なぜ日本企業が欧州クラブ経営に挑むのか? 金宝堂によるベールスホット買収、その舞台裏

Business
2026.08.21

ベルギーの伝統クラブ、KベールスホットVAは、日本企業の金宝堂ホールディングスによる経営参画を機に新たな再建フェーズに入った。葬儀事業を主力とする日本企業が欧州クラブ経営に挑む理由とは? ベルギーリーグ2部のクラブを選んだ理由はなんだったのか。2004年からエージェント業に携わり、故イビツァ・オシム氏、ヴァイッド・ハリルホジッチ氏、現JFA会長の宮本恒靖氏ら多くの選手・指導者を支え、現在はベールスホットの現地法人代表を務める大野祐介代表取締役に、欧州クラブ買収の経緯と決断の背景を聞いた。

(インタビュー・構成=松原渓[REALSPORTS編集部]、写真=Belga Image/アフロ)

一つの縁から始まった欧州クラブ経営

――大野さんは長くスポーツエージェントとして活動されてきましたが、今回、どのような経緯でKベールスホットVAの経営に関わることになったのでしょうか。

大野:僕は2000年ごろからサッカー界で仕事を始め、2004年にエージェント業を始めました。最初のクライアントが宮本恒靖さんで、そこから長く選手や指導者のサポートをしてきましたが、今回の話も、もともとは僕が契約していた選手とのつながりがきっかけでした。

  引退した選手がビジネスの世界にいて、その彼から「金宝堂という会社がヨーロッパのサッカーチームの経営に興味を持っている」という連絡を受けたんです。僕のネットワークを活用してサポートできることがあるのではないかということで、金宝堂の経営陣、仲村和明社長を含めた方々に初めてお会いしたのが2024年の秋頃でした。そこで欧州サッカークラブ経営への思いを聞き、最初はエージェント会社として、日本人選手の獲得などを側面からサポートできればと考えていました。

――当初は側面支援の立場だったところから、社長として現地運営を担うことになったのですね。

大野:そうです。金宝堂さんが経営に参画して、クラブと連携していく中で、「やはり現地で経営を見ていく人間がいたほうがいい」という話になりました。僕はこのプロジェクトに最初から関わっていましたし、サッカー選手のこともわかるので、「どうですか」とお話をいただきました。もちろん、エージェントとしてのキャリアを中断することになるかもしれないという意味では、簡単な決断ではありませんでした。ただ、代理人を務めていたイビツァ・オシム監督の「失敗を恐れずにリスクを冒せ」という言葉は、背中を押してくれました。経営者としてヨーロッパの舞台でチャレンジすることで、自分自身も成長できるかもしれない。日本人が欧州クラブの強化や経営に関わる例が増えれば、日本サッカー界の国際的なネットワークも広がっていくと思いました。

金宝堂が欧州を目指した背景

――金宝堂ホールディングスが欧州サッカークラブの経営に関わることになった背景を教えてください。

大野:金宝堂ホールディングスは葬祭事業を主力とする千葉発祥の企業グループです。2代目の仲村和明社長には、事業規模を拡大しながら、より一層の成長のため、自分たちのビジネスやブランドをより多くの人に知ってもらいたいという考えがありました。仲村社長自身もサッカーが好きで、常に新しい領域に挑戦していきたいという思いを持っています。

 千葉では地域への恩返しの意味も込めて、千葉県社会人サッカーリーグ1部のFC GRASION東葛を支援し、ホームグラウンドには「小さな森の家フィールド」の名称を冠しています。そこから地道に強化してJリーグを目指すルートもありますが、相応の時間がかかります。企業として全国的なブランド認知を広げていくうえでは、より大きな発信力を持つ取り組みも必要になる。ヨーロッパで日本人選手が活躍するクラブを持つことができれば、日本全国に知ってもらえる可能性があります。金宝堂ホールディングスのロゴや、家族葬ホール「小さな森の家」というブランドを知っていただくことに、大きな価値があると考えたことが入口でした。

 もちろん、大前提として、事業として成り立つことが条件です。その点、ヨーロッパであれば、国内と比して高額な移籍金という収益機会があります。

――企業イメージとして、スポーツの力を取り入れたいという思いもあったのでしょうか。

大野:葬儀という仕事は、人生の最期に寄り添う仕事です。高齢化が進む日本社会において避けては通れない、社会的な意義の大きいテーマでもあります。そのうえで、葬祭事業をメインとする企業として、『生きる』というテーマも大切にしたいという思いがあります。スポーツには躍動感や生命力があり、そうした場に企業として関わることで、これまでにないイメージを積み上げ、普段は葬儀と接点のない方にも会社を知っていただけます。若い世代に、働く場として関心を持ってもらうきっかけにもなる。金宝堂ホールディングスはサッカーだけではなく、四国では香川オリーブガイナーズという独立リーグの野球チームも保有しています。そうした流れの中で、欧州サッカークラブ経営への関心が広がっていきました。

――社会人クラブや独立リーグの野球チームから、欧州のプロクラブへと進むのは大きな挑戦だと思いますが、大野さんはどのような可能性を見出していましたか?

大野:ヨーロッパには、小さなクラブから巨大なクラブまであります。イングランドのプレミアリーグやドイツのブンデスリーガのクラブを経営するには予算面のハードルがありました。一方で、僕は以前、ベルギーのサッカークラブのマーケットリサーチに関わったことがあります。ベルギーは欧州の中では小規模なリーグで、育成リーグとしての側面が強く、外資の参入も積極的です。今のベルギー1部リーグでも、ベルギー資本ではないオーナーが持っているクラブの割合が多い。そういう意味で、欧州の中では参入しやすい国だと感じていました。

ベルギーをターゲットにした理由

――ベルギーは外資がクラブを持ちやすい環境がそろっているのですか?

大野:そうです。ベルギーのクラブは株式会社化しているケースが多く、株式を買収して経営権を握ることができます。スペインやドイツ、あるいはベルギーと比較的近い規模感のオーストリアなどでは、ソシオや組合によるクラブ保有をしている場合も多く、会社化していないクラブもあります。そうなると、株式を買って経営権を握ることは難しくなります。

  その点、ベルギーは外資が入りやすく、撤退や新規参入も繰り返されています。現地の人たちにも、自分たちのクラブがベルギー資本ではないオーナーに所有されることへのアレルギーが比較的少なく、浮き沈みに慣れている部分があります。

――競技面や選手獲得の面で、ベルギーならではの魅力はありましたか?

大野:ビジネス面で言うと、外国人枠の制限がないので、日本企業がクラブを持ち、日本人選手を送り込むことができます。ベールスホットは以前、サウジアラビア資本だった時期があり、その時はサウジアラビアの選手が多くきていました。同じ2部にもカタール資本のクラブがあり、そこにはカタール人選手がいたりします。

 つまり、その会社やオーナーの意向に沿った補強がしやすく、柔軟性が高いリーグだと思います。加えて、シント=トロイデンVVのように、日本企業が経営権を取得して地道に取り組み、成功している大きな例もあります。参考にできること、学べることがあるという意味でも、まずはベルギーリーグをターゲットにしようとなりました。

――そこから、具体的なクラブ探しが始まったのですね。

大野:はい。僕の会社が調査依頼を受け、マーケットリサーチを始めました。どのクラブなら交渉できるのか、運営しやすいのか、発展する余地があるのか。そうした要素から候補をリストアップしてほしいというオーダーでした。2024年の秋から調査を始め、僕と、僕が信頼しているベルギー人の関係者と共同でリサーチを進めました。年明け頃に一度、候補クラブのリストを作り、それをもとに金宝堂さんと話し合いながらどこと交渉するかを決めていった形です。実際にコンタクトを取ったクラブも複数あり、最終的にベールスホットでいこうということになりました。

ベールスホットに感じた再建の余地

――数あるクラブの中で、ベールスホットに惹かれた理由はどこにありましたか。

大野:一つは予算面です。交渉を始めようとした年明けの時点で、ベールスホットはリーグ最下位で、降格が見えていました。欧州の移籍ウインドーは夏と冬にありますが、冬はシーズン途中で足りないピースを補強したり、残留や優勝に向けて手を打ったりするタイミングです。ただ、当時のクラブは1部残留のために大事な冬のタイミングでも大きな補強をせず、むしろ選手を放出していました。前のオーナーは1部に残ることを諦めているのかな、と感じる状況でもありました。

 2部からの再スタートという状況も踏まえて交渉すれば、1部の時よりも買収にかかる予算が下がる可能性がある。そこで浮いた資金を、選手の獲得や将来的なチームのメンテナンス、施設やハードの拡充など、クラブに投資すべき部分に回せると考えました。

――降格が見える状況でも、上がっていく余白に可能性を感じたのですね。

大野:そうです。もう一つは、ベールスホットというクラブが持つ伝統です。昇降格を繰り返し、破産を経験した波乱万丈な歴史もありますが、そのたびに乗り越えてきた。熱狂的なサポーターもいて、みんなでクラブを救ってきた背景があります。

 ベルギー2部では、1部昇格を目指していても、そのために大きく予算を割くクラブばかりではありません。ベールスホットがしっかり昇格を目指してやれば、1年で上がれる保証はなくても、2、3年の中では上がれるポテンシャルが十分あるだろうと考えました。もちろん、1年でも早く昇格するのがベストです。そこにチャレンジしようという気持ちが、オーナー自身も大きかったと思います。

<了>

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[PROFILE]
大野祐介(おおの・ゆうすけ)
1973年生まれ、埼玉県出身。KベールスホットVA代表取締役。前 株式会社アスリートプラス代表取締役。慶應義塾大学法学部法律学科卒業(米国メリーランド大学留学)。三菱商事株式会社で欧州サッカーや日本代表戦などのスポーツ放送権ビジネスを担当した後、2004年に日本サッカー協会認定選手エージェントライセンスを取得。株式会社アスリートプラスを設立し、宮本恒靖氏、細貝萌選手、イビツァ・オシム氏、ヴァイッド・ハリルホジッチ氏ら、多くの選手・指導者の代理人を務めてきた。金宝堂ホールディングスによるベールスホットの経営参画に際しては、クラブ買収候補の調査や交渉にも携わり、現在は現地でクラブ運営を統括。日本人選手の欧州挑戦や育成・強化、クラブの持続的な成長を見据えた経営に取り組んでいる。

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