
田中碧は来季プレミアリーグで輝ける? 現地記者が語る、英2部王者リーズ「最後のピース」への絶大な信頼と僅かな課題
英2部リーグ・EFLチャンピオンシップで王者となったリーズ・ユナイテッドの昇格に大きく貢献した田中碧。加入初年度ながら主力に定着し、年間ベストイレブン、クラブ最優秀ゴール賞、チーム内MVPに選ばれるなど、輝かしい成果を挙げた。彼を間近で取材してきた地元記者は、「リーズに欠けていた最後のピース」と評する。果たして田中は、プレミアリーグでもその才能を発揮できるのか――。
(文=田嶋コウスケ、写真=ZUMA Press/アフロ)
43試合出場5ゴール2アシストという十分すぎる成績
来季、田中碧がついに世界最高峰の舞台・プレミアリーグに挑むことが決まった。
今季、イングランド2部・EFLチャンピオンシップでリーズ・ユナイテッドは見事にリーグ優勝を果たし、3年ぶりにプレミア昇格を決めた。その快進撃の中で主役級の活躍を見せたのが、田中だった。
田中がリーズに加入したのは2024年8月30日。ドイツ2部のデュッセルドルフから移籍すると、翌日の第4節ハル・シティ戦に早速途中出場。当初はベンチスタートが続いたものの、セントラルMFに故障者が出たことで、10月2日の第8節ノリッジ戦で初先発のチャンスをつかんだ。
この試合で好プレーを披露した田中は、その後も安定感抜群のパフォーマンスを披露。スタメン出場を続けて定位置を確保し、10月と11月にはクラブ月間最優秀選手に選ばれた。第8節以降で先発から外れたのはわずか2試合のみと、まさしく不可欠な存在になったのだ。イングランド2部特有の長距離移動や激しい接触プレーにも屈せず、シーズン終盤までタフに戦い抜いたその姿勢は、チームのプレミア昇格において極めて重要なピースとなった。
田中個人にフォーカスしても輝きを放った。田中はリーグ年間ベストイレブンに選出され、チャンピオンシップを代表するMFの一人として認められた。さらに、チームメイトが選ぶ「最優秀選手賞」を受賞。1月のハル・シティ戦で決めたミドルシュートは、「クラブ年間最優秀ゴール賞」にも輝いた。出場43試合で5ゴール2アシスト。守備的なセントラルMFとしては十分すぎる成績であり、イングランド初挑戦のシーズンとしては申し分のない成果と評価されている。
地元記者はどう見た? 8番の位置でプレーする可能性は?
では、リーズを追い続けた地元記者は、田中をどう見ていたのか。
地元紙『ヨークシャー・イブニング・ポスト』でクラブ番を務めるグラハム・スミス記者は、田中のインパクトについて次のように語った。
「リーズにとって、田中の補強は非常に効果的だった。チームにいなかったタイプの選手で、クラブのラストピースとしてハマった。
田中のストロングポイントは、相手のプレスを予測して回避する能力と、優れたボールポゼッション能力にある。プレッシャーのかかる場面でも冷静にボールを捌く田中のプレーは、リーズにはなかった特別なスキルだった。
たとえ密着マークをされていても、田中は常にボールを欲しがる。しかも失わない。パスの精度とビジョンも、本当に素晴らしい。チームのボールポゼッションにおいて、田中の存在は計り知れない価値があった」
ドイツ人のダニエル・ファルケ監督は、田中を4-2-3-1のセントラルMFとして起用した。中盤「2」の位置での役割は「守備的MF」。スミス記者は田中を「攻守のバランス感覚に長ける選手」と評価しながらも、田中の特長から「6番起用は理にかなっていた」と話す。
「セントラルMFとして、田中は8番(攻守両面で貢献するMF)でも6番(守備的MF)でもプレーできると思うが、ファルケ監督は田中を『6番のMF』として気に入っていた。その理由の一つが、優れたカバーリング能力とインターセプトの巧さ。中盤の低い位置でボール奪取に走り回り、守備を安定させる存在だった。
しかもその6番として、攻撃面でも光るものがあった。田中は『攻撃を仕掛けるべきタイミング』と、『ボールキープをしながら、好機を待つべきタイミング』の見極めが本当に素晴らしい。まさに『センスの塊』である」
ならば、8番の位置でプレーする可能性はあるのか。スミス記者は続ける。
「加入前、田中は『8番タイプ』との触れ込みだった。しかしリーズでは、攻撃的なポジションでプレーする姿を、我々はまだ目撃していない。ファルケ体制の8番には、いわゆるボックス・トゥ・ボックス型MFのタスクが任される。攻守両方で貢献しながら、より多くの距離をカバーする必要がある。ただ、田中はスタミナが豊富であるため、その点でも優れているように見える。8番のタスクも十分こなせると思うよ」
デクラン・ライスも称賛。来季の展望は?
その一方で、今シーズンのパフォーマンスから課題は見えたのか。スミス記者は指摘する。
「ほぼ完璧なシーズンだったが、強いて挙げるとすれば、シーズン終盤に少し疲れが見えたこと。46試合制のチャンピオンシップは、プレミアリーグより8試合多く、閉幕のタイミングも1カ月程度早い。リーズの場合は、ここに昇格争いという強烈なプレッシャーが加わった。
フィジカル面とメンタル面の両方で大きな負担となったのかもしれないが、終盤のいくつかの試合で、田中はフィジカル的に押し負ける場面があった。ただラスト数ゲームで持ち直し、本来の姿に戻ったのはさすがとしか言いようがない。シーズン全体で評するなら、やはり本当に素晴らしかった」
田中への称賛は、イングランド国内でも広がっている。アーセナル所属のイングランド代表MFデクラン・ライスは、日本のサッカー番組『WEEKLYワールドサッカー』でのインタビュー内で「リーズの田中は信じられないほど素晴らしい選手。試合を見たことがあるんだ、一流の選手さ。エネルギーがあり、ボールの扱いもうまい」と褒め称えている。
そこでスミス記者にこんな質問をぶつけてみた。「来シーズン、田中はプレミアリーグでも光り輝くと思いますか」と。リーズが3年前のプレミアリーグ在籍時も取材したスミス記者は、「田中の技術的な能力についてはまったく心配していない」と言い切る。ただ、こう語った。
「リーズのすべての選手に言えることになるが、プレミアリーグで肉体面と技術面の両方で通用するかどうかは、まだ判断がつかない。
プレミアリーグは、世界最高のアスリートが集う究極の舞台だ。田中の場合は、プレミアリーグでのフィジカルバトルが、やはりチャレンジになると思う。ただ、田中にはそれを乗り越える力があると私は信じている。それだけのパフォーマンスを、今季の彼は見せてくれたからだ」
<了>
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