オランダMVP・板村真央が磨く世界基準。冨安健洋、毎熊晟矢のアドバイスに学ぶ“嫌なFW像”
19歳でオランダに渡り、今季、フェイエノールトでリーグMVPを獲得した板村真央は、得点やアシストだけでは測れない“世界基準”を日々感じている。縦への速さや球際の強度、一瞬の判断が求められる環境の中で、仕掛け続けるメンタリティも磨いてきた。JFAアカデミー福島で培った土台を武器に、欧州の舞台で自分のドリブルをどう進化させているのか。オランダでプレーする日本人選手との交流もあり、冨安健洋や毎熊晟矢に「どういうFWが嫌か」を尋ねた際には、「取られても何回もドリブルで仕掛けてくる選手」という答えが返ってきたという。U-20女子ワールドカップを控えるアタッカーに、欧州での日々と成長、代表への思いを語ってもらった。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=アフロ)
オランダで感じた、縦への速さと“嫌なFW像”
――サッカー面では、日本とオランダの違いをどこに感じましたか?
板村:縦のスピードです。日本では前線でボールを持って、仕掛けて失っても、縦に速くはないのですぐ失点につながることはそこまで多くないですが、オランダでは、どこでボールを失ってもすぐにゴールまで行かれてしまうので、そこのスピードは全然違います。自分が仕掛けることは大事ですが、失い方が悪いと一気にピンチになるので、どこで仕掛けるのか、失った後にどう戻るのかは考えるようになりました。
――その中で、ジェシカ・トルニー監督から求められていることと、今季成長できたと感じる部分を教えてください。
板村:監督から求められているのは、間でボールを受けて展開することと、とにかく仕掛けることです。昨シーズンはなかなか自分の武器であるドリブルを効果的に使えていませんでしたが、今シーズンはその武器を出せるようになったことが一番大きいです。チームメートとの連携もありますし、自分の自信やメンタル的な部分もあると思います。
――海外でプレーする日本人選手と交流する機会もあったそうですね。
板村:一度、オランダでプレーする板倉滉選手や冨安健洋選手(ともにアヤックス)、毎熊晟矢選手(AZアルクマール)たちと食事をしたことがあります。その時に「どういうFWが嫌ですか?」と聞きました。冨安さんは、「取られても取られても、何回もドリブルで仕掛けてくる選手が嫌だ」と言っていて、毎熊さんも同じことを言っていました。自分もトップレベルの選手にそう思われるような選手になりたいと思いました。
――今、日本人女子選手がヨーロッパやアメリカなどさまざまなリーグで活躍しています。その中で、板村選手はどんな存在になっていきたいですか?
板村:日本人選手がいろいろな国で活躍している中で、自分がその中に入ってさらにハイレベルな環境で活躍するために大事なのは、自分の武器をいかに磨くかということだと思っています。ドリブルは、日本人でも通用する部分だと感じますし、ずっと憧れの存在でもある三笘薫選手のように、ドリブルでトップレベルの選手たちと渡り合える選手になりたいです。
JFAアカデミーで培った体の強さ
――攻守の切り替わりや球際の速さ、体の強さに適応する上で、JFAアカデミー福島時代の経験が生きている部分はありますか?
板村:筋トレに関しては、アカデミー時代に上半身を重点的に鍛えていました。そこは、オランダにきてからも、他の選手と比べても負けないくらいできるほうだと思います。アカデミーでやっていた土台があるので、負荷が上がっても特別にきついとは感じていません。
――具体的には、上半身のどんなトレーニングをしていたのですか?
板村:アカデミーではベンチプレスを週2回やっていました。個人では懸垂も入れていました。手の持ち方によっても鍛えられる部位が違うので、腕だけでなく腹筋など体幹を鍛えるためにもやっていました。チューブやマシンの補助を使わない自重の懸垂だと10回以上できるようになりました。
――苦しい時やうまくいかない時の気持ちの切り替え方で、大切にしている考え方やルーティンはありますか?
板村:自分は考えすぎるタイプではなく、何事も「何とかなるか」と考える時が多いです。パフォーマンスを発揮するために一番大切なことは練習だと思っているので、うまくいかなくて悔しかった時は、次の日の練習でとにかくがむしゃらにやろう、と気合いを入れます。ただ、オランダにきてから壁に当たって気持ちが落ち込んだり、スランプに陥ったと感じたりした経験は今のところないです。
異国での生活が育てた自立心
――頼もしいですね。オランダでの日常生活で、慣れるのに時間がかかったことや、驚いたことはありますか?
板村:オランダの冬は太陽がなかなか出ないことにびっくりしました。冬は暗い時期が多いんです。でも夏はサマータイムもあって日照時間が長いので、太陽が出た時はみんな外に出て日を浴びに行きます。自分は試合以外で日焼けしたくないので、日焼け止めはしっかり塗って浴びに行っています(笑)。
――海外生活では、ルームメートと生活しているそうですが、一人よりも、チームメートと過ごす時間のほうが多いのですか?
板村:そうですね。自分は誰かと一緒に過ごしたり、一人暮らしよりも誰かと一緒に住みたいと思うタイプです。今はルームメートと一緒に暮らしながらたくさん会話することで、英語もどんどん上達してきました。
――英語でのコミュニケーションにも慣れてきましたか?
板村:会話の内容はだいたいわかるようになりました。オランダ人同士はオランダ語ですが、話しかけてくれる時は英語です。みんな英語が上手なので聞き取りやすいですし、自己主張は強いですが、他人の意見もしっかり聞いてくれます。
――サッカー以外でチャレンジしていることはありますか?
板村:今はオンラインで日本の大学に通っています。最初の半年はオランダでの生活に慣れることにフォーカスしていたのですが、慣れてきたら時間を有効に使いたいと思っていたので、願書を出して、サッカー以外の時間は勉強しています。
アジア王者として臨む世界大会への決意
――U-20日本女子代表では、アジアカップで10番を背負い、優勝にも貢献しました。ヨーロッパでの経験が代表活動で生きたと感じる瞬間はありましたか?
板村:コンタクトやフィジカルの部分です。普段オランダで感じている強度を経験していたぶん、アジアの選手に対しては自分がそこで負けてはいけないと思っていました。体を当てられても簡単に倒れないことや、相手より先に仕掛ける部分では、オランダでの経験が生きたと思います。
――アジアカップで前回U-20女子ワールドカップ王者の北朝鮮に勝って優勝したことは、9月にポーランドで行われる同大会に向けてどのような自信になりましたか?
板村:アジアカップで優勝できたことは、内容面で全員で一丸となって戦えたという意味でも自信になりました。ただ、個人としては不完全燃焼でした。もっと自分の武器を出せたと思いますし、得点に絡む部分でも守備の部分でもチームを助ける仕事ができたらと思いました。9月の本大会に向けて、もっとやらないといけないと感じています。
――チームメートの竹重杏歌理選手が、6月6日の南アフリカとの親善試合に臨むなでしこジャパンに選出されました。身近な選手のA代表入りをどう受け止めていますか?
板村:日本にいなくても、海外にいても、代表のスタッフはしっかり見てくれているんだと感じたのはうれしかったです。自分もなでしこジャパンに入っていけるように頑張りたいです。
――U-20女子ワールドカップで日本は直近2大会、いずれも決勝で敗れて準優勝という結果でした。板村選手自身も、前回の2024年コロンビア大会は一つ下の世代から飛び級でメンバー入りしながら、出場は1試合にとどまりました。その悔しさを踏まえて、今回の大会にはどんな思いで臨みたいですか?
板村:前回、2024年のコロンビア大会は準優勝で、最後は北朝鮮に負けました。自分は全然試合に出られなかったので、悔しい気持ちが大きかったです。今回またワールドカップに出られるとなれば、絶対に優勝を目指したいですし、個人としても得点やアシストという形で優勝に貢献したいです。
――19歳の今、欧州で次に達成したい目標、将来描いているキャリアを教えてください。
板村:まずは9月のU-20女子ワールドカップで優勝することが一番の短期目標です。その後は、なでしこジャパンに入ってワールドカップで優勝することが小さい頃からの目標です。今はオランダにいますが、次のステップとして、さらにレベルの高いリーグに行きたいと思っていますし、そこで活躍することをイメージしています。
【連載前編】上田綺世と同じ名門・フェイエノールトでの戴冠。19歳・板村真央が掴んだリーグMVP
<了>
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[PROFILE]
板村真央(いたむら・まお)
2006年8月6日生まれ、広島県出身。フェイエノールト所属。ポジションはFW。JFAアカデミー福島14期生。両足のキック、鋭いターン、スピードに乗ったドリブルを武器に、2022年にはなでしこリーグ2部で13得点を挙げ、得点王と新人賞を受賞した。2024年のFIFA U-20女子ワールドカップでは飛び級でメンバー入りし、準優勝を経験。2025年1月にフェイエノールトへ加入し、2025-26シーズンはリーグ戦20試合でチーム最多の8得点を記録し、オランダ女子1部リーグ年間最優秀選手賞を受賞。U-20日本女子代表では背番号10を背負い、2026年のAFC U-20女子アジアカップ優勝に貢献した。
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