張本美和はどこまで進化するのか? 中国勢を連破した18歳を変えた「立ち位置」
WTTチャンピオンズ横浜で、張本美和が中国の難敵を次々と打ち破った。準決勝では王芸迪、決勝では前年王者の陳幸同を撃破。しかも、その戦いぶりには「崩れにくさ」があった。鍵となったのは、台の真ん中を含めた「立ち位置」の変化。両ハンドの攻撃力という従来の武器に、新たな展開の構築が加わったことで、張本美和は世界一の座に向かう「最強」へと近づきつつある。
(文=本島修司、写真=YUTAKA/アフロスポーツ)
張本美和を変えた「立ち位置」。横浜で見えた新たな強さ
WTTチャンピオンズ横浜。張本智和と張本美和の兄妹ダブル優勝が話題となった。
なかでも張本美和は準決勝、決勝と2戦連続で中国勢を撃破。その内容は「危なげない」とすら言える強さだった。
女子シングルスの部で順調に勝ち進むと、準決勝では「どうやって戦えばいいのだろうと不安になった」とさえ口にしていた4連敗中の“難敵”である中国の王芸迪を撃破。決勝戦では陳幸同を4-2で破り、頂点に立った。
目立ったのは台の真ん中からの攻撃だ。これまで以上に立ち位置に豊富なバリエーションが見られた。そしてそれは抜群の安定感と精度を生み出すことにつながった。
明らかに以前より安定感を増した彼女の強さ。その要因に迫る。
台の真ん中から攻める。決勝で見えた「崩れない」両ハンド
8月4日〜9日にかけて開催されたWTTチャンピオンズ横浜における張本の見せ場はなんといっても女子シングルスの決勝戦だろう。陳幸同はこの大会の前年の覇者だ。今、世界でも屈指の勢いを見せる張本が、連覇を狙って気合いが入っている中国のトップクラス選手とどう対峙するか。そこに注目が集まった。
第1ゲーム。ストップを止め合う展開から開始。まるで男子卓球のように少しでも長いと打たれるような緊張感が漂う。その隙を見つけながら張本美和は積極的にフォアハンド中心に攻めていく。このあたりは安定感のある出だしを感じさせる。
ここから、いきなり壮絶な打ち合い。3-1の場面では台の真ん中あたりに立ち、両ハンドを切り返しながら激しく打ち合った。ここは3-2とされたが、その後は張本が凌ぎ切るラリーが増えていく。中盤にはミスも出たが13-11でここを勝ち切る。
第2ゲーム。ここからさらに打ち合いが激しさを増していく。張本は両サイドに散らして、陳幸同を左右に振る。ミドルにも打ち込んでこのコースを意識させつつ、また左右に散らす。これで打ち合いを翻弄した。
中盤から後半にかけては、バックミート対バックミートをクロスで徹底的に打ち合う攻防もあった。ここも精度がよく崩れない張本が11-7で奪取。
第3ゲーム。陳幸同は思い切って回り込んでフォアを打つ作戦に、自分から動いて揺さぶられないように展開を作ってくる。これにより序盤からリードを許し9-11で落とした。
このあたりの中国選手の切り替えの早い戦いぶりは、日本人選手も「見習うべき点」や「取り入れるべき点」として参考になりそうだ。相手に揺さぶられる前に、まるでボクサーのように軽やかにフットワークを使い始める。そして、なるべく先に自分のやりやすい位置から攻撃を仕掛けてしまう。さすが中国選手のトップクラスの選手だ。
ここは9-11で陳幸同が制する。
陳幸同が戦術を変えても、張本は崩れない「大きな壁」に
そしてこの試合は「立ち位置」というファクターが一つのキーワードになっていく。
第4ゲーム。ここで会場から張本への声援が大きくなった。このあたりはホームの有利さもあったか。声援は精神的な後押しにもなっただろう。
フォア、ミドル、バックと「まるでそこにボールが来ることがわかっている練習」かのようにリズムを刻みながら陳幸同を追い詰める張本。
ミドルの位置から、相手の角へ打つボールは、「角から角」とはまた違う取りにくさがある。軽打と強打を混ぜながら、一番良いタイミングで強打を打ち込む。張本に勢いがつき11-9で取り切る。
第5ゲーム。陳幸同はこれまで多用してこなかったチキータで先手を取ってきた。一瞬、張本の緊張の糸が切れたかのようなも見えた。ここは1-11で落としてしまう。
第6ゲーム。ツッツキ合いから始まり3-1と張本がリードする。もう一度コースを左右に打ち分け始める張本。さらには緩急をつけながら攻めていく。ツッツキからのバックミート。バックフリックからのバックミート。どちらもそのまま打ち合いに入るが張本がこれを完璧に制していく。
回り込んで打ち、飛び込んで打ち。ここまではいつものコース取りだ。ただ、ここでも時折、台の真ん中から打つ姿も目立った。今大会は「この真ん中の立ち位置」から強打を放つシーンが多かった。それが見事な角度がついたドライブとなり、相手の選手を大きく左右に揺さぶる。決定打にもなっている。最後まで抜群の安定感を見せた張本が11-7で勝利を決めた。
中国の“難敵”も“前年大会の覇者”も、今大会の張本の前では最後まで崩し切れなかった。そんな印象だ。
要となったのはミスのない両ハンドの攻撃。そこはこれまでと変わらない。ただ、台の真ん中から打つだけで、これほどまで攻撃の幅が広がるのかとため息が出るほど圧巻のパフォーマンスだ。
サーブも要所では、台の真ん中付近から出していた。こうした小さな工夫のある戦術も取り入れた張本は、今や中国のトップ選手を相手にしても、簡単には崩れない。
4-0で完勝した準々決勝では、中国の陳熠との対戦で台の真ん中からYGサーブを出していた。準決勝と決勝ではそのYGサーブを封印したかのような形で勝利。このあたりの戦略や駆け引きも見事。
張本美和の存在が中国勢にとって「大きな壁」になっているようにすら見えてくる。
際立った「立ち位置を変えながらの展開の構築」
台の真ん中からのサーブを起点に、安定感のあるスタイルを築く。
かつて、中国男子の樊振東が世界の頂点に君臨し、敵なしの強さを見せていた頃、これに似た特徴が見られた。
樊振東の場合、切れ味抜群のYGサーブを台の真ん中から出し、両ハンドで攻撃していた。
今回の張本の戦いぶりを見ると台の両方のサイドへの打ち分けの精度の高さが際立っているのがわかる。
共通するのは、台の中央付近を起点に、両ハンドで相手の選択肢を奪っていく点だ。
また、決勝戦のように張本にとっても得意技の一つとなってきているYGサーブを出さない場面でも、ミドルへの攻撃を挟んでからまた両サイドに打ち分けるなど、ドライブやミートを「どこからでも打てて、どの場所へも入る」状態に仕上がっていた。
台の真ん中から打つと、違った角度で入る。同じフォアの角に入るにせよ、同じバックの角に入るにせよ「バリエーションが増えている状態」が出来上がる。
そして第4ゲームのように、台の真ん中、フォア、バックと、まるでミスのない練習を楽しんでいるかのような正確なリズムを刻みながら動く。このリズムも見事だ。
恐ろしいまでに精度の高いその姿は、張本自身が「ミスのない鉄壁なマシーン」のようにすら見える。
もともと、男子顔負けの攻撃力に定評があった張本の「この完璧な打ち分け」は、ここにきて大きな収穫があったと言えそうだ。
目指す「世界一」へ。張本美和はどこまで進化するのか
その後の8月8日~8月16日にかけて開催されたWTTヨーロッパスマッシュでは、早田ひなと組んだダブルスで優勝。一方、シングルスでは準決勝で王芸迪に2-4で敗れた。
WTTチャンピオンズ横浜から続く連戦のなか、短期間で中国勢を相手に連戦する難しさを痛感する。卓球大国の中国勢がこのまま黙っているはずがない証でもある。1ゲーム目から勢いよく襲い掛かってきた王芸迪の姿を見ると、張本へのマークはさらに徹底されているようだ。
休養とケガの影響でWTTチャンピオンズ横浜とWTTヨーロッパスマッシュの両大会を欠場した世界ランキング1位の女王・孫穎莎ともこれから新たな戦いが始まるだろう。
ただ、世界一を目指す張本美和が、「最強」と呼ばれるための条件を一つずつ手にし始めていることは間違いない。
今の彼女なら、どんな強敵も跳ね返す力がある。その可能性を感じた2つの大会だった。そしてそれを誰よりも実感しているのは、他ならぬ中国陣営のはず。
もしかすると、今、世界中のスポーツファンは、これまでの日本女子卓球にはない強さの領域へ足を踏み入れようとする選手を、目にしているのかもしれない。
<了>
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