批判と低迷から始まったエディー体制の現在地。ラグビーW杯まで1年、日本代表に起きている変化

Opinion
2026.10.23

2027年ラグビーワールドカップまで、あと1年。エディー・ジョーンズが再び率いる日本代表は、決して順風満帆な道のりを歩んできたわけではない。再就任をめぐる議論、対強豪国の大敗、チーム内の葛藤。それでも指揮官は自らの信念を曲げず、若い選手たちと世界への挑戦を続けてきた。さまざまな国を率いて結果を出してきたエディー・ジョーンズが指揮する日本代表は再び世界を驚かせることができるのか。

(文=向風見也、写真=アフロ)

世界9位に浮上した日本代表。W杯まで1年の現在地

エディー・ジョーンズは、世界のラグビー史に名を刻んだ指導者の一人だ。

2003年に母国オーストラリアのヘッドコーチ(HC)、2007年には南アフリカ代表のテクニカルアドバイザー、2019年にはイングランド代表のHCとして、計3度もワールドカップの決勝に進んだ。大会本番までの緻密な計画を立て、その国の特徴や文化を踏まえてプレースタイルを確立し、何より、信じたことを部下にやらせきる。

今回もその流れを踏まえたのだろう。2024年に約9年ぶりに日本代表のHCとなると、やや高齢化していたスコッドを大幅に若返らせた。実績のある選手を段階的に呼び戻したり、遅れて代表資格を取った海外選手を迎えたりして、2026年9月、パシフィック・ネーションズカップ(PNC)を約7年ぶりに制した。

着任当初は12位だった世界ランクを、一時13位に落としながらもいまは9位に引き上げている。2027年のワールドカップ・オーストラリア大会をちょうど1年後に控えた10月1日、会見でこう述べた。

「チームを率いて3年目のところで成長、パフォーマンスが安定化してくるものです」

世界におけるラグビー日本代表は、異色の挑戦者である。他国であまり見られない、ハードな鍛錬を重ねてきた。

決して歓迎ムードだけではなかった再就任劇

2019年、日本代表は自国開催のワールドカップで8強入りした。2016年以降に国際リーグのスーパーラグビーへの日本チームの参戦を実現させ、同年秋からはジェイミー・ジョセフHCら専門家集団が戦術的かつ精神的なつながりを重んじ、大会直前期には強度抜群の選考合宿を敢行した結果だ。

さかのぼって2015年には、イングランドでのワールドカップで歴史的3勝を挙げた。特に初戦では、過去優勝2回(現在4回)の南アフリカ代表を沈めた。2011年のニュージーランド大会での未勝利を受け、2012年以降の代表は朝5時台からの活動開始や1日3回以上の練習を常態化。本番前には、対戦相手の倒し方を念頭に置きながらトレーニングの量も増やした。

その2015年までのハードワークを主導したのが、当時の指揮官のジョーンズだった。もっとも2024年の再登板は、決して歓迎ムードには染まらなかった。

2023年のフランス大会でのジョーンズは、オーストラリア代表を率いたものの、日本代表と同じく1次リーグで敗退していた。大会開催年になって2度目の就任を決め、突如として若手主体のチームを編んで挑んだのが裏目に出たのだ。

日本代表HC着任のプロセスも議論の的となった。日本ラグビーフットボール協会(日本協会)は当時、国際的な指導者採用実績のあるオジャーズ ベルンソン社のもとで公募。リストアップされた他の指導者の評価が高かったなか、最後はジョーンズが選ばれたのだ。

不幸中の幸いは、ジョーンズHCの揺るがない姿勢

かつてサントリーを率いた者同士である土田雅人・日本協会会長は、最初の就任会見でこう強調しなければならなかった。

「ラグビー協会の会長である私とエディー氏が旧知の仲であるゆえに憶測に基づいた報道がいくつか見られますこと、非常に残念に思っております。日本代表のヘッドコーチの決定という極めて重大な決断に際し、個人の私見、都合が組織判断に影響を与えることはあり得ません」

組閣にも苦労が見えた。ラグビー界ではコーチングの分業化が進んで久しいのに、ジョーンズ体制のアシスタントコーチはすんなりとは発表されなかった。件の選考レースでライバルだったフラン・ルディケ(現クボタスピアーズ船橋・東京ベイHC)が、ジャパンを率いる際の主要コーチ陣を早々と決めていたのとは大違いだった。

選手の顔ぶれが大きく変わったこともあり、2024年秋にはフランス代表に12―52、イングランド代表に14―59で敗れた。お家芸に掲げる連続攻撃を仕掛けようにも、走者という走者が跳ね返されて手詰まりになった。守っても向こうの強さと技巧を止めるのが難しかった。

自信を失った集団には不協和音が生じる。内部からは戦法への批判が出て、ツアー後の日本協会による指導内容のアンケート調査にも一部の選手がさまざまに意見した。

不幸中の幸いは、ジョーンズ自身が、波乱の幕開け、苦難の道のりをものともしないように映ったことだ。

背水の陣で迎えた一戦。ウェールズ代表撃破で見えた光

2025年7月、背水の陣で迎えた対ウェールズ代表2連戦の初戦を制した。試合会場の北九州の熱波に苦しむ古豪を、24―19で下した。直前合宿のスケジュールを見直すなど、アップデートを図った結果でもある。

同年秋の遠征では、ジョージア代表との最終戦を25―23でしぶとく制した。これで、オーストラリア大会の予選組分けを優位に進められる12位以内をキープできた。

成功体験を積み上げるより先に船を降りた選手もいる一方、残った選手同士の結束力、それぞれの覚悟もあらわになった。

司令塔の李承信は当時、こう述べた。

「このチームで勝ちたいという思いが、個人としてもより強くなってきている」

ジョーンズは『超速ラグビー』を唱えた。攻守で相手よりも速く動き続けることを目指した。短時間で効果的な動きを繰り返す様子を「ゴールドエフォート」という独自の指標で数値化。その回数を増やせと叱咤激励してきた。

元気印の竹内柊平はこのように語った。

「僕らがめっちゃきつい時に、『相手のほうがきついよね』というのが日本代表らしさだと、僕は思っている」

フォワード陣は歴代最強。若手の台頭が生む競争

独自性を突き詰めながら、国際舞台で避けられないプレーも磨き直している。

2026年7月は、世界トップ12カ国が争う新設のネーションズチャンピオンシップ前半戦で1勝2敗。最終戦ではフランス代表に苦手なハイボール合戦を仕掛けられ、15―42と屈した。ジョーンズは展望する。

「国内リーグではこの空中戦をあまりこだわっていない。テストマッチ(国際舞台)で強化しなければいけない」

強豪とぶつかるたびに課題となるプレーがあらわになるが、それを反復練習で克服できるのは普遍的なジャパンの強みだ。前任のジョセフも「準備に時間をかけるほど力を発揮する」と看破していたものだ。

第2次ジョーンズ体制3年目の今夏も、網走合宿で151本ものモールを組んだ。オーストラリア代表に32―35と迫った8月8日の一戦、フィジー代表に競り勝ったPNCの決勝などでその成果を発揮した。今後は、混とん状態における素早い大外への展開を磨きたいとジョーンズは言う。

「(9月までは)勝負どころで選手が守りに入るところがあった。これからはブロークンプレーの際、相手がセットする前にスコアできれば」

戦力は整ってきている。勝敗を左右するフォワードでは主将のワーナー・ディアンズ、ベン・ガンターらが揃って歴代最強と謳われる。司令塔のスタンドオフでは、故障した李の代わりに明治大学4年の伊藤龍之介が台頭した。2025年から23歳以下日本代表が動き出したことで、ジョーンズの好きな若手育成を代表強化に直結させている。ボスは続ける。

「ポジション争いが激化している点はポジティブです」

ジョーンズは己に言い聞かせる「私の肌感覚では…」

一見するとにこやかな「エディーさん」は厳しい。昨今のご時世にあっては、ここまで部下に献身を求める上司は珍しいのではないか。この約2年半で、攻撃と防御の担当コーチは1人ずつ交代。合宿の手配やスケジュール管理に携わるスタッフも頻繁に入れ替わってきた。

練習強度が高まるなか、選手個々のコンディション調整で後手を踏むこともある。多くの故障者や体調不良者を抱え、トレーニングへの参加人数が芳しくないままテストマッチに挑んだケースも何度かある。

招集を辞退する人間が少なくないのも周知の事実。強化予算の圧縮など、現場の仕事を問う以前の課題も見え隠れする。

それでもジャパンがポジティブな空気を醸しているとしたら、内部の人間が自分たちに矢印を向けているからだろうか。今夏以降、合宿中に「ジャパンファースト」というグループを作って折り鶴、箸作りといった日本にちなんだ手作業を実施。絆を深める。

「皆が混ざろう、混ざろうと意識している。2年前はそれをエディーさんが促していましたけど、今年は選手から一体となろうという感覚になった」

こう語る竹内は最近、期せずして以前の李と似た発言を残した。

「(ワールドカップのスコッドに)入るのが目標ではなくて、ここで勝つことが目標。ジャパンのチームが大好き。このメンバーでうれしいことも、きついことも、悔しいこともたくさん経験してきている。そして今年、ちょっとずつ成果が出てきています。自信につながっています」

10月24日には日本協会100周年記念試合があり、PNCのファイナルで下したフィジー代表を迎える。11月には渡欧し、ネーションズチャンピオンシップ後半戦に挑む。ジョーンズは己に言い聞かせる。

「私の肌感覚では、ここから先の12カ月はあっという間に過ぎ去る。だからこそ一日一日が大事。緊迫感を帯びてきます。でも、その感覚はいいものです。それがなければ自分がこの仕事をするのに値しないということになりますから」

<了>

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