鈴木彩艶は「次元が違う」。ノグチピントGKコーチが明かす、育成年代の才能の見抜き方
ワールドカップで世界を驚かせた鈴木彩艶。GKとして世界水準のレベルにあることを証明し、日本のGK像を大きく塗り替えた。彼の存在は向こう10年安心して日本代表のゴールを任せられる守護神と言っても過言ではないが、後進の育成も忘れてはならない。日本は次の鈴木彩艶をどう育てるべきなのか。現役時代は柏レイソルやタイリーグで活躍し、中学年代、高校年代の指導に長年関わっているGKノグチピント エリキソンフランキ氏に世界のトレンドを踏まえつつ、選手の見つけ方と育て方について話を聞いた。
(インタビュー・文=松尾祐希、写真=アフロ)
「世界で戦える守護神」鈴木彩艶が変えた日本GKの常識
日本にもこれまでGKのポジションに名手と呼ばれる選手はいた。
古くは1994年のFIFAワールドカップ・アメリカ大会のアジア最終予選でレギュラーを務めた松永成立に始まり、以降は川口能活と楢崎正剛がポジションを競う時代へ。2010年の南アフリカ大会で川島永嗣が開幕直前に正GKとなり、2018年のロシア大会までゴールマウスを守った。それでも世界レベルという基準で見れば、日本最高峰のGK陣であっても世界トップレベルとの差は明確に存在した。ヨーロッパの5大リーグでトップクラスの活躍をしようとすれば、190cm前後のサイズが求められるからだ。
そうした流れに一石を投じたのが、190cm、100kgという体躯を持つ鈴木彩艶だろう。アメリカ生まれでアフリカにルーツを持つ守護神は、浦和レッズのアカデミーで育ち、早くから将来を嘱望されてきた。アンダーカテゴリーの代表にも飛び級で常に招集され、15歳でU-17ワールドカップを久保建英らと戦い、17歳でU-20ワールドカップを経験。2021年の東京五輪にも一つ上の世代のチームに入るなど、常に一段飛ばしで上のカテゴリーに抜擢されてきた。
一方、クラブでは苦戦。トップチーム昇格後は日本代表歴を持つGK西川周作の牙城を崩せずにいた。そうした苦しい時期を乗り越え、現在はイタリア・セリエAのパルマで絶対的な守護神に君臨し、日本代表でも他の追随を許さないパフォーマンスを見せている。
現在は東京の強豪校・大成高校と埼玉の名門ジュニアユースチーム・グランデFCで指導にあたるノグチピント氏も「彩艶選手は世界で戦えるGK。次元が違います。これからもっと面白くなる。今はイタリアでプレーしているけど、もっと上のリーグにジャンプアップしそうですよね」と、世界基準のプレーを見せる守護神に太鼓判を押す。
では、日本で次の鈴木彩艶は生まれるのか? その問いに向き合うことこそ、日本サッカーが世界との差を縮めるための重要なテーマだ。
GK経験はなくてもいい? 育成年代で才能を見抜く方法
もちろん、鈴木のような守護神は簡単に現れるわけではないが、指導者は次世代を見据えなければならない。可能性を持った選手を見つけ、才能を開花させる役割がある。では、どのように才能を見つけるべきなのだろうか。グランデではジュニア年代のスカウトにも携わっているなかで、第一に見るべきポイントは言うまでもなく身長が今後どこまで伸びるかだが、もう一つ重要なものがあるという。ジュニア期にGKを専門的にやっていなくても問題ないという点だ。
「いろんなGKを見た時に二つのタイプがいます。まずは専門でGKしかやっていない選手と、チーム事情などで兼業でやっていた選手です。どちらも身長が伸びる可能性や現在の身長なども見つつ、声をかけていくのですが、フィールドプレーヤーの感覚がある選手はプラスの材料になります。小学校の時点でGKスクールとかに行かなくてもいいのではないかと思っていて、フィールドプレーヤーをしながらたまにGKに入るくらいの感覚でいいのかなと。GKしかやったことのない選手と、主にフィールドですと言ってちょっとGKをやっていた選手。後者のほうが中1になった時に意欲的だったりするし、伸びしろも変わってくる。
GK経験が豊富な選手をピンポイントで探しにいってもなかなか見つけられないし、いたとしても大宮アルディージャ、浦和レッズ、FC LAVIDAという他の埼玉の有力なチームに加入する。なので、仮にGK経験が豊富ではなくても、身長が高いからGKをやってみない?っていう子をいかに探すかが大事だと思います」
GKを専門的にやっていなくてもOKという視点に加えて、小学校時代に他競技をやっていても問題ないとノグチピント氏は言う。
「バスケットボールとかバレーボールとかをやっていた選手もアリ。いろんな身体の動きを自然と身につけているし、僕がサッカーの動きは教えられるけど、他競技の動きは僕からは教えられません。違う動きを知っている状況でサッカーの動きを入れていくので、普通の子たちよりも動きの幅が広いんじゃないかなって思うんです。GKしかやっていないと動きが固かったり、一定の動きしかできない。そういう違う競技をやっていた選手も貴重な人材だと思います」
しかし、いかにポテンシャルがあったとしても、それだけで大成するわけではない。メンタル面も重要だとノグチピント氏は口にする。
「コーチや保護者の目を気にしないで伸び伸びプレーができるかどうかが大事です。結局は自分で考えられる子は楽しんでサッカーをしているんです。でも、あんまりいないのが現状です。親に言われて、親の目を気にしながらやっている選手が8割から9割くらいのイメージ。セレクションでも親に言われて来たという選手が多い。例えば、第一希望はグランデではないけどセレクションに来たと平然と僕に伝えてきて、終わった後に親のところに行ったあとに何か言われて戻ってきて、『グランデが第一希望です』と発言を修正してくるんです(笑)。そういう難しさもあります」
バーンズ・アントンと永田陸。競争が証明したGK育成の本質
どのスポーツでもどの世界でも言われることだが、“心技体”が揃って初めて大成するのは事実。一方でGKにはもう一つ特有の問題がある。試合に出られる選手は一人しかいないという点だ。フィールドプレーヤーのように他のポジションでプレーする選択肢はほとんどなく、中学年代以降は二刀流の選択肢はないに等しい。途中出場というチャンスもほとんどない。
ただ、ライバルの存在が成長を後押しするケースもある。ノグチピント氏は事例を出しつつ、高いレベルで競い合う意味をこう説く。
「2021年の大成高校が良い例です。自分はGKコーチとして関わり、当時のチームには世代別代表歴を持つバーンズ・アントン(現・ガイナーレ鳥取)と永田陸(現・高知ユナイテッドSC)の2人がチームにいました。彼らは本当に仲が良い。でも、ポジションは一つしかない。難しい選択でしたが、バーンズがレギュラーでした。
バーンズは高校3年生の頭に町田ゼルビア入りが決まり、世代別代表も経験しました。代表でいろんな経験をしてレベルアップしてくれたんです。もちろん、陸も悪くはなくて、運動能力の高さもあった。試合に出させた時もそんなに違いはなかった記憶があります。ただ、バーンズのほうが意識とか準備の面でしっかりやってくれていたので、レギュラーに据えていました。すごく難しい判断でしたけど。
でも、競い合ったから彼らは今がある。同じ代に良い選手がいるとしても、自分で限界を決めてはいけないんです。二番手だったとしてもしっかり取り組んでいく。常に試合に出るために準備をしてレベルアップを図る。常にベンチにいるけど、1、2年経った時にレベルアップしているということに気づかせる。高校時代に試合に出られなかったけど、大学で試合に出られるようにすることが大切。そういうイメージは育成年代の指導をする上で持っています」
高校や大学に入ってから花が開くGKも珍しくない。中学時代や高校時代までに体が出来上がっておらず、フィジカルが整ってから一気に突き抜けるケースは往々にしてある。ノグチピント氏はそういう事例をいくつも見てきたし、逆に中学時代までに活躍していても高校以降にうまくいかないパターンもあったという。具体的にはどういうパターンなのだろうか。
【連載後編】中学で控えでも遅くない。U-19日本代表GKの父ノグチピントが貫く“考えさせる”育成論
<了>
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