イングランド撃破で得た確信。鎌田大地が示した「新しい基準」と「サッカーIQ」の価値

Opinion
2026.04.21

イングランドを相手に、日本代表はなぜ“試合をコントロール”できたのか。なぜイングランドは日本のビルドアップを捕まえきれなかったのか。4月1日に聖地ウェンブリー・スタジアムで行われた国際親善試合。スコアは1-0。しかし、その90分は日本代表によって明確な設計のもとに進んでいた。その中心にいたのが鎌田大地だ。判断と配置で試合を動かす――鎌田大地が生み出す“見えない支配”の正体に迫る。

(文=田嶋コウスケ、写真=アフロ)

試合を“設計”した鎌田大地

サッカーの聖地、ウェンブリー・スタジアムで行われたイングランド対日本戦。

この一戦は、日本代表が新たな領域に足を踏み入れたことを示す90分だった。世界屈指の強豪であるイングランド代表を相手に、1−0の完封勝利。スコア以上に際立ったのは、試合の流れそのものをコントロールした日本代表の成熟度だった。そして、その中で攻守の判断役として機能していたのが鎌田大地だった。

「自分たちが理想としていたゲーム展開に持っていくことができた」

試合後、そう語った鎌田の言葉は、この日の試合内容を端的に表していた。日本は単に守って勝ったわけではない。相手の力を理解したうえで、どこで主導権を握り、どこで勝負をかけるかを的確に選んだ。こうした意思決定の連続が勝利の要因だろう。その判断をピッチ上で体現していたのが鎌田だった。

この試合、日本は3−4−2−1を採用し、鎌田は佐野海舟とともにセントラルMFで先発した。守備時には中盤中央を締め、攻撃時にはビルドアップのハブとなる役割。シンプルに見えて、その実、極めて高度な判断力が求められるポジションだ。

鎌田の特長は、ボールを持っている時はもちろん、「持っていない時」でも際立つ。味方がどこにパスを出したいのか、あるいは出すべきかを先回りして理解し、受け手として最適な位置に現れる。さらに、相手のプレスのかけ方を見ながら、最終ライン近くまで下りて数的優位を作るか、あるいは中盤でテンポを作るかを瞬時に選択する。こうした判断が常に的確だ。

「チーム全体を見ながら、やっていくことが大事」

試合前日、鎌田はこう語っている。「相手のプレスのかけ方を見て、数的優位ならポゼッションしないといけない。しっかり真ん中を閉めながら、自分たちがボールをできるだけ保持できるように手助けをしたり、チームのバランスを見ながら、リスク管理もバランスを取りながらやらないといけない。チーム全体を見ながら、やっていくことが大事かなと」。冷静な分析が、そのままピッチ上で表現されていた。

事実、トーマス・トゥヘル率いるイングランド代表は、日本のビルドアップに対して的を絞りきれなかった。試合後、ドイツ人指揮官はこう話している。

「日本代表はビルドアップの際、深い位置で3-2、4-1、3-1と多くのバリエーションがある。サイドに開いてスペースを作り、外から中に展開し、こちらのライン間を通してくる。非常にインテンシティが高く、対戦するのがとても複雑なチームだ」

プレスに出れば背後を使われ、構えれば中盤で回される。その迷いを生み出したのが、日本の多彩な組み立てであり、その潤滑油となったのが鎌田のポジショニングだった。

もっとも、鎌田の価値はボール保持の局面だけにとどまらない。この日の鎌田は、攻撃面だけでなく守備でも大きな役割を担った。イングランドの前線が流動的に動く中で、日本は「中央を閉めて外に誘導する」守備を徹底。鎌田と佐野のコンビはその役割を全うした。

「間を閉めて、外に出させてという感じです」

試合後のこの言葉どおり、日本はバイタルエリアを消し続けた。単にスペースを埋めるだけでなく、相手のプレー選択を限定させる守備。これは個人の判断とチーム全体の連動が一致しなければ成立しない。

その守備の狙いは、単に相手を抑えるだけでなく、奪った後の攻撃にもつながっていた。印象的だったのが決勝点の場面だ。三笘薫のプレスバックからボールを奪い、そこから一気に前進したカウンター。鎌田自身も「取ってから後ろではなく前にプレーできた」と振り返るように、守備から攻撃への切り替えが極めてスムーズだった。

鎌田が繰り返し口にする「推進力」

鎌田が繰り返し口にするキーワードの一つが「推進力」である。この試合でも、シャドーに入った三笘や伊東純也といったスピードのある選手たちをどう活かすかが重要なテーマだった。

「世界のトップとやると、足元のうまさだけではどうにもならない。ボールを取ってからできるだけ(早く)前に進む。こうした推進力は、チームとしてもすごく大事。これが、僕がトップ下でプレーしたくないと言っている理由でもある」。この言葉には、フランクフルトやラッツィオ、クリスタル・パレスで培った現代サッカーへの深い理解がにじむ。

実際、日本はボールを奪った瞬間に前へ出る意識を徹底していた。鎌田はその起点として、最初のパスの質と方向を決定づける。単にボールをつなぐのではなく、どこへ運ぶかを判断し、攻撃のスイッチを入れる存在だ。

つまり彼は、攻撃のリズムを作る司令塔であると同時に、守備から攻撃へと流れを切り替える役割も担っている。ボールを奪った瞬間に前へ運ぶのか、一度落ち着かせるのか。その判断を担い、チーム全体のプレーの方向性を決めている選手だと言える。

こうした好パフォーマンスは、日本代表に限ったものではない。所属するクリスタル・パレスでも、鎌田は同様の存在価値を発揮している。

在籍2年目を迎え、文字通りパレスの中心選手として定着。UEFAカンファレンスリーグのフィオレンティーナ戦では、浮き球のスルーパスで得点を演出するなど、決定的な仕事も増えている。だが、それ以上に評価されるべきは、やはり試合全体を整える能力だろう。

相手の出方を読み、最適なポジションを取り、チームのボール保持を安定させる。さらに守備でも強度を発揮し、攻守両面で貢献する。こうした総合力の高さは、プレミアリーグという厳しい環境の中で磨かれてきたものだ。

「当たり前に戦う」ための象徴

試合後、鎌田はこうも語っている。

「イングランドのような強豪でも、変にリスペクトしたりはなくなってきている」

この言葉は、日本代表の現在地を象徴している。

かつては強豪相手に挑戦する側だった日本が、今では対等に戦うことを前提とし始めている。その変化の中心にいるのが、欧州で経験を積み重ねてきた選手たちであり、鎌田はその代表格だ。

ウェンブリーでの勝利は、単なる歴史的結果ではない。再現可能な戦い方を実践した結果であり、こうしたプレーを支えたのが鎌田の判断力とポジショニングだった。

サッカーIQの高さとは、派手なプレーではなく、試合を正しく進める力のことを指す。その意味で、この日の鎌田大地は、まさにその定義を体現していた。

日本代表でもクリスタルパレスでも、鎌田の存在価値はもはや「不可欠」という言葉でしか表現できない段階に到達しているように思う。来る2026年FIFAワールドカップに向けて、彼がチームの中心であり続けることは、もはや疑いようがない。

<了>

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