
ステップアップ移籍が取り沙汰される板倉滉の価値とは? ボルシアMG、日本代表で主力を担い攻守で輝くリーダーの背景
プレミアリーグか、ドイツ国内のビッグクラブか。今夏のステップアップ移籍が取り沙汰され、欧州現地でもその動向に注目を集めている板倉滉。ドイツ・ブンデスリーガのボルシアMGで主力を担い、日本代表においても中心選手の一人となっているディフェンダーは、いかにしてその名声を得たのか。
(文=中野吉之伴 写真=MB Media/アフロ)
板倉滉はなぜブンデスリーガで高い評価を受け続けているのか?
日本代表DF板倉滉の評価はドイツをはじめとするヨーロッパでとても高い。シーズン終盤に入って「板倉の獲得にバイエルン、レバークーゼン、ドルトムントらブンデスリーガの強豪クラブが興味」というニュースも出てきている。移籍話の信憑性はさておき、ビッククラブへの移籍がイメージできるほどに板倉のクオリティが高みで安定しているのは間違いない。
それも今季急上昇したわけではなく、コンスタントに高評価をされているのだ。守備の選手に関する記事はなかなか日本では多く見られないのが現状かもしれない。ただ、優れた守備なくしてチームの好成績はありえない。特にセンターバックに全幅の信頼を寄せられる選手がいるかどうかは、シーズンの成績そのものを大きく左右する。最重要ポジションと言っても過言ではない。
板倉の何が優れているのか。まずはその守備力に着目してみよう。
守備時の1対1における対応では相手選手に得意な形に持ち込まれないようにするのが重要となる。優れたDFは相手の状況を見極めたうえでアタックするのがうまい。ボールをコントロールしているけれど、意識が別のところへいってないかどうか。逆にボールはまだ収めていないけど、どこから相手選手がアプローチしているかに気づいているかどうか。元ドイツ代表DFルーカス・シンキビッツから「私は何が起こりうるかという確率を考えながらプレーしていた」という話を聞いたことがある。
「わかりやすい話だと、左足が効き足の選手に左足で蹴らしてはいけない。これはマストの対応だ。もちろん右足で蹴らせたら失点しないということにはならない。10回に1回の確率でゴールになるかもしれない。でも失点の確率が高まるプレーを許して喫した失点と、やるべき対応をしたうえで起こってしまった失点とはまったく違うんだ。そうなったら相手を褒めて、気持ちを切り替えてプレーすればいい」
クラブから中心選手の一人としてかけられる期待
いかに失点の可能性を減らせるかから逆算されたポジショニング、相手との距離感、コースの限定、スペースへの誘導という選択肢を持つという点で、今季の板倉はとてもハイクオリティのプレーができている。
相手に得意なプレーをさせないようにうまく体をぶつけてプレーを制限したり、体の持ち直し方もスムーズだ。コンディション調整もうまくいっているようだ。パーソナルトレーナーによるケアを丁寧に受け、今季は負傷による長期離脱もない。動きの一つ一つにキレがある。
ボルシアMG加入後1〜2年目では相手に交わされても素早いターンで食い下がり、最後のところでみせたスライディングタックルで相手シュートをブロック、という体を張ったプレーが取り上げられることが多かったが、ここ最近はこうしたギリギリのシーンがあまりない。それでいてチームの失点は減っている。つまり、一か八かの対応をしなくても的確にブロック、クリアができている機会が増えていることの裏返しでもある。
ゲラルド・セオアネ監督2年目となる今季はチーム全体の守備意識が高まったことで、中盤から前の守備バランスやプレスへの意欲が改善されているが、そのなかで板倉が守備の中心としてバランス管理に貢献している点が理由の一つとして挙げられる。板倉自身もこのように話す。
「守備ブロックを作って、あとはラインもなるべく高い位置に設定して、自分たちで中盤のスペースを大きくしないところがよくなっているかと思います。そこを(昨季まで)よく使われていたんで、そこは今年に入ってみんなの意識もよくなってる。みんながコミュニケーションをとりながらポジティブなエネルギーを感じながらやっている」
守備ラインを設定し、味方選手を配備して、裏のスペースを警戒しながら、味方とコミュニケーションをとりながら、それぞれのポジショニングやタスクを微調整させ、相手の攻撃に対する準備を先読みしながらやっていく。
板倉が大きなジェスチャーとともに味方に指示を出す場面は以前からあったが、一つの指示で味方がスムーズに対応しているシーンが明らかに増えているのは、やり続けてきたプロセスがあったからだろう。クラブからは中心選手の一人として期待をかけられており、本人も自覚を持って取り組んでいる。
「そこまで考えてないですけど、ただこうやって試合に出させてもらっている中、どうやったらチームが勝てるかなというところを一番に考えてやってますね」
時にはキャプテンを任され、攻撃でもチームに貢献
試合によってはキャプテンを務めるユリアン・バイグルらが途中交代した後に、板倉がキャプテンマークを巻くこともある。
「キャプテンを任されるというのは素直にうれしい。気が引き締まるというか、チームを勝たせたいなというふうに思いますね。やり続けることを考えているし、それが大事ですね」
中心選手としての役割は守備においてだけではない。攻撃面でもそうだ。ポゼッション時にボールを展開する役割はこれまでも担っていたが、今季はそれに加えてドリブルでボールを持ち運んだり、ロビングボールで攻撃の起点を作るプレーが非常に増えている。
「奪い方がいいし、チームがコンパクトにできているからこそ、前向きでボールを奪える回数が増えている。それが一番だと思う。自分のところで前を向いて取れて、勢いがあったら、そのまま運んでいくのが(いい)。抜きにいくドリブルができるわけじゃないんで、周りを見ながらの運ぶドリブル。それはいい守備があるからこそできているというのはあるかな」
今季チームが好調だったころ、板倉はそんな風に分析していた。ただシーズン終盤を迎えて攻守のバランスが少しズレ始め、なかなか勝てない時期もあった。そうした時期はチームとしてのボールの失い方が悪くなり、いい形でチャンスにつながらない。板倉が話していたことを思い出す。チームがうまく勝ち星を拾えていたころだ。
「もうちょっと無駄なタッチを減らすとか、一回でターンするとか、そうやってうまく空いているところを使えたら、さらに楽にボールが運べるかなと。自信を持ってやれているからできているのは当然だと思うので、追わないといけない展開や、うまくいっていない時でも、いつもできているようなプレーが常にやれるかというのが今後大事になってくるかなと思います」
第30節ドルトムント戦。まさにその言葉通り、チームが苦しい時に違いを生み出すプレーを板倉は見せた。
相手守備のズレをついてボールを運び、タイミングのいいワンツーパスで抜け出し、ゴール前でも冷静さを失わずにゴール右へと流し込む。長い距離を走った後であれだけの質の高さを出せるのは、誰にでもできることではない。
新たなステージに挑もうとしている今後への期待
いまや攻守両面で欠かせない板倉の存在感は、欠場時のボルシアMGを見ているととてもよくわかる。
ボールを奪われた後の対応が間違ってしまったり、不用意な展開で相手にカウンターを許したりという頻度が、どうしても多い。相手のアクションを受けてから対応しようとするので、どうしても後手になってしまう。試合全体の流れを読みながらプレーして、指示を出す板倉がいる場合、その辺りの準備クオリティがやはり高いのだ。
ボルシアMGでプレーするFW福田師王も「板倉選手はチームにいたほうがいいなというふうに思います。ボールを持てるし、自分たちらしいサッカーができる」と話してくれたことがある。キールの日本代表FW町野修斗も「素晴らしいです。ビルドアップの細かい駆け引きとかもやっているし、捕まりにくいようなボールの持ち出しやパスの仕方もあった。対人の面でも何もやらせていなかった」と称賛の言葉を並べていた。
ピッチ内だけではない。板倉は常に先を見ている。今できていることがすべてではない。もっといいプレーができるし、もっといい対応ができると、飽くなき貪欲さで自身の成長に向き合い続けている。
「もっとスケールの大きい選手になりたいなというのは感じましたね」
カタールワールドカップが終わってブンデスリーガに戻ってきた後、板倉はそう口にしていたことがあった。来季所属先がどこになるかはまだわからない。だが、新たなステージに挑もうとしている板倉の今後を大きな期待とともに見守りたい。
<了>
久保建英「黒歴史」乗り越えて芽生えたリーダーの自覚。選手としての成長と森保ジャパンの進化
海外で活躍する日本代表選手の食事事情。堂安律が専任シェフを雇う理由。長谷部誠が心掛けた「バランス力」とは?
三笘薫、プレースタイル変化させ手にした2つの武器。「結果を出すことで日本人の価値も上がる」
日本人監督が欧州トップリーグで指揮する日はくるのか? 長谷部誠が第二のコンパニとなるため必要な条件
なぜリバプールは“クロップ後”でも優勝できたのか? スロット体制で手にした「誰も予想しなかった」最上の結末
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
「ピークを30歳に」三浦成美が“なでしこ激戦区”で示した強み。アメリカで磨いた武器と現在地
2025.06.16Career -
町野修斗「起用されない時期」経験も、ブンデスリーガ二桁得点。キール分析官が語る“忍者”躍動の裏側
2025.06.16Career -
日本代表からブンデスリーガへ。キール分析官・佐藤孝大が語る欧州サッカーのリアル「すごい選手がゴロゴロといる」
2025.06.16Opinion -
ラグビーにおけるキャプテンの重要な役割。廣瀬俊朗が語る日本代表回顧、2人の名主将が振り返る苦悩と後悔
2025.06.13Career -
野球にキャプテンは不要? 宮本慎也が胸の内明かす「勝たなきゃいけないのはみんなわかってる」
2025.06.06Opinion -
冬にスキーができず、夏にスポーツができない未来が現実に? 中村憲剛・髙梨沙羅・五郎丸歩が語る“サステナブル”とは
2025.06.06Opinion -
「欧州行き=正解」じゃない。慶應・中町公祐監督が語る“育てる覚悟”。大学サッカーが担う価値
2025.06.06Career -
なでしこジャパン2戦2敗の「前進」。南米王者との連敗で見えた“変革の現在地”
2025.06.05Opinion -
移籍金の一部が大学に?「古橋亨梧の移籍金でも足りない」大学サッカー“連帯貢献金”の現実
2025.06.05Business -
ラグビー・リーグワン2連覇はいかにして成し遂げられたのか? 東芝ブレイブルーパス東京、戴冠の裏にある成長の物語
2025.06.05Opinion -
雪不足、酷暑…今世紀末にはスポーツが消滅する? 気候変動危機にJリーグ×日本財団が示した道筋
2025.06.05PR -
「夢はRIZIN出場」総合格闘技界で最小最軽量のプロファイター・ちびさいKYOKAが描く未来
2025.06.04Career
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
「ピークを30歳に」三浦成美が“なでしこ激戦区”で示した強み。アメリカで磨いた武器と現在地
2025.06.16Career -
町野修斗「起用されない時期」経験も、ブンデスリーガ二桁得点。キール分析官が語る“忍者”躍動の裏側
2025.06.16Career -
ラグビーにおけるキャプテンの重要な役割。廣瀬俊朗が語る日本代表回顧、2人の名主将が振り返る苦悩と後悔
2025.06.13Career -
「欧州行き=正解」じゃない。慶應・中町公祐監督が語る“育てる覚悟”。大学サッカーが担う価値
2025.06.06Career -
「夢はRIZIN出場」総合格闘技界で最小最軽量のプロファイター・ちびさいKYOKAが描く未来
2025.06.04Career -
146センチ・45キロの最小プロファイター“ちびさいKYOKA”。運動経験ゼロの少女が切り拓いた総合格闘家の道
2025.06.02Career -
「敗者から勝者に言えることは何もない」ラグビー稲垣啓太が“何もなかった”10日間経て挑んだ頂点を懸けた戦い
2025.05.30Career -
「リーダー不在だった」との厳しい言葉も。廣瀬俊朗と宮本慎也が語るキャプテンの重圧と苦悩“自分色でいい”
2025.05.30Career -
「プロでも赤字は100万単位」ウインドサーフィン“稼げない”現実を変える、22歳の若きプロの挑戦
2025.05.29Career -
田中碧は来季プレミアリーグで輝ける? 現地記者が語る、英2部王者リーズ「最後のピース」への絶大な信頼と僅かな課題
2025.05.28Career -
風を読み、海を制す。プロウインドサーファー・金上颯大が語る競技の魅力「70代を超えても楽しめる」
2025.05.26Career -
最高時速103キロ“海上のF1”。ウインドサーフィン・金上颯大の鎌倉で始まった日々「その“音”を聞くためにやっている」
2025.05.23Career