「教えることで自分が学ぶ」選手と大学助教の両立。安藤梢が新天地でも挑戦し続ける理由
三菱重工浦和レッズレディースを離れ、新天地、日テレ・東京ヴェルディベレーザで新たな一歩を踏み出した安藤梢。長年、国内外のトップレベルでプレーし、日本女子サッカー界を代表する存在となった今も、「まだ学びたい」という姿勢は変わらない。若い選手から刺激を受け、大学では助教として学生を指導し、研究を通して自らも学び続ける。その経験はサッカーにも生きているという。大きなケガを乗り越え、再び挑戦を選んだ安藤が語る、「学び続けること」と「挑戦し続けること」の意味とは。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=©TOKYO VERDY)
若い選手と向き合い、自分も成長する
――若い選手と一緒に過ごす中で、刺激を受けたり、興味深いと感じたりすることはありますか。
安藤:合宿で眞城美春選手と同じ部屋になったんですけど、メンタルも強そうだし、どんどん新しいことを吸収しようとしている姿が印象的でした。彼女は攻撃が得意な選手だと思いますが、「世界に行ったら中盤の選手も守備が大事だよね」という話をしていて、「澤(穂希)さんも守備がすごかったんだよ」と話をすると、すごく興味を持って聞いてくれて。次の日には「めちゃくちゃ守備をしている夢を見ました」と言っていました(笑)。「ヘディングも新しい武器になったらすごいよね」と話していたら、練習後に毎日トレーニングしていたり。そうやって取り組む姿を見ると、「さすがだな」と思いますし、自分も刺激を受けます。
――世代によって、選手への接し方や言葉のかけ方を変えることはありますか。
安藤:私は選手によって対応はあまり変えていないですね。逆に、自分が相手のことを知りたいと思うんです。「どんな選手なんだろう」とか、「今は何が流行っているんだろう」とか。そういう興味のぼうが強いです。
だから、年代によって自分が合わせるという感じでもないですね。若い選手には、自分にあまり気を遣わないでほしいです。「そういうキャラクターじゃないよ」ということをわかってもらいたいですし、フラットに接してもらえたらうれしいです。
――筑波大学では助教として2021年から学生を指導されています。教育や研究に携わる経験は、選手としてチームメートと接する時にも影響していますか。
安藤:サッカーのピッチに立てば、同じ選手で、仲間であり、競い合っていく存在なので、そこまで「教えよう」という気持ちにはなっていません。ただ、「今、この選手はこういう状態なのかな」と、一歩引いて見られるところはあるかもしれません。
教えることが、自分の学びにもなる
――今回の移籍によって、大学との両立や生活リズムには変化がありましたか?
安藤:そこまで大きくは変わっていないですね。筑波大学ではありますけど、私が主に担当しているのは都内のキャンパスなので、移動時間も大きくは変わっていません。楠瀬(直木)監督も、以前から自分がそういう形で大学の仕事と両立していることを知ってくださっているので、そのあたりも理解してもらえているのはありがたいです。
――大学では、ご自身のゼミで学生を指導されていますが、学生が成長していく姿には、どのようなやりがいを感じていますか。
安藤:自分のゼミに入ってくれた学生が論文を書いて、成長しながら立派に卒業していく姿を見るのは本当に感動するんですよ。少しでも「自分のゼミでこれを学べた」「入ってよかった」と思ってもらえるものがあればうれしいです。そのためには、自分自身がもっと成長しなければいけないと思っています。
――授業では、サッカーを専門としていない学生や、他競技のトップレベルの選手を教える機会もあるのですか。
安藤:あります。教員免許を取るためにサッカーの授業を履修する学生もいるので、サッカーを専門にしていない学生にも教えます。剣道だったり、バスケットボールだったり、他競技で代表レベルのアスリートやオリンピックのメダリストがいることもあります。そうすると、授業の前後で競技生活やメディア対応など選手としての悩みを相談してくれることもよくあります。
――大学で学生を指導する経験が、サッカーにもつながっていると感じることはありますか。
安藤:あると思います。論文指導をしていると、学生が「絶対こういう結果になるはずだ」と、最初から答えを決めつけて研究すると、うまくいかないことがあるんです。自分の思いを先走らせず、いろいろな角度から物事を考えて、フラットな気持ちで研究しなければいけないということは、学生にもよく言っています。
それはサッカーにもつながる気がします。自分に置き換えると、経験があるからこそ、その経験が逆に邪魔をして、「サッカーとはこういうものだ」「今までこう教わったから、これが正しい」と思いすぎると、新しいものを受け入れられなくなる。今までの経験を強く意識しすぎず、その時々で新しいものを受け入れて、自分なりの答えを導き出していくことは大事だと思います。実際、教えることを通して、自分のほうが学んでいる感じがしますから。
長いリハビリを越えて、新たなシーズンへ
――2024年1月に受傷した膝の大きなケガから約1年に及ぶリハビリを経験したことは、今のサッカー観や選手としての考え方にどのような影響を与えていますか。
安藤:リハビリは本当に苦しかったです。サッカー人生において、大ケガをした時やリハビリ中って、頑張りたくても我慢しなければならない、自分ではどうしようもない時期です。長い時間をかけて地道にリハビリをしてきたので、その成果をピッチで思い切り表現したいという思いがあります。それに、同じようにケガをしている選手の気持ちにもし寄り添えることがあれば、寄り添いたいです。
――リハビリ中はいろいろなプレーをイメージしていたと思います。復帰した今、ご自身の中で「こういうプレーをしたい」という具体的なイメージはありますか。
安藤:今は具体的なプレーのイメージを描くよりも、「とにかくチームに貢献したい」という必死さのほうが強いです。もちろん、それがゴールだったら理想的ですが、守備でもいいし、一つのパスでもいいし、アシストでもいい。自分のきれいなプレーを見せたいというより、がむしゃらにプレーして、何かしらの形でチームに貢献したいですし、どうやったらみんなで勝てるかを常に考えています。
――8月23日にWEリーグ開幕戦を迎えます。これまで対戦相手として何度もプレーしてきた味の素フィールド西が丘が、今度はホームになります。安藤選手にとってはどのような場所ですか。
安藤:もともと好きなスタジアムの一つです。トラックがなくて、ピッチと観客席が近くて、お客さんの温度感を感じながらプレーできるので、自分にとってもプレーしやすいスタジアムでした。そこが今度はホームになるというのは、すごくうれしいですね。

求められる場所で、挑戦を続ける
――これまでさまざまなポジションを経験されていますが、ベレーザではどのポジションで勝負したいと考えていますか。
安藤:自分は、求められたところならどこでもやりたいと思っています。このチームに期待してもらって、またこういう場を与えてもらったことにすごく感謝しています。チームに貢献できるのであれば、どのポジションでも「ここをやってくれ」と言われたところでやる。その心構えで準備しています。試合中にポジションが変わっても、すぐ対応できるようにしておきたいです。
――新体制発表では、楠瀬監督について「自分が持っている以上のものを引き出してくれる」と話されていました。再び指導を受ける中で、改めて感じる楠瀬監督らしさはありますか。
安藤:それは初日から感じました。これは言葉にするのが難しくて、もしかしたら年齢を重ねた選手にしかわからない感覚だと思います。 当たり前のように年齢に関係なく「もっとできるぞ」と接してくれます。自分が積み重ねてきた経験も大切にしてくれ、若い選手と同じように一人の選手として期待してもらえていることを幸せに思っています。その期待にもっと応えたいという気持ちにさせてくれます。
――今回の移籍を含め、ご自身はこれまで何度も新しい挑戦を選んできました。その経験を踏まえて、新たな挑戦に一歩を踏み出せずにいる人たちに、今の安藤選手だからこそ伝えられることはありますか?
安藤:移籍することに、もちろん怖さはありました。何年もいた慣れ親しんだチームを離れて、ずっとライバルだったチームに行くわけですし、新しい場所へ入れば、そこでまたゼロから結果を積み上げていかなければいけない。その怖さも含めて、自分にとって大きなチャレンジでした。でも、踏み出してみたら本当によかったと思っていますし、1日目からそれを感じました。
大学の助教として競技と両立することにも、最初は不安と怖さがありました。でも思い切ってチャレンジしたら、逆にサッカーのパフォーマンスが上がった部分もありましたし、見えるものも広がって、学びもすごく多かったです。
サッカーでは今も新しい課題と向き合っていますけど、それもポジティブな課題として捉えています。このクラブでしっかりプレーして結果を残すことで、「迷ったら一歩踏み出してみることも大事なんだ」ということを伝えられたらいいなと思っています。
海外とWEリーグを行き来できる未来へ
――現在のなでしこジャパンには、一緒にプレーしたり、大学で指導者として関わったりしてきた選手たちもいます。そうした選手たちの活躍を、どのような思いで見ていますか。
安藤:一緒にプレーしたり、一緒に学んだりした選手たちが活躍していることが、純粋にうれしいです。成長していく姿を見ることは自分にとっても刺激になりますし、誇らしさもあって、姪っ子や甥っ子に自慢しています(笑)。「ケガしないでほしい」「ゴールしてほしい」「勝ってほしい」と、ある意味では親みたいな気持ちもあります。(熊谷)紗希は大学1年生の頃から知っていますが、長く代表でプレーして、海外の第一線で活躍し続けている。それは本当にすごいことですし、リスペクトしています。
――WEリーグで活躍し、海外挑戦をする選手が増える一方で、国内のWEリーグをさらに盛り上げていくことは課題です。海外と国内の関係をどのようにつなげていくのが理想なのでしょうか?
安藤:日本と海外を、そこまで分けて考えなくてもいいのかなと思っています。海外へ行ったらずっと海外ではなくて、また日本に戻ってきて、また海外に行ったり。もっと気軽に行き来できるようになればいいと思います。そのためには、日本のリーグも「戻ってきたい」と思ってもらえる環境であることが大切です。そのためにも、選手としてリーグのレベルを上げていきたいです。
――来年には女子ワールドカップも控えています。
安藤:来年のワールドカップで結果を残し、その流れがWEリーグにもつながっていけばうれしいですね。そんな循環が生まれて、リーグ全体がもっと盛り上がってほしいと思います。優勝できると思いますし、心から応援しています。
【連載前編】安藤梢はなぜ浦和を離れ、新天地を選んだのか。ベレーザ移籍に懸けた新たな挑戦
<了>
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[PROFILE]
安藤梢(あんどう・こずえ)
1982年7月9日生まれ、栃木県出身。日テレ・東京ヴェルディベレーザ所属。ポジションはFW。筑波大学を経て、2002年にさいたまレイナスFC(現・三菱重工浦和レッズレディース)に加入。リーグ得点王やMVP、ベストイレブンなど数々の個人タイトルを獲得し、2010年からドイツ・女子ブンデスリーガでプレー。FCR2001デュイスブルク、1.FFCフランクフルト、SGSエッセンに所属し、2014-15シーズンにはフランクフルトでUEFA女子チャンピオンズリーグ優勝を経験した。日本代表ではFIFA女子ワールドカップに1999年、2007年、2011年、2015年の4大会、五輪には2004年アテネ、2008年北京、2012年ロンドンの3大会に出場。2011年女子ワールドカップで世界一、2012年ロンドン五輪で銀メダル、2015年女子ワールドカップで準優勝を経験した。2017年に浦和へ復帰し、2022-23シーズンにはWEリーグ優勝に貢献するとともに、40歳でリーグMVPとベストイレブンを受賞。2026年7月、17シーズン在籍した浦和を離れ、日テレ・東京ヴェルディベレーザへ完全移籍した。また競技活動と並行して研究にも取り組み、2018年に筑波大学で博士(体育科学)を取得。現在は同大学体育系助教を務め、サッカーや競技力向上、スポーツマネジメントなどの研究・教育にも携わっている。
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