
ラグビー欧州組が日本代表にもたらすものとは? 齋藤直人が示す「主導権を握る」ロールモデル
11月24日、今年最後のテストマッチとなった強豪フランス戦を、14―59の大敗で終えたラグビー日本代表。転換期にあるブレイブ・ブロッサムズにとって試行錯誤の期間が続いている。そんななか、世界最高峰フランスリーグ「TOP14」でプレーする欧州組2人にかけられる期待は大きい。
(文=向風見也、写真=長尾亜紀/アフロ)
2人の欧州組がフランスで培った経験
この秋のラグビー日本代表には、欧州組が2人いた。世界の強豪国が集う「オータム・ネーションズシリーズ」参戦のため欧州入りしたチームに、世界最高峰と言われるフランスのトップ14でプレーするテビタ・タタフと齋藤直人が11月上旬より加わった。
昨季準優勝のユニオン・ボルドー・ベグルに加入2年目のタタフは、日本でプレーしていた頃からの突進力を欧州の地でもアピール。国内記者によるオンライン取材で本人はフランスでの経験をこのように振り返った。
「自分のなかではフィジカルのところで絶対に負けないというマインドが育まれた。相手は自分よりもデカいし、重い。そこの(それでも当たり勝とうとする)メンタリティ。いつ誰が来ても、準備ができているように。でかい相手には低く入るなど、タックルのやり方を工夫している」
齋藤は、この夏から昨季優勝のスタッド・トゥールーザンへ参加。フランス代表戦で対面となったアントワーヌ・デュポンとは所属先で定位置争いをする間柄である。代表戦では正確なパスと率先して速攻を仕掛ける。
フランスでの経験をどう日本代表に還元しているかと聞かれ、こう語った。 「特別何か、というのはありませんけど、僕がフランスで学んだことの一つが『イニシアチブを取ることの大切さ』なので、率先して自分がそれをすることで、(自らの姿勢が)浸透すればいいなと思っています」
欧州組2人がロールモデルとなることの価値
日本ラグビー界が南半球主体のスーパーラグビーへ自国のチームを参戦させていたのは、2020年までのこと。その取り組みが2019年のワールドカップ日本大会でのジャパン8強入りにつながったのだが、いまの業界は、国内リーグの競争力を高める方向へシフトしている。
もちろん、そのベクトルが一定の効果を獲得するにはそれなりの年月が必要だ。ジャパンラグビー リーグワンに強豪国の代表選手が相次ぎ参戦し、かつ、その多くが高いモチベーションでフィールドに立っているとはいえ、避けられぬ現実がある。今年代表入りした為房慶次朗はこのような実感があるという。
「(代表戦に出る一線級は)国を代表する責任感、鬼気迫るものがあって、必死に来る。それが、リーグワン(でトップ選手と戦う時)には感じられないフィジカルの強さにつながっていると思います」
いまの選手が平時から代表戦相当の強度を経験するには、海を渡ってもともと高水準を保つ舞台でラグビーをするしかない。すでに海外でプレーしている2人がロールモデルとなるのは自然だ。
日本のリーグワンのクラブに在籍する濱野隼大は、欧州組の効果ついてこう証言する。
「特に齋藤選手は(トレーニング中の)円陣でもいろいろと発言してくれます。フランス代表戦の前には、デュポンと(司令塔のトマ・)ラモスの癖を皆に共有。詳細を突き詰めていました」
ニール・ハットリー コーチングコーディネーターも、旅路の途中でゲーム主将を任せることになった齋藤についてこう言及する。
「とてもいい影響をもたらしてくれています。世界のベストクラブと言われる場所で世界有数の選手と肩を並べ、そのうえでわれわれのスコッドへ入ってくれたことは価値が高い。彼の培う経験は周りのモチベーションにもなっています」
いまの日本代表は転換期にある。指揮官は…
もっとも今回は、この特別な存在感を結果に昇華できなかった。フランス代表戦は12―52、イングランド代表戦は14―59でそれぞれ落とした。国内でのニュージーランド代表戦、遠征中のウルグアイ代表戦を含めたテストマッチシリーズの戦績は、1勝3敗となった。
いまの日本代表は転換期にある。
昨年まで活躍した選手のうち何人かは、故障をはじめとしたさまざまな理由で代表を離れている。渦中、約9年ぶりに復帰のエディー・ジョーンズ ヘッドコーチは、若返ったスコッドにトレンドとはやや異なるコンセプトを示している。
その延長線上で大敗を重ねたことで、国内勢に迷いが生じつつある。
試合をするたび、複数の選手が首脳陣の打ち出す防御システムの詳細、さらに防御練習の少なさについて改善点があると言及。プレーヤーとスタッフの協調関係が発展途上であることと、このグループで得た成功体験があまりに少ないことがないまぜになっている印象も受ける。
しかし、ジョーンズは強調する。
「われわれのスコッドにはタフな選手が必要ですし、私は彼らが問題を修正し立ち向かうためのヘルプを惜しみません。今回、ゲーム主将を務めた齋藤は、素晴らしい働きをした。イングランド代表戦前の練習で、選手がゲームプランについてわからない点、不安があると見て取れました。そこで齋藤に『ミーティングをしてはどうか』と提案しました。すると齋藤がすぐに選手を集めていました。こういうことを、求めていきたい」
欧州組にも国内組にも、指揮官は諸問題と正面から向き合うよう促すつもりだ。
<了>
新生ラグビー日本代表、見せつけられた世界標準との差。「もう一度レベルアップするしかない」
大型移籍連発のラグビー・リーグワン。懸かる期待と抱える課題、現場が求める改革案とは?
なぜラグビー日本代表は若手抜擢にこだわるのか? 大学生にチャンス拡大、競争の中で磨き上げられる若き原石
9年ぶりエディー・ジョーンズ体制のラグビー日本代表。「若い選手達を発掘しないといけない」現状と未来図
ラグビーW杯でKing Gnu『飛行艇』をアンセム化したDJが語る“スポーツDJ”とは何者か?
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
福岡ソフトバンクホークスがNPB初の挑戦。ジュニアチームのデータ計測から見えた日本野球発展のさらなる可能性
2025.07.09Technology -
J1最下位に沈む名門に何が起きた? 横浜F・マリノス守護神が語る「末期的」危機の本質
2025.07.04Opinion -
ガンバ×セレッソ社長対談に見る、大阪ダービーの未来図。「世界に通用するクラブへ」両雄が描く育成、クラブ経営、グローバル戦略
2025.07.04Business -
大阪ダービーは「街を動かす」イベントになれるか? ガンバ・水谷尚人、セレッソ・日置貴之、新社長の本音対談
2025.07.03Business -
異端の“よそ者”社長の哲学。ガンバ大阪・水谷尚人×セレッソ大阪・日置貴之、新社長2人のJクラブ経営観
2025.07.02Business -
「放映権10倍」「高いブランド価値」スペイン女子代表が示す、欧州女子サッカーの熱と成長の本質。日本の現在地は?
2025.07.02Opinion -
世界王者スペインに突きつけられた現実。熱狂のアウェーで浮き彫りになったなでしこジャパンの現在地
2025.07.01Opinion -
なぜ札幌大学は“卓球エリートが目指す場所”になったのか? 名門復活に導いた文武両道の「大学卓球の理想形」
2025.07.01Education -
長友佑都はなぜベンチ外でも必要とされるのか? 「ピッチの外には何も落ちていない」森保ジャパン支える38歳の現在地
2025.06.28Career -
“高齢県ワースト5”から未来をつくる。「O-60 モンテディオやまびこ」が仕掛ける高齢者活躍の最前線
2025.06.27Business -
「シャレン!アウォーズ」3年連続受賞。モンテディオ山形が展開する、高齢化社会への新提案
2025.06.25Business -
プロ野球「育成選手制度」課題と可能性。ラグビー協会が「強化方針」示す必要性。理想的な選手育成とは?
2025.06.20Opinion
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
J1最下位に沈む名門に何が起きた? 横浜F・マリノス守護神が語る「末期的」危機の本質
2025.07.04Opinion -
「放映権10倍」「高いブランド価値」スペイン女子代表が示す、欧州女子サッカーの熱と成長の本質。日本の現在地は?
2025.07.02Opinion -
世界王者スペインに突きつけられた現実。熱狂のアウェーで浮き彫りになったなでしこジャパンの現在地
2025.07.01Opinion -
プロ野球「育成選手制度」課題と可能性。ラグビー協会が「強化方針」示す必要性。理想的な選手育成とは?
2025.06.20Opinion -
日本代表からブンデスリーガへ。キール分析官・佐藤孝大が語る欧州サッカーのリアル「すごい選手がゴロゴロといる」
2025.06.16Opinion -
野球にキャプテンは不要? 宮本慎也が胸の内明かす「勝たなきゃいけないのはみんなわかってる」
2025.06.06Opinion -
冬にスキーができず、夏にスポーツができない未来が現実に? 中村憲剛・髙梨沙羅・五郎丸歩が語る“サステナブル”とは
2025.06.06Opinion -
なでしこジャパン2戦2敗の「前進」。南米王者との連敗で見えた“変革の現在地”
2025.06.05Opinion -
ラグビー・リーグワン2連覇はいかにして成し遂げられたのか? 東芝ブレイブルーパス東京、戴冠の裏にある成長の物語
2025.06.05Opinion -
SVリーグ初年度は成功だった? 「対戦数不均衡」などに疑問の声があがるも、満員の会場に感じる大きな変化
2025.06.02Opinion -
「打倒中国」が開花した世界卓球。なぜ戸上隼輔は世界戦で力を発揮できるようになったのか?
2025.06.02Opinion -
最強中国ペアから大金星! 混合ダブルスでメダル確定の吉村真晴・大藤沙月ペア。ベテランが示した卓球の魅力と奥深さ
2025.05.23Opinion