39歳、5度目の夢へ。長友佑都を支えた「3人の存在」と批判を力に変えた信念
長友佑都が、39歳で5大会連続となるワールドカップ代表入りを果たした。日本を含むアジア系選手として初の偉業である一方、前回大会後の代表出場はわずか3試合にとどまり、選出には厳しい声も向けられている。それでも長友は「存在価値を示す」と言い切る。恩師、妻、盟友・本田圭佑。長友の歩みを支えてきた3人の存在から、5度目の大舞台へ向かう39歳の現在地をひもとく。
(文・写真=藤江直人)
39歳でつかんだ5度目のメンバー入り
何をしてもSNS上ですぐさま賛否両論が飛び交う。しかも、割合的には「賛」よりも「否」のほうが圧倒的に多い。それでも長友佑都は前を向き、心に決めた言動を繰り返してきた。
直近で言えばFIFAワールドカップ・北中米大会へ向けて、事前キャンプ地のメキシコ北部モンテレイへ日本代表が到着した現地時間2日(日本時間3日)。長友は事前にチームへ手渡されていたメキシコ伝統のテンガロンハットをしっかりとかぶって、出迎えたファンの喝采を浴びた。
成田空港を飛び立った日本時間2日にはただ一人、日の丸と「闘魂」の二文字が記されたハチマキを巻いてチャーター便へ乗り込む。年下の久保建英や板倉滉らからいじられる光景もあった。
何よりも日本を含めたアジア系の選手として、ワールドカップの歴史上で初めて5大会連続5度目の代表に選出された5月15日。年齢の高い順に代表選手を読み上げる森保一監督から、39歳の長友がディフェンダー陣で最初に発表された直後からは不要論が飛び交いはじめた。
長友自身も見聞きしていたのだろう。翌日に行われた百年構想リーグをはさみ、17日に都内で行われたFC東京の代表選手選出記者会見に臨んだ長友はこんな言葉を残している。
「長友が日本代表に入ったいま、いろいろな賛否両論があるみたいですけど、今回のワールドカップが終わるころには賞賛の言葉しかないでしょうね。そのくらいの自信と魂をもって、日本だけじゃなくて世界を巻き込みながら、自分の存在価値を示して戦ってきますので見ていてください」
恩師の言葉を羅針盤に。導かれた「自分の意思」
ぶれない言動の原点には、恩師から授けられた金言がある。愛媛県東予市(現・西条市)で生まれ育った長友は、西条北中学校サッカー部顧問、井上博教諭の言葉を人生の羅針盤にすえてきた。
「自分の意思次第で道は変わる」
卒業後に当時の王者・東福岡高校(福岡県)へ越境入学したのも、スポーツ推薦を得られずに指定校推薦で明治大学政治経済各部へ進んだのも。4年生へ進級する直前に副キャプテン就任が内定していたサッカー部を退部し、オファーを受けたFC東京入りしたのも、すべてこの言葉に導かれた。
セリエAのチェゼーナをへて移籍した名門インテル・ミラノで約7年間にわたってプレー。トルコの名門ガラタサライ、そしてフランスの強豪オリンピック・マルセイユをへて、古巣のFC東京へ約11年ぶりに復帰した2021年9月も不退転の意思を込めて前へ進もうと決断した。
39歳になってから初めて臨んだ昨年9月の東京ヴェルディ戦後。不惑を迎えるまでの1年間で見せていきたいものや目標を問われた長友は、迷わずにこんな言葉を残している。
「伝説を残す。これを自分自身に課してプレーしています」
伝説とは前人未到の5大会連続のワールドカップ出場に他ならない。初めて臨んだ2010年の南アフリカ大会を皮切りにブラジル、ロシア、カタールの4大会で、日本が臨んだ全15試合に先発してきた鉄人は、16試合目以降をアメリカ、カナダ、メキシコで共催される今大会に求めた。
しかし、額面通りには受け取られなかった。無理もない。前回カタール大会後に日本代表から遠ざかっていた長友は、2024年3月の北朝鮮代表戦で復帰するもリザーブやベンチ外が続き、伝説を宣言したときには第2次森保ジャパンで出場わずか2試合、プレータイムは135分にとどまっていた。
逆境が大好物と公言しながらも、あえてプレッシャーを背負ってサッカー人生を「成り上がり」と表現する長友も、今回ばかりは「焦りや不安もあるギリギリの戦いだった」と振り返る。
「最後の2カ月はケガもして、正直、本当に苦しみました。そのなかでも本当に多くの方々が支えてくれたので、その人たちの顔が走馬灯のように蘇ってきて、ちょっと感情的になりました」
3月14日の水戸ホーリーホックとの百年構想リーグ地域リーグラウンドで負傷退場した長友は、右ハムストリングの肉離れと診断された。直後に行われた日本代表のイギリス遠征を辞退せざるをえなかった長友は自身のX(旧ツイッター)を更新。そのなかで次のように呟いている。
<東京のタイトルとW杯専用エンジンに交換するため少しの間休業させていただきます>
肉離れからの復帰と妻・愛梨さんが支えた強さ
宣言通りに5月6日のジェフユナイテッド千葉戦で復帰した長友は、代表メンバー発表へぎりぎりで間に合わせた。前出の代表選手選出記者会見でこんな質問を受けている。
「いい意味でモンスターと呼べる長友選手を生んだ要因は何なのでしょうか」
ひな壇の長友は「どうですかね」と苦笑しながら、最も近くにいる存在をあげている。
「メンタルモンスターと自分では思っていましたけど、僕以上に妻の愛梨がメンタルモンスターで、とにかく愛梨に助けられてきました。結婚して 10年くらいになりますけど、僕がさらに異常なモンスターになれたのも、彼女を見て強くなって、僕も成長できたからだと思っています」
長友は交際中だった女優の平愛梨さんと2017年1月に婚姻届を提出。いまでは8歳の長男を筆頭に6歳、5歳、4歳と4人全員がすべて男の子とにぎやかな家庭を築いている。
右ハムストリングに肉離れを負ってからも、ちょっとでも弱気の虫が頭をもたげてくるたびに愛梨さんの気丈さが励みになったのだろう。長友はちょっぴり照れくさそうにこう語っている。
「僕を支えてくれたのは愛梨なので、代表に選出されてすぐに愛梨に連絡したら泣いて喜んでいました。僕からは『本当にありがとう。これからも頑張っていこう』と伝えました」

「見えない部分をつなぐ」。盟友・本田圭佑が語る存在価値
長友が記者会見に臨んだ数時間前。同じ1986年生まれの長友と常に切磋琢磨しながら、2010年の南アフリカ大会から3大会連続で長友と共闘してきた本田圭佑もメディアの取材に応じていた。
場所は自身が考案した、子どもを対象とした4対4のサッカー競技「4v4」の2026シーズンのキックオフ大会が行われた神奈川県川崎市内。自らもシンガポールのFCジュロンと契約したばかりの本田は、5大会連続でワールドカップ代表に選出された盟友へまずはエールを送っている。
「刺激を受けるというよりも、本当に尊敬しています」
そのうえで北中米大会における長友の役割を問われると、次のように言葉を紡いだ。
「僕が佑都に一番期待している役割は、みなさんも思っているように、もしかするとピッチ上よりもピッチの外のほうが大きいかもしれない。佑都自身は絶対にそれを認めたくないはずだし、全力で準備して試合に出られるように、ピッチ上で力を発揮できるように頑張っていくはずだけど、ワールドカップに臨むチームは大会への入りはじめから中盤、終わり際とまるで生き物のように、人間で言えば体調のように変化していく。そのなかで佑都の役割はチーム内でしっかりと、森保さんが見えない部分をつなぎ合わせていく作業になるんじゃないかな、と」
本田は「特に初戦や第2戦で、思いがけない結果になったときに」と具体的に言及している。長友とともに臨んだ2014年のブラジル大会の苦い経験を踏まえているのは明白だった。
イタリア人のアルベルト・ザッケローニ監督のもと、本田を中心に歴代最強を自負し、優勝を目標に掲げた日本は1分け2敗とグループステージで1勝もあげられないまま最下位で敗退した。
コートジボワール代表とのグループステージ初戦では、本田のゴールで先制しながら1-2と逆転負けを喫した。退場者を出して一人少ないギリシャ代表との第2戦でも攻めあぐねてスコアレスドローに終わると、勝利だけが必要だったコロンビア代表との最終戦でも1-4と惨敗した。
以心伝心と言うべきか。図らずも長友も、記者会見でブラジル大会に言及している。
「ブラジル大会では自分も挫折を味わいました。初戦で負けたチームは落ち込んで、士気もなくなりました。自分も含めて本当に不安で、どのようにしたらいいのかがわからない状況でしたし、そこからの奮起もかなわなかった。もしもブラジル大会で、いまの経験をもつ自分がいたらチームを前向きにさせられたと思う。うまくいくチームといかないチームの雰囲気の差というのも自分はわかっているし、うまくいくための雰囲気をどのように作るかもわかっている。さまざまな経験があって自分は強くなれたし、そうした経験のすべてを今回のチームに還元したい」
見えない部分をつなぐ。5度目の舞台で果たす役割
前回カタール大会で、長友は流行語にもなった「ブラボー!」をさまざまな機会で連発。大会直前には髪の毛を赤く染め、フィールドプレイヤーでは最年長の36歳ながらも率先してムードメーカー役を担いながら、ワールドカップ初出場の選手が多かった第1次森保ジャパンを鼓舞した。
日本はワールドカップ優勝経験のあるドイツ、スペイン両代表をグループステージで撃破。クロアチア代表とのラウンド16ではPK戦の末に涙をのみ、4度目の挑戦でまたしてもベスト8進出を果たせなかったが、前出したように長友は全4試合で先発を果たしている。
そのうちドイツ、スペイン、クロアチア戦で長友と交代し、切り札的な役割を果たした三笘薫は代表発表直前に左ハムストリングに負ったケガで選外になった。昨年末に左膝前十字靱帯を断裂した南野拓実も間に合わなかった。そのなかで長友はどのような役割を担うのか。
「一番大事なのは一体感ですね。これがなければ、いくら素晴らしい選手が26人集まっても結果は出せない。もちろんピッチ上でも自分は勝負できると思っていますけど、チームが一丸になるために、これまでの4大会で自分が積み重ねてきた経験は必ず生きてくると思っています」
こう語った長友は再び本田と思いをシンクロさせるかのように、こんな言葉を紡いでいる。
「みなさんが知りえない部分を含めて、ワールドカップではピッチの外で日々、本当にいろいろと起こるんですね。これは答えになっていないかもしれないですけど、そのなかで自分はワールドカップへの嗅覚を持っている。ワールドカップには独特の匂いがあって、僕はそれを嗅ぎ分けられるというか、ちょっと空気がよどんでいると思ったらきれいに浄化できる。まさに空気清浄機みたいな役割を果たせる。今大会はいままで以上に熱い魂がある。これだけ熱い魂をもっているのは、日本で僕だけだと思っている。なので、みなさんも魂が震える準備をしておいてください。決して口だけの男ではないと、今回のワールドカップで必ずお見せしてみせます」

批判を力に変えて。「伝説」を目指す集大成へ
本田が言う「森保さんが見えない部分をつなぎ合わせていく」と、長友が胸を張って命名した「空気清浄機」は同義語となる。5度目のワールドカップにおいて、申し合わせずとも同じニュアンスの言葉を紡いだ長友には、本田の代名詞でもあった「ビッグマウス」がいつしか宿っていた。
「ブラジル大会では本田圭佑が優勝を公言して、僕も優勝とは言ったものの、実際に心の底からそう思っていたのかと言えば、正直、そうではなかった。優勝するだけの実力が日本にはなかった。ただ、今回は優勝するだけの個人の質があるし、プラスアルファでチーム力も備わっている。これは僕だけじゃなくてチームメイトも、そして森保監督をはじめとするスタッフも本気で優勝を狙っているからこそ、心の底から優勝という言葉が出てきている。そこが大きく違いますね」
それでも長友に対するSNS上での批判は絶えない。記者会見を締める花束贈呈に愛梨さんと4人の子どもたちが登場した場面も、5月31日に国立競技場で行われたアイスランド代表との壮行試合に後半から出場したパフォーマンスも批判される対象に加わった。
アイスランド戦限定で緊急招集され、カタール大会のクロアチア戦以来の代表戦出場を果たした前キャプテンの吉田麻也は「みなさんもご存知の通りで賛否両論があると思いますし、僕も代表の外にいたときは思うところもありました」と前置きしたうえで長友に関してこう語っている。
「でも代表に戻ってみて、彼の体を見ただけでもうわかりますよね。相当トレーニングしていないとあの体は作れない。なので、みなさんも長友選手と一緒にお風呂に入ってみてください」
恩師に愛妻、同じ年齢の盟友、そして苦楽をともにしてきた前キャプテンの存在やエールを力に変えながら準備を進めていく長友は、北中米大会をどのように位置づけているのか。
「集大成ですよね。優勝して集大成となる大会を最高の形で終えたい。ワールドカップ後に何を言い出すのか、自分でもちょっと想像できないですけど、いまのところは集大成です」
自身へ向けられる批判を、長友は人気漫画『ドラゴンボール』に登場するアイテム「仙豆(せんず)」と呼んで歓迎してきた。一粒でも口にすれば大ケガが癒え、体力も回復する摩訶不思議な豆、つまり批判をもっとくださいと笑いながら、39歳の鉄人は心身をワールドカップ一色に染めあげていく。
<了>
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