安藤梢はなぜ浦和を離れ、新天地を選んだのか。ベレーザ移籍に懸けた新たな挑戦
日本女子サッカー界を長く牽引してきた安藤梢が、今夏、大きな決断を下した。海外挑戦を挟みながら17シーズンを過ごし、40歳でWEリーグMVPにも輝いた三菱重工浦和レッズレディースを離れ、長年ライバルとして戦ってきた日テレ・東京ヴェルディベレーザへ。「浦和でやり切った」という思いの一方で、その胸には、「選手として求められる場所でもう一度自分を試したい」という強い思いがあった。慣れ親しんだ環境を離れ、44歳で新たな競争へ飛び込んだ理由は何だったのか。加入から約1カ月。ベレーザで感じている刺激や変化とともに、その決断の背景を語ってもらった。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=©TOKYO VERDY)
「もっとチャレンジしたい」浦和を離れる決断
――17シーズンプレーした浦和を離れ、新たな環境へ移る大きな決断でした。今回の移籍は、ご自身の中でどのように時間をかけて決めていったのでしょうか。
安藤:昨シーズンを戦っている時からずっと考えていたわけではありません。昨シーズンはレッズでやり切ったなかで、ほとんどメンバーにも入れず、試合にも出られないという、とても苦しい1年でした。周りの方や応援してくださる方からは「ケガで出られなかった」と思われている部分もあったと思うんですけど、ケガから復帰して、自分なりに競争のなかでチャレンジした結果でした。
もちろん、今までプレーしたチームでそのまま現役を終えるのが、一番きれいなサッカー人生なのかなという思いもありました。でも、サッカーを続けるのであれば、もっと試合に出ることを目指したいし、自分を求めてもらえるところでやりたい。選手として一番大事なところを考えた時に、「そうじゃなければ自分らしくないな」と思ったんです。もっとチャレンジしたい。その思いが一番の理由でした。
――浦和では海外挑戦を挟んで17年間プレーしましたが、「やり切った」という思いがあったとも話されていました。それは、どのような感覚なのでしょうか。
安藤:浦和では長い間、チームのため、クラブのために、精いっぱいやってきました。日々の練習も含めて、手を抜かずにやってきたつもりです。そこに対する後悔はありません。その中で、最後のシーズンに試合に絡めなかったことは、自分の中できちんと整理しなければいけませんでした。浦和でやってきたこと自体には悔いがないからこそ、次のチャレンジに進もうと思えたんだと思います。
――新体制発表では「まだ成長したい」と話されていました。今の安藤選手にとって、その「成長」にはどのような意味がありますか。
安藤:もちろん成長したいという気持ちもありますけど、自分の中では「チャレンジを続けたい」という思いが大きいです。サッカー選手として試合に出て、優勝を目指すチームの中で、自分が貢献していく部分で、「まだまだやれる」というところを見せていきたい。それが今の自分にとってのチャレンジです。
新天地で知った「1日目からの楽しさ」
――新体制発表から約1カ月が経ちました。実際にチームへ加わってみて、ベレーザの雰囲気について、事前の印象との違いや新たな発見はありましたか。
安藤:新しいチームに入ったので、いきなり新しいロッカーに入って、新しい仲間と一緒になることに、楽しみな気持ちと「ベレーザってどんな集団なんだろう?」というドキドキ感がありました。でも、初日から若い選手も経験のある選手も、本当にフレンドリーで、気さくに話しかけてくれたんです。「1日目からこんなに楽しくていいのかな」というくらいでした。以前から知っている(猶本)光や(塩越)柚歩がいてくれたおかげで、周りの選手も自然に接してくれたことはありがたかったですね。
――安藤選手ほど経験を積んできた選手でも、新しい環境に飛び込む際には緊張感があるのですね。
安藤:ありますね。新加入は私だけではなく3人いましたけど、みんなに対してすごく気を配って、話しかけてくれるのが温かいなと思いました。今まではライバルチームとして戦ってきた相手だったので、実際に入ってみると「こんなに可愛らしい選手たちなんだ」と感じたりもして(笑)。一人ひとりとコミュニケーションを取りながら、ピッチ内外で一緒に高めていけている日々が楽しいです。
――オフの時間も含めて、新しい生活環境には少しずつ慣れてきましたか。
安藤:そうですね。最初は街の雰囲気も違って「坂が多いな」と感じたりもしましたが(笑)、クラブハウスに行く道にも慣れました。
実は、宇都宮にいた中学生の時に夏休みだけメニーナ(ベレーザの下部組織)の練習に参加させてもらっていたことがあって、クラブハウスに通っていたことがあるんです。1カ月くらい通っていたので、景色にも懐かしさを感じています。
中を狙う鋭いパス。ベレーザで学ぶ「駆け引き」の文化
――実際にベレーザへ移籍して約1カ月。レベルの高い競争の中に身を置いて、今はどのような刺激を受けていますか。
安藤:日々、学ぶことが多くて、それだけでも「来てよかったな」と思います。ずっと同じチームにいると、そのチームのこだわりが自分の基準になります。でも、チームが変わればそれも変わります。ベレーザに来て、特に駆け引きだったり、足元のうまさだったりというものを日々感じています。自分もそこをもっと磨いていきたいです。
――対戦相手として見ていた時と、実際に一緒にプレーしてみた時では、ベレーザのサッカーに対する印象も変わりましたか。
安藤:そうですね。普段の練習から、立ち位置や駆け引きで相手の逆を取っていくとか、どうボールを動かすかというところのこだわりが文化としてあるクラブなんだなと感じていますし、そこに自分も入っていけるように、今は必死にやっています。
――育成年代から上がってくる選手たちにも、そうしたクラブとしての共通した特徴を感じますか。
安藤:感じます。メニーナの選手も合宿や練習に参加していますが、トップのベレーザと同じように、駆け引きの部分のこだわりをメニーナの時から大事にしています。クラブとして、そういう選手を育ててきているんだなと感じます。
――技術面では、ご自身がさらに磨いていきたいと感じている部分はありますか?
安藤:例えば、単純に外を使わずに鋭いところに中につけてくるパスなどはベレーザらしさを感じます。そういった狙いだったりタイミングにしっかり順応していきたいと思っています。逆に自分がパスを出す側になった時には、狙っている選手を見逃さないようにより意識を持ちたいです。そういう技術や駆け引きは、ベレーザの文化のひとつだと感じます。

クラブの文化と「勝ち切る力」の融合
――実際にチームに入ってみて、技術や駆け引きというベレーザらしさを生かしながら、さらにどのようなサッカーを目指していると感じていますか。
安藤:楠瀬(直木/ベレーザ監督)さんは、そういうベレーザらしさに加えて、力強くシンプルにゴールを目指すこともプラスしているように思います。
――昨季はリーグ、AFC女子チャンピオンズリーグ(AWCL)ともにタイトルに近づきながらも、届きませんでした。今シーズン、さらに勝ち切るチームになるために、ベレーザらしい技術や駆け引きに加えて、どのような要素が必要だと感じていますか。
安藤:時にはシンプルなプレーや、ダイナミックなプレーが相手の脅威になることもあると思います。球際だったり、勝負どころできつい時に相手より走ることだったり、サッカーのうまさとは別のメンタリティーも、勝ち続けるために必要だと思います。
今のベレーザにそれが足りないのかどうかは、まだ公式戦を一緒に戦っていないのでわかりません。ただ、優勝するためには、そういう部分も必要になってくると思います。
――昨季、猶本光選手や隅田凜選手、塩越柚歩選手など経験値の高い選手が加入したことで、シュートレンジが広い選手も加わり、ゴール前で個人が決め切る意識も高まっているように見えました。
安藤:そういった選手の特徴はチームの強みとしていきたいです。思い切って自分で決めにいく姿勢は、選手の判断として必要なことだと思います。優勝を目指していくうえで、相手に脅威を与えるという意味でもすごく大事です。
自分自身もそういう部分は見せていかないと試合に関わっていけないと思うので、まずはプレーで示したいです。その中で、自分の経験からアドバイスできることがあれば伝えていきたいです。
ベレーザの歴史をつないできた仲間たちと
――昨シーズン引退して、今季クラブのアンバサダーとして活動している岩清水梓さんは、長年ベレーザを支えてきた存在です。ワールドカップやオリンピックをともに戦った仲間でもありますが、今回、ご自身がこのクラブに加わったことで、改めて感じることはありますか。
安藤:特別に何かを話したわけではないですけど、自分が選手としてやってきた中で、ずっとイワシがこのクラブを築き上げてきた姿を見てきました。対戦相手ではありましたけど、本当に身体を張って戦ってきた選手です。だから、イワシが築いてきたクラブで、みんなと共に「強いベレーザ」を作っていきたいという気持ちがあります。
――村松智子選手は安藤選手について、「とてもフランクで、エネルギーに満ち溢れた方」と話していました。実際に一緒にプレーして、どんな印象を受けていますか。
安藤:カツオ(村松の愛称)ちゃんは、ずっとベレーザでチームを守って、クラブの伝統を築き上げてきた選手だと思います。練習の中でも、少し空気が緩む時にはみんなを集めて「集中していこう」と声をかける。それだけじゃなく、プレーでも身体を張り、練習でも手を抜かない。そういう姿から自分もすごく刺激をもらっていますし、一緒にやれることがうれしいです。
――今シーズンはリーグ優勝、そして、AWCL出場権獲得が大きな目標になります。その目標に対する思いを教えてください。
安藤:このクラブがリーグ優勝に対して強い思いを持っていることは、実際に加入してすごく感じています。「優勝しなければいけない」と思っている。それはクラブの歴史であり、伝統ですよね。「強いベレーザを見せるんだ」という思いもすごく感じていますし、昨シーズンAWCLで優勝できなかったことへの悔しさも、チーム全体から伝わってきます。自分を受け入れてもらったこのクラブに恩返しするためにも、まずはリーグ優勝して、AWCLの出場権を取る。そこには強い思いを持って取り組みたいです。
<了>
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[PROFILE]
安藤梢(あんどう・こずえ)
1982年7月9日生まれ、栃木県出身。日テレ・東京ヴェルディベレーザ所属。ポジションはFW。筑波大学を経て、2002年にさいたまレイナスFC(現・三菱重工浦和レッズレディース)に加入。リーグ得点王やMVP、ベストイレブンなど数々の個人タイトルを獲得し、2010年からドイツ・女子ブンデスリーガでプレー。FCR2001デュイスブルク、1.FFCフランクフルト、SGSエッセンに所属し、2014-15シーズンにはフランクフルトでUEFA女子チャンピオンズリーグ優勝を経験した。日本代表ではFIFA女子ワールドカップに1999年、2007年、2011年、2015年の4大会、五輪には2004年アテネ、2008年北京、2012年ロンドンの3大会に出場。2011年女子ワールドカップで世界一、2012年ロンドン五輪で銀メダル、2015年女子ワールドカップで準優勝を経験した。2017年に浦和へ復帰し、2022-23シーズンにはWEリーグ優勝に貢献するとともに、40歳でリーグMVPとベストイレブンを受賞。2026年7月、17シーズン在籍した浦和を離れ、日テレ・東京ヴェルディベレーザへ完全移籍した。また競技活動と並行して研究にも取り組み、2018年に筑波大学で博士(体育科学)を取得。現在は同大学体育系助教を務め、サッカーや競技力向上、スポーツマネジメントなどの研究・教育にも携わっている。
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