小杉啓太がフランクフルトで抱く危機感。昨季は公式戦出場ゼロ、今季は定位置確保も「改善が必要」

Career
2026.10.26

愛知・名古屋アジア競技大会で銀メダルを獲得したU-21日本代表。その一員として印象的な活躍を見せた小杉啓太は、ドイツ・ブンデスリーガのフランクフルトでも着実に存在感を高めている。昨季は加入後、一度も公式戦のピッチに立てなかった。しかし、今季は左サイドバックの定位置をつかみ、開幕から先発出場を手にしている。苦しい時期をどう乗り越え、チャンスを手にしたのか。そして、出場機会を得た今も、彼が抱き続けている危機感とは。

(文=中野吉之伴、写真=picture alliance/アフロ)

出場ゼロの半年間。重要なのは、どのように過ごすか

今年1月、期待とともにドイツ・ブンデスリーガのフランクフルトへ加入した小杉啓太。しかし、新天地での挑戦は決して順調なものではなかった。ベンチ入りしても出番がない。やがてメンバーから外れる試合も増え、結局、シーズン終了まで一度も公式戦のピッチに立つことができなかった。

状況は一変する。今季から指揮をとるアディ・ヒュッター新監督のもと、左サイドバックとして開幕からスタメンに名を連ね、第6節まで6試合連続でスタメン出場。昨季は出場機会すら得られなかった若者が、ブンデスリーガの舞台で自らの存在価値を証明しようとしている。

試合に出られない日々をどのように過ごしていたのか。そんな質問に対して、第4節フライブルク戦後に小杉は静かな口調でこう答えた。

「やるべきことをやるしかないんで。それをやり続けて今があると思う。常に突破口を見つけられるように、自分の中で毎日積み重ねてきたつもりではあります。それができて良かったです」

変化の背景には何があったのだろうか。

信頼していた監督の解任で試練「ああいう時期も必要」

若手選手が、移籍後すぐに出場機会を得られるのは簡単な話ではない。新しい環境への適応に加え、監督が求める役割を理解し、チームの戦い方に自分の特徴を落とし込むことが必要になる。

小杉にとって、フランクフルトでの最初の半年間は、まさにそんな難しさに直面する時間だった。

もともと獲得に関わっていたディノ・トップメラー前監督について、小杉はフランクフルト加入直後、「監督とは戦術的な話と僕の守備についてトレーニングの中で話をしました。信頼を感じていますし、チームに順応するために必要な時間をもらえるという気持ちを持っています」と語っていた。クラブのサポートのもと、じっくりと馴染んでいく予定だったはずだ。

ただプロサッカーの世界では自身を必要として獲得に動いてくれた監督が、その後チームから離れ、自分の立ち位置が大きく変わってしまうことがある。

1月にトップメラーが解任される。そして、暫定体制を経て、2月に指揮官に就任したアルベルト・リエラは小杉を重用しなかった。指揮官と小杉の関係をめぐっては、一部で確執があったかのような報道も見られた。ただ、小杉本人は、伝わり方にズレが生じている部分があると感じていた。

「翻訳の翻訳とかによって、ズレている部分はあると思います。監督によって、それぞれ使いたい選手というのが異なる中で、その選手が自分ではないというのはわかっていました。(ナタニエル)ブラウン(編集部注:咋シーズン終了後にバイエルンへ移籍)がいて、彼のようにいい選手からいろいろなことを学びました。苦しい時期ではありましたけど、今となれば、ああいう時期も必要だったんじゃないかなというふうに思います」

出場機会がなかったからといって、その能力まで評価されていなかったわけではない。ドイツのサッカー専門サイト「アブソルート・フスバル」のフランクフルト番記者クリストファー・ミヒェルが、練習での意欲的な姿勢や良質なクロスがクラブ関係者に評価されていると報じていた。また、地元メディアでは、左足から繰り出される精度の高いクロスなど、小杉の資質を評価する声もあった。

出場機会を得ても常に持ち続ける「危機感」

いつ訪れるかわからないチャンスに向けて、選手は何ができるのか。小杉が選んだのは、日々の積み重ねを止めないことだった。

「やるべきことをやるしかない」という言葉は、決して特別なものではない。しかし、努力を続けたからといっていつになれば起用されるのかもわからない中で、それができるのか。そんな状況でも、自分がコントロールできることに目を向け、準備を続けてきた。その姿勢に、小杉の人間性の強さが表れている。

今季、ヒュッター監督への交代によってチームの戦い方や、選手に求められる役割が変化したことも、チャンスを得られた要因の一つ。そしてチャンスが訪れたときに、その舞台へ立つための準備を続けていたことが、今につながっている。

開幕から4試合連続でフル出場した時点でも、小杉自身に浮かれた様子はなかった。第4節フライブルク戦は、2度リードを奪いながら、追いつかれての引き分け。試合後に感想を尋ねると、まず口にしたのはチームと自分自身への厳しい評価だった。

「負けてもおかしくなかった試合なので、1ポイント取れただけでもポジティブに捉えなきゃいけないと思います。ただ、それ以前にやるべきことが多すぎて、今はまだ整理するのが難しいかなというふうに思います」

何がそこまで足りなかったのか。

「チーム全体としてもそうですし、個人のプレーとしてもそうですね。インテンシティとかセカンドボール、オーガナイズの部分で、相手は僕たちの数倍は上回っていました。今日は個人的なところでも、個人で局面を打開できなかったり、ボールを取り切れなかったりするシーンが多かったので、そこはしっかり見つめ直して、距離感とかも含めて改善していけたらなと思います」

出場機会を得ているからといって、十分なパフォーマンスを発揮できなければ、この舞台に立ち続けることができないという危機感を常に持っている。

「リツくんみたいに…」試合を動かせる選手への進化

ブンデスリーガのスピードや強度に慣れてはきた。ここからはそれを超えて、競争の激しい世界でポジションを守り続けるために、自身の強みをより発揮できるようになることが求められる。

小杉も、そのことを十分に理解している。

「感覚的には良くなっていると思います。ただ、まだ数字として結果を残せていないですし、連続でフルで出してもらっているのに、チームの中でいいパフォーマンスをまだ出せていない。中心になれていないというのは、自分の課題かなと思います」

試合に出られなかった昨季は、まずピッチに立つことが目標だった。しかし、実際に出場機会を得た今、その基準はすでに変わっている。

フライブルク戦では、前半はなかなか高い位置まで攻め上がることができなかった小杉だが、後半には前方でボールを受け、味方につなぐ場面も、攻撃の起点になる場面も増えていた。改善の兆しも感じられた。

その点について尋ねると、小杉は一定の手応えを認めながらも、すぐに自分自身への要求を口にした。

「そうですね。出せている部分もあります。ただ、攻守において自分がチームの中心を担えるぐらいの選手じゃないといけないと思っています。今、監督が4試合使ってくれているので、それに対して早く答えないといけない。自分自身に対してプレッシャーは常にかけています」

では、チームの中心になるとは、具体的にどんなプレーを意味するのだろうか。小杉が例に挙げたのは、同じフランクフルトでプレーする堂安律だった。

「今日で言えば、リツくんみたいに一人で打開して、相手を外してアシストしたり。あとはボールを失わない、きつい時間帯にボールを奪い切る、ファウルをもらって自分たちの時間を作るとか。そういう部分で差を見せられるようにしていきたいなと思います」

相手を一人かわして決定的な仕事をする。あるいは、苦しい時間帯にボールを奪い、チームの流れを変える。ファウルを誘って相手の勢いを止め、自分たちが落ち着いてプレーできる時間を作る。表現を変えれば、試合の流れを読み、チームが必要としているプレーを適切なタイミングで選択し、実行できる選手になりたいということだろう。

サイドバックは、攻撃にも守備にも関与するポジションだ。試合を重ねるごとに小杉からの鋭く正確なクロスがチャンスに結びつく機会が増えてきている。激しく前向きな守備で相手の前進を止め、ボールを奪うシーンもよく目にする。このままシーズンを通してコンスタントに好プレーを見せられるかに注目が集まる。日本を代表する左サイドバックとなる日も遠くないかもしれない。

<了>

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