戦でリーグ戦のスタメンに復帰すると、ゴールを記録。続くバイエルン戦でも得点を挙げた。出場機会が増え、結果もついてくるようになったが、それでも本人は努めて冷静に現状と向き合い、言葉のトーンも変わらない。

「こうなることはわかってたんで、別に特別驚きではないです。やり続けるだけだなと思います。だいぶ感覚としては、自然に体が動くようになってきました」

やるべきことを真剣に全力でやり続けていったら必ず結果を出せる。これまでがそうだったように、これからもそうなる。それを言葉にするだけではなく、実際に結果にするのだから、どれだけの本気度で課題と向き合い続けていたかが表れている。

フライブルクで身につけた「走る」という武器

その後、鈴木はフライブルクに欠かせない存在になる。UEFAヨーロッパリーグのザルツブルク戦後、味方がボールを失った直後にまず鈴木がファーストディフェンスに入る場面が増えていることについて聞くと、こう答えた。

「ああいうところで他の選手との違いを見せないといけないし、僕はあれを特徴にしていかないといけないと思っている。強度の部分というか、走りの部分は最近ストロングになってきているので、自分自身の中で走れる感覚もすごくあります。できるだけ走って、チームを助けたいなという思いが強い。自然と体が動くようになっているんで、それはいい方向に進んでるかなと思います」

まずチームのためにやるべきことをやる。そのうえで、自分の良さを出す。それは鈴木個人の意識だけでなく、フライブルクというチームが持つ価値観とも重なっているところに注目したい。

それを象徴する言葉を、キャプテンのクリスティアン・ギュンターが残していたのを思い出す。ヨーロッパリーグと国内リーグを並行して戦うなか、過密日程による疲労がチームに影響する可能性について聞かれたときのことだ。ギュンターは地元記者にこう語った。

「試合終盤でも、僕たちはさらにギアを上げられている。体力は間違いなく残っているし、それを言い訳にすることは絶対にありません。頭を切り替えて、足が動く限り走り続けるだけ。動けなければ、次の選手が入ってくる。僕たちにはそのクオリティがあるんだ。体力が理由で負けることは絶対にない」

「疲れているからできない」ではなく、「疲れていても、足が動く限り走り続ける」。

これはまさに鈴木がフライブルクで身につけたかったものでもある。頑張って走るのではなく、当たり前のように走る。そうしたフライブルクにおける感覚が染みついたことで、自然と体が動くようになっていったのだろう。 

「やるべきことをやる。走って、戦って…」

長いシーズンでは、うまくいかない時期もある。チームとしても、個人としても、頑張っていてもどこか歯車が噛み合わないようなことがある。そんな時に立ち返れるところがあるかどうかは、大きな意味を持つ。

2026年3月のヨーロッパリーグ、ゲンク戦。直近まで調子を落としていたチームがこの試合ではリズムを取り戻し、5-1の快勝を飾った。鈴木も後半に見事なゴールをマーク。自らカウンターの起点となると、そのまま走り続けて味方からの折り返しパスを受ける。相手の動きを見ながらタイミングを少しずらしてから右足で決めた。

いかにして調子を取り戻したのか? この試合で個人的に意識していたことを聞くと、鈴木はこう答えた。

「基本に立ち返ってやるべきことをやる。走って、戦って、チームのためにやれることをする。攻撃でうまくやろうとか、何かすごいことをしようとかは考えずに、基本的なことを地道に試合しょっぱなからやり続けて。こういうときだからこそ、ミスすることを恐れずにチャレンジしようと思っていました」

その後フライブルクはヨーロッパリーグ決勝まで進出。しかし、右鎖骨を骨折して鈴木は決勝戦を欠場。チームもまたプレミアリーグの強豪アストンビラの前に涙をのんだ。それでも、クラブ史上初となる欧州大会決勝の舞台までたどりついたことは、クラブにも、鈴木にも間違いのない手ごたえをもたらしたことだろう。

「もしそれがワールドカップの試合だったら…」

それにしても、鈴木のハードワークぶりには驚かされるものがある。なぜそこまで走れるのか。

とても印象的な言葉を残してくれた試合があった。あれは2026年1月のハンブルガーSV戦後のミックスゾーン。この試合でも後半アディショナルタイムになっても、鈴木は何度も長い距離を走って守備に戻り、味方を助け、そしてまた前にプレスの動きで駆け出していった。

そのことについて話を振ると、鈴木ははっきりとした声でこう語りだした。

「僕自身、体が疲れているなかでも、走れる感覚があります。別に、あそこでボールを追いに行ったからといって倒れるわけでもなんでもない。行けるなら行こうという気持ちで行ってるだけ。特別なことじゃなくて、やるべきことやっているだけだったんですけど……」

そして、「もしそれがワールドカップの試合だったら……」と話を続けた。

「その試合がワールドカップで、例えば1-0で勝っていて、最後守備で追いかけないといけないところで、習慣化されていたら行けるけど、そこで行けなくて結局ね、いいボール上げられたりとかになったら、もう遅いんでね。日頃からこうやってやっていく必要があるかなと思っています」

冷静な言葉の裏に隠された熱いハート。4年後に何が起きるのかは、まだわからない。ただ、ここからの4年間をどう過ごすのかが大事なのは言うまでもない。日々のトレーニングと毎回の試合にどれだけの思いで向き合えるか。自分自身の基準を引き上げてきたこの一歩一歩が、いつか大きな舞台での大事な一歩にきっとつながっていく。

<了>

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