なぜ張本美和・早田ひなペアは噛み合ったのか? 化学反応起こした「今の2人だけが出せる答え」
全日本選手権決勝で火花を散らした2人が、今度は同じコートに立った。張本美和と早田ひな。ライバルとして互いを高め合ってきた2人が、わずか数日の準備期間でダブルスを結成すると、完成度の高い連係で世界トップレベルの相手を圧倒した。WTTシンガポールスマッシュ2026で中国勢を相手に示したのは、日本女子卓球の新たな可能性だった。
(文=本島修司、写真=松尾/アフロスポーツ)
ライバルから共闘へ。全日本決勝が生んだダブルス
2月19日から3月1日にかけて行われたWTTシンガポールスマッシュ2026。序盤から白熱した試合が行われる中、注目が集まったのは女子ダブルス。日本人ペアの優勝に会場が湧いた。
全日本選手権の決勝戦で死闘を演じた張本美和と早田ひながコンビを結成。WTTの国際大会でペアを組むのは初となる。
かたや、全日本選手権で4冠を達成し圧倒的な女王となった張本美和。そして、互いに認め合う最強の後輩を前に、逆襲と復権を誓う早田ひな。
このペアでの練習は大会直前の「3日だけ」。あえてベンチコーチは付けず2人の意見をぶつけ合うという形で挑んだ。
間違いなく実力が抜きん出ている日本のツートップが組むと、果たしてどんな化学反応が起こるのか。2人が国際大会で出した「一発解答」。その中身を見ていこう。
中国戦で見えた完成度。左右の組み合わせが機能
ここが事実上の決勝戦。そう言われた女子ダブルス準決勝。中国の若手の代表格である、蒯曼・陳熠との対戦で、張本・早田組の全貌と実力は“解放”された。
第1ゲーム。台上でのミスから試合が始まる。しかし、1-1からラリーに入ることで張本と早田のお互いのリズムができてくる。
お互いのバックミートが冴え、ミスが出ない。それも、ラリーで強みを見せるはずの世界最強の中国を相手にしてのもの。この時点で「まだ見ぬ強さの領域」の予感は十分にあった。
ストップ合戦からも噛み合いを見せる。張本が長くなったストップをドライブし、浮いたボールを早田が上から叩いて決める。まったくミスをする気配がない。中国ペアも粘りを見せるが、張本が甘くなったレシーブを一気に狙い撃ちして11-9で勝利。
第2ゲーム。序盤から、得点にはならなくても、早田がバックミートで相手をキッチリ左右に振って張本に回すパターンが確立されてくる。
この大会までに「練習は3日だけ」だったとは思えないコンビネーションの良さで「パートナーの長所を生かしている」。
つい先日まではバチバチのライバル同士だった2人だ。しかし、先輩にあたる早田ひながむしろ後輩にチャンスボールを作って回すのだという姿勢を感じる。
これはきっと、あの全日本選手権がなければ生まれなかった二人の姿だろう。お互いがお互いを認め合っているのが、見ているファンにも伝わってくる。
中盤~後半も、早田は丁寧にコースを突いて張本に回す卓球を展開した。このゲームは5-11で落とすが、これまでのような「中国にはとても敵わない」という雰囲気はどこにもなかった。
役割分担の明確化が生んだ安定感
第3ゲーム~第4ゲームでは、早田のバックがコースを突く、そこから張本のフォアで決めにいく。このパターンが完全に噛み合い得点になり始めた。安定感が抜群だ。
卓球のダブルスは一般的に「右利きと左利きが組むと有利」と言われている。ハの字型に動けるからだ。早田が左利きで得意のバックハンドを打ち、即座に動いて戻り、張本が飛び込むスペースを作る。そこに張本が躊躇なく飛び込んで打つ。
物理的にやりやすいこの動きを、先輩の早田が後輩の張本に「決めさせよう」という意識で挑んでいるからこそ、驚くほどに噛み合う。
卓球は「物理的にできること」を「心理面がそれを現実にする」ものだとよくわかる現象だ。その上で、隙があれば早田自身もフォアハンドの強打を打つ。この日は時にフォアクロスへのフォアドライブが走っていた。
特に第3ゲームでは、中国が最も得意とする両ハンドを切り返してのラリーも多くなっていた。しかし、体がのけぞっても入る早田、その直後に絶対に外さない張本の2人は、こういった展開すらも圧倒。その勢いが第4ゲームまで続いた。第3ゲームは11-6。第4ゲームは11-7で勝利。ゲームカウント3―1の快勝で決勝進出を決めた。
後輩の張本も安心して、早田が作ったスペースに飛び込んで強打を打てている。そして代名詞のフォアの強打が全日本選手権の時のままの精度でミスがまったく出なかった。
試合後のインタビューで早田が「4ゲーム目はラリーで負けないように執念」と称したように、時に動き方が変わっても、また綺麗にハの字を描くようにお互いがフットワークを駆使して、ラリーになればなるほどあの最強の中国を圧倒してしまった。そこには、先輩と後輩が気を使い合うような姿はなかった。
もともと「個の能力が抜けている2人」ということもあるだろう。しかし、初タッグでこの強さには脱帽するほどだ。
日韓国際ペアを破っての優勝
決勝戦では、日本人選手の長﨑美柚・韓国人選手の申裕斌とのペアと激突。
しかしここでも11-9、11-8、11-7と3ゲーム連取で圧倒して優勝。手が付けられない強さを見せた。
長﨑・申裕斌のペアも、左利きと右利きのコンビ。長﨑が申裕斌のフォアを打ちやすいように相手のコースの厳しいところを突いていた。
申裕斌といえば、韓国の次世代エース候補としてダントツの存在。右利きでフォアの強打でまったくミスがない強さを誇る選手だ。サウスポーの長﨑にとっては「理想的な相棒」と言える。
だが、この試合では張本のバックハンドに、浮いてしまうような「甘い返球」がほとんど見られなかった。むしろ強打で返すほど冴えていた。その張本のバックミートがカウンター気味に入ると、相手が崩れ、早田が主役に切り替わり豪快にフォアで決めるパターンを確立。
準決勝より早田のフォア強打が多く、今度は張本が早田に「チャンスボールを作って回す」意識も見られた。
ここでの試合内容も一糸乱れることのない「パーフェクト」と言えるものだ。2人の間にライバル関係を超えた信頼があるから余裕が生まれる。
そしてその余裕は、卓球競技に最も必要な「足が固まらないフットワーク」を生み、それが「打ちやすいスペース」を作ることにつながった。
今大会の女子ダブルス。準決勝と決勝の2試合は、相手と展開次第でどちらが主役になっても構わない。そんな2人の女王のコンビネーションが、世界中にお披露目となった瞬間だった。
ロサンゼルス五輪では「女子ダブルス」の種目の復活が議論されている。
各国の代表担当者が「一人が何種目まで出場できるのか」に注視している段階ではあるものの、もし「女子シングルス」と「女子ダブルス」の両方の種目に同じ選手が出場可能となった場合、日本はこの張本美和・早田ひなというペアが最有力となるだろう。
ロサンゼルス五輪へ。日本女子の新たな選択肢
今回、日本女子代表の中澤鋭監督が提案したというペア。そして一発解答で導き出したこの結果。
もし、引き続きペアが継続されるとなれば、最大のライバル国である中国に対し、地球上でもっとも脅威となるペアであることは間違いない。
ロサンゼルス五輪でも、日本女子卓球の完成形の一つと言っても過言ではないこのペアで挑めれば、日本の卓球は完全に新しいフェーズに入る。
今大会はそれを予感させるのに十分すぎる凄味を感じさせた。
<了>
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