女子バレー・石川真佑が語る“エース”の覚悟。「勝ちたいからこそ、周りに流されちゃいけない」

Career
2023.04.06

3月27日に発表された2023年度バレーボール女子日本代表チーム登録メンバーに、もう当たり前のように、石川真佑の名前があった。まだ22歳だが、日本代表に欠かせない軸である。2019年に日本代表デビューを果たし、2021年に開催された東京五輪に出場。昨年秋の世界選手権では、主将でエースの古賀紗理那がケガを負うという窮地で、石川が存在感を発揮し、日本のベスト8進出の原動力となった。男子日本代表の主将・石川祐希の妹、という紹介も後回しになるほど、今や押しも押されもせぬ日本女子バレー界の顔の一人だ。その石川に、記憶に残る一戦や、東レアローズを引っ張るエースとしての覚悟を聞いた。

(インタビュー・構成・写真=米虫紀子)

私が中学生の時に東京五輪開催が決まって…

――石川選手がバレーボールを始めたきっかけは?

石川:バレーボールを始めたのは小学3年生の時です。姉と兄がバレーをしていたので、幼稚園くらいの頃から練習について行ったりしていて、楽しそうだなと思って、自分も始めました。

――将来バレー選手になりたいと考えるようになったのはいつ頃でしょうか?

石川:小学校6年生ぐらいの時にはもう、「バレーボール選手になりたいな」みたいな感じはあったと思います。その後、私が中学生の時に東京五輪開催が決まって、「2020年か。自分はハタチだな。目指せない年齢じゃないな」と。でも、絶対に何が何でも出たい、というところまでは、正直中学の頃は思っていなかったと思います。

――実際には新型コロナウイルスの感染拡大の影響で1年遅れになりましたが、その東京五輪の舞台に21歳で立ちましたね。

石川:(2019年のFIVB)ワールドカップから代表に合流することになって、そこで自分の未熟さも感じたんですけど、まったく戦えないというわけではなかったので、それがたぶん自分の中でちょっと自信になって、「オリンピックを目指したい」という気持ちが強くなりました。

中断中は控え室で踊ったりしている選手もいて(笑)

――東京五輪も含め、若くしてさまざまな舞台を経験されていますが、その中で、今のところ一番印象に残っている試合やシーンは?

石川:そうですね……(2019年の)U20(ジュニア)世界選手権大会で優勝できたことでしょうか。優勝するまでにはいろいろとハプニングがあったりしたんですけど、でもそういう経験を乗り越えて、負けそうになった試合も全員で勝ち切って、それが最後、決勝にまでつながって、優勝できたことはすごくうれしかったです。それまで一緒にやっていなくて、高校ではライバルというか、敵として戦っていたメンバーと、一緒に仲間として戦えたこともすごく良かったです。

――大会中どんなハプニングがあったんですか?

石川:予選グループのブラジル戦の時に、外で激しい雨が降っていたんですけど、試合中に会場の壁から水がバーッと出てきたり、天井から雨漏りしたりで水浸しになって、結局2時間以上中断したんです。そうなる前はブラジルに(第1セット17-21で)負けていたんですけど、中断後、そこから逆転して勝つことができました。たぶん相手チームはストレスがあって、再開するとなった時に、集中力が切れていたんじゃないかと思います。

――中断していつ再開されるかわからない状況の中、日本チームはどうしてそれをプラスに変えられたんでしょうか?

石川:中断中は控え室で、休んでいる選手もいれば、踊ったりしている選手もいて(笑)。自由というか、いろんな個性の子がいて、あまりストレスを感じることなく、その状況を楽しんでいた感じがします。今思えば、それが良かったのかなと思います。

――繊細過ぎないのが良かったんですね。その間、石川選手はどうやって過ごしていたんですか?

石川:私はもう普通に座ってゆっくりしていました。ずっと座っていたら眠くなったり。そういう感じでしたね。

どんなトスでも、スパイカーが決めないといけない

――これまでで一番悔しかった試合は?

石川:うーん、どの試合もやっぱり、最後勝ち切れなかった試合はすごく悔しい記憶として残っています。高3の春高バレーだったり、近いところで言うと、昨年の世界バレー(世界選手権)だったり。

――世界選手権で言うと、やはり最後の、フルセットで敗れた準々決勝・ブラジル戦ですか。

石川:そうですね。自分たちに流れがきていた時もあったんですけど、やっぱり、簡単に取らせてくれなかったなというのがブラジルでしたし、自分が(第5セットの)最後、決め切れなかったことも、すごく悔しさが残っています。でもそれがこの先の自分自身(の成長)にもつながるなと感じています。

――ブラジルとは予選ラウンドでも対戦し、その時は石川選手が最後の得点を決めて3-1で勝利しました。その時との違いはありましたか?

石川:相手の勝ちたい気持ちは、予選ラウンドと、準々決勝では少し違ったのかなと思います。準々決勝の最後は、ああいう劣勢の場面で、自分が思い切り打てるようなトスでは、正直なかったんですけど、でもそこをどうにかして打って決めたいというのはありました。

――味方の守備から、アンダーハンドでつないだ難しいトスでしたね。

石川:でも最終的にはどんなトスでも、スパイカーが決めないといけないし、その責任があるので。そこは自分自身の課題、直さないといけない部分だったなと思います。

私自身は、そこまでの覚悟を持ってやっている

―― 一方で、東レアローズで臨んだ昨年12月の皇后杯では、決勝でNECレッドロケッツに敗れた後の記者会見で、「最後、ああいった競った場面で託してもらえなかったのがすごく悔しい」とおっしゃっていたのが印象的でした。

石川:そうですね。私自身も覚悟を持って、最後決め切りたい、最後私が絶対決める、という気持ちでやっているので、やっぱりああいう劣勢の場面や、最後セットを取り切るというところでは、私自身前衛でもあったので、持ってきてほしかったというのがあります。でもその、私の持ってきてほしいという思いも、ちょっと足りない部分があったからなのかな、最後「持ってきて」と一声かけていれば変わっていたのかなというのは、振り返った時に感じました。

――記者会見で、セッターの関菜々巳選手や他の選手もいる中でそういう思いを正直に発するのは勇気がいることだったのでは?

石川:その時の、私自身の率直な思いというのがそれだったので。隣にセナさん(関)がいましたけど、でも私の気持ちはそれが一番だったし、私の性格的に、ブレない、というのもあるので。その場では丸くおさめて、そのあとで「こう思った」というのを伝えるのもアリだと思うんですけど、でも私自身は、そこまでの覚悟を持ってやっているので、その場で、自分の思いを伝えました。

そのあとにも話はしました。「持ってきてほしかった」ということを伝えましたし、でも私自身が、それまでに一声かけるだけでも違ったかなというふうに思ったので、「私もこの負けを通して変わらなきゃいけない」という思いも伝えました。同じことを繰り返さないように、いろいろと話はしましたね。

石川真佑にとって“エース”とは?

――昨年は、最後に託されたけれど決められなかった悔しさと、託されなかった悔しさの両方を経験されたんですね。

石川:そうですね。もちろん最後決め切れないのも悔しいですけど、でも私としては、上げてもらえなかったほうが、悔いは残るかなと思っていて。上がってきて決め切れなかったら、自分の責任ですし、そこは自分が成長していかないといけないなと反省するんですけど、上げてもらえなかった時点で、私は何もできないので……。

――「性格的にブレないので」というのも石川選手らしいというか……。

石川:もちろん周りから「こうしたらいい」というふうに言われることもあるので、しっかり受け入れるところは受け入れますけど、やっぱり、決め切るために上げてもらいたいとか、自分が思ったことは伝えていかなきゃいけないなと。それは今までのシーズンを通して感じてきましたし、勝ちたい気持ちがあるからこそ、周りに流されちゃいけない。自分の思いはしっかり持ってやりたいなと思っています。

――言うことによって、責任やプレッシャーもかかってくると思いますが。

石川:そうですね。私自身、覚悟や責任を持って、あいまいにせず、やっていきたいなと思っています。

―― 一昨年、東京五輪を経験して東レに戻った石川選手について、東レの越谷章監督が「オリンピックから帰ってきて変わった。周りにトスなどの要望を伝えたり、積極的に発信するようになった」ということを話していたのが印象に残っています。何かきっかけがあったのでしょうか?

石川:あの年はネーションズリーグやオリンピックを経験して、他チームの選手と長く一緒に過ごしたことで、他の選手から学ぶことがすごく多かったです。特にリベロの小幡真子さん(元JTマーヴェラス・昨年現役を引退)が、すごくチームに発信しているのを見ていたので。私はもともとあまり言葉にしないことが多かったんですけど、小幡さんと一緒にやって、やっぱり伝えることって大事なんだなと感じたので、そこから少しずつ、意識するようになりました。

――最後に、石川選手にとって“エース”とは?

石川:うーん……全員がやれるポジションではないと思うので、強い覚悟、責任を持つことはすごく大事だし、やっぱり最後決め切るために、チームに一番必要とされる人なのかなと思います。

まだ手にしていないもの。日本一の称号に挑む東レのエース

石川は、身長174cmと、スパイカーとしては決して大きくない体だが、抜群の身体能力と得点を奪う嗅覚、何より負けん気の強さと覚悟を持って、各世代、各チームでエースを張ってきた。

だが、まだ手にしていないものがある。東レでのVリーグ優勝だ。

2年前は開幕から22連勝でファイナルに進出したが、最後のファイナルでJTに敗れて涙をのんだ。昨シーズンはファイナル進出をかけたファイナル3で久光スプリングスに惜敗。皇后杯でも2度、決勝で跳ね返されている。今度こそ、の思いはひとしおだろう。

今シーズン、東レは26勝7敗でレギュラーラウンドを1位で突破。4月8日から、上位4チームによるファイナルステージに臨む。

勝つために、自分に厳しく、周囲にも直球で覚悟を伝え引っ張ってきたエースが、日本一の称号に挑む。

<了>

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[PROFILE]
石川真佑(いしかわ・まゆ)
2000年5月14日生まれ、愛知県出身。東レアローズ所属。裾花中学校、下北沢成徳高校で全国優勝を経験し、2019年に東レアローズに入団。同年7月に女子U20(ジュニア)世界選手権大会で優勝とMVP、翌月の女子アジア選手権でも優勝とMVPを獲得。2021年に行われた東京五輪では全5試合に先発出場した。2022-23Vリーグで、シーズンの日本人最多得点記録を更新。兄の祐希もバレーボール男子日本代表。

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